大規模災害時における九州地方整備局の防災対応力の強化について
国土交通省 九州地方整備局
九州防災センター 防災対策官
九州防災センター 防災対策官
川 野 晃
キーワード:九州防災センター、大規模災害対応、災害時の連携・支援体制、TEC-FORCE
1.はじめに
平成23 年3月11 日に発生した東日本大震災以降、各防災関係機関等において、組織の拡充や防災業務計画の見直しなど、各方面で防災対応力の強化が種々行われている。
九州地方整備局管内においても、平成24 年7月の九州北部豪雨に見られるような短時間の記録的集中豪雨による災害や、深層崩壊等による大規模な土砂災害が顕在化し、更には、南海トラフの巨大地震発生の危険性が叫ばれている中、東日本大震災での教訓も踏まえつつ、より一層の防災対応力の向上が望まれるところである。
このようなことから、九州地方整備局(以下「整備局」という)では、平成24 年4月、全国に先駆けて「九州防災センター」を設置したのをはじめ、防災対応力の強化に取り組んでおり、本稿ではその一部を紹介する。

2.九州防災センターの設置
九州防災センターは、大規模災害時における対応のより一層の高度化・円滑化を図るため、防災対応を専門的に実施する組織として、平成24 年4月6日に設置された。
組織は、総括防災調整官をセンター長とし、土木、電気通信、機械が専門の国土交通職員で構成し、福岡県久留米市(九州技術事務所内)にその組織を置き、現在4名が専属で配置されている。

九州防災センターの主な業務としては、
1)平常時
① 整備局の防災力の強化
緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE※1)をはじめとする職員の防災対応力向上のための、各種訓練や研修の企画・運営、及び整備局が保有する九州管内の防災関係資機材の機能維持・向上、配備等を行う。

② 自治体との連携・支援体制の強化
自治体主催や共同の防災訓練への参加や、自治体向け「防災セミナー」を実施するなど、災害時において自治体との連携した対応が図れるよう、事前の体制を整える。
③ 防災に関する調査、技術開発
災害対応の経験、知見など各地で発生した災害情報を収集整理し、災害時の活動計画への活用や自治体への情報提供を行う。また、より高度でかつ円滑な災害対応を行うため、防災情報通信システムや無人化施工機械等の技術開発にも取り組むこととしている。
2)災害時
① 被災現場への派遣拠点
全国及び九州管内に派遣される九州地方整備局のTEC-FORCE 隊員や災害対策用機械・機器、TEC-DOCTOR(学識者)※2の派遣拠点となり、更には、派遣隊への後方支援等を行い、被災現場への効率的かつ迅速な派遣対応を図る。
先の平成24 年7月九州北部豪雨においても、九州技術事務所と共に、これらの派遣拠点としての対応を行ったところである。(写真-4に整備局内及び全国からの機械集結状況を示す)


② 災害対策本部代替機能(BCP)
今後の大規模災害時において、整備局災害対策本部(福岡市)が被災し機能不全に陥った場合は、九州防災センターがその代替機能として本部運営が行えるよう、情報通信設備など施設整備を行う予定である。
3.自治体との連携・支援体制の構築
整備局では、九州全体の総合的な防災対応能力の向上を図るため、九州各県・政令市、市町村等との災害時の連携が重要であることから、技術的支援、情報共有・情報提供、災害対策用機械・機器の派遣などの災害時対応と、事前の準備として共同防災訓練の実施、大規模災害時の応援協定締結など、自治体との連携・支援体制の充実・強化に取り組んでいる。
1)緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の派遣(※1)
TEC-FORCE(テック・フォース)は、大規模災害時に、被災状況の把握や被災地方自治体の支援を行い、被災地の早期復旧のための技術的支援を迅速に実施するため、平成20 年に国土交通本省及び各整備局等で発足した。
国土交通省職員を隊員としてあらかじめ指名するなど、事前に人員・資機材の派遣体制等を整備し、災害時に迅速な活動を実施するもので、九州では、現在(H24.10 月末)594 名の整備局職員を任命している。
これまで、奄美豪雨災害(H 22)、東日本大震災(H 23)、紀伊半島台風12 号災害(H 23)、平成24 年7月九州北部豪雨災害などへ派遣し、技術的支援を実施した。活動内容を図-1に示す。

2)緊急災害対策派遣ドクター(TEC-DOCTOR)の派遣(※2)
TEC-DOCTOR(テック・ドクター)は、九州管内の河川・道路・砂防施設等が被災し、復旧などで高度な技術や専門的な知識を必要とする場合に、学識経験者を被災地へ派遣し、技術的な指導や助言を受けるものである。
現在(平成24 年度)、橋梁、トンネル等の構造物や、法面、地すべり等の地盤・地質、及び水理、火山・防災等の専門家50 名を任命している。
ドクターの方には、自治体等の被災現場だけでなく、整備局の直轄災害等にも指導や助言を頂いており、緊急かつ様々な場面で対応をお願いしている。派遣のイメージを図-2に示す。

3)現地情報連絡班(リエゾン※3)の派遣
リエゾンとは、災害時は自治体が災害対応に追われ、整備局との間で十分な連絡・連携が出来ない可能性もあることから、迅速かつ的確な災害対策や災害支援に資するため、連絡窓口として整備局職員を直接自治体へ派遣するものである。
リエゾンは、整備局・自治体相互の情報共有や、TEC-FORCEやヘリコプター、照明車等の災害対策用機械・機器の自治体への応援派遣に係る調整など、自治体からの相談受付や整備局への伝達等を行う。
(※3)リエゾンとはフランス語で連絡・連携や橋渡し、繋ぐといった意味。
4)防災関係機関の情報共有の推進
被害の最小化や迅速な復旧には、迅速かつ的確な被害情報の収集・把握が不可欠である。
整備局では、整備局災害対策本部と被災自治体とで、テレビ会議システム等によりヘリコプターなどの現地映像を直接確認しながら災害対応にあたる、「映像共有遠隔防災会議」を行っている。
この遠隔防災会議は、整備局が保有する災害対策用ヘリコプターや、河川・道路に設置したCCTVカメラ等からの映像や音声を、国土交通省専用の無線電話回線、衛星回線、光ファイバーネットワーク等の伝送手段を活用し、整備局と被災した県・市町村等とを繋いで、映像を共有しながら会議を行うシステムで、「TEC-FORCE.VC※4」と銘打ち、平常時には検定・訓練等を定期的に行いシステム設置運営が可能な職員を増やすなど、当整備局が災害時支援で重点項目としている施策の1つである。
遠隔防災会議実施状況を図-3に示す。
(※4)view and communication の略
このほかにも、防災関係機関による情報共有の推進のため、福岡管区気象台、第七・第十管区海上保安本部、陸上自衛隊西部方面総監等との防災情報通信ネットワークの構築などを図っている。
また、平成23 年1月には、防災関係機関・ライフライン等公共機関が参加し、災害等の未然防止、被害拡大防止及び復旧等の連携が円滑に行われることを目的として、「九州防災連絡会」を設置し、災害対策の意見交換等を実施している。

5)災害対策用機械・機器の派遣
整備局では、様々な被災状況を踏まえた現地のニーズ等に応じて、災害対策用ヘリコプター「はるかぜ」をはじめ、排水ポンプ車、照明車、衛星通信車などの保有している災害対策用機械・機器の派遣を行っている。
これらの機械・機器の殆どは、迅速な派遣が可能なよう九州技術事務所をはじめ、九州各地の事務所等に分散配備しており、これまでも九州各地の災害対応や東日本大震災等への派遣対応を行ってきた。東日本大震災での衛星通信車による自治体庁舎の通信確保状況を写真-6に示す。

6)地域防災訓練への参加
整備局では、災害時における迅速かつ的確な連携・支援が図れるよう、県・市町村等が主催する地域防災訓練へも積極的に参加している。
各県・政令市の訓練では、整備局企画部や九州防災センターからも参加し、先に紹介した災害対策用ヘリコプターからの映像配信による「映像共有遠隔防災会議」訓練や、衛星通信車、排水ポンプ車等の設営・実働訓練等を実施している。訓練参加状況を写真-7に示す。

7)災害時応援協定の締結
国・県・市町村間で、「大規模災害時における応援に関する協定」を締結し、①施設の被害状況の把握、②情報連絡網の構築、③リエゾンの派遣、④災害応急措置等の実施に係る資機材や職員を応援する体制整備を行っている。
平成23 年からは、整備局長と市町村長との直接協定を締結しており、東日本大震災以降は、その希望数も大幅に増え、平成24 年10 月末現在で、九州7県230 市町村のうち9割近い204 市町村との協定を締結済みである。
4.おわりに
九州地方においては、南海トラフの巨大地震等の発生が想定されていることや、豪雨等による大規模災害の発生が懸念されていることから、自治体はじめ防災関係機関との連携が益々重要であると考える。
整備局では、東日本大震災での教訓、先の九州北部豪雨における災害対応実績やその課題等も踏まえ、今後も、大規模災害時における防災対応力の強化のため、引き続き関係機関との連携強化に努め、九州全体の総合的な防災対応能力が向上できるよう、災害時の自治体支援体制の充実・強化に努めて参りたい。
なお、今回紹介した取り組みのほか、防災セミナーの開催や出前講座など、整備局の防災の取り組みを紹介しているので、詳細は九州防災センターへ問い合わせをお願いしたい。
(連絡先)
九州地方整備局 九州防災センター
092-471-6331(代)