一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
大口径岩盤削孔(スーパートップ工法)の施工事例

国土交通省 大隅工事事務所
 建設監督官
内 村 正 広

1 はじめに
一般国道220号は,宮崎市を起点に,日南・鹿児島県の志布志・鹿屋・垂水・国分市に至る主要幹線道路である。鹿児島県の大隅半島の大動脈である当国道の垂水市海潟(映画ホタルで有名)~同市前崎間は非常時はもちろんのこと連続雨量150mm以上で通行止めを行う通行規制区間になっている。
当地区は,大正3年の桜島山の大噴火の溶岩流出において桜島と大隅半島がつながった場所であり,地形・地質的にも複雑なものとなっている。
また,当該地区は霧島屋久国立公園のほぼ中心部に位置し景観への配慮も不可欠な箇所である。
今回,当地区の全面通行規制解除のため早崎防災とし牛根地区の2.7kmの道路で計画された一部の牛根大橋の下部工P2橋脚に着手している。
本報文は,そのうちの杭経3000mm場所打ちコンクリート基礎杭工で実施したケーシング回転掘削方式による硬質地盤用オールケーシング工法(スーパートップ工法)の施工実施結果を報告するものである。

2 概要
(1) 橋梁諸元
路 線 名:一般国道220号
道路規格 :第3種第2級
設計速度 :V=60km/h
設計活荷重:B活荷重
橋  長 :381.075m
幅  員 :w=11m
橋梁形式 :鋼床版バランスドアーチ橋

3 基礎杭工事概要
当該工事の施工現場にて今回実施した場所打ちコンクリート杭は,橋脚下部工施工部が陸上部と海上部にまたがる位置であり,海上部には作業用桟橋を設置し,鋼管矢板締め切りを構築した後に作業用桟橋上または陸上部に全周回転型オールケーシング掘削機を設置し場所打ちコンクリート杭の施工を行った。以下に下部工基礎杭の仕様を示す。

・設計杭径長 φ3000mm
・設計杭長  L=26m~30.5m
・本  数  n=12本

本施工対象地盤は礫やシルト混じりの砂質土を主体とした堆積層中に安山岩質の巨礫,王石,転石が介在し,且つ安山岩または凝灰岩を支持層とし,また周面摩擦を要するため硬質地盤掘削を行うものである。
このような条件のもと硬質地盤対応型で大口径,大深度掘削が可能であるケーシング回転掘削方式による硬質地盤用オールケーシング工法(スーパートップ工法)を採用した。

4 スーパートップ工法の概要
スーパートップ工法は硬質地盤用オールケーシング工に分類される。オールケーシング工(通称:ベノト工法)と硬質地盤用オールケーシングの違いは掘削原理にある。
オールケーシング工ではケーシングの揺動により対象地盤の圧密を解き圧入補助をおこなうのにたいして,硬質地盤用オールケーシング工は360度の全周回転圧入により掘削地盤を切削し硬質地盤の掘削を推進する。したがって硬質地盤用オールケーシング工は強力な掘削能力をえるために,
 1)掘削機本体に強力な回転トルクと押し込み力を装備
 2)ケーシング先端に超硬ビットを装着している。
その機械性能により従来の土砂地盤用オールケーシング工では不可能であった硬質地盤,岩盤及び転石,既設構造物等の硬質障害物の切削を可能としている。
スーパートップ工法は先述のとおり硬質地盤用掘削工法に分類される工法としてこの基本機能を装備しているばかりでなく,
 1)掘削機本体の機能性の拡充
 2)関連装置の開発をおこなっている。

(1)掘削機本体
掘削機本体は自走式と,分割・据え置き式の2種類にわけられる。分割・据え置き式では回転掘削中心となるケーシングが掘削機の中心にあるため,押し込み,引き抜き時の芯ずれも少なく,高い鉛直度が得られる。スーパートップ工法で使用される掘削機はこの分割・据え置き式に属し,相伴クレーンにより掘削機移動,排土作業をおこなうことにより施工ヤードが狭い場所において適している。

また,スーパートップ工法のRT掘削機が他工法掘削機と大きく異なる点はケーシングチューブの締め付けをおこなうチャック機構にクサビ型チャック機構を採用している点である。このクサビ型チャック機構は他工法掘削機での一般的なバンド形式のチャック装置より確実なチャック力を確保し,強力な押込,引抜,回転力により確実にケーシングを躯動して大口径・大深度の掘削施工中に発生する周面摩擦等の施工障害に影響をうけず円滑で高速な施工をおこなうことができる。
この他にクサビ型チャック機構はチャックシリンダが回転しないため,油圧ホースの切り離しが不要となるだけでなく,引き抜き負荷が大きくなればなるほどチャック力が増大するというクサビ特有の性質を持ち,さらに等間隔に配置されているためチャック位置に関係なく均等にケーシングの締め付けをおこなうことができる。またサブチャック機構を装着することで大深度掘削におけるケーシング引き抜き時の相伴クレーンの能力不足を補うことが可能である。
さらにスーパートップ工法では硬質地盤及び岩盤掘削を対象とする大口径,大深度の機械化推進を目的として最大φ3000mm級の掘削機を開発している。これにより,従来の危険な孔内での人力施工に依存していた深礎工に代わって孔内作業の無人化,施工精度の向上など安全かつ高性能高能率な作業がおこなえるようになった。

(2)掘削排土装置
一方で,掘削機本体が分割・据え置き式であることにより相伴クレーンによるケーシング内の補助掘削装置の吊り込みが容易である。
 a.ハンマーグラブ,チゼル
ケーシング内掘削の際,標準的には掘削排土装置として,
・落下衝撃により掘削排土をおこなうハンマーグラブ
・落下衝撃により硬質岩盤を破砕し,グラブ掘削を補助することを目的としたチゼルが用いられる。
 b.油圧グラブ
また,固結した粘性地盤,転石包含層等の掘削には,落下衝撃のエネルギーが対象地盤に吸収され掘削効率が著しく低下し,ケーシング内掘削が不能となる危険性が高くなる。このような特殊性地盤の掘削に際しては掘削底面でグラブの開閉をおこない,確実な排土がおこなえる油圧グラブにより掘削効率の向上が得られるのと,同装置は動力を油圧で確保するため,障害物撤去に限らず,近年居住環境に配慮し都市土木を中心として急増する施工の低振動・低騒音化対策として運用されるケースも増加している。

5 実施結果
本施工は海岸においてφ3000mmの大口径となる場所打杭であり,非常に硬質な転石を多く含み,軟弱で孔壁に周面摩擦を生じやすい砂粒をマトリクスとするシラス層を約20m程度掘削した後,凝灰岩を組成とする支持層に10m以上の掘削をおこなう工事であった。
従って,本施工では以下の点が課題となった。

(1)掘削工
① 潮位の変動に孔内水位が遅れることで起こる水頭差により,ケーシング下端の間隙を経路として孔内に海水が流入する際に,ケーシング外周で細砂やスライムが圧密(ジャーミング現象)して発生するケーシングスタック(ケーシングが動かなくなる現象)を回避する。特に,口径に比例してケーシング外周と孔壁との接触面積が大きくなり,更にケーシング外周に発生する摩擦抵抗もまた面積に比例することから今回の大口径の掘削に際しては更に大きな施工上の課題と考えられた。
② N値の低いシラス層に介在する転石を破砕してつかみあげる際,ハンマーグラブの落下衝撃をシラス層が緩衝剤となり吸収してしまうことから,つかみ上げが困難となり掘削効率が低下する。
③ 粘性の高い土質で,ハンマーグラブのシェルの貫入が困難で②同様にハンマーグラブの落下衝撃では剥離とつかみ上げが困難であり,著しく掘削効率が低下する。

①に対しては,上述のRT掘削機の有する強い回転トルクと,押し込み,引き抜き力により,ケーシングスタックに起因する掘削不能を解消し施工を完了することができた。
また②,③に対しては爪付きのハンマーグラブや油圧グラブを用いることで安定した掘削効率を確保することができた。
ケーシング切削で切り取った転石は,ハンマーグラブ開閉シェルに取り付けた爪による確実な保持力でのつかみ出しや,油圧グラブを用いることで,ハンマーグラブのような落下衝撃を与えずにつかみとることが可能となり,その結果,転石の排出が円滑に行われた。

更に油圧グラブは,ケーシング内にグリッパを張り出しグラブ自体の位置を固定して反力を確保した後に油圧による爪付きシェルの開閉を行い掘削対象物をつかみ取る機構になっているため,確実に粘性地盤に対してもシェルを貫入させてつかみ取ることができ,その結果粘性地盤においても確実な掘削が可能であった。

(2)鉄筋工
本施工の鉄筋かごは口径φ2600mm,重量約26.5tとなっているため,組立時に足場の構築が必要となったが,タイニングローラーを使用する事でローラー上で鉄筋かごを任意の位置に回転させることで継ぎ手溶接及び,組立作業が容易にでき,高所作業を少なくする事で転落・墜落災害を防止することができた。

また,主鉄筋のラップ継ぎ手がチドリになっているため,ケーシングに挿入仮置きした状態で,次のかご筋を吊り込み,継ぎ手作業をおこなうとすると,上部継ぎ手部は機械足場より約5m程度高い所に位置し足場の構築が必要となり,さらに継ぎ手部の井ケタ筋の取り付けが困難となるため,鉄筋かごを平場にて,杭長分を加工した。
その際,鉄筋かごをクレーンにて立て込む際に懸念されるかご筋の変形,崩壊を防ぐことと,鉄筋かご最終吊り込み時の吊り位置の強度等を確保するため形鋼H-100×100を取り付け,鉄筋かごの立て込み作業の安全性を確保した。

6 おわりに
上述のように施工上の課題を解消し,スーパートップ工法による場所打ち杭施工は,1本当たり約8日と安定した効率で施工を完了することができた。
わが国でも有数の活火山となる桜島の噴火で形成された地盤に海洋構造物の基礎を構築するという本工事は,一面特異な施工条件であると同時に,海中の大型橋梁基礎,火山性のN値の低い海底土砂地盤の掘削,非常に硬質な転石(火山弾)の介在,基礎杭の岩盤への根入れ等島国であるわが国の複雑な性格を有する基礎工事の縮図であるともいえる。
今回本工事において機械施工による大口径大深度掘削の場所打ち杭造成が実現したことは大きな成果であり,今後さらに深度を増した場所打ち杭の造成にも対応するべく,機械性能と施工方法の更なる発展と成熟を期待している。更に,本工事においては,景観に配慮しつつ,自然を可能な限り保全して施工を行う「エコロード」構想のもと,長大支間のバランスドアーチ形式を採用しており,本実績が基礎杭の今後の大型海洋橋梁のプロトタイプとして資することを期待する。

桜島の景観に配慮したバランスドアーチ橋
完成後は,中央径間が九州で一番のバランスドアーチ。また全国でも第2位の規模となる。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧