一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
土砂とともに流下する流木による災害と対策

建設省土木研究所砂防部
 砂防研究室長
石 川 芳 治

1 はじめに
我国の国土の約70%は森林で覆われており,山地で土石流や斜面崩壊が発生すると,土砂とともに多量の樹木が流木となって流出する。これらの流木が土石流や洪水とともに下流へ流下すると,狭い橋脚間や河道部に詰まって土石流や洪水の氾濫を助長したり、橋梁を流失させ,周辺の家屋や人命,道路,鉄道に甚大な損害を与える。
このような流木に起因する災害は昔から起こっており,有名なものでは昭和13年の阪神大水害において,土石流とともに流下してきた流木が宇治川の下流の暗渠部に詰まって土石流の氾濫を引き起こし周辺の市街地に大きな被害を与えた。
最近では平成2年7月2日に熊本県一の宮町の古恵川で起こった泥流,流木災害が記憶に新しい。この災害では最大時間雨量67mmにも上る豪雨により,黒川支川の古恵川上流の至る所で山腹崩壊が発生し,多量の流木を伴った土石流が流下した。土石流中の巨礫は上流域に設置されていた砂防ダムにより捕捉されたが,泥流と流木の大部分は下流へ流下し,一の宮町市街地付近の国道橋に流木群が詰まって周辺に氾濫した。この災害により死者8名,家屋の全半壊151棟という大きな被害が発生した。
平成3年9月27日,北九州地方を中心とした台風19号による強風により,死者62人,負傷者2,862人,家屋の全壊1,058棟,半壊13,462棟の被害が発生した。これとともに観測史上1,2位という強風により樹木が折れたり根こそぎ倒れたりする,いわゆる風倒木が多量に発生し,北九州の4県(大分県,福岡県,佐賀県,熊本県)だけでも被害面積は約37,000ha,被害木は約4,200万本に及んだ(図ー1,写真ー1)1),2)

風倒木の発生した斜面では地盤の緩み等により平成3年より斜面崩壊等が一部で発生してきていた。平成5年6月12日から19日にかけて九州北部は豪雨に見舞われ,大分県中津江村鯛生では最大1時間雨量70mm,最大24時間雨量294mm(建設省筑後川工事事務所)にも達した。3)この豪雨により大分県の上津江村,中津江村,熊本県小国町において山腹斜面崩壊や土石流が多数発生し,死者・行方不明者5名および家屋,道路等に大きな被害をもたらした。また,この豪雨により,筑後川上流域にある松原ダムでは約18,000
m3,下築ダムでは約59,000m3の流木が滞留した。4)大分県では平成3年度,4年度の災害関連緊急砂防等事業により流木対策施設を設置してきており,これらの流木対策施設は多くの流木を捕捉してその効果を発揮した。
さらに今後は枯死した樹木の根の腐りに伴う地盤の強度低下および植生の減少による保水力の抵下が進むことが予想され,10~20年の長期にわたり,豪雨が発生すれば風倒木地において斜面崩壊,土石流の発生とそれに伴う流木の発生が予想される。このような土砂とともに流下する流木による土石流および洪水災害の危険性の増加に対処するため,現在,建設省および地方自治体により流木止め付砂防ダムの設置,河川への流木流入防止工の設置,急傾斜地崩壊防止工事,風倒木の除去,土石流発生監視システムの整備,流木監視システム,警戒避難体制の整備等が進められている。
なお筑後川流域では,昭和28年6月25日の出水により死傷者5,000人以上,全半壊家屋約13,000棟という大被害が発生した。このときの出水でも洪水とともに多量の流木が流下してきて橋梁に詰まり,せき上げ等により被害を増加させたことが記録に残っている。筑後川本川および玖珠川において全流失および一部流失の被害を受けた橋梁24橋のうち,流木の堆積や衝突が関連しているものは約20橋に及んでいると考えられる。
本報告では,これまで述べたような流木による災害を防止・軽減するうえで重要な,主として河川上流域において土砂とともに流下する流木の対策を実施する際に必要な基本的事項について述べる。

2 流木対策の基本
砂防計画は,あくまで土砂の生産・流下・堆積という土砂の移動現象を防止,調節することにより土砂災害を防止することにあることから,立木だけを調査してそのための対策をするのではなく,山地からの土砂生産のうち,有害と思われる土砂の生産を防止するいわゆる生産抑止工として対策を実施すれば,結果的にその抑止された土砂の上に立っている木は流出しないことになる。
しかし,発生源での対応には,おのずから限界があることから山地の立木の部分は(その割合は山地の状況,対策の効果度により変化する)流木として下流に流出する。従って流木対策を計画する際の基本的な考え方は以下のとおりである。
① 我国の山地渓流の流域は,森林で覆われている場合が多く,流域に斜面崩壊や土石流が発生するとき,土砂とともに流木が発生し流下するのは避けられない。そこで渓流において,土砂と一体となって流下する流木の対応が必要となる。
② 土砂とともに流木が流下する恐れのある渓流では,原則として流出土砂対策工事および流木対策工事を実施する。
③ 対策を計画的・効果的に行うため砂防計画と一体として流木対策を実施する。

3 流木対策のための調査5)
流木対策を効果的かつ合理的に行うために,図ー2および以下に示すように流域現況調査,発生原因調査,発生量,発生場所,流木の長さ,直径等の調査,流出流木調査を行い,流木による被害の推定を行う。

流木対策を検討するには,まず対象流域の流域現況調査を行い林相,地形,地質等の状況を把握する。次に,流域現況調査の結果を総合的に判断して,流木の発生原因(表ー1)を推定する。
さらに,流木発生源の現地調査,空中写真判読および過去の災害実態等をもとに流木の発生原因を考慮して流木の発生場所,発生量,長さ,直径等を推定する。この際,原則としては流木の発生が予想される箇所に存在する樹木,流木等の量,長さ,直径を直接的に調査する。しかしながらこの手法を用いることが困難な場合には図ー3,図ー4に示す,過去に土石流とともに発生した流木の実態調査結果を参考にする。
次に,谷の出口にまで流出してくる流木の量(実態調査によれば流出率は0.8~0.9)長さ,直径等を推定する。これらの結果から流木による被害の推定を行い,対象とする流木の量,長さ,直径等を決定し,流木対策計画を策定することが重要である。

4 流木対策計画5)
① 流木対策は,下流で支障を与える恐れのある流木は全て上流で抑止することが最も望ましく,対策施設は,流木の発生を防ぐ発生抑止工,流下する流木を捕捉・堆積させる捕捉工法を主体とすべきである。
流木対策はあくまでハードな対策で実施することを原則とするもので,保全対象の上流域において流木を処理することを基本とする。
施設による対策には,大別して流木の発生防止を目的とするもの(流木発生抑止)と,発生した流木を渓流や河道で捕捉し下流への流出の防止を目的とするもの(流木捕捉)とがあり,これらの施設は,流出土砂対策のための施設と密接な関連を持つ。施設によらない対策には警戒・避難体制の整備等がある。
② 流木対策施設は,土砂の発生はその流下形態に応じた流木の挙動を考慮したものでなければならない。
流木発生抑止のための施設には,主に崩壊地あるいは土石流が発生・流下・堆積する区間(以下,土石流区間という)に設ける斜面安定工,護岸工,床固工,砂防ダム工等と,主に渓流の土砂が掃流状態で運搬される区間(以下,掃流区間という)に設ける流路工,護岸工等がある。
流木捕捉のための施設には,主に土石流区間に設ける透過型砂防ダム,部分透過型砂防ダム工等と,主に掃流区間に設ける不透過型砂防ダム+流木止め工(副ダム等に設置),透過型砂防ダム工,遊砂地(砂溜工を含む)+流木止め工等がある。
なお,図ー5に一般的な流木対策施設の種類を示す。

③ 流木発生抑止工は,渓岸,渓床等を保護して土砂の生産を防止することにより流木の発生を防止するものであり,土砂および流木の発生源に計画する。
流木発生抑止工は,護岸工や床固工等により渓床,渓岸からの土砂の生産を防止することにより,土砂とともに流出する流木の発生を防止するものである。これらの施設は砂防計画で対象とする土砂の生産防止のための施設と整合するように計画することが重要である。
④ 流木捕捉工は,土砂とともに流下する流木を捕捉するものである。土石流区間と掃流区間とでは,施設の捕捉機能に違いがあることに注意して計画する。
(a)流木捕捉工の設置
流下する流木を捕捉する工法としては,透過型の工法とし,常時の中小洪水は通過させ,流木が流下するような流れに対し効果的な構造とする。
その際,土砂も一体として流下することを考慮し,土石流流下区域においては土石流対策とも併せた構造物とすることが望ましい。
ただし,流域面積が小さく,ダム1基で土石流対策が可能でかつ保全人家がダムサイト直下にあるような場合は不透過型ダムとして,副ダム等で流木対策を実施するべきであろう。
(b)流木捕捉工の効果量
土石流の発生・流下・堆積区間において土石流とともに流下する流木を捕捉するための流木捕捉工の効果量は,見かけの捕捉容量(Vd)×流木容積率(β≒0.1~0.3,通常は0.2)で流木実立積(Vr 1)を求める。
Vr 1=Vd×β
Vd=h×W×(2~3)×1/I×H
ここに;
h;流木止め部高さ(m)
W;流木止め上流の湛水幅あるいは堆砂地の平均幅(m)
I;流木止め上流の元河床勾配
H;流木止めの中央部の元河床からの高さ(m)
なお,流木止めの上流部での見かけの捕捉容量(Vd)内に堆積する土砂量(Vs)は,次式により算定する。
Vs=Vd×(1-β)
掃流区間に設ける流木捕捉工の場合,流木止めにより捕捉される流木の量は,堆積木相互に隙間はあるが施設の付近ではある程度の重なりがあることを考慮して,堆砂面を流木が(一層で)全て覆いつくすものとして算定する。一方,捕捉される流木の投影面積は,流木の平均長さ(lav)×流木の平均直径(dav)の合計により算定される。
これらにより,計画対象流木量を捕捉するために必要な流木止め上流の堆砂地または湛水池の面積(Ad)は次式により推定する。
Ad≧Σ(lav×dav)
このとき,堆砂地または湛水池に堆積する流木実立積(Vr 2)は,
Vr 2≒Ad×dav
とする。
⑤ 捕捉施設に堆積した流木は速やかに除去し,捕捉機能の維持を図ることが必要である。
せっかくの施設も,捕捉施設の機能がなくなっては効果的な機能の発現ができない。砂防ダムの機能の維持とともに流木対策機能の維持も充分に行う必要がある。

5 流木捕捉工の例
鋼製構造物による流木捕捉工としては写真ー2~4に示すものおよびこれらの他にも各種の形式が開発されている。
各型式のうちどのタイプを採用するかについては,流木対策計画の中における当該施設の目的,流木の流出形態,流出流木量等を総合的に勘案して決定する必要がある。

6 おわりに
流木が単に水と一緒に流れる場合は,過去の水理実験や災害事例からその挙動は比較的把握されているし研究発表事例もある。
しかしながら,土砂と一体となって流れる流木は,時には立ったまま流れる等,水と流木のみの場合に比べその流下挙動が複雑で学術的にみてもそのメカニズムは現状では十分に把握されていない。
今後,土砂とともに流下する流木による災害対策をさらに合理的に実施するために,土砂と一体となって流れる流木の挙動のメカニズムに関する調査・研究がより推進されることが必要である。

参考文献
1)石川芳治:平成3年台風19号による風倒木の発生の実態,河川,No.547,1992
2)宮本邦明他:1991年台風19号による風倒木に関する調査,砂防学会誌,45-3,1992
3)三重野友親他:九州地方の風倒木域に発生した土石流と流木,砂防と治水,26-4,1993
4)田井中靖久他:筑後川における風倒木対策について,第47回建設省技術研究会論文集,自由課題,河川部門,1993
5)流木対策指針(案),建設省河川局砂防部砂防課,1990

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧