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橋梁点検の省力化・作業性向上の取り組み
~橋梁点検車用の昇降装置開発~

国土交通省 九州地方整備局 
九州技術事務所 施工調査係長
深 町 真 吾

キーワード:橋梁点検、橋梁点検車、昇降装置

1.はじめに
九州地方整備局の管理する国道は、総延長が約2,331㎞あり、生活や経済・観光を支える社会基盤として、また、災害時には人や資機材を運ぶ緊急輸送道路、防災支援のためのネットワーク道路として重要な役割を担っている。
道路構造物の橋梁は約4,500橋あり福岡県、佐賀県の橋梁数が他県より比較的多く5割近くを占めている。
橋梁は全体の3割以上が高度経済成長期に建設されたものとなっており、今後、高齢化が急速に進んでいく状況となっている。
現在、腐食や亀裂、ひびわれなどの不具合も報告されており、コンクリート片剥落などによる第三者被害も想定されることから、道路法施行規則第4条に基づく橋梁定期点検要領により実施される5年に1回の道路橋定期点検は維持管理を行うなかで非常に重要なものとなっている。
点検では確実な状態把握、健全性の診断、点検結果に基づく適切な応急措置の実施などが求められる。点検作業は近接目視により行うことが基本とされており、河川や水路を横断する橋梁では、橋梁点検車を使用して上部構造の桁や床版下面の点検を行っている(写真-1)。
九州技術事務所では、点検時の作業性向上の為の支援として、事務所が保有する橋梁点検車について、バケットに搭乗した点検者がこれまで以上に部材近くにアプローチが行え、外観性状などを十分に把握できるように車両改良を行った。
本稿では、改良にあたり新規開発された橋梁点検車のバケットに装着する昇降装置について紹介する。

2.橋梁点検での課題
橋梁点検車の基本動作(図-1)は、橋梁上部から2本の伸縮ブームと固定長の1本のブームがコの字を描き橋梁下部に回り込み、先端のアームが起伏して点検者の搭乗するバケットが橋梁下に移動するものとなっている。しかし、桁間が狭い橋梁や横構等が配置されていて狭隘部がある鋼橋の場合、バケットの接触の危険があるため、点検者が近接目視可能な位置まで到達できないといった課題があった。
仮設の吊り足場などを準備して対応する方法はあるが、夜間全面通行止を行う橋梁点検作業では労力や作業時間、コスト面などで負担が大きい。

3.改良方針
橋梁点検車は、労働安全衛生法の高所作業車構造規格の適用を受けることから構造、強度等に関する基準がある。このため、本体装置のアームやバケット類を小型化するなどの改造は、装置の安全性・信頼性、費用等の面から難しい状況であった。そこで、バケット(写真-2)の積載可能荷重と床スペースに着目し、バケット内部に軽量小型の昇降機能を持つ作業床を追加装備する方針とした。
これにより、車両本体の装置類を改造することなく、バケット内にいる点検者の上下方向の移動範囲を広げることができる。なお、開発装置の仕様については構造規格を準拠するものとした。

4.装置詳細
(1)装置重量
装置重量はバケットの搭乗人数を考慮し約90㎏としている。橋梁点検車のバケットの積載可能荷重は300㎏であることから、装置をバケットに取り付けた状態で、点検者とバケット操作や安全確認を行う補助者の2名がバケットに搭乗できるものとなっている。
過去(平成28年度)に課題抽出のために既製品を改造して製作した試験機(写真-3)は鋼製で重量が150㎏ありバケットに1名しか搭乗ができなかった。そこで、今回の開発では構成部品の大部分をアルミ合金製として大幅な軽量化を行っている。
また、昇降を行う可動部の部品については、強度、精度を確保する必要があることから、アルミ鋳造品を使用している。

(2)装置寸法
装置の作業床の寸法は、長さ550㎜,幅650㎜となっている。試験機は長さが350㎜であったが、点検者が体を反転させたりする動作が困難といった課題があった為、バケット寸法に余裕がある長さ方向へ装置の作業床を拡張して改善を図った。また、手すりの高さについては1mを確保しており構造規格の基準を満足するものとしている。
装置の揚程は975㎜となっており点検者はバケットの床面より約1.5m上昇することが可能となっている(図-2)。

(3)装置機構
装置は昇降機能を備えている。試験機の昇降動力はバッテリー式の電動駆動油圧ユニットであったが、充電や作動油の管理など運用やメンテナンス面で課題があった。そこで今回は重量1.8㎏程度の軽量な充電式電動ドライバードリルを昇降用開閉機(写真-4)に差し込むことで容易に昇降操作を行えるものとしている。手動ハンドルも具備しており確実に昇降が行える機構となっている。
電動ドライバードリルを使用した場合、昇降に要する時間は約70secとなる。

(4)装置取付
装置はバケットを橋梁点検車に格納した状態で、車両の後部から2tクレーンを使用して取付が行える(写真-5)。装置とバケットの固定方法については、構造規格で作業床は強固に固定されていることが必要となっていることからボルト(M16)4本を用いてバケット床へ固定する方式としている。
取付時間については作業人員3名で15分程度であるが、取付作業にあたっては小型移動式クレーン及び玉掛けの技能講習者が必要となる。

5.現地検証試験
作業性、操作性、安全性等について、実際の橋梁で検証を行った。検証場所は国道208号新道の開矩手橋(ひらきかねんてばし)(写真-6)で、点検箇所の桁高は2.2mあり桁間にバケットが十分に入りこめない場所であった。

検証は、点検会社の点検者に開発した昇降装置(写真-7)を使用して目視、打音による点検を行ってもらい、点検後にヒアリング行う方法で実施した。

(1)ヒアリング結果
①作業性
作業性について、点検者からはフルハーネス型の墜落防止器具を着用しても、作業床が広く点検を行うための身動きや姿勢が取り易い、桁間上部に位置する床版下面も近接目視、打音検査(写真-8)が十分に可能であるといった回答が得られた。

②操作性
操作性について、電動ドライバードリルの扱いは容易で装置機構も電装品がなく不具合が起きた場合の対応が取りやすいとの意見があった。

③安全性
安全性について、作業床の昇降速度は緩やかであるため危険を感じることなく、バケットを平行移動(写真-9)させる場合にも、装置の自重によりバケットが揺れるようなことはなく良好であった。

④課題点について
検証において確認された課題として、昇降装置を上昇させた状態でバケットの水平移動を行うことができれば昇降に要する時間が短縮でき目線も一定に保たれることから作業性は更に良くなるが、昇降装置の桁等への接触や、点検者の挟み込みの危険がある。安全を考えるとバケットの移動時は昇降装置を収縮する必要がある。
また、昇降装置の取付にはクレーン付車両の手配や玉掛け等の資格保有者を作業人員として準備する必要があるなどの課題が挙げられた。点検会社単独で対応ができない場合は、資機材を保有する維持工事会社等との連携が大切になる。
昇降装置は新規に開発した製品であることから、今後、橋梁点検において試行を重ねる中で、新たな課題が見られる場合には都度検証を行い、装置の改良など改善できるものについては対応していきたいと考えている。

6.おわりに
現在、道路橋の定期点検は点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者がこれを行うこととなっており、部材の一部等では、近接目視以外の方法についても、点検者の判断により近接目視と同等の健全性の診断を行える場合には選定が可能となっている。
今回は、点検者の目視や打音検査の作業性向上を目的として橋梁点検車の改良を行ったが、点検者が橋梁診断に必要となる情報を得ることができる、安価で使いやすい技術が今後さらに開発されて、老朽化が進行する道路橋の定期点検がより効率的、効果的に行われることを期待する。

謝辞
最後に、開発を行うにあたり検証試験の現場をご提供頂きました有明海沿岸国道事務所、夜間検証に参加下さった橋梁点検、道路維持会社の方々、橋梁点検昇降装置の開発業務を完遂された一般社団法人日本建設機械施工協会の関係者各位に謝意を表します。

参考文献
1)国土交通省:道路橋定期点検要領、2019.2

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