宮崎市の自転車走りやすさマップの作成とその発展
長谷川史明
キーワード:道路交通環境、自転車ネットワーク、ワークショップ
1.はじめに
昨今、自転車は環境負荷率低減等により注目されている交通手段である。宮崎河川国道事務所では、環境負荷の小さい都市内交通体系の実現と自転車等の交通事故対策のため、安全で快適な自転車走行空間の創出に取り組んでおり、平成21 年には自転車通行環境整備モデル地区として、宮崎市中心市街地において約4,200m の自転車通行帯を整備した。
本稿は、宮崎市が自転車ネットワーク計画を策定するための事前調査として実施した、宮崎市内における自転車利用の意識啓発を目的とした、宮崎市市街地の「自転車の走りやすさマップ」作成並びに、同マップ作成のために行ったワークショップについて報告するものである。
2.自転車交通の現状
2.1自転車をめぐる昨今の動き
平成23 年度、国土交通省において自転車交通における「安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた検討委員会」が開催され、平成24 年4 月に「安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言(副題:みんなにやさしい自転車環境)」(以降「提言」という。)が提出された。
この中で「地域の課題やニーズに対応しつつ、安全で快適な自転車通行空間を効果的、効率的に整備することを目的に、面的な自転車ネットワーク計画を策定することが必要である。」と記述され、「自転車ネットワーク策定手順」が提言されている。
3.自転車ネットワーク計画の策定手順
「提言」における策定手順は、「基本方針・計画目標の設定」、自転車ネットワーク計画の作成として「自転車ネットワーク路線の選定」、選定した路線について「整備形態の選定」の手順で行うこととしている(図-1 に計画作成手順を示す。)。
今回は「自転車ネットワーク路線の選定」について、国道・県道・都市計画道・その他(宮崎では、「自転車交通にとっての幹線道路とは自動車交通の幹線道路と同様である」ことを念頭に、「センターラインのある道路」)を対象(ただし、モールや自動車通行に特化した路線は対象外)として、一般参加者を募って「ワークショップ形式」で路線選定のための調査を実施することとした。
なお、今回の調査は本省作成の「自転車ネットワーク計画の作成手順( 図-1)」におけるフローを実際に検証するものであるが、図-1の1) については主に自治体が設定するものであるため、2) 以下の手順について検証した。
4.みやざき自転車ワークショップ
自転車走行空間の整備を行う上での参考(整備形態を検討する箇所の抽出)とすることと、自転車にとっての道路の走りやすさの情報の提供をすることを主な目的として、「みやざき自転車マップワークショップ(以下、WS という。)」を平成24 年1 月から2 月にかけて3 回開催した。このWS では、一般公募の方々と一緒に宮崎市中心部(ネットワーク候補路線)を自転車で走行し、自転車の走りやすさを評価し、自転車マップを作成することとした。
4.1 対象エリア
対象エリアは、自転車交通の発生・集中の起点となる主要な地点を中心として、宮崎市内の自転車利用圏域は、南北5㎞、東西3㎞ である。南北3㎞ を超えるエリアは、線的利用が中心であることを把握し、面的に検討が必要な計画エリアは、宮崎市街地を中心とした半径約3㎞の範囲と設定した。(図-2 に調査対象エリアを示す。)
候補路線は、交通量やその方向を考慮せず、道路の段階構成と配置間隔により道路網を検討している都市内の都市計画街路の考え方を用いるものとし、自転車交通の円滑性と居住者(歩行者)の日常生活の安全性を高めるため、エリア内の自動車幹線道路・補助幹線道路にあたる「国道・県道・都市計画道路・その他2 車線道路」をネットワーク候補路線とした。
4.2 候補路線の整理
既存路線の空間の中で、自転車と自動車または自転車と歩行者の分離性がどの程度確保されているかを把握し、安全性を確認するために、道路空間形態を構造的視点から分類することが重要であるため、候補路線の道路空間形態を9パターンに分類した。(道路空間形態の分類表を図-3 に示す。)
続いて、「自転車の車道走行の原則」や構造的な視点から判定フローによって整理を行い、パターン毎に色分けをして図化を実施した。(道路空間形態の判定フローを図-4 に、自転車ネットワーク候補路線の道路空間形態を図-5 に示す。)図-5 を参照すると、市街地部(対象エリア中心付近)の多くが③路肩(1.0m 未満)+歩道(幅員3.0m 未満)及び⑦路肩(1.0m 未満)+歩道(幅員3.0m 以上)に分類される。
4.3 調査方法
主な調査方法は、エリアを分割して班毎に分かれて対象道路を実際に走行し、車道、歩道それぞれを「走りやすい」、「走りにくい」の2段階で評価した。また、走行中気づいた点をメモにとり、写真撮影を行う。そして実走調査後に会場に戻り、結果を大図に整理し走りやすさマップを作製した(写真-1)。
走りやすさの評価基準を車道と歩道とで設定したものを、表- 1(a),(b) にそれぞれ示す。
4.4 調査結果
WS において作製した走りやすさマップを基に、走りやすさ評価マップを作成した。(走りやすさ評価マップを図-6 に示す。)
WS の結果、車道の対象路線の総延長177.9㎞に対して、「走りやすい」評価は69%となっており、歩道の対象路線の総延長96.2㎞ に対して、「走りやすい」評価は、83%となっており、市街地部の既存道路でも、概ね「走りやすい」評価が目立った。
5 結果の分析
5.1 道路空間形態と走りやすさ評価
WS の第1 回、第2 回の結果をとりまとめ、図-5 と図-6 を重ね合わせて、道路空間形態と走りやすさ評価の関係の分析を行った。(図-7 に示す。)
①歩道はあるが、車道の路肩が広いところでは、約9割が「走りやすい」と評価。
②歩道があっても、車道の路肩が狭いところでは、約5割が「走りにくい」と評価。 となっており、自転車ユーザーにとっては「路肩の幅」が重要なカギとなることが分かった。
5.2 評価項目
車道の走りやすさに関するコメントは約210件あった。最も多い意見は、「路肩の幅員」に関する意見であった。
「走りやすい」意見は「路肩幅が広い」が51%、「交通量が少ない」が29%であった。一方、「走りにくい意見」は「路肩幅が狭い」35%、「段差がある」19%、「障害物がある」8%の順となっている。
また、歩道の走りやすさに関するコメントは、約150 件であった。最も多い意見は、「歩道の幅員」に関する意見で、「走りやすい」では「歩道が広い」62%、「交通量が少ない」13%、「歩車分離されている」9%の順となる。一方、「走りにくい」は「歩道が狭い」19%、「障害物がある」16%、「路面が悪い」10%、「段差がある」7%の順となる。
6.まとめと今後の展開
本稿では述べていないが、課題として、図-1の4)個別路線の詳細な構造等の検討において、交通量・走行速度・混雑度等の正確なデータの把握、現況道路断面の把握等を整理する必要があるが、既存資料では賄えない諸元が多く存在するため、各種データの把握・整理をするための労力・コストが掛かることが挙げられる。
一方、WSの参加者は概ね満足している印象であり、今後の計画策定の際の合意形成のベースとして、WSは有効な手段になると考えられる。
今後の展開としては、今回の調査結果の「評価マップ」をバージョンアップし、自治体より一般の自転車ユーザー向けに「みやざき自転車マップ(仮)」を配布して頂きたいと考えている。
また、今回の調査結果をベースとして、今後は宮崎市自転車ネットワーク計画を策定していくこととなり、主体となる自治体に計画策定に向けた委員会の立ち上げと運営を執り行って頂きたいと考えており、事務所として、可能な限り支援に取り組んでいく予定である。