国道57号北側復旧ルート 二重峠トンネルの施工について
~早期復旧に向けたECI方式の活用~
~早期復旧に向けたECI方式の活用~
国土交通省 九州地方整備局
熊本河川国道事務所 建設監督官
熊本河川国道事務所 建設監督官
廣 渡 学
キーワード:災害復旧、早期供用、ECI方式、複数切羽、工期短縮
1.はじめに
阿蘇外輪山を東西に横断する国道57号は、大分県と熊本県を結ぶ主要な幹線道路であり、圏域住民の生活および経済活動を支えるとともに、災害発生時の緊急輸送においても重要な路線である。そのような中、2016年(平成28年)4月に発生した熊本地震では、震度7を観測する地震が2回発生し、熊本地方を中心に各地で被害が発生した。特にこの地震により発生した大規模な斜面崩壊により、西外輪山に位置する南阿蘇村立野地区の国道57号が寸断され、また国道325号阿蘇大橋が崩落し、阿蘇地域への交通が寸断された(図-1)。
これを受けて、国道57号の代替路確保および早期の災害復旧を目指し、北側復旧ルートが計画された。
本稿は、この北側復旧ルートの二重峠トンネルにおける工期短縮の取り組みや施工時の対応について紹介する。
2.二重峠トンネルの特徴
(1)地形・地質概要
阿蘇地域は、約27~約9万年前までの計4回のカルデラ噴火により形成された南北約25㎞、東西約18㎞、面積約320km2の巨大なカルデラである。カルデラの外側の地形は、東側では阿蘇火砕流によって造られた非常に緩い傾斜の台地が広がる。また、西側では古い火山の山腹で10°前後の傾斜からなり、その外側に火砕流の台地が接している。一方、カルデラの内側は、火砕流堆積物の強溶結部が形成する急崖部が見られる。
カルデラの西側に位置する二重峠トンネルは、先阿蘇火山岩類が分布し、大部分を構成する安山岩溶岩は、一軸圧縮強度0.4~25N/mm2程度の自破砕部と23~229N/mm2程度の塊状部に分類される。本トンネルに出現する安山岩溶岩は亀裂が多く、透水性が良いため、地下水は計画高よりも低いと想定されている。そのため、施工時の突発湧水の可能性は低いが、宙水からの湧水が懸念されていた。
図-2にトンネルの地質縦断図を示す。
(2)二重峠トンネルの計画・設計
国道57号北側復旧ルートは、斜面崩壊箇所を回避しつつ、阿蘇外輪山を通過するトンネル延長が最短となるよう設計され、道路延長が約13㎞、そのうち約30%を占める約3.7㎞が二重峠トンネルとなっている。
二重峠トンネルは、掘削断面積106m2の道路トンネルであり、全長3,659mの本坑と3,652mの避難坑で構成される長大トンネルである(図-3)。トンネル工事は、阿蘇側と大津側の東西2工区に分割して発注し、このうち、阿蘇工区は安藤ハザマ・丸昭JVにより本坑1,820m、避難坑1,819m、大津工区は清水・福田・松下JVにより本坑1,839m、避難坑1,833mとし、各坑口からNATMで施工を行った。
災害復旧事業として北側復旧ルートの早期完成を目指す中で、このトンネルの工事期間を如何に短くするかが課題であった。
一般的に、公共工事の発注・契約は、設計・施工分離発注方式が原則であるが、今回の熊本地震では、ルートが未確定な中、最適な仕様を設定できない状況下で、一日でも早い復旧が求められていたため、設計段階から施工者独自のノウハウを取り入れる発注・契約方式(技術提案・交渉方式(技術協力・施工(ECI)タイプ)を採用するものとした。
ECI方式とは、「アーリー・コントラクター・インボルブメント」の略で、技術提案に基づき選定された優先交渉権者(施工予定者)と技術協力業務の実務の契約を締結し、別契約で実施している設計に技術提案内容を反映させ、目標工期・工事額を算定した上で価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する方式である。
本工事で適用されたECI方式は、トンネル工事では全国で初めての事例であり、優先交渉権者から以下に示す技術提案が提示された。
①本坑複数切羽によるトンネル掘削
②高規格支保構造の採用
③高機能大型機械の採用
④班編成の変更による稼働時間の増加
なお、優先交渉権者の選定や工事契約にあたっては、学識経験者による「技術提案・交渉方式に係る専門部会」を立ち上げ、意見を聴くことで技術提案審査の公正性や透明性を確保した。
このECI方式の適用によって、設計と工事発注手続きを同時進行し、標準的な発注方式と比べて工事着手で半年以上、優先交渉権者の技術提案を設計段階から反映することで、施工期間は標準的な工期に比べて1年以上の短縮が可能となった(図-4)。
次章よりこの提案内容について報告する。
3.工期短縮の取組みについて
(1)本坑複数切羽によるトンネル掘削
先行して掘削・整備する避難坑から作業坑を分岐し、本坑ヘアプローチすることで、阿蘇工区で最大3切羽、大津工区で最大2切羽として同時に本坑掘削を行い、全体での本坑掘削期間の短縮を図った。図-5にイメージ図を示す。また、実際の工事での避難坑分岐部の状況を写真-1に示す。
本坑複数切羽の採用にあたっては、本坑切羽で使用するドリルジャンボや大型ダンプトラックなどの重機が避難坑を通行できる必要があった。このため、標準的な避難坑と比較して断面積を約3倍に拡大した(図-6)。これにより、避難坑で大型ダンプトラックの離合を可能とした。また、避難坑掘削の施工機械も離合可能となったことで、重機の入替時間が短縮され、避難坑の施工サイクル向上にも寄与している。
(2)高規格支保構造の採用
高規格鋼製支保工の採用や圧縮強度36N/mm2の高強度吹付けコンクリートを採用することで、吹付けコンクリートの厚さを薄くし、薄肉構造とした。また、耐力290kN以上の高耐力ロックボルトを採用することで、ロックボルトの打設本数を少なくした。これらにより、吹付けコンクリートとロックボルトの施工時間を短縮することで、施工サイクルの向上を図った。図-7に本坑支保パターン図を示す。
(3)高機能大型機械の採用
本坑掘削において高性能、大型の施工機械を採用し、サイクルタイムの向上を図った。ドリルジャンボは油圧ドリフタを170㎏級から220㎏級に高性能化し、穿孔能力を向上させた(写真-2)。ずり出しにおいては、山積5.0m3ホイールローダおよび25~30t積の大型ダンプトラックを使用し、ずり出し能力を向上させた(写真-3、写真-4)。吹付けにおいては、吐出能力30m3/h級の大容量コンクリート吹付け機を採用し、時間当たりの吹付け量を12m3から20m3に向上させた(写真-5)。また、エレクター搭載型とすることで、吹付け、鋼製支保工建込み作業に伴う機械の入替え時間をなくし、施工サイクルの効率化を図った。
(4)班編制変更による稼働時間の増加
本坑トンネル掘削の稼働時間を増加させるため、各切羽の作業員を増員した班編成が提案された。
阿蘇工区では、1方あたりの稼働時間を8時間とする3班3交替制を採用し施工に着手した。実施施工においては、大規模空洞の出現や切羽からの多量湧水発生などによる遅れが生じたため、切羽稼働日のさらなる増加を図るため、3班3交代制から4班3交代制に変更した。これにより、作業員一人あたりの休日を確保しつつ、日曜日も切羽を稼働させ、月あたり30日稼働とした。
また、大津工区においては3班2交替制を採用した。通常の2班2交替制に比べ、作業員の増員が必要となるが、個人の休日を確保した上で、休工日を設けることなく掘削を連続で行うことで工期短縮を図った。
4.施工上の課題と対応策
(1)多量湧水の発生
避難坑No.57(TD.420m)付近を掘削時、当初想定(0.5m3/min)を超える2.3m3/minの多量湧水が発生した。切羽は10~50㎝間隔の亀裂が発達する塊状安山岩で、湧水はとくに亀裂の細かい箇所に沿って発生している状況であった。このため、切羽前方の地下水位を低下させることを目的として、水抜きボーリングを実施した(写真-6)。また、避難坑および本坑全体の湧水量が、濁水処理設備および排水設備の処理能力を一時的に上回ったため、設備を増設して対応した。多量湧水の発生から5ヶ月後には、避難坑の坑内湧水は0.2m3/min程度まで減少した。
(2)大規模空洞
本坑No.53+10(TD.330m)付近を掘削時、事前調査段階で想定しなかった大規模な空洞が切羽上部に出現した(写真-7)。このため、掘削作業を一次中断し、空洞の調査および対策工の検討を行った。図-8に空洞の状況を示す。調査の結果、空洞は幅20m、高さ17m、延長25mに及ぶと推定された。また、空洞内部には壁面や天端から崩れ落ちたと思われる板状の岩塊が堆積しており、これが切羽面に出現していることが分かった。
トンネル上部に出現した空洞の対策工として、エアモルタルによる空洞充填を実施した。エアモルタルの充填管には、剛性や施工性を考慮してAGF 鋼管(φ 114.3㎜)を使用し、充填管を2 本、エア抜き管を1 本設置した。また、トンネル周辺地山の崩積部がトンネルの安定性に悪影響を及ぼすことが懸念されたため、自穿孔ロックボルトとシリカレジン注入による地山改良を実施した。さらに、トンネル掘削再開後は支保パターンをDⅠからD Ⅱに変更し、AGF および鏡ボルトによるトンネル周辺地山のゆるみ抑制対策を合わせて実施した。図- 9 に掘削再開後の本坑支保パターンを示す。
大規模空洞の出現により、本坑掘削は1ヶ月程度中断したものの、無事に大規模空洞区間を通過することができた。
本坑掘削では、大規模空洞のような構造的難所が一部見られたものの、薄肉化支保パターンにおいても顕著な沈下・変位はなく、問題なく掘削を進めることができた。
(3)県道直下における小土被り区間での施工
①概要
大津工区の坑口部ではトンネル直上に既設県道(以下、ミルクロード)が位置し、最小土かぶり9mで立体交差する(写真-8)。ミルクロードは、国道57号線の代替道路であり、交通量が非常に多い状況であった(2万台/日)。
事前設計時におけるトンネル坑口部のミルクロード直下の地質縦断図を図-10に示す。当該箇所の地質は、火山灰堆積物の黒ボク~赤ボクや先阿蘇火山岩類(カルデラ壁50~80万年前)の軟質な強風化安山岩(粘土状、礫混じり粘土状)が分布しており、脆弱であることが予想された。
最小土被り9m で不良地山が分布し、かつ施工時は唯一の代替道路でもあったことから、トンネル掘削による影響を最小限にするため、ミルクロードの地表面沈下の抑制が課題となった。
②地表面沈下抑制対策
ミルクロードの地表面沈下を抑制するための対策は、天端安定対策および先行変位抑制のため、注入式長尺鋼管先受工(180°範囲、L=12.5m、1シフト長5m)と、切羽安定対策および先行変位抑制のため、長尺鏡ボルト工(180°範囲、L=12.5m、1シフト長5m)を採用した(図-11、図-12)。また、トンネル支保構造と同じ部材のインバート吹付けとインバートストラットの早期閉合構造とした(写真-9)。トンネル掘削に伴うミルクロードへの影響を把握するために、地表面の沈下量(計144箇所)を測定した。なお、測定は24時間リアルタイムでの自動計測とした。
施工においては、測点の位置と切羽との距離が-1D(D=15m)程度から沈下が発生し、測点直下通過後2D程度で概ね収束した。路面の最大沈下量は約20㎜となり、注入式長尺鋼管先受工と長尺鏡ボルト工の掘削補助工によって、切羽の安定を確保しつつ、先行変位を抑制することができた(図-13)。また、早期閉合によって早い段階でトンネルの安定性を確保でき、結果として地表面沈下量を低減することができた。
5.おわりに
国道57号北側復旧ルートは、令和2年10月3日に無事開通を迎えることができた(写真-10)。
二重峠トンネルは災害復旧事業の一環として、早期完成が強く望まれていたが、本工事で適用されたECI方式や、作業坑の分岐による複数切羽といった工期短縮への取組みは、トンネル急速施工として非常に有効であった。
本工事では、大規模空洞の出現や切羽からの多量湧水の発生、県道直下での小土被り部での施工など、地形的・地質的難所が一部見られたもののさまざまな工期短縮の方策を計画し、施工を進めた結果、掘削期間を標準工程より大幅に短縮することができ、約3.7㎞のトンネルを僅か1年8か月のスピードで掘削した。
今回の開通を迎えるにあたり、地震発生から4年半という短期間で無事に供用することができたのは、貴重な土地を提供いただいた地権者の皆様をはじめ、事業に携わったコンサルタント業界や建設業界、地方自治体など多くの関係者の皆様のご支援、ご協力のたまものと深く感謝している。この場を借りて、改めて深く感謝を申し上げたい。
参考文献
1)廣渡学、米田新、秋保琢:3.7㎞の本坑に複数切羽を採用し避難坑とともに20か月で掘削、日本トンネル技術協会、トンネルと地下Vol.51,No.5,p.23-34,2020.
2)佐藤博信:阿蘇の外輪山を東西2か所で貫く、日本トンネル技術協会、トンネルと地下Vol.49,No.9,p.7-15,2018.
3)村田茂男:早期復旧に向けたECI方式の活用,土木施工,2019May,VOL.60,No.5.