大分10号高崎山海岸線総合整備事業について
~埋立工事とコスト縮減~
~埋立工事とコスト縮減~
国土交通省 熊本工事事務所
熊本維持出張所長
熊本維持出張所長
(前)国土交通省 大分工事事務所
建設監督官
建設監督官
髙 倉 直
1 はじめに
一般国道10号は,北九州市門司区を起点として,大分県,宮崎県を経由して鹿児島市に至る東九州東岸地域の社会生活,経済,観光などを支える主要幹線道路である。大分監督官詰所では,別府市と大分市間の海岸線沿いの別大地区と大分大学付近の旦野原地区及び大分市から犬飼町境までの戸次犬飼地区の工事に取り組んでいるところである。
(1)別大拡幅の事業概要
別大拡幅は,速見郡日出町から大分市間の22.6kmの現道拡幅事業であり,日出地区の4車線化(完成),別大地区の6車線化(内別府市街地は完成)を進めている。現在,工事を行っている別大地区は,県都大分市と日本有数の温泉地帯で観光地でもある別府市を結ぶ唯一の幹線道路である。
この区間は交通量の増加とともに,交通災害や海岸線まで山が迫った急峻な地形での崩落などの災害により,交通の途絶や渋滞が発生しており,交通渋滞の緩和と交通の安全確保のため,マリーンパレス地区,田ノ浦・仏崎地区と白木・西大分地区において整備を進めている。(図ー1)
(2)マリーンパレス地区の工事概要
マリーンパレス地区は,大分10号の拡幅工事と大分市の高崎山海岸線総合整備事業との合併事業で整備を進めている。(写真ー1)
この合併事業では,国道10号の現道拡幅とともに,海岸線総合整備事業の一環として高崎山自然動物公園の管理施設,駐車場及びマリーンパレス(大分生態水族館)を,沖合約100mに設置する海岸堤防により埋め立てた造成地に移転し,広域的な観光レクレーションの場として整備するものである。(図ー2)
① 主要数量
a 埋め立て敷地面積 約A=65,000㎡
b 海岸堤防工 約 L=640m(ハイブリッド式直立消波型ケーソン)
c 埋め立て土量 約V=540,000㎥
d 排水函渠工約 約L=100m(プレキャストC-BOX3.0×3.0m)
ここに,高崎山海岸線埋め立て工事におけるコストの低減に取り組んだ工事概要及び排水函渠工における水中基礎地盤の振動締固めによる液状化防止策について報告する。
2 ハイブリッドケーソンについて
(1)護岸構造形式の選定
外周護岸の構造には,消波機能(スリット)付きハイブリッドケーソン※を用いた。(図ー3)同構造形式はコスト縮減を含め以下の点で優位である。
① 1函当りの長さ(延長)を長くすることが可能であるため,据付回数を少なくすることが可能であるとともに施工期間の短縮が図れる。
② 消波機能(スリット)付き構造は,埋立護岸前面に消波工(消波ブロック)を設置する場合に比べ,工事費が安価になるとともに施工期間の短縮に寄与する。
なぜなら,当該埋立護岸の法線付近の海底形状は急勾配となっており,消波工を設置する場合,その法先が沖合深くまで伸びるため,施工数量の増大,工事費の増大となるからである。
③ 施工期間の短縮は,環境への負担低減にも寄与すると考えられる。
④ 消波機能(スリット)付き構造は海岸線の景観上優位である。
※ハイブリッドケーソン:鋼,コンクリート合成版,SRC部材あるいは鋼部材を組み合わせて使用した着提式のケーソンの総称である。図ー4に概要図を示す。
(2)護岸構造形式の比較検討
護岸構造形式の選定経緯及び比較検討の結果を示す。
比較検討した護岸構造形式
・消波ブロック式ケーソン護岸
・直立消波ブロック式ケーソン護岸
・ハイブリッド式ケーソン護岸
・消波ブロック式ケーソン護岸
・直立消波ブロック式ケーソン護岸
・ハイブリッド式ケーソン護岸
① 経済性
全体工事費において直立消波ブロック式護岸と比較した場合,ハイブリッド式ケーソン護岸の方が,194,900千円(直接工事費)安価である結果となった。
ハイブリッド式ケーソン護岸は,概算工事費ベースにおいて他構造形式と比べ最も有利である。
また,隣接する道路護岸(場所打ちコンクリー卜護岸)と比較した場合においても,ハイブリッド式ケーソン護岸の方が,900千円/m(直接工事費)安価である結果となった。
② 施工性
a 消波機能を有している
ハイブリッド式ケーソン護岸は前面に消波のための遊水室がある。このため,消波ブロック式ケーソン護岸においてはケーソン据付後,消波ブロックを前面に設置しなければならないが,ハイブリッドケーソン護岸においては,ケーソン据付のみであり,施工性に優れている。また,スリットの消波機能は,有効に作用している。
b 1函当りの延長が長い
ハイブリッド式ケーソン護岸は,1函当りの延長を長く製作することが可能である(当工事では,26.10~28.90m/函)。
これは,ハイブリッド式ケーソン護岸は,コンクリートと鋼板の複合材料を用いることから,コンクリート式ケーソンよりも部材厚を薄くする等,軽量化を図ることができるからである。
従って,同一規格のクレーン船により据付を行った場合,ハイブリッド式ケーソンは,コンクリート式ケーソンよりも1函当りの延長を長くすることで,所定の延長に対し据付回数を少なくでき,施工性に優れている(急速施工が可能である)。
一方,直立消波ブロック式護岸は同一形状のブロックを層積する護岸形状であるため,据付回数が多くなることから,ハイブリッド式ケーソン護岸と比べ施工性に劣る。
実施工におけるケーソン据付は気象条件の良い日に,1函/日ペースで行われ,据付のみの実稼動日数としては延長約600mを23日間で施工した。
③ 景観性等
消波ブロック式ケーソン護岸は,護岸法線より前面に消波ブロックを設置する構造形式である。消波ブロックは観光スポットとしては,海岸線の景観上のイメージが良くない。
直立消波ブロック式護岸やハイブリッド式ケーソン護岸は,消波機能を有しているため,護岸法線前面に消波ブロックを設置する必要が無く,景観の点から有利である。
また本計画では海岸線に合わせて半径800mの曲線を設けたために観光地の景観として優れた配慮となった。
3 建設発生材の有効利用について
大分10号別大拡幅工事と高崎山海岸線総合整備事業(大分市)の合併事業における必要盛土量は約540,000㎥であった。その内訳は,270,000m3がH.W.L以下(水中部),残り270,000m3がH.W.L以上(陸上部)の盛土であった。(図ー5)
当工事は,盛土作業がメインであり事業費に占める割合も大きく,工事コストの低減を図る上で盛土材料調達の検討が重要な要素であった。
したがって,建設発生土の有効利用を主眼に工事の計画を初めとして工事期間中も各関係機関(国土交通省管内,大分県,大分市等)と協議し,海上運搬及び陸上運搬(写真一3,4)による流用土の受入れ時期や体制等の工程調整をしながら盛土材料の確保とコスト縮減に努めた。その結果,以下の土量配分となった。
(1)流用土(建設発生土)
① 国交省一別府港湾工事 214,000m3 ※3件工事(浚渫土)
② 国交省一維持出張所関連工事 18,000m3 ※7件工事(レキ質土)
③ 大分県一スポーツ公園工事 107,000m3 ※3件工事(レキ質土)
④ 大分県一港湾工 67,000m3 ※3件工事(浚渫改良土)
計 4事業所16件工事 406,000m3
(2)購入土・採取土
① 購入土・採取土 135,000m3
これにより,盛土材料の購入費で,購入レキ質土@3,200円,流用土@140円として算定すると
406,000m3×(3,200円ー140円)=1,242,360,000円
となり,約12億円(直接工事費)の工事コストを縮減できたことになる。
4 地盤改良(ロッドコンパクション)について
(1)カルバート工事の背景
当工事において施工したプレキャストカルバートは,図ー6に示すとおりH.W.Lの境に設置される計画にて床付面には常時水位があり,基礎地盤としては非常に不安定であった。
(2) 地盤改良の必要性
① 基礎地盤(改良前)の評価
本工事の埋立盛土は,H.W.L以下については,浚渫土にて施工され,その盛土に対しては,以下の評価がなされた。
a リクレーマー船にて投入しただけで特別な転圧作業は施していない。
b たとえブルドーザーによる敷均しの際に 地盤が締め固められているように見えても,それは,表面部だけに限定される。
c 水中にて飽和しているため,短期的な自重による沈下(締め固め効果)は望めない。
② カルバート施工後の安定の必要性
カルバートは,高崎山北側斜面の流域洪水を排水する重要構造物であり,供用開始後のカルバート部地表面は,観光客用の駐車場として使用されるため,不同沈下等の影響による補修のための開削は困難である。これより支持地盤の改良を行い,堅固なカルバートを構築する必要があった。
③ 支持地盤の液状化に対する判定
地震によって,液状化が生じる可能性がある地盤は以下のとおりである。(道路橋示方書参照)
a 地下水位が現地盤面から10m以内にあり,かつ,現地盤面から20m以内の深さに存在する飽和土層。
b 細粒分含有率Fcが35%以下の土層,またはFcが35%を超えても塑性指数Ipが15以下の土層。
c 平均粒径D50が10mm以下で,かつ10%粒径D10が1mm以下である土層。
これらを検討した結果,当工事の場合, 上記a,b,cに全て該当したので,液状化に対する抵抗率FLを算出した。その結果,FL=0.748<1.0となり,液状化し易いと判断された。
(3)ロッドコンパクションヘの着目
(2)の結果より,地盤改良が必要であると判断し,工法を検討した。工法の検討対象は,
① 載荷重(プレロード)工法
② 支持杭+底版コンクリート工法
③ 注入工法
④ 振動工法(ロッドコンパクション)
とした。
この中でも経済性が最も有利であり,短期の施工に効果があり,かつ室内実験と実地試験のデータを基に適切な施工方法を知ることができる④の振動工法(ロッドコンパクション)を採用した。
(4)室内実験
実施工に先立ち室内実験を行った。(写真ー5)その目的は以下のとおりである。
・土層厚に対する沈下率の把握
・適正な振動時間の把握
・適正なロッド貫入ピッチ(離隔)の把握
また,当該改良厚さ(平均)は4~5mであったので,実験用の土層厚は40cm(1/10スケールモデル)とした。また,実験の方法としては,
① 60cm×60cmの水槽に水を満たし,砂を投入した。(自由落下)
② 棒状バイブレーターにて5箇所加振する。加振時間は各1分間とした。5箇所で計5分加振した後,砂を均し,沈下量を計測する。
③ ②を沈下量が収束するまで繰り返す。
④ ②③の作業を各ピッチ(離隔)毎に行う。
(10cm,15cm,20cm)図ー7参照
(10cm,15cm,20cm)図ー7参照
⑤ 各ピッチの沈下収束後,貫入箇所と,その中間点の締まり具合のばらつきをコーンペネトロメーターにて確認する。
この実験にて以下の結果を得た。
・沈下量は,土層厚に対して約10%であった。
・振動開始から約2分で沈下はほぼ収束する。
・コーンペネトロメーターにて計測した結果,10cmピッチ,15cmピッチはほぼ均ーに締まった。
この結果を踏まえて,実地試験を行った。
(5)実地試験
室内実験を基に,実地試験施工を次の3パターンにて行った。
① 2.0mピッチ(1辺を4mとする正方形の4隅及び,中央1箇所の計5本)
② 1.5mピッチ
③ 1.0mピッチ
振動発生機械としては,45kwのバイブロハンマーを使用,また,振動体(ロッド)としては,H型鋼(300×300)を用いた。先ずはH鋼にリブ等を設置せずに試験を行った。
加振完了後ロッドの貫入芯から50cmの箇所にてN値測定を行ったが,上記3パターンとも締め固め効果が発揮できなかった。
そこで,創意工夫によりH鋼にリブを5段設置(写真ー6)して,再試験を行った。(写真ー7)
ここで,リブ付きロッドの影響範囲(締め固め効果が発揮できる影響直径)は約3.0m(写真ー8)に及ぶことが判かった。
よって,貫入芯同士の中心(最も振動の影響が低いと思われる箇所)でもFLが1.0を上回る値が1.5mピッチ,1.0mピッチにて表れる結果となった。(図ー8)
(6) 実施工
以上の結果を踏まえ,実施工を以下の要領にて行った。
① ピッチは1.5mのパターンとした。
② 1本に要する時間は最低3分間とした。
③ 引き抜きの際にクレーンの荷重負荷が急激低下した場合は,再貫入して負荷の上昇を確認する。
④ カルバート荷重の下方影響範囲分布を考慮し,その範囲に,均一にピッチ割りする。(当工事にては408本であった。)
⑤ 施工のタイムスケジュール及び,振動のサイクルタイムを記録する。
(7)結果
施工完了後に標準貫入試験を伴うチェックボーリングを行い(3箇所)FLを算出したが,全て目標値を満足した。
また工事費を比較すると
① 振動締固工(当工事)
408本@5,400円=2,220,000円
② ロッドコンパクション工 (標準歩掛:参考)
408本@10,000円=4,080,000円
となり,約1,800,000円の工事費節減となった。
5 おわりに
以上のようにコスト縮減に取り組んできた。大分10号高崎山海岸線埋立工事において約14億4千万円のコスト縮減を図ったことになる。今後とも,社会資本整備を進める上で,幅広い創意工夫とその実績の収集・蓄積をすることが,工事コストの着実かつ有益な低減を図る重要なポイントとなってくると考えている。