加勢川における歴史と文化に調和した住民参加の川づくり計画
国土交通省 熊本工事事務所
調査第一課 課長
調査第一課 課長
宮 本 健 也
国土交通省 熊本工事事務所
調査第一課
調査第一課
大 山 直 紀
1 はじめに
加勢川は,緑川水系の北西部に位置し,下江津湖下流で木山川を合わせ緑川に合流する一級河川である。水量が豊かな河川であり,かんがい用水として大きな役割を果たす反面,梅雨等の季節にはしばしば氾濫の危険性をはらむ河川である。
古くは加藤清正が,この加勢川の治水及びかんがいの基盤づくりを行っており,現在もその遺構が残されている。また,良好な自然環境を有する河川であり,河川改修にあたっては,自然環境の保全や周辺環境と調和を図りつつ,地域整備と一体となった整備を行い,良好な水辺空間の形成を図る必要がある。このため,平成10年6月に「ふるさとの川整備事業」に認定されている。
「ふるさとの川整備事業」の中心地区となる川尻地区は,古くから河川港として栄え,昔ながらの町並みや石積み護岸等が残り,歴史的・文化的に重要な地区となっており,「川と風土・文化・人がとけあうゾーン」をテーマに,官民一体となって,地域住民に親しまれ,かつ歴史的財産を活かした「町づくり,町おこし」に繋がる川づくりを目指している。
この歴史的・文化的に重要な地区の改修方針について,平成10年から開催されている「川尻川づくり懇談会」,「川尻地区改修検討会」による地元住民の意見,学識経験者及び石工からの技術的な意見,並びに関係機関の文化財保護の観点からの意見等を踏まえ,検討を行ってきたところである。
ここでは,当該地区の治水,利用,環境,歴史,文化等様々な観点から官民一体となって行っている川づくりのこれまでの検討プロセスについて報告する。
2 検討の目的
川尻地区は治水安全性が低く,洪水流下の水衝部となっている。また,経年的な老朽化も重なって船着場,御船手渡しなどの施設については,崩落,変形,基礎洗掘,堤体漏水等が進行しており,補修等の対策が急務である。また,一方で「先人が築き大切にしてきた歴史的・文化的な財産を出来る限り残す」ことが川尻地区地域住民の意向であり,船着場,御船手渡しなどの歴史的に重要な施設については文化財として登録される予定である。これらの理由から,各種の治水対策を川尻地区らしい景観や歴史性を保全しながら進める改修方法の策定を主な目的として検討を行っている。
3 検討課題の整理
(1)検討箇所の問題点
川尻地区の現況は,写真ー1・2・3のとおりである。下記のような問題点が挙げられ,築堤・補修等の対策が急務となっている。また,船着場,御船手渡し等の施設については,歴史的・文化的に重要な施設であるため保全が必要である。
(2)検討課題
(1)で列挙した問題点を解消するとともに,川尻地区の景観や歴史性の保全を基本方針として次の課題について検討を行った。
① 治水上の安全性の確保
加勢川全体の改修に伴う基本的な改修に加え,堤体及び護岸等の老朽化対策を行い,治水上の安全性を確保する必要がある。改修内容及び対応策は次のとおりである。(図ー2)
② 歴史性の保全
川尻地区は鎌倉時代から河川港として栄え,米・木材の集積地,また同時に商工業の町として繁栄した地区であり,その名残が随所に見られ,歴史や伝統を感じさせる個性豊かな地区である。また,船着場,御船手渡し等の歴史的・文化的に重要な施設が存在している。そのため川尻地区らしい景観や歴史性を可能な限り保全する必要がある。
③ 利用しやすさの保全
現在も地域では川下りを始めとした催しが開催されており,また日常生活における散策・交流に利用できる場として流域住民にとって重要な位置付けにある。そのため,利用する人々にとって,より利用しやすいものを考える必要がある。(写真ー4,写真ー5)
4 検討プロセス
(1)経緯の概要
平成10年に加勢川がふるさとの川整備事業に認定され,川尻地区の基本となる3課題(治水・歴史・利用)を核とした改修方法の検討に官民一体となって取り組んできた。
その検討の中心は,平成10年に作られた各町内の自治会長を中心とした「川尻川づくり懇談会」であった。しかし,工事がまったなしの状況であるにもかかわらず結論がでなかったこと,地元住民で責任をもって具体的な改修方法を議論・決定できる組織図づくりをする必要があること等の理由から,平成13年より各自治会から町づくりの中心となる代表者を選出してもらい,町内の合意形成を目的とした市民団体である南部地区市民の会を事務局として「川尻地区改修検討会」を設置し,現在検討を進めている。(図ー3)
(2)川尻地区改修検討会
現在検討の中心となっている川尻地区改修検討会の検討の仕組みは図ー3のとおりである。これまでの懇談会の検討内容,現況把握のための調査(文献調査,生物調査,利用調査等)及び学識経験者からの施工指導,石工らを交えた現地見学会による検討及び意見聴集の結果を踏まえ,具体的な改修案について検討を行っている。
川尻地区改修検討会での議論の内容は図ー4の通りである。
また,検討会の状況を写真ー6に,地域住民への検討会の内容を周知する工夫例を写真ー7に示す。
5 検討結果
川尻地区改修検討会における様々な観点からの検討により,現時点では以下のような結果となっている。
① 標準部
「腹付けによる堤防補強を行い汲水を復元」
② 船着場
「現在の位置で階段部の積み直し」
③ 御船手渡し
「現在位置より前に出して積み直し」
6 今後の課題
現在,詳細な部分については検討中であるが,改修方法についての大まかな方針が決定したことにより,官民一体となって行う川尻地区の川づくりの第一歩を踏み出した。
改修方法決定後の歴史的施設の復元及び施工方法に関しても,これまでの様々な意見を十分踏まえ,より多くの方々の助言を受けながら検討していかなければならない。また,この川づくりを足がかりとして歴史的財産を活かした「町づくり,町おこし」に繋がるための方策を官民一体となって考えていく必要がある。