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「地域の接合点としての川づくり」を目指して
~遠賀川床上浸水対策特別緊急事業(飯塚・穂波地区)~
九州地方整備局 平井新太郎
1.はじめに

飯塚市で実施している床上浸水対策特別緊急事業は、住民参加による“ 川づくり” として、5年間(2004年8月~2009年5月)という限られた期間で取り組んだものである。事業に際しては、地域住民の川に対する想いや多くのニーズを、的確に反映させることが出来たと実感している。この飯塚を襲った未曾有の水害からの復興・地域の再構築並びに、地域の活性化を目指す“ まちづくり” と調和を図る必要のある河川整備を実施するために、設計の初期段階から地域住民の川への想いを聞き出し、合意が得られるまで意見交換(情報提供含む)を計画的に重ねることで、地域住民と国をはじめとする関係行政機関との川に対する想いが共有できたと確信している。
今後、この市民と連携した“川づくり”が、観光立市を掲げる飯塚市のまちづくりに反映されることを期待し、その概要を紹介する。
☆キャッチコピー:“いいづか・いいまち・いい川づくり”


写真-1 平成15年7月19日浸水被害状況

2.事業概要

本事業の内容を以下に示す。
① 水 系 名: 遠賀川水系遠賀川・穂波川
福岡県飯塚市・旧嘉穂郡穂波町(現飯塚市)
② 事業区間:
河道掘削:約10km 遠賀川29K900付近(鯰田取水堰) ~穂波川直轄上流端(6k000)間
掘削土量:約70万m3
橋梁架替:芳雄橋(遠賀川32k500付近)
飯塚橋(穂波川 0k600付近)
③ 事 業 費:140億円
④ 事業工期:平成16年度から平成20年度(一部平成21年度施工)
⑤ 事業目的:
○穂波川では、計画高水位を超えて堤防が危険な状況であったため、当該洪水規模に対して計画高水位以下で安全に流下させる。
○飯塚市街部等の内水被害を軽減するため、自然排水が出来る限り可能となるよう、遠賀川および穂波川の水位を低減させる。
○河川の流れを著しく阻害する橋梁の改築を行う。
⑥事業効果
○床上浸水家屋 約850戸解消(対策前1,917戸 → 対策後1,065戸)
○穂波川秋松橋地点(2k800付近)の水位 を約1m低減


図-1 床対事業区間及び事業メニュー

3.事業の進め方

平成15年7月19日洪水に対し、実行性のある浸水対策についての協議を行うため、7.19浸水対策連絡協議会及び遠賀川部会を設置して、関係機関( 国・県・市( 旧穂波町含む)) との連携を図り事業推進に向けてのハード・ソフト対策の確定を行った。
この確定された両対策を強力に推進していくために、国・県・市の関係部局から構成される行政連絡調整会議を平成16年度より年2回程度開催し、相互の事業進捗報告や事業調整等を行うとともに、当所においては、床対事業を円滑に推進するために、技術副所長をチーフとする担当者会議「( 床対会議」) を毎週開催し、現在も継続している。特にソフト対策においては、当該水害を風化させないよう、広く市民レベルでの危機管理の重要性 を広報するため、平成16年度より、毎年(7月19日付近で)防災シンポジウムを開催している。


写真-2 防災シンポジウム(H19.6.9 嘉穂劇場)

また、緊急的な治水対策を進めるための様々な技術的な課題に対しても、専門機関による技術的指導を受けるなど、関係行政機関、施工業者、学識経験者、専門機関等が一体となって取り組んだ。
併せて、整備後の河川利活用や、河川環境に配慮した整備を進めるために、住民が参加する協議会を設立し、持続的な河道の維持、良好な河川環境の保持に配慮した飯塚・穂波地区の川づくりを進め、その推進にあたっては、住民の水害に対する不安の払拭や、地域再構築(まちづくり)の観点から「地域の接合点としての川づくり」を目標に掲げ、住民の方々と河川整備・河川利活用に関する意見交換会を定期的に開催し、情報の共有化等を図っている。


図-2 「地域の接合点としての川づくり」への手法

4.地域住民との連携
(1)地域住民主体の意見交換会
①景観に関する意見交換会(平成16年8月~平成18年3月12回開催)
治水整備と併せて、飯塚商店街等の水害からの復興にも配慮するために、飯塚商店街の歴史を100年近く見守り続けた飯塚商工会議所に相談し、飯塚復興を願う地元有識者(キーパーソン的人材)20名ほど選出していただき、平成16年度に景観についての意見交換会を設立・運営した。
このメンバーと学識経験者等により地域住民の想いの詰まった川づくりプランを策定するために、2年間に渡り計12回の意見交換会を行い、芳雄橋基本デザインと中之島地区整備の基本コンセプトが決定された。(図-3参照)
○まとまりとつながりのある空間デザイン
○人の居場所を創り出す工夫
○親水利用(水辺に近づく、水面利用)
○バリアフリー対応


図-3 市民の意見を取り入れた中之島整備イメージ図


写真-3 第8回景観に関する意見交換会様子

②利活用についての意見交換会(平成18年6月~H21年4月12回開催)
景観についての意見交換会メンバーに新規メンバーを加え、地域住民の意見等を取り入れた良好な河川空間として生まれ変わる河川敷の利活用についての意見交換の場へとステップアップし、同時に飯塚商工会議所独自の利活用・維持管理プラン案の提案がなされた。
これは、景観意見交換会メンバーが平成17年度までに議論した川づくりプランが、平成18年度より目に見える形で実現化していく過程で、自らが提案し整備されていく河川敷を、いかに良好な状態で継続していくかという、地域が主体となる利活用・維持管理に関するプラン案であり、他のメンバーも、整備後の利活用・維持管理の必要性を感じ、「自らが行う」という意識が生まれた。今後は、飯塚市が中心となり、維持管理及び利活用計画を策定していくことになる。
また、整備された河川敷において、市民の利活用を促進し、河川の親水機能の向上と良好な水辺空間の保全を行うことを目的に、飯塚市と当所間で「管理に関する確認書」を締結し、同市において維持管理を実施しているところである。この維持管理を継続することにより、地域住民の河川敷維持管理への参画に期待を寄せているところである。

③住民からの提案
利活用についての意見交換会では、住民から河川利活用に関する様々な提案がなされており、その一例を紹介する。
○平成19年4月より一般公開された筑豊の「炭坑王」であった旧伊藤伝右衛門邸付近の遠賀川河川敷等に、伝右衛門の妻で「筑紫の女王」と呼ばれた歌人柳原白蓮に関する歌碑3基の建立が提案され、河川管理者からの地域づくりへの支援として建立した。
この歌碑は、九州運輸局と九州地方整備局とが連携して推進している「九州広域観光ルート支援モデル事業」に認定され、「“ 恋の華” 柳原白蓮と“ 炭坑王” 伊藤伝右衛門ルート」( 福岡県飯塚市・東峰村、大分県日田市、熊本県荒尾市からなる広域地域) の主な観光拠点等として盛り込まれて、飯塚市の観光資源として期待されているところである。


写真-4 河川敷に建立した柳原白蓮歌碑

5.新しい芳雄橋

平成15年7月19日洪水で橋脚基礎部に洗掘を受け、床対事業を実施する上で支障となることから架け替えられることになった芳雄橋は、昭和3年2月に国内3番目の鉄筋コンクリート橋梁として完成したもので、中央部の橋上デッキや橋詰めに水飲み場などを有した、当時としては斬新でモダンなデザインの橋梁で、約80年間の長きに亘り、飯塚市を見守り、市民に愛し続けられた橋梁であった。
そのため、撤去前には、市民が中心となって芳雄橋渡り納め式実行委員会が組織され、平成18年3月に渡り納め式が執り行われた。また、旧橋設計者のご子息より、設計者が晩年、「芳雄橋が壊れて人様を傷つけることがなくて良かった。」という言葉を残されていたことも紹介され、当時の土木技術者の想いも伝わる橋梁でもあった。
新しい芳雄橋は、意見交換会で提案された基本デザイン2案について、市民にアンケート調査を行い、「飯塚の街と旧芳雄橋の歴史を重視し、重厚感のある橋」を基本コンセプトとした「クラシック案」に決定され、それをベースに設計がなされ、具現化するために、延べ2万人にも及ぶ、産官学の土木技術者の誇りと魂が込められ、80年間の旧芳雄橋の歴史の継承と、水害復興並びに飯塚市のシンボルとして、今後100年以上も飯塚市を見守っていく“まちづくり” のシンボルとして生まれ変わり、その完成には、市民主導による手作りの渡り初め式を執り行い、多くの市民が喜び祝った。


写真-5 H20.11.29 芳雄橋渡り初め式

図-4 芳雄橋完成イメージCG

写真-6 イメージCGどおりの新・芳雄橋

6.整備効果

全河道掘削土量の約9割が完了した平成20年6月21日に、事業区間の上流域で、平成15年7月19日洪水を上回る降雨を記録した。
平成15年7月洪水時の降雨量の3割程度に治まった飯塚市街部では、外水の早期流下により、外水位上昇による内水被害は発生しておらず、河道掘削効果が発揮できたと推測しており、平成15年7月19日規模洪水をHWL以下で安全に流下しうると確信している。


図-5:整備効果

7.おわりに

近年、住民参加による川づくりは、各地で盛んに行われているところであるが、巻頭で述べたとおり、飯塚地区の河川整備は、5年間という限られた期間の中での、住民・学識経験者・関係行政機関・施工業者等が、「地域に愛される“ 川とまち”のにぎわい空間の創出」をという強い想いで、一丸となって取り組んだ成果である。
床対事業は、平成21年5月末に一部を除き、治水整備に係る部分が概成予定であるが、それ以降も、H15年7月19日出水を飯塚市民の記憶から風化させずに積極的に川づくりへ参加できるような場を提供するために、定期的に地域住民との意見交換を予定しているところである。
これにより、住民と河川管理者との間で情報発信・情報共有が継続的になされ、河川空間が地域の癒しと憩いの空間として創出され、川とふれあう機会が増えいくという、住民との連携効果が期待される。その結果、そこから川への関心が高まり、人々がつながり、裾野が広がり、まち全体が元気になる「地域の接合点としての川づくり」が現実化されていくと信じている。
今後も「地域の接合点としての川づくり」に努めるため、地域との連携を一層強め、積極的に支援・応援を行って参りたい。


写真-9 中之島の床対事業の整備前後の状況

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