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土木遺産の取り組み ~土木遺産を活用した観光周遊ルートの創設~
坂井文孝

キーワード:土木遺産、観光周遊ルート、モニターツアー

1.はじめに
長崎県では、江戸時代以降、全国に先駆けて導入された中国・西洋の土木技術により、日本初のものや、日本のインフラ技術をリードした優れた土木構造物が数多く造られています。
これらの構造物の、歴史的・技術的にも価値が高く、後世に残すべき財産として存在する「土木遺産」については、その価値が見出されておらず、十分に活用されているとは言えません。
この「土木遺産」の価値や魅力を調査・発掘し、観光資源の一つとして活用(旅行商品化)するため、県内の世界遺産や地域に点在する文化財等と連携し、歴史的なストーリー性のある新たな観光周遊ルートの創設を検討する「土木遺産利活用検討事業」に平成28 年度から取り組んでいます(図―1、2)。

2.長崎大学との連携
「土木遺産利活用検討事業」を進めるに当たっては、長崎大学と県土木部が所有する資源や機能、人材等を効果的に活用しながら、相互に連携・協力して検討を進めるため、長崎大学と県土木部の間で「土木遺産の利活用に関する覚書」を締結するとともに、長崎大学への業務委託により実施することとしました。
※委託内容:土木遺産の調査・発掘、観光周遊ルートの提案、モニターツアーの開催等

これにより以下のような効果が期待されます。
 ・長崎大学は、土木遺産に関する過去の研究成果を多く所有しており、様々なノウハウを所有
 ・幕末・明治期の古写真をデータベース化し、土木遺産以外にも多様な書物を所蔵しており(長崎大学附属図書館)、効率的な業務が執行可能
 ・学生等のマンパワーの活用が可能

また、事業の推進体制として長崎大学、旅行商品企画担当者、県観光部局、県土木部建設企画課で構成される「インフラツーリズム推進委員会」を設置し、調査方法等の検討や進捗を確認していくこととしました。

3.モニターツアーの開催
平成28 年度は、長崎、佐世保地区を対象として観光周遊ルートの創設の検討を行いました。
インフラツーリズム推進委員会では、大学による現地調査や学生によるルートの検討結果等を参考に協議を進め、観光周遊上の課題や可能性を整理するためのモニターツアーを、下記テーマにより設定したコースで実施しました。

(1)長崎地区
テーマ:『日本のインフラ技術をリードした港湾と水道に関する土木遺産をめぐる』

江戸末期から西洋技術のいち早い導入などにより造られた建造物のうち、外国船によって持ち込まれたコレラの流行を防止するために建設された日本初の水道用ダムである本河内高部ダムをはじめ、当時の建築物や石畳、側溝が残る南山手居留地などを見学(表- 1)。

(2)佐世保地区
テーマ:『佐世保市内に残る巨大土木遺産をめぐる』

1889 年の佐世保鎮守府開庁以来急速に発展した都市である佐世保に、現在も数多く残る巨大構造物めぐりをコンセプトとし、佐世保重工業株式会社内にある、建設当時に「地中海以東唯一の係船池」と紹介された立神係船池や、耐海水コンクリートの技術の出発点となった旧第1 船渠、さらに、ダム堰堤の大きさとしては明治一の大きさであったといわれる山の田水道施設などを見学(表- 2)。

4.アンケート調査
土木遺産を活用したツアーの成立の可否等を検討するため、モニターツアー参加者へアンケート調査を実施しました(表- 3)。良かった点としては、立ち入り不可の場所の見学ができた、実物を見ながら専門的な説明を聞くことができた等の意見がありました。一方で悪かった点としては、説明が聞こえない、スケジュールがタイトだった等の意見がありました。

5.今後の課題
モニターツアーやアンケート調査の検証結果に基づき、インフラツーリズム推進委員会において今後の課題を下記のとおり整理しました。

(1)各土木遺産の存在及び価値の認知度を高める
・TV、インターネット、旅行雑誌等による広報の強化とガイドブックの作成・販売
・詳細な調査により指定文化財や登録文化財にしていく取り組み
・ここにしかない、今しか見られない、という形での掘り起こしの検討

(2)各土木遺産での受け入れ態勢・安全確保
・各施設での順路の検討と、その区域の安全を確保のうえ危険な区域への立ち入り制限や稼働施設をどのように公開するかの検討
・一般旅行客の受け入れに慎重な施設について、施設側の理解を得られるような取り組み
・バリアフリーや休憩施設(ベンチ、トイレ)の整備、案内板等の設置

(3)案内ガイドの養成・ガイドマップなどの準備
・土木遺産の魅力を十分に感じてもらうため、よく練られたガイドが必要
・交代で務められる案内ガイドの養成と、どこが主体で養成を行うかの検討
・養成後にガイド組織を作り、旅行会社と連携できるようにするとともに、その方々が活躍できる場の確保
・案内ガイドに加え、ツアー参加者自身が手元で情報を得られるガイドマップやパンフレット、現地でのパネル等の理解を助けるツールの利用

(4)旅行商品化に向けての課題
・ツアー自体のプレミア感を出すための工夫〔ツアーに参加しないと入れない場所(特別入場)や体験できないこと、聞けない話(インターネット上にも掲載されていない話)がある〕
・大学の講義と現地視察とのセットで、より深く学べるツアーとし、旅行商品化にあたって、どのような層をターゲットとして何を売っていくかの検討
・各施設の一般見学の可否(一般の旅行者の受け入れの可否)を確認したうえでの検討が必要

(5)取り組み主体についての課題
旅行商品化を進める主体はどこか、素材の磨きあげ、旅行会社が使い易い資料の提供、案内ガイドの養成とマネジメント等の取り組みを誰が中心となって行うのかの検討

6.おわりに
平成28 年度の「土木遺産利活用検討事業」により整理した課題は、今後、インフラツーリズム推進委員会で検討しながら解決に努めるとともに、素材を磨きあげ、魅力ある観光周遊ルートの創設により旅行商品化の実現を目指していきます。
また、長崎、佐世保以外の地区についても、関係機関と連携して調査・発掘を進め、県全体での「土木遺産」を活用した地域振興・地域の活性化に取り組んでいきます。
そして、更に、この事業が土木施設の価値についてのPRや公共事業への理解、建設業のイメージアップにつながる取り組みとなるように努めていきたいと考えています。

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