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土木構造物設計ガイドラインについて

建設省九州地方建設局
企画部技術管理課
 課長補佐
別 府 五 男

土木構造物設計ガイドラインが定められ,建設省大臣官房技術調査室長より平成8年6月27日通知があったので,その内容について紹介するものである。

まえがき
平成6年12月に建設省が発表した「公共工事の建設費の縮減に関する行動計画」において,資材費の低減,生産性の向上等による建設費の縮減が提言されており,公共施設に係わる土木構造物においても,このような方向に沿った対応を行う必要がある。
これまでに,我が国で建設されてきた土木構造物は,資材費が労務費に比べて相対的に高価であった昭和40年当時における施工形態やコスト構造を前提としているため,結果として資材量ミニマムの設計思想であればコストミニマムを達成していた。しかしながら今日では,以下のような建設事業の情勢変化を踏まえた対応が必要となっている。
① 生産技術の向上等により資材価格が相対的に低下し,労務費の占める割合が高くなっている。
② 労働者の高齢化,若年労働力の不足が顕在化している。
③ 複雑な加工ができる熟練工,技能工の不足が顕在化している。
④ 設計の標準化,施工の自動化の促進が必要となっている。
このような状況を受けて,これまでの資材中心の考え方にもとづいた設計思想から,労務費の要因となる施工工数の多少等の要因を加味した新しい設計思想へと,構造物設計の考え方を見直す必要が生じている。すなわち,以下の観点で質の高い構造物を合理的に設計・施工し,維持管理しなければならなくなっている。
① 構造物の標準化と施工の省力化・自動化の推進
② 単純で維持管理の容易な構造採用の推進
③ 景観等を考慮するために特殊な構造を採用した場合の費用の適正な評価
本ガイドライン(案)では,資材量が増加したとしても,これまでの複雑な構造を単純化することなどにより,構造物の施工の省力化のみならず維持管理等を含めた構造物のライフサイクル全体の省力化,低コスト化を推進することを目的としている。
しかし,今まで資材中心の経済設計に慣れた設計者から見れば,上記の考え方は構造物を設計する上で大きな発想の転換が必要となる。そこで,新しい設計思想のもとにおいて,どのような方法が建設費の縮減につながるかを具体的に示す必要があると考え,本ガイドラインが作成されたものである。本ガイドライン(案)は,当面使用頻度の高い構造物に対して,計画・設計の基本を示しているが,それ以外の構造物についても,本ガイドラインの主旨を理解した上で準用できるよう配慮して作成されたものである。
なお,地域の生態,景観,歴史,文化を重視する価値観に対応して,構造物を設計する場合まで含んで本ガイドラインを適用するものではない。

1 ガイドラインの位置づけ
土木構造物設計ガイドライン(案)(以下「ガイドライン」という)は,土木構造物の生産性の向上に資する設計の考え方を示したものである。
本ガイドラインは,土木構造物の生産性向上の一層の促進を図ることを目的に,主として構造物の設計に対する基本理念を示したものである。
これまでの構造物の設計については,その形状等が少々複雑化したとしても,それに作用する外力に対して,資材の無駄をできるだけ少なくする「資材」中心の考え方が主であったが,今後は「生産性」を勘案した新しい設計思想への転換を図る必要がある。具体的には、構造物に要求される安全性,機能性および耐久性等の確保を前提に,構造物の各部はなるべく単純化し各部の寸法および資材等の企画の統一化・集約化すること(すなわち「標準化」)により,現場作業の省人化・省力化および自動化を推進するものである。
さらに,副次的効果として,構造を単純化することなどによる品質・耐久性の向上および維持管理における作業の容易性等が期待される。
また,形状の単純化等によりコンクリート等の資材量が増加するものの,一方で既製型枠の利用拡大等により,木材の使用量の減少等,トータルとしては資材量の面からも配慮している。
なお,本ガイドラインで示した構造は,将来に向けた構造物の省力化構造の甚本となるものであるが,今後さらに生産性の向上に向けた努力が必要である。
また,新技術・工法等その有効性が確認できる技術については,積極的にとり入れていく努力も必要である。

2 適用の範囲
ガイドラインは、標準的な土木構造物の設計に適用することを原則とする。
本ガイドラインは,標準的な構造物を対象として,設計および現場施工の省力化が促進できる構造の設計の考え方を示したものであるので,特別な設計条件に係る構造物を除き適用するものとする。
なお,本ガイドラインにおける「標準的な構造物」とは,設計頻度が高く,設計および施工条件が特殊でない一般的な構造物と考えてよい。当面は使用頻度の高い構造物に対して,計画・設計の基本を示しているが,それ以外の構造物についても,本ガイドラインの主旨を理解した上で準用することができる。
ただし,地域の生態,景観,歴史・文化を重視する価値観に対して構造物を設計する場合,制約条件が多く設計条件が特殊にならざるを得ないような構造物まで含んで本ガイドラインを適用するものではない。
しかし,常に「標準化」を念頭においた視点から判断することにより適用範囲を拡大することが可能となる。たとえば,構造物の基本的骨組みは「標準化」された設計思想も必要であり,設計の省力化・現場生産性の向上にもつながるものである。

3 設計の基本
3.1 計画における配慮
本ガイドラインを広く適用するにあたっては,計画段階において以下の条件について配慮することが望ましい。
① 構造物の線形条件を決定する場合には,出来るかぎり単純な線形とする。
② 構造物の基本的な設計条件を決定する場合は,標準化・集約化に努めること。
構造物を計画する段階においては,常に「標準化」ということを念頭において計画することが,構造物の生産性向上のうえで重要であるということを改めて認識する必要がある。例えば従来の計画においては,道路等の線形を優先させ,個々の現場条件等を忠実に設計条件として決定していた。その結果が構造物の基本的な形状・寸法として計画されている。
擁壁の高さ,暗きょ類の内空寸法あるいは橋梁上部工の支間長・斜角等,これら構造物の基本的な設計条件については,個々の現場条件等により決定されるものであるが,それ自体を標準化されたものに集約化することによって設計・施工の省力化・自動化の取り組みも容易となる。
したがって,設計・施工における省力化の推進,建設コストの縮減を図るためには,構造物に対する個々の省力化策の検討と同時に,計画段階における配慮が従前にも増して重要となる。

3.2 設計における配慮
構造物の設計にあたっては,施工の省人化・省力化による生産性の向上に配慮しなければならない。
構造物の設計にあたっての,省人化・省力化による生産性の向上に配慮した方策を示すと,以下の方策となる。
 ① 構造物形状の単純化
 ② 使用材料および主要部材の標準化・規格化
 ③ 構造物のプレキャスト化
この具体例については,以下の3.2.1以降で解説する。
さらに,以下で述べる方策は,現場作業の省人化・省力化の他に,施工の自動化,機械化を導入するための促進方策である。したがって,現場での生産性向上をめざし,構造物を設計・施工するうえでは,その技術の内容が明らかに有効であることが実証された新技術・新工法についても積極的に採用していくような配慮が必要となる。

3.2.1 構造物形状の単純化
従来の設計ではコンクリートや鉄筋等の主要資材を最小にするという資材中心の考え方が主であったために,壁やスラブなど,同一部材においても,発生断面力に応じて,変断面とすることが多く,コンクリートの打設・表面仕上げや鉄筋の加工・組立が煩雑となり,施工の合理化を阻害する要因となっていた。
そこで,構造物形状を決定するにあたっては例えば,フーチング上面のテーパーの廃止,壁・柱の形状の単純化および主桁形状の単純化等を図るといった設計上の配慮が必要となる。
 ①フーチング上面のテーパーの廃止
従来の設計では,コンクリート体積の縮減を図るため,最大断面力が発生するたて壁との接合部で必要とされる部材に対して,フーチング端部に向かって上面にテーパーを設けるという考え方が一般的であった。
そのため,フーチングの表面仕上げや鉄筋の加工および組立作業が煩雑になっていた。
そこで,本方策のフーチング上面のテーパーを廃止することにより,コンクリートの表面仕上げが容易となり,また,鉄筋については組立筋が1種類となる等,その作業の合理化が期待される。さらに,フーチング上面が水平となるために,フーチング上に設置するたて壁や柱の施工時に必要となる足場工の基礎の安定性が増し,足場作業の安全性の向上にもつながる。
② 壁および柱形状の単純化
壁および柱形状の単純化は,主に擁壁のたて壁や,橋台の躯体,橋脚の柱に適用する方策である。
従来の設計では,上記のフーチング上面のテーパーの考え方と同様に,コンクリート体積および鉄筋量の縮減を図るために断面力に見合った壁,柱形状としていた。
そのため,擁壁のたて壁については,その不等厚に起因する型枠の設置精度の確保に労力を要し,また,鉄筋の加工および組立て作業が煩雑になっていた。
また,橋台のたて壁については擁壁のたて壁同様に型枠の設置精度の問題点の他,たて壁背面の部材厚の変化によっては,狭い空間での支保工が必要になったり,裏込土の転圧に際しての支障をきたしている。
そこで,本方策では,たて壁・柱等の形状を単純化することにより,上記のこれまで施工の合理化を阻害していた要因の改善を図るものである。
③ 主桁形状の単純化
従来の設計では,その主要資材であるコンクリートあるいは鋼材を最小にするという資材中心の考え方が主であった。そのため,例えば,コンクリート橋(Tげた)では,主桁に発生する曲げモーメントおよびせん断力に対して,コンクリート体積を最小にするという考え方が,主桁形状を複雑化させる要因となっていた。
また,鋼橋ビルドアップ構造の主桁においても,上記のコンクリート橋と同様な考え方から橋軸方向の断面力の分布に応じて,フランジ幅あるいはその厚みを変化させる鋼重最小の考え方が主であったために,工場における製作の自動化を遅らせる一つの要因となっていた。
そこで,本方策の主桁形状を単純化することにより,コンクリート橋(Tげた)では,型枠製作が容易となるとともに,その転用の効率化が図られる。また,鉄筋の形状の単純化により鉄筋の加工・組立が容易となる。さらに,コンクリートの打設が容易となり,より一層の作業の合理化・品質向上につながる。
鋼橋においては,ブロック毎にフランジおよび腹板の寸法の統一および単純化により,板継ぎ溶接が不要となり,また,主桁を構成する材片数も少なくでき,溶接脚長も統一できる。したがって,溶接の自動化を含め桁製作の自動化の取り組みも容易となる。

3.2.2 使用資材および主要部材の標準化・規格化
公共土木事業で取り扱う構造物は多種多様であり,一品毎に設計施工を行わなければならないこと等の理由により,使用材料および主要部材の標準化・規格化が必ずしも十分ではなく,煩雑な作業が要求され,また,多品種の材料を使用していたため,入手が困難な場合も生じていた。
そこで,例えば,橋脚における柱寸法の標準化,形鋼使用種類の数の制約・規格化および配筋仕様の標準化を図るといった設計上の配慮を行うことにより,施工の合理化を図る。
① 橋脚における柱寸法の標準化
従来の設計では,橋脚における柱部材の小判・円形部寸法は,特に標準化されていないことから,その部材寸法はまちまちであった。
そのため,その都度それに見合った木製型枠を制作・設置する必要があり,資材を含めた施工の合理化の面から見ると非常に非効率であった。
そこで,本方策の橋脚における柱寸法の標準化(円形部)を図ることにより,既成円形型枠の利用が促進され,型枠の制作・設置の省力化および既成型枠の転用の効率化が期待される。
② 形鋼使用種類数の制約・規格化
形鋼使用種類数の制約・規格化は主にプレートガーダーの対傾構・横構等の床組部材に使用される形鋼に適用する方策である。
従来の設計では,鋼重の縮減を図るためにそれぞれの断面力に見合った形鋼が使用され,種類数が多く材料入手が困難になったり,資材の使用規格の多品種化をまねき,このことが資材のコスト高の一要因となっていた。
そこで,本方策では使用資材の集約化を図るために設計段階における資材の規格化・標準化を促進する。
③ 配筋仕様の標準化
従来の設計では,資材量によるコスト縮減を図るための鉄筋重量の減少を目指した鉄筋量や配筋仕様となっている面がある。
このことは、鉄筋の種類数,木数,継手箇所数,切断箇所数などの増加につながり,鉄筋の加工・組立作業の煩雑さをまねく結果となっている。
そこで本方策では,定尺鉄筋の使用,施工面を配慮した主鉄筋,配力筋の組み合わせ,鉄筋量の変化による部材断面変化箇所の減少を行う配筋仕様とし,施工の合理化を図る。
④ ユニット鉄筋の採用
ユニット鉄筋は,専門工場において,主鉄筋と配力鉄筋を自動溶接により一平面の格子状にユニット化するもので,主に擁壁やボックスカルバートの壁構造に採用するものである。
従来の場所打ち方式における鉄筋コンクリート構造の鉄筋作業については,鉄筋工が契約図書である設計図面の鉄筋加工図に基づいて,一本一本の鉄筋を切断および曲げ加工を行い,それを配筋図面に従って組み立てるといった施工形態が一般的であった。そのため,鉄筋の加工組立に多くの労力と熟練を要していた。
そこで,本方策の鉄筋のユニット化により,鉄筋の加工から組立作業に至るまでの一連の作業の省人化が図られるとともに,未熟練工での作業も可能となる。

3.2.3 構造物のプレキャスト化
構造物のプレキャスト化については,既に側こう類のU型・L型側こう,パイプカルバートおよびプレストレストコンクリート橋の主桁等に採用しているが,さらに現場工期の短縮,品質の確保等を図るため,擁壁やボックスカルバート等への採用の拡大を図る。
また,既に採用しているプレキャスト製品についても,それ自体を大型化したり,長尺化することなどにより,現場における据付け作業の効率化を図ることが可能となる。

さいごに
建設省では,建設コスト縮減のための一方策として,「設計標準化検討委員会」を平成7年3月設置し検討を行ってきたが,このたびその基本方針を「土木構造物設計ガイドライン」としてとりまとめたものである。
本ガイドラインの活用については,構造物設計における基本的考え方として,その徹底を図るとともに,設計の際の具体的なルールを取りまとめた「土木構造物設計マニュアル(案)」を作成しこれに基づいた試験施工を実施,結果をフィードバックしてマニュアルをとりまとめる考えである。

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