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嘉瀬川ダム本体工事におけるICT施工への取組み
九州地方整備局 中島修
九州地方整備局 永松和彦
九州地方整備局 谷口正浩

嘉瀬川ダム建設工事におけるICT施工の取組み状況を報告する。重力式コンクリートダム工事(RCD工法)に導入可能なICTについて、システムと運用マニュアルを検討し、現場で試験的に導入して確認した効果について紹介する。
キーワード:情報化施工(ICT)、重力式コンクリートダム、RCD工法、監督・検査、施工管理

1.はじめに

近年、わたしたちの暮らしの中で様々なICT(Information & Communication Technology) の利用が進み、生活がより便利なものとなっている。わが国の建設工事においてもICT導入の取組みを本格化するべく、国土交通省は「国土交通分野イノベーション推進大綱」(平成19年5月)において社会資本整備・管理へのICT導入の方向性を示し、「情報化施工推進戦略」(平成20年7月)においてICT施工の具体的な普及方策を発表した。
嘉瀬川ダムにおいても、品質の向上、工期短縮等に留意して設計・施工を行ってきたところであるが、今後もこれらについてより一層の努力を継続することが求められている。
ICT分野のめまぐるしい技術の発展により、様々な施工現場においてICT導入による施工の合理化が図られている。しかし、ICT導入による工事受注者・発注者のメリット(品質の向上、工期の短縮、施工管理の省力化、監督・検査の省力化、維持管理への活用等)についての明確な評価検討が行われていないのが実情である。そこで、昨年度より嘉瀬川ダム建設工事での受発注者へのICT導入によるメリットを評価検討するために、有識者、専門家の指導・助言を得て、工事受注者の協力のもと、ICT導入の検討を継続的に実施している。
本稿は、主にICT導入によって発注者として得られるメリットを明確にすることを目的として、嘉瀬川ダムの本体工において導入可能なICTについて検討し、それらを現場で試験的に導入して確認できた効果等、嘉瀬川ダムでのICT施工の本格運用に向けての検討の概要について報告するものである。

2.工事の概要

嘉瀬川は、背振山系に源を発し佐賀平野を南流して有明海に注ぐ、流域面積約368km2、幹線流路延長約57kmの1級河川であり、その流域は県都佐賀市を含む3市にまたがり、古くから流域の社会、文化の基盤となっている。
嘉瀬川ダムは嘉瀬川の上流部、佐賀県佐賀市富士町に建設中の多目的ダムで、総貯水容量7,100万m3、堤高約97m、堤頂長約460mの重力式コンクリートダムであり、洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい用水、都市用水の供給、並びに発電を目的としている。昭和63年に建設事業に着手し、平成6年に付替道路工事に着手、平成17年9月に基礎掘削を開始、平成19年10月から本体打設を行っており、平成23年度のダム完成を予定しているところである。嘉瀬川ダムの諸元を、表-1に示す。

表-1 嘉瀬川ダムの諸元

3.ICT導入の検討
(1) 検討の方法
嘉瀬川ダム工事において効果的なICT施工を実現するため、既往のダム工事におけるICT導入事例と嘉瀬川ダム工事における品質向上や省力化のニーズに基づき、検討の対象とするICTの項目案を選定した。それらのICT導入項目案について、システム機器やソフトの内容を検討し、現場で運用するにあたってのマニュアル案を策定した。それらのシステムや運用マニュアル案について現場で試験導入を実施し、品質の向上や施工管理の省力化等の程度についての効果を確認した。嘉瀬川ダムにおけるICT導入検討のフローを、図-1に示す。


図-1 ICT導入検討のフロー

(2) ICT導入項目案
既往のダム工事におけるICT導入事例に基づき、重力式コンクリートダム工事において導入可能なICTとして以下の15項目を選定した。
① 岩盤スケッチ支援システム
② 三次元出来形管理システム(掘削工)
③ ダンプトラック運行管理システム
④ 掘削管理システム
⑤ 環境監視システム
⑥ 締固め回数管理システム
⑦ 関係者間工程共有システム
⑧ 積算温度管理システム
⑨ 三次元出来形管理システム(堤体工)
⑩ 配筋検査支援システム
⑪ 埋設計器無線システム
⑫ ボーリング検尺システム
⑬ グラウチング監視システム
⑭ 法面動態観測システム
⑮ ダム維持管理支援システム
さらにこれらの中から、嘉瀬川ダム工事におけるICT導入のニーズおよび委員会での審議に基づき、本格的に検討する対象として8つのICT導入項目案を選定し本格運用の試行行うものとした。ICT導入項目案の概要を、表-2に示す。

表-2 嘉瀬川ダム工事における本格試行ICT導入項目案の名称と概要

(3) システムおよび運用マニュアル案検討
8つのICT導入項目案について、それぞれ具体的なシステム機器やソフトの内容を検討し、現場でそれらを実際に使用して施工管理や監督・検査を実施するための運用マニュアル案を策定した。例として「積算温度管理システム」についてのシステム構成図を、図-2に示す。このシステムによって積算温度管理を行う場合の運用フローを、図-3に示す。


図-2 積算温度管理システムのシステム構成図


図-3 積算温度管理システムの運用フロー

(4) 本格運用の試行
8つのICT導入項目案について、システム機器やソフトを準備し、現場で本格運用の試行を行った。運用の試行では運用マニュアル案に沿って模擬的な施工管理や監督・検査を行い、品質や省力化の程度等の効果を確認した。例として「積算温度管理システム」における試験導入の状況を、写真-1、写真-2に示す。本システムの出力図(積算温度の履歴)を、図-4に示す。

写真-1 試験導入状況(温度センサと無線ロガ設置)

写真-2 試験導入状況(無線受信器と計測管理PC)


図-4 積算温度管理システムの出力図(積算温度の履歴図)

(5) 導入効果
8つのICT導入項目案について、本格運用の試行によって確認できる効果を整理した。各ICT導入項目案の本格運用による効果を、表-3に示す。さらにこれらの導入項目について嘉瀬川ダムにおいて効果が顕著(適用性の高い)な5つのICT導入項目案について実施要領(案)を作成した。表-4にその効果を示す。全般的に、品質確保・向上、監督・検査や施工管理の省力化に寄与するものが多い結果となっている。

表-3 本格運用の試行の結果

表-4 本格運用各ICT導入項目案の効果

4.おわりに

嘉瀬川ダムにおいて適用性が高いと判断されるICTについてさらに各種課題(技術的課題、運用上の課題、コストの課題)を検討し、課題が容易に解決できるものについてできるだけ早期に本格運用を開始することを考えている。本検討に当たり助言、協力いただいた関係者の方々に謝意を表します。

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