一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
大野川における適正な堤防管理に向けた課題と取り組み
九州地方整備局 前田薫
1.はじめに

近年、大野川水系の直轄管理区間内の堤防において、特定植生(春期:ハマダイコン、夏期:セイバンモロコシ)の異常繁茂が顕著化している。これに伴い、河川の適正な状況の把握を目的とした河川巡視の弊害や、散歩、通学の堤防利用面、また堤防に隣接する家屋や農作物の耕作者からの、早期除草の要望に加え、堤防法面状態の質的低下など、河川管理上のさまざまな課題が生じてきている。
これらの課題に対して、適正な堤防(法面)管理に向け、大野川出張所管内で平成20年度より始めた取組みについて、現場での対応事例をもとに報告するとともに、今後の良好な堤防維持管理にむけた提案を以下にまとめた。

2.特定植生の異常繁茂に対する課題と取り組み
2.1 ハマダイコン
1)植物の特長
ダイコンが野生化したものと言われ、海辺に多く、根はダイコン形状で細長く固い、葉はダイコンの葉に似て羽状に分裂し、まばらに毛がある。背丈は大きいもので70~100㎝と高く、春期(3月末~4月)に白い花を咲かせ、堤防法面を覆い(写真-1)、堤防上を散策・散歩をする地域の人々にも期間限定で喜ばれる。花が枯れると、エンドウ豆のような種子を付け、6月ごろには枯れる。

2)異常繁茂による堤防管理上の課題
ハマダイコンは背丈が1m程度あるため、花が枯れると、種の重みで垂れ下がり、天端幅を狭くし(写真-2)、河川巡視車両の通行、巡視の妨げや、散歩、通学時の堤防利用者の通行にも支障をきたし、5月中旬より実施する1回目の堤防除草時の早期除草要望・苦情の問題源となっている。
また、根の部分は大根形状で、直径が大きなもので3~5cm、長さも30cm程度(写真-3)あり、ハマダイコンが生える箇所の堤防法面は、他の植生の繁茂箇所に比べ堤体表土の緩みも多く、除草後の法面状態は表土が露出(写真-4)し、裸地が目立ち寺勾配化した法面も多く見られる。併せてモグラ生息が確認できるモグラ塚なども頻繁に見られ(写真-5)、このような脆弱した堤防状態で、出水を迎える状況に問題がある。

3)課題に対する取り組み
先に述べたハマダイコンの異常繁茂にする対応として、大野川出張所管内では平成18年度より河川維持補修工事によって、ハマダイコン等の進入による脆弱した法面の補修(表土置き替え+芝による法面保護)を実施してきた(写真-6,7,8)。
平成21年度末現在で約80,000m2の補修を実施済みであり、引き続き、計画的に法面補修を進めて行く予定である。

4)取り組みによる効果
法面補修を実施した区間については、脆弱した法面の解消及び寺勾配箇所の解消など、堤防法面の質的な状態の回復及び、除草作業時における急傾斜箇所の改善により除草の作業性の向上など一定の効果が得られたと感じている。
5)今後の課題
現在は、ハマダイコン繁茂箇所を優先的に法面補修によるハード対策で対応しているが、現場において、堤防植生の変遷や除草後の法面状態を見ていると、経年的な法面形状の変状(寺勾配化や、表面の脆弱化など)が、その他の箇所にも伺える。大野川の管理区間の堤防はほぼ概成しており、築堤年次も古く、築堤材料なども必ずしも良いものとはいえない。今後は、適正な堤防管理の観点からも、堤防管理図※1やモニタリング情報図※2により堤防の状態を把握、管理し、大野川の特出すべき維持管理事項として、対策検討に努めて行く必要がある。

2.2 セイバンモロコシ
1)植物の特長
ユーラシア大陸から亜熱帯に広く分布するイネ科の植物で、日本では6月から9月にかけて高さ2m程(図-1)に成長し、途中刈り取られても、いち早く回復し、周囲の植物を圧倒する高さまで回復する。視界や景観を損なうおそれがある。夏期には大野川出張所管内では、堤防整備区間の約70~80%が、セイバンモロコシにより覆い尽くされている(写真-9,10)。

2)異常繁茂による堤防管理上の課題
平成20、21年度の2カ年は夏場に小雨で天候の良い日が続いたこともあり、成長が盛んで、年2回実施している堤防除草の1回目と2回目の間にあたる、8月ごろになると、散歩、散策などの堤防利用者から「堤防利用時の視界不良や防犯上の障害」(写真-11)や、堤防川裏に隣接する住民や農家より、「害虫の発生による障害」など、早期除草の催促が相次いでいる状況にある。また、河川巡視員からも巡視時の視界不良や巡視車両の走行の妨げ(写真-12)、通行者との離合に苦慮するとの意見もあるとともに、法面全体を覆い尽くすため、不法投棄をしやすい環境になっており、除草後に不法投棄物の発見も多い。

3)課題に対する取り組み
セイバンモロコシの発生箇所の法面状態は、前述のハマダイコン発生箇所の法面と比べ、脆弱箇所は比較的少なく、法面補修によるハード対策は行っていない。(ハマダイコン発生箇所と重複する箇所については実施。)現在は、早期除草の要望・苦情の多い、通学時に利用する堤防天端や階段部等については、職員で直営作業(写真-13)にて対応している。また、お盆前には、セイバンモロコシの異常繁茂により堤防利用上、支障をきたす範囲については、堤防天端の両側1m程度を臨時除草(写真-14)して対応している。

4)取り組みによる効果
セイバンモロコシによる課題は、堤防利用上の弊害が一番であり、夏期に臨時的に除草を取り入れたことで、要望、苦情も少なくなり、一定の効果はあった。
5)今後の課題
現在、年間2回で実施している堤防除草について、セイバンモロコシやハマダイコンなど、タネで拡大し、背丈の高い植生の広がる堤防区間では、一定時期、除草回数(3~4回)を増やし、植生の変遷を促すなど対策が必要と思われる。(※セイバンモロコシについては、夏場の成長期に2週間ごとに継続して除草することで、根が弱り、駆除効果が大きいと、外来種駆除の書物などにも記載がある。)平成22年度は、出張所所有のハンドガイドで、試験フィールドを決め、標準回数以上の除草による効果の確認を試験的に行う予定である。

3.張芝施工後の芝の維持管理について
3.1 概要

先に述べたように、大野川出張所管内では平成18年度より、ハマダイコンの繁茂等により脆弱した法面の補修を実施してきたところであるが、この法面補修実施時に張芝で面保護を実施した箇所へ再びハマダイコンが進入し、張芝が消失してしまう問題が発生した(写真-15,16)。これについて、出張所で取り組んだ、原因解明と問題解決に向けた取り組み及び、更なる芝の維持管理に向けた問題提起を述べる。

3.2 芝の消失原因解明

原因解明にあたり、法面補修後の除草業者及び資料より以下のことが判明した。
芝の消失が著しく見られた箇所は、平成18年度(平成19年3月末完成)に法面補修を実施し、張芝による法面保護を実施した箇所で、施工後2ヶ月(平成19年5月ごろ)で雑草の進入が見られる(写真-17)。この直後に実施された除草は、これまで同様の大型除草機械で実施していたことがわかった。この結果、抜本的な芝の養生にならず、雑草の根は残り、また、芝の活着時期に、大型除草機械で法面を走行したことが、芝が消失した原因と考えられる。
現在では、平成18年度に張芝にて法面保護を実施した箇所については、ほぼ張芝は消失し、春はハマダイコン(写真-18)、夏はセイバンモロコシの2大植生に変遷しつつある。

3.3 問題解決に向けた取り組み及び効果

上記での芝の消失原因を踏まえ、平成20年度より、平成19年度(平成20年3月末完成)の法面補修実施箇所の堤防植生管理については、それまでの機械除草から、芝の養生を最優先に、堤防養生工として雑草の抜根を年間2回行うこととした(写真-19~24)。
この結果、2年が経過した平成19年度の法面補修箇所については、現在、芝がほぼ適正な状態で、活着し法面保護の機能を発揮しており、一定の効果が得られたと考えている(写真-25)。

3.4 更なる芝の維持管理に向けた課題

張芝施工後の維持管理については、これまでの機械除草から除根による芝養生作業で、手間をかけ適正に維持管理することで、一定の効果が得られた。しかし、現地をよく確認すると、全体施工面積の5~10%について部分的に、芝枯れが発生した箇所があった(写真-26,27)。これは、害虫や、抜根で採りきれなかった雑草の影響と思われる。また、除根作業だけでは、芝が伸び放題になってしまい、草丈も長いもので20㎝程度(写真-28)となる。このことが、新しい芽の発芽の妨げになっているようで、芝の葉が伸び放題で過密になりすぎた箇所では、枯れた葉が見られるため、公園やゴルフ場の芝と同様、刈り揃えて、次の芽の発芽を促す処置も必要と思われる(写真-29)。但し、現在、出水期前に堤防の異常を発見する点検のため、年2回の除草を実施しているが、雑草が繁茂した堤防は、①亀裂や陥没などの堤防の異常の発見を遅らせる。②法面が劣化し洪水流に対する強度が低下する。③除草後の刈草の処理に費用がかかる。④堤防周辺の住環境を阻害する。などの課題が有る。このため、堤防の有るべき姿も視野に入れ、課題に取り組んで行く必要がある。

4.まとめ

これまで述べてきた、平成20年度から平成21年度までの2年間の大野川出張所での堤防維持管理に関する取り組みを踏まえ、最後に今後の適正な法面植生管理に向けた見解を以下に述べる。
  1. 1)堤防植生及び法面の状況などについては、現場において状態を把握し、堤防管理図※1やモニタリング情報図※2に記載し、その変化を継続的に把握していくなど、堤防法面の質的な状態を確保するための取り組みが必要である。また、最近の九州技術事務所の調査検討成果によると、堤防植生群落ごとで、堤防法面の耐浸食性を評価する指標となりえる土壌緊縛力※3に違いがある傾向(図-2)が見受けられる。これによると、シバ群落の緊縛力(抵抗値)は、ハマダイコン群落やセイバンモロコシ群落等の他の植生に比べ、高い傾向を示しており、これらの情報も踏まえ、堤防法面(植生)の状況把握に努めていく必要がある。
  2. 2)河川堤防の張芝施工は、年度末に集中するため、2月、3月に施工した後、雨が少ないと生長に支障を来す傾向が見られる。また芝の生長が抑制されると、雑草も進入しやすくなる。施工直後の芝の生長を促す上で、水分補給も必要な要素で、工事期間中及びその後も必要に応じ散水等を行うことを忘れてはならない。特に張芝施工直後の散水は、新しい土羽への活着に重要と思われる。
  3. 3)張芝による法面保護を施工した箇所については、芝が丈夫に活着するまでは、適切に芝養生(抜根)を実施する必要がある。初期の維持管理費用は除草に比べ嵩むが、法面状態の良好な維持の観点から必要不可欠。将来的には、草丈の低い芝のため、除草時の施工性の向上や刈草の処分量の低減から、コスト縮減の可能性もあると考えられる。
  4. 4)現状の標準的な張芝材料は在来種の野芝であるが、先に述べたように抜根作業にも限界があり、雑草進入や天候などによる芝枯れなど、生長が左右されやすいことが、これまでの現地の状況から判明してきている。このため野芝以外の耐候性、雑草進入抑制に優れ、将来的な維持管理についても容易な芝の導入が必要である。平成21年度より九州地方整備局河川部主導において、「剛毛芝プロジェクト」と名付けられた、堤防法面の植生管理プロジェクトが整備局管内の数河川で試行されており、大野川出張所管内でもこのプロジェクトにエントリーし、野芝以外の耐候性や耐病性、雑草抑制のある芝4種類(使用品種:みやこ、チバラフワン、ザッソレス、ティフ・ブレア)を導入し試験施工を実施した。今後、この試験フィールドにおける芝の維持管理を行い、追跡調査を実施していくことになっており、将来的な維持管理の低減と、良好な法面の保持の実現を期待している。


  1. ※1堤防管理図とは、九州地方整備局で平成20年度より取り組みが始まったもので、河川巡視や直轄河川堤防目視点検モニタリング等の結果に基づき、河川堤防の法面状態を的確に把握・管理することを目的として作成している。本管理図では、法面の状態を植生状況等から4段階で評価し、これをもとに、河川堤防の修繕計画に反映するものとしている。
  2. ※2モニタリング情報図【正式名称:直轄河川堤防目視点検モニタリング情報図】とは、平成18年度より試行されたもので、河川全体の安全性などの基本情報と変状の発生状況を記載することにより、基本情報との関係を把握するとともに、変状の分布を明らかにすることにより、効率的な河川の維持管理に利用するもの。
  3. ※3土壌緊縛力とは、専用のトルク計測機にて、植生の繁茂する土壌のトルク値(抵抗値)を計測し、この値が大きいほど、土壌緊縛力が強く、堤防表面土壌の耐浸食性を判定する簡易な評価手法として検討されている。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧