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大野川における設置から25年が経過した
ベーン工の効果検証及び今後の課題

国土交通省 九州地方整備局
大分河川国道事務所
調査第一課 調査係長
東 城 武 志

キーワード:大野川水系、大野川、ベーン工

1.はじめに
大野川は、大分県南西部を流下し、県都大分市を貫流した後、別府湾に注ぐ一級河川である。基準地点白滝橋の計画高水流量は9,500m3/sであり、下流で本川8,000m3/s、派川乙津川に1,500m3/sを分派させる計画となっている。
本論で対象とする大津留地区は、図-1に示すように直角に湾曲する法線形状となっており、昭和18年に決壊した経験から、建設省大分工事事務所(現国土交通省大分河川国道事務所)は、堤防強化や河岸保護を行い、平成5、6年に局所洗掘対策として35基のベーン工を設置した。
設置後、福岡ら1)および田村ら2)、3)によって、平成4年から平成13年までの実績の河床変動および数値解析結果からベーン工の効果を検証し、実河川におけるベーン工設計の課題が示されている。
その後、平成29年9月に白滝橋地点で計画高水流量を超過する観測史上最大の9,981m3/sを記録する出水が発生し、当該地区の水衝部では、河床低下の進行およびベーン工の一部破損を確認した。
本論では、近年の測量成果および調査結果から得られた新たな知見、構築した非定常の準三次元河床変動解析モデルによるベーン工の効果検証結果および今後のベーン工設計上の課題について報告するものである。

図 1 大野川の概要

2.大津留地区のベーン工設計の概要
河道湾曲部では、主に遠心力に起因する二次流によって外岸側で河床洗掘が生じる。ベーン工は、大規模な二次流の生成を弱めることで、外岸側の河床洗掘および河岸侵食の抑制効果を期待する翼板状の構造物である。
当該地区のベーン工は、図-2に示すように湾曲部の水衝部となる8k400~8k600左岸の局所洗掘を軽減することを目的に設置されている。上流区間のベーン工は水衝部区間のベーン工が有効に機能するように主流線を誘導するガイドベーンの役割を持たせ、下流区間のベーン工はベーン工の設置によって新たな水衝部が生じるのを防ぐ目的で施工されている。
ベーン工の諸元は、二次流相殺率γ4)を基に設定されている。渡辺5)は低水路満杯流量(≒平均年最大流量)時の値としてγ=0.4~0.5を推奨しており、当該地区では8k400断面(昭和63年度測量)の1断面を対象に、設計流量(低水路満杯流量)1,800m3/sに対して、γ=0.41となる諸元が設定されている(図-3)。
平成29年9月出水後に実施した潜水調査では、深掘れが進行している箇所のベーン工(No.15、No.16)は図-4のように破損している状況であった。

図 2 ベーン工配置図

図 3 ベーン工の諸元

図 4 ベーン工の潜水調査結果(平成29年9月出水後)

3.大津留地区の経年変化の分析
(1)河床形状の変化
図-5には平成4年から平成30年までの経年的な河床高の変化を示す。平成4年から平成13年の変化では、8k400付近で洗掘が進行しているが、その上下流の河岸際は洗掘が軽減されている。その後の平成25年、平成30年では8k400から上流方向に洗掘が進行、拡大しており、現在では昭和18年出水時の堤防決壊箇所付近まで深掘れが進行している状況である。
深掘れ箇所はT.P.-10.6m程度まで局所洗掘が進行しており、ベーン工設計時の予想局所洗掘深のT.P.-8.8m以上となっている。
図-6には8k600横断の経年変化を示している。経年的に低水路の河床低下とベーン工内岸側の低水路幅の拡大が進行し、平成5年から平成30年までに最深河床高は約5m低下している。また、平成29年9月出水前後の平成26年と平成30年を比較すると、外岸側への河岸侵食がベーン工設置後初めて確認された。

図 5 大津留地区の河床高の変遷

図 6 横断の経年変化(8k600 横断)

図-7(a)に示すベーン工内岸側(図-2のA-A’)河床高の洗掘の進行、上流側への拡大はベーン工の効果と評価されるが、図-7(b)に示す外岸側(図-2のB-B’)でも8k400付近で洗掘が進行している。福岡ら1)によると、平成5年から平成13年の河床高の変化について、8k400付近の外岸側の洗掘は、大規模出水時に高水敷に乗り上げる流れが生じたことで、設計上想定していた単断面流れとは異なる流れの構造が生じたことが要因であると推察している。平成13年以降にも同じ箇所で洗掘が進行していることは、福岡らの推察を裏付ける結果となっている。

図 7 縦断河床高の経年変化

(2)流況の変化
図-8に白滝橋地点の年最大流量の経年変化を整理した。昭和年間(36年間)と平成年間(30年間)で比較すると、白滝橋地点の平均年最大流量は約2,800m3/sから約4,400m3/sに増大している。また、河川整備基本方針前後の降雨量、流量、洪水発生頻度を比較すると、表-1に示すように増大している。これは、評価期間が異なるものの、気候変動シナリオ(2℃上昇)6)を上回る変化率であった。
さらに、図-8の破線は等流計算で算定した8k400における低水路満杯流量(左岸高水敷高T.P.+4.2mに対応する流量)を示す。当該地区の経年的な低水路の深掘れの進行とともに低水路満杯流量は増大しているが、ベーン工設置以降、概ね2年に1回程度の頻度で低水路満杯流量以上の出水が繰り返し発生している。

図 8 白滝橋地点における年最大流量

表 1 外力の変化

(3)二次流相殺率の変化分析
現在のベーン工の効果を確認するために、設計時(S63河道)と現況河道(H30年測量)の二次流相殺率を表-2に比較した。低水路が拡大したことで、現況河道の二次流相殺率はγ=0.36に低下し、推奨値(0.4~0.5)を下回っている。このことから、外力の規模と頻度が増大したことで、経年的に低水路の深掘れが進行、拡大し、ベーン工の洗掘抑制効果は徐々に低減している状況であると考えられる。

表 2 二次流相殺率の算定結果

4.数値解析によるベーン工の効果検証
(1) 数値解析モデル
a)流れの基礎方程式
連続式(1)のwを水底z0からzまで積分すると式(2)が得られる。式(2)のwをx、y軸方向の運動方程式に代入すると式(3)、(4)が得られる。

流れの基礎方程式(1)(2)(3)(4)

 

ここに、u、v はx、y 方向の流速、h は水深、H は水位、g は重力加速度、εは渦動粘性係数(ε= κ u*h/6、u* は摩擦速度、κはカルマン定数)であり、河床のせん断力はマニング則に基づく式を用いる。u、v の水深方向の分布型はフーリエ級数で仮定し、「coskπz’(k=0,1,2)」を重み関数として乗じ、河床(z=z0)から水面(z=H)まで積分する7)。また、ベーン工の全抗力及びベーン工にかかる単位高さあたりの揚力の反力は、福岡、渡辺ら8)と同式を用いるが、ベーン工の迎え角及び形状はメッシュ方向に依存しない田村ら2)のモデルを導入した。なお、ρは水の密度、δはδ関数、xi、yi はx、y 方向のベーン工の位置、Fx’、Fy’ はベーン工がx、y 方向の流れに及ぼす外力を示す。
本論では、一般座標系を用いた湾曲流に関する長田らの研究に準拠9)して、式(1)、(2)を一般座標系へ変換した基礎方程式を用いる。

b)河床変動の基礎方程式
河床高の変化は、掃流砂、浮遊砂を対象とした次の流砂の連続式(3)を用いる。

河床変動の基礎方程式(5)

ここに、zbは河床高、Jは座標変換のヤコビアン、λは河床材料の空隙率、mは粒径区分番号、(qBmξ,qBmη)は流砂量の反変成分、w0は土粒子の沈降速度10)、cbeは基準面濃度(Lane-Kalinske式11))、cbは河床付近の浮遊砂濃度(浮遊砂の鉛直分布を指数分布と仮定して算出)である。
まず、掃流砂については、流線(s軸)とその直角方向(n軸)の単位幅流砂量(qBs,qBn)を、芦田・道上式12)、長谷川式13)を用いて計算し、流線(s軸)とx軸のなす角θを用いて、次式により反変成分(qBmξ,qBmη)に変換する。

河床変動の基礎方程式(6)(7)(8)(9)

次に、浮遊砂については、水深平均浮遊砂濃度を水深積分された浮遊砂の連続式を用いて算出する。

表3 平成29年9月出水の再現検証条件

c) 数値解析法
本論では離散化方法として、有限体積法を用いる。また、空間微分について、移流項には簡単に1次精度の風上差分を用いた。時間積分は2次精度のAdams-Bashiforth法を適用した。変数配置としてStaggered格子を用いた。

(2)平成 29 年 9 月出水の再現検証計算
解析モデルの精度確認として、平成29年9月出水の再現検証を行った。解析条件を表-3に示す。また、湾曲部の二次流の再現性確認として、汎用数値解析ソフトiRICのNaysCUBEソルバー14)による三次元流況解析の結果と比較、検証した。図-9には平成29年9月出水時の痕跡水位と解析結果の比較を示す。これより、準三次元計算水位は、痕跡水位及び水位観測結果を概ね再現できている。
次に、図-10はiRICの三次元流況解析結果と準三次元解析モデルの計算結果を比較した結果を示す。湾曲外岸の底面付近で内岸に向かう流れと表面付近で外岸に向かう流れが、それぞれの解析モデルで表現できていることから、湾曲部での二次流の再現性を確認した。
図-11には平成29年9月出水前後の実績の河床変動量と準三次元河床変動解析による河床変動量の比較を示す。実績の河床変動量は平成25年度と平成30年度に実施されたC3D(3次元サイドスキャンソナー)地形測量より差分をとった。実績の8k400~8k600左岸の河岸際で堆積傾向となっているが、これは平成29年9月出水後に設置した根固めブロックによるものであり、横断測量成果では河岸際の洗掘を確認している。したがって、解析結果は実績の湾曲低水路の洗掘傾向を再現できている。ただし、8k400より下流の堆積傾向は再現できていない。

図 9 平成29年9月出水の痕跡水位再現計算結果

図 10 湾曲部における二次流の再現計算結果(8k600)

図 11 実績河床変動量の再現計算結果

(3)ベーン工の効果検証
a)河道および流量条件の違いによるベーン工効果検証
構築した準三次元河床変動解析モデルを用いて、河道および流量の違いによるベーン工の洗掘抑制効果について検討した。河道は平成6年度河道(ベーン工設置当時)と平成30年度河道(ベーン工No.15、16は破損)とし、流量は1,800m3/s(設計流量)、3,000m3/s(現在の低水路満杯流量)、8,500m3/s(H29.9出水流量)とした。それぞれのケースについてベーン工有無の解析を行い、局所洗掘箇所の最深河床高を整理した結果を図-12に示す。これより、流量規模が大きい程ベーン工による洗掘抑制の効果は大きくなっている。また、平成30年度河道のべーン工の洗掘抑制効果は、平成6年度河道の60%程度に低減しており、二次流相殺率と同様に低下している。

図 12 ベーン工の効果検証結果

b)流速に関する考察
図-13には平成30年度河道で8,500m3/s流下時のベーン工有無の底面流速コンター図を示す。ベーン工有りの場合には8k400から下流では左岸河岸際の流速が低減しており、河岸際の洗掘軽減効果を発揮している。しかし、それでもベーン工内岸側の底面付近で4m/s以上の比較的高い流速が生じている。

図13大津留地区の底面流速コンター図

c)長期計算による現況河道の将来予測
現況河道の将来予測として近10年間(H20~H29)の年最大洪水の実績波形を与えた河床変動解析を実施した。図-14に示す河床変動量コンター図より、8k400~8k600左岸の河岸際で洗掘が2~3m程度進行している。

図14 10年後の河床変動予測結果(河床変動量)

5.まとめ
一般的に、ベーン工設計の考え方は、一様湾曲部の単断面流れを前提に、効果的に二次流を抑制できるベーン工の諸元、配置を設定している。福岡ら1)は、複断面流れに対する設計法の確立が課題であることを示しており、田村ら2)、3)は、ベーン工設置区間に対して平均的な河床高でベーン工諸元を設定すると、ベーン工高さが不足する箇所が表れること、当該地区のように河道法線と澪筋の位相が異なる場合、主流とベーン工の位置が離れてしまい、十分に二次流を制御できないことを示している。
本論で明らかとなった点を以下に列挙する。
・経年的な河床形状の変化と近年の出水状況の考察により、8k400左岸付近の局所洗掘の進行は、福岡ら1)で示されている単断面から複断面に遷移する複雑な流れに起因するものであることを確認した。
・当該地区の深掘れ箇所は、比較的規模の大きな出水の発生頻度が増加したことにより深掘れが進行しており、低水路の拡大とともにベーン工の二次流相殺率が低下している。
・ベーン工有無の解析結果から、ベーン工の洗掘軽減効果は、現況では設置時に比べて60%程度まで低下している。
・数値解析結果より、計画高水規模の出水時には河床底面付近でも4m/sを超える比較的高い流速が発生する。
近年の計算機能力の向上を踏まえると、設計時にベーン工配置の比較検討や設置後の影響予測を行い、設計時から十分な検討を実施することで、効果的なベーン工諸元の設定が可能であると考える。

6.今後の課題
本論では、経年的な河道の変化、流況の変化を実績および数値解析結果から考察し、既設ベーン工の効果を検証した。
従来、ベーン工設計では、設計外力として低水路満杯流量のみを対象に諸元を設定している。しかし、今後、気候変動による外力の増大や頻発化が懸念されるため、設計外力として外力の規模や発生頻度の増加を見込み、当該地区のように繰り返し出水を受けた場合にも効果を発揮するベーン工設計について検討する必要がある。
また、今回の潜水調査で局所洗掘箇所のベーン工の一部破損が確認されている。これは、設計時の予想以上に河床が洗掘したこと、底面付近で比較的高い流速が発生していることにより、ベーン工が想定以上の曲げモーメントを受けたことが破損の一因だと考えられる。今後、より耐性の高い素材のベーン工への適用等について、更なる検討の余地があると考える。

謝辞:本検討を実施するにあたり、中央大学研究開発機構福岡捷二教授、国土技術政策総合研究所同河川研究室福島雅紀室長、同瀬﨑智之主任研究官には、多大なる御助言を賜りました。ここに記して感謝の意を表します。

参考文献
1)福岡捷二ら:大野川弯曲部の局所洗掘対策工としてのベーン工の効果、水工学会論文集、第46巻、2002.
2)田村浩敏ら:平面形が縦断的に変化する河道湾曲区間の河床変動解析、ベーン工の効果の検討、水工学論文集、第47巻、2003.
3)田村浩敏ら:三次元流況解析による大野川ベーン工の局所洗掘軽減効果の検討、土木学会第59回年次学術講演会、pp.301-302、2004.
4)福岡捷二、渡辺明英:ベーン工の設置された弯曲部の流れと河床形状の解析、土木学会論文集No.447/Ⅱ-19、pp.45-54、1992.
5)渡辺明英:ベーン工の設計法に関する調査、土木研究所資料、第2956号、1991.
6)気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会:気候変動を踏まえた治水計画のあり方(参考資料)、pp.79、2019.
7)富所五郎:FEMによる浅水域における三次元流動解析法、海岸工学講演会論文集、第27巻、pp.453-457、1980.
8)福岡捷二、渡辺明英、萱場祐一、曽田英揮:ベーン工が断続的に配置された河道弯曲部の流れと河床形状、土木学会論文集No.479/Ⅱ
-25、pp.61-70、1993.
9)長田信寿、細田尚、村本嘉雄:河岸侵食を伴う河道変動の特性とその数値解析法に関する研究、土木学会論文集、No.621/Ⅱ
-47、pp.23-39、1999.
10)Rubey,W.W.:Settlingvelocitiesofgravels,sandandsiltparticles,AmericanJ.of Science.,Vol.25,pp.325-338,1933.
11)Lane,E.W.LaneandKalinske,A.A.:EngineeringCalculationsofsuspendedsediment、Trans.A.G.U.、Vol.22、1941.
12)芦田和男、道上正規:移動床流れの抵抗と掃流砂量に関する基礎的研究、土木学会論文報告集、第206号、土木学会、pp.59-69、1972.
13)長谷川和義:蛇行流路における流れと平衡底面形状に関する研究、土木学会論文報告集、第338号、pp.105-114、1983.
14)河川シミュレーションソフトiRIC、i-ric.org/ja.

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