大分県での設計VEの取組みについて
大分県
渡 部 賢一郎
1 はじめに
公共事業のコスト構造改革を推進する中,社会資本の整備を着実に進めるためには,本来備えるべき基本性能・品質を確保しながら,公共事業の計画・設計から管理までのプロセスの最適化を図る必要があり,公共事業を推進する立場として幅広い技術力に加え,経営感覚やコスト意識を持ち,組織が一体となって課題に取り組むことが必要である。
こうした中,本県では,平成16年度から設計VE(バリュー・エンジニアリング)を導入し,コスト縮減を図るとともに,職員の技術力向上と意識改革を進めている。
2 設計VE導入の経緯
平成16年3月,厳しい財政状況の下にある本県は「大分県行財政改革プラン」を策定し,平成16年度から平成20年度までの間,大規模施設の廃止や事務事業の縮小などの改革に取り組むこととし,公共事業予算についても,投資的経費の削減によりピーク時の半分程度まで減少する状況となった。
県政発展の基盤である社会資本の整備水準を今後も堅持するためには,コスト縮減と機能の維持・向上を両立しながら,最適な調達を実現する必要があり,その手段として,すでに製造業などで価値向上,コスト縮減に有効な管理手法として活用されていたVEを計画・設計段階に導入することを決めた。
さらに,平成16年11月に策定した「大分県公共事業コスト構造改革プログラム」においても,設計VEの推進を具体的政策として位置付けた。
「VEの定義」
VEとは、最低のライフサイクル・コストで、必要な機能を確実に達成するために、製品やサービスの機能的研究に注ぐ組織的努力である。
3 設計VE取り組む人材の育成
設計VEに取り組み始めた頃,多くの職員が「VE=コスト縮減」,「設計の点検・見直し」と捉え,VEの理論や必要性が正しく理解されない状況にあった。
このため,平成16年度に管理・監督者127名を対象にVE研修を実施して,VEの取り組みに対する理解と協力体制づくりを目指した。次に,中堅技術職員を対象とした設計VE専門研修を実施し,VE実践者の養成に努め,平成16年度から平成18年度の3年間に132名が研修を受講した。
また,各職場の核となるリーダーを養成するため,研修修了者を対象としてVEリーダー認定資格の取得を奨励し,平成16年度から平成18年度にかけて54名(農林水産部局を含む。)がVEリーダーの認定資格を取得,すでに設計VEの実践メンバーとして成果を上げる者も出ている。
4 設計VEの実践と効果
平成17年4月,VEの適用基準や実施体制を定めた「大分県設計VEガイドライン」を策定し,コスト縮減を伴う代替案が見出せる可能性の高い道路事業4件を対象に設計VEを試行し,コスト縮減の成果を上げている。
一方,設計VEには,コスト縮減以外にも重要な成果がある。
設計VEに取り組む過程において,多くの情報を収集することで,地域や利用者のニーズを詳細に反映できるほか,小さな設計ミスなど潜在化した問題についても解決ができる。
さらに,様々な経験を持つ者が4日間程度,ワークショップ形式(7~9名のチーム活動)によりVE活動に専念する中で,マニュアルによる形式的な判断ではなく,本質的な問題を追求し,「みんなでより良いものをつくろう」という意識が高まり,各人の能力・意見を結集して価値の高い成果が生まれ,事業に対する説明責任も向上している。
ワークショップの模様
5 VE推進・定着の取り組み
本年6月に米国ジョージア州サバンナで開催された,米国VE協会主催の国際大会に本県の職員を派遣し,本県における設計VEの取り組みを紹介したほか,8月には,この国際大会の模様について,県内外の自治体職員及び建設コンサルタント職員を対象に「訪米VE研究調査報告会」を開催し,設計VEに関する情報発信を行った。
また,秋田県や宮崎県,福岡市など,設計VEに取り組む都道府県・政令市とも連携して,人材の育成など,設計VEの推進・定着に関する課題を共有しながら,課題解決に向けての協力体制づくりを進めている。
6 終わりに
良質な社会資本の整備を引き続き実施するにあたり,VEの基本原則に則り,コスト縮減の目的をしっかり認識し,行財政改革と相まって予算削減の取組みに終わらないよう留意しながら,適切な公共事業の執行に努めてまいりたい。
「VE5原則」
第1原則 - 使用者優先の原則
第2原則 - 機能本位の原則
第3原則 - 創造による変更の原則
第4原則 - チーム・デザインの原則
第5原則 - 価値向上の原則