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大山ダムの試験湛水結果について
松永徹

キーワード:試験湛水、漏水量、揚圧力、変位量

1.はじめに

大山ダムは、大分県日田市大山町の筑後川水系赤石川に建設された多目的ダムで、昭和59 年3月に実施計画調査を開始、昭和63 年に建設事業に着手しました。以来、平成10 年1 月に一般損失補償基準の妥結を経て、平成18 年4 月に転流工工事に着手、平成19 年4 月にダム本体工事に着手、平成20 年8 月に本体コンクリート打設開始、平成22 年12 月に打設を完了、平成24 年度大山ダム建設事業を完了し、平成25 年度より管理運用を開始しています。
本稿は、平成23 年5 月10 日から平成24 年11 月21 日まで実施した大山ダム試験湛水結果について報告いたします。

2.大山ダムの概要
大山ダムは、堤高94m、堤頂長370m、堤体積58 万m3の重力式コンクリートダムです。
総貯水容量1,960 万m3にて、洪水調節、既得用水の安定化・河川環境の保全、新規利水を目的としています。

◇洪水調節
 大山ダム地点において、計画高水流量690m3/sのうち570. /s をダムに貯留し、ダム下流の赤石川及び筑後川本川沿岸の洪水被害の軽減を図る。
◇既得用水の安定化・河川環境の保全
 河川に必要な流量が不足しているときにダムから水を補給することによって、ダム下流の赤石川・筑後川本川沿川の既得用水の取水の安定化を図るとともに河川の環境を保全する。
◇新規利水
 久留米市瀬ノ下地点において、福岡県南広域水道企業団に0.707. /s(61,000. / 日)、福岡地区水道企業団に0.603m3/s(52,000. / 日)、合わせて最大1.31. /s(113,000. / 日)の水道用水を新たに供給する。

3.試験湛水結果
3. 1 試験湛水実績
大山ダムの試験湛水は、平成23 年5 月10 日より開始し、同6 月17 日に平常時最高貯水位に達しました。その後、洪水期(6 月17 日~ 9 月30 日)を迎えるため平常時最高貯水位で水位維持し、平成23 年10 月1 日より洪水時最高水位に向けて水位上昇させ、平成24 年3 月24 日(22時07分)に洪水時最高水位に到達しました。
その後、貯水位を低下させ、同4 月10 日に平常時最高貯水位に到達しました。その期間では、平常時最高貯水位で水位維持を行い、堤体の安全性等を確認するとともに、その後の水位低下にあたっては、放流設備の機能確認等を行いました。
平成24 年5 月7 日より最低水位に向けて水位低下を再開し、水位低下を実施していたところ、同年7 月14 日の九州北部豪雨に伴う出水により、EL.213.90m まで低下させていた貯水位がEL.247.02m まで再上昇し、高濁度の濁水の流入により貯水池全層が濁度化となりました。高濁度の濁水放流を避けるため、8 月31 日まで平常時最高貯水位付近で水位維持を行い、9 月1 日より貯水池濁度の状況および下流河川への影響を確認しつつ、最低水位に向け水位低下を再開しました。
 平成24 年11 月20 日(14 時52 分)に最低水位に到達し、翌日の11 月21 日に試験湛水は終了しました。
 試験湛水開始から試験湛水終了までの主要水位
到達実績は、次のとおりである。
 ・試験湛水開始日:H23.5.10
 ・最低水位EL.206.20m:H23.5.12

 ・平常時最高貯水位EL.245.00m:H23.6.17
 ・洪水時最高水位EL.259.00:H24.3.24
 ・平常時最高水位(低下時):H24.4.10
 ・最低水位到達日:H24.11.20
 ・試験湛水終了日:H24.11.21

  

3. 2 堤体観測結果
1)漏水量観測結果
①全漏水量
 漏水量の結果は、次のとおりであり、貯水位に追随する変化を示している。
◎全漏水量に急激な増加はなく、概ね貯水位と全漏水量との相関関係は維持されていた。
◎洪水時最高水位到達時点の全漏水量は189L/min であった。
◎洪水時最高水位時漏水量の内訳は、基礎排水孔漏水が3割、継目排水孔漏水が7 割程度であった。
◎洪水時最高水位まで残り8m の水位上昇時に継目排水孔(JD-12、JD-13)で漏水傾向が急激になったが、貯水位下降とともに減少した。
②基礎排水孔
 基礎排水孔各孔の最大漏水量及び漏水状況は、次のとおりであり、問題ないと判断された。
◎基礎排水孔で試験湛水中の判断基準値(注意体制への移行基準)20L/min を超えた孔はなかった。
◎ 基礎排水孔漏水量は最大で13.3L/min(21U-1)であった。
③継目排水孔
 継目排水孔の最大漏水量及び漏水状況は、以下のとおりであり、問題ないと判断された。
◎継目排水孔で試験湛水中の判断基準値(注意体制への移行基準)20L/min を超えた孔は、全23 孔中2 孔であり、最大漏水量は、
 ・JD-12 53.5L/min(洪水時最高水位時)
 ・JD-13 56.8L/min( 洪水時最高水位時)であった。
◎ JD-12、JD-13 はそれぞれEL.252 m付近より漏水量が増え始め、洪水時最高水位時に最大漏水量を記録した。
 これらの漏水については、潜水調査を行い、上流面のクラックや吸い込み箇所等の調査を実施したが、漏水要因を特定するには至らなかった。

2)揚圧力観測結果
試験湛水中の揚圧力の観測結果は、次のとおりであり、問題ないと判断された。各貯水位段階での揚圧力の分布を図. 7 に示す。
◎観測された揚圧力は、貯水位との直線的関係が認められた。
◎基礎標高位置での揚圧力係数は20%を超える孔(30 孔/68 孔中)が多く全体的に高めであるが、堤体の安定上問題ない範囲に収まっていた。
◎ BL15 の揚圧力については、貯水位の上昇に伴い堤体の安定上問題となるレベルまで上昇する可能性があったため、その低減対策として同BL 内に基礎排水孔を3 孔追加設置した。

3)変位観測結果
①堤体変位
 試験湛水中の堤体変位量(BLl0)の観測結果は、次のとおりであり、特段問題ないと判断された。
堤体変位の計測結果を図. 8 に示す。
 ◎堤体変位は貯水位と良好な相関関係を示しており安定している。
 ◎水位上昇時と下降時で急変するような状況は認められなかった。
 ◎上下流変位は貯水位との相関が高くほぼ弾性的挙動となっている。
 ◎左右岸変位は試験湛水開始から4㎜程度右岸側へ残留変位を生じた。

②基礎変位
 試験湛水中の基礎変位量(BLl0)の観測結果は、次のとおりであり、特段問題ないと判断された。
 基礎変位の計測結果を図. 9 に示す。
 ◎基礎変位は他ダムと比べるとやや大きい。
 ◎水位上昇時と下降時で急変するような状況は認められなかった。
 ◎下流変位は水位降下時に下流側へ6㎜程度の残留変位を生じた。左右岸変位も水位降下時に左岸側へ2㎜の残留変位を生じた。

以上より、漏水量、揚圧力、変位量とも試験湛水中に観測された結果から、湛水に伴う問題は生じていないと判断しました。

4. 試験湛水中の洪水調節
平成24 年7 月13 日から14 日にかけて九州北部に発生した梅雨前線に伴う降雨により、大山ダム上流で2 日間雨量502.2㎜、時間最大80㎜(この前後でも時間50㎜の降雨発生)を記録しました。降雨の影響で大山ダムの貯水池への洪水流入量は最大324.6m3/s に達しました。
大山ダムから2㎞程度下流に位置する赤石川支川吾々路川と赤石川の合流点付近では、吾々路川からの出水により堤防の決壊、巨石の流出、道路への溢水、合流部付近家屋の床上浸水等の大正10 年以来の被害をもたらしました。
大山ダムは試験湛水の水位低下期間で水位が最低水位付近であったことから、ダムへ流入する洪水のほとんどを貯留し、赤石川の水位を低下させることが出来ました。
この対応により、貯水池に濁水が貯留されたことから、その後の試験湛水では、漁協、自治体、関係機関と調整を行いつつ、流入水バイパスを利用し水位を低下させました。図ー10 試験湛水時の洪水対応。

 

5. おわりに
大山ダムは、今後、治水・利水・環境の面において、長年にわたり筑後川本川及び赤石川に対して効用を発揮できるものと考えております。今後もダムの役割を確実に果たしていくとともに、地域の方々に親しまれ、地域活性化に貢献するダムとなるよう、職員一同努力してまいります。
 最後に、大山ダムの建設にあたりましては、多くの関係者の皆様方のご理解とご協力を賜りましたことをこの場をおかりして厚くお礼申し上げます。

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