佐賀県 県土整備部
道路課 維持担当係長
道路課 維持担当係長
村 井 満
キーワード:トンネル、緊急対策、騒音対策
1.はじめに
主要地方道多久若木線は、多久市の国道203号と武雄市若木町の国道498 号を結び、県東部地域と西武地域を結ぶ最短ルートを構成する重要な道路である。
当該計画区間である若木町川古の女山峠約1.8㎞については、急カーブの連続による車両事故の発生や、冬場には積雪や路面凍結により通行を規制するなど交通の難所となっていた。
このため、通行車両の安全確保や走行性の向上はもとより、産業の活性化や広域的な経済活動を促進することを目的として事業を行った。本稿において、その施工について紹介する。
2.事業概要及び工事概要
・事業名:主要地方道 多久若木線交付金事業
・佐賀県多久市多久町板屋~武雄市若木町川古
・事業延長:L=2,000m( トンネル L=1,259m)(1 工区(武雄側)L=621m 2 工区(多久側)L=638m)
・道路規格:第3 種2 級 設計速度 50㎞ /h
・掘削方式:NTAM 発破工法
・掘削工法:B・C 補助ベンチ付全断面工法 D 上半先進工法(上下半交互並進)
・工期:平成26 年10 月3 日~平成28 年12 月10 日
3.地形および地質概要
3.1 地形概要
女山トンネル計画地周辺の地形は県道を境に南北で大きく異なり、北側は急峻な山地地形、南側は比較的緩やかな地すべり地形を呈している。県道の北側には標高391m の山体が近接し、その山腹斜面は開析が進み、細かい谷が入り組んだ急峻な山地地形を形成している。この地形を利用して山体の裾部には堀切溜池、脇谷溜池、八方谷溜池が設けられている。これに対し、県道の南側の多久市平木場地区は、緩やかな山腹斜面の地すべり地形が広く認められ農耕地として利用され溜池が点在している。
3.2 地質概要
女山トンネル周辺の地質は、新生代古第三紀漸新世に堆積したとされる杵島層群に属する堆積岩類、新第三紀から第四紀更新世に噴出、貫入したとされる玄武岩・流紋岩等の火山岩類、完新世の崖錐堆積物、沖積層から構成されている。女山トンネル計画ルートの地質は、古第三紀杵島層群の堆積岩類・砂岩層を主体とし、新第三紀に噴出・貫入した火山岩類( 流紋岩、玄武岩) から構成されている。
【砂岩】
女山トンネル計画地域全域に広く分布し、この地域の基盤をなす地層である。岩相は主として層理構造に乏しい中~細粒の塊状砂岩である。 岩質は、硬質( 一軸圧縮強度40 ~ 90MN/㎡ ) で割れ目( 亀裂) も少ない。ただし、断層周辺では破砕されて割れ目が発達し一部は土砂状となっている。
【流紋岩2】
女山トンネル計画地北側の溶岩円頂丘を形成する流紋岩とは別に、山腹において部分的に露出し、断層等に沿って上記砂岩層中に岩脈として貫入しているものと推察される。岩質は硬質であるが、その周辺部は破砕状を呈する部分も見られる。
4.施工報告
4.1 起点側坑口付近(D Ⅲ区間) の緊急対策
起点側坑口付近の崖錐や風化砂岩の施工では、補助工法等を用いない通常の掘削が行われていた。坑口より約15m 掘削が進んだ地点のNo.17+12.8m(16 基) 上半掘削を開始したところ、ブレーカー掘削中にNo.17+14 中央から右肩付近の崖錐部からの小崩落が確認された。掘削作業を中断し、吹付による崩落防止の準備中に切羽崩落が発生した。推定50m3程度の崩落であった。
崩落の原因は、掘削地山が崖錐および風化砂岩で、岩盤は切羽に対して流れ盤であった。このため、地山の緩みが先受け工( フォアポーリングL=3.0m) よりも前方まで及ぶ大きなものとなり、切羽の不安定化、崩落に繋がったと考えられた。
復旧方法は地山斜面の崩壊に対し吹付コンクリートを行い、その後にエアモルタルで崩壊部を埋めることとした。切羽に対しては、崩落土砂を撤去しながら鏡吹付を行った。
対策工として、崩落した状況を考慮すると崩落の原因となった地山状況がしばらく続くことが想定されたため、短尺ものでは崖錐層、崩壊部を考慮すれば対策効果は期待できないと考えられた。よって、長尺先受け工が妥当であると考えられた。ただし、トンネルは斜面に対し斜行して掘進していくことから左側は良好な地山が出現することが考えられたため、前方の状況を確認しながら必要な箇所を判断し施工を実施した。
5.騒音対策
5.1 検討手法
終点側坑口付近の地山は中硬岩相当の砂岩が主体となっており、一般的な坑口の施工条件( 崖錐や風化岩) とは異なり、ブレーカー等による機械掘削が困難で、掘削当初より発破での施工が計画されていた。終点側坑口付近には民家が近接して点在しているため、施工中の騒音対策が必要であった。
設計段階で「3D サウンドマッピング」を用いてシミュレーションを行い、距離減衰や地形の高低差による回折や反射、音源の方向角を要素に加えて解析することにより、現場状況に近い解析結果を得られていた。
5.2 検討結果
設計段階では防音シェルター+防音扉3 基( 防音シェルター入口1 基、坑内2 基) を想定していたが、坑内に防音扉2 基が設置完了するまでは昼間のみの作業となることから、防音シェルターを防音ドーム( 吹付コンクリート厚を15㎝から50㎝増厚した) へ変更、防音ドーム入口の防音扉をコンクリート吹付型からコンクリート充填型へ変更、施工ヤード外周を防音壁で囲った。
以上の対策を行うことによって、坑内2 基の防音扉を省いても基準値を満足し、苦情もなく施工を開始し掘削完了まで施工することが出来た。
また、発破騒音に対する規制値についても設計時では環境影響評価の値で設定されていたが、施工では類似工事の事例や文献より再設定した。
5.3 実施結果
解析結果を基に、防音ドーム+コンクリート充填型防音扉+施工ヤード外周を防音壁で囲い実際に発破掘削を実施した結果、トンネル坑口から前方直線方向に位置する民家A で68.9dB を計測し、トンネル背面方向で近接する民家B で63.4dB を確認した。
予測値では民家A は66dB で民家B が65dB であった。予測値と実施値は近似値であった。
これ以外にも、地元住民に対して発破掘削について理解してもらい、現場には騒音振動計計を設置し可視化することにより現状をわかりやすくすることに努めた。結果、苦情もなく掘削を進めることが出来た。
6.地元へのお礼
本工事では地元住民の方々へ多大なご迷惑をおかけしていたため、場見学を積極的に実施しました。
また、トンネル工事は、危険と困難を伴う難しい工事であり、それらを乗り越えて完成する事から「難関突破」「初志貫徹」を象徴する意味合いで、トンネルの貫通石で合格祈願のお守りを作成し、地元の小中学校や高校に配布しました。
7.おわりに
他県に比べてトンネル本数の少ない本県において、トンネル本体の設計思想や施工管理はもとより、本稿で述べた緊急時の対応、騒音対策、本稿で述べていない残土運搬経路上の安全対策等、地元に対する説明や理解を得ることが工事を進める上で非常に重要であることを改めて痛感した。
しかしながら、この工事が無事故でトンネル工事を完了できたのは、1 工区(武雄側)深町・峰・岡本建設共同企業体・2 工区(多久側)松尾・中野・山﨑特定建設共同企業体及び関連工事企業の尽力の成果であると考える。
また、切羽検討委員会及び事務局の皆様からは、応急対策工の検討や原因の究明について多くの助言、指導をいただいた。
今回の執筆にあたり、本工事に関係した学識経験者、施工業者、コンサルタント・地元関係者の皆様にも大変お世話になりました。この場を借りて心より御礼を申し上げます。