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六角川支川武雄川高橋排水機場の計画と施工

建設省 武雄工事事務所
 機械課長
牧 野 千代春

建設省 武雄工事事務所
 機械課専門職
脇 山 好 英

1 はじめに
六角川は,その源を佐賀県杵島郡山内町神六甲に発し,武雄市において武雄川を合わせ,白石平野を蛇行しながら,河口部で牛津川を合わせて有明海に注ぐ幹川流路47kmの一級河川である。
また,河口部では,干満の差が5~6mにも達し,感潮区間は約29kmにまで及ぶわが国有数の低平地緩流蛇行河川である。このために流域は,洪水による浸水常襲地帯となっており,この上流右岸,支川武雄川に合流する高橋川(流域面積12.4km2)および甘久川(流域面積3.2km2)の流域においても,有明海の潮位や本川などの背水の影響を受ける低平地であるとともに,JR佐世保線,国道34号線,長崎自動車道等の要所で,かつ家屋の密集地区でもある。この様な流域に位置する武雄市高橋,甘久の両地区は,出水の都度に慢性的な浸水被害を蒙ってきた。特に昭和55年8月洪水では,有明海の潮位が重なったこともあり,流域一常に甚大な被害をもたらした。また,平成に入ってからの2年7月,5年8月,7年7月の記録的な浸水被害は,記憶に新しいところである。

このため,高橋川,甘久川の両河川流域の水位を低下させて浸水被害の軽減を図るため,平成元年度より,武雄川0k/800付近(高橋川合流地点)に総排水量50m3/sの排水機場の建設に着手したものであり,高橋排水機場の完成は,多くの関係者が待ち望んでいたものである。
高橋排水機場は,平成7年5月にポンプ1基が完成,平成8年7月に2基目のポンプ設置が完了したのに引き続き,平成9年3月の3基目のポンプ設置完了により工事竣工を迎えた。この間,平成7年度ポンプ1基,8年度ポンプ2基での暫定運用を行ってきたが,9年度から総排水量能力50m3/sの排水機場として本格運用となり,度重なる出水にその効力を発揮しているところである。
本報告は,高橋排水機場のポンプ設備を中心にその設計,施工の概要を紹介するものである。

2 計画概要
高橋排水機場は,対象となる流域の高橋川流域と甘久川流域は隣接していることから,高橋川と甘久川を導水路で結び両地区を同じ排水機場で排水できるものとし,計画対象洪水(昭55年8月)に対応するため総排水量50m3/s(16.7m3/s×3台)で計画されている。これは,排水機場としては,建設省筑後川工事事務所蒲田津排水機場(60m3/s)に次ぐ九州第2の施設規模である。
本機場は,計画排水量から大口径(2600㎜)の低揚程ボンプとなることからポンプ形式を図ー2に示す立軸軸流とし,機場全体の高さを押さえるため吸込側,吐出側形状ともにカサ形としたコンクリートケーシングタイプのポンプを採用している。

3 ポンプ設備の設計,施工
ポンプ設備の設計,施工にあたっては,出水時のポンプ運転における確実な始動,連続運転性能の確保,信頼性の向上,操作性の向上,経済性等に留意した設計,施工が行なわれた。
本機場の断面図を図ー3に示す。また,ポンプ設備の主要機器の仕様は,次のとおりである。
 排水ポンプの仕様
  設置台数:3台
  口  径:2600㎜
  形  式:立軸軸流ポンプ
  吐出し量:16.7m3/s
  全揚程 :2.9m
  回転速度:108.9rpm
 原動機の仕様
  設置台数:3台
  形  式:単純開放2軸式ガスタービン
  出  力:1100PS {809kw}
  始動方式:セルモータ(直流電動機)始動
かさ歯車減速機の仕様
  設置台数:3台
  形  式:直交かさ歯車減速機
  冷却方式:空冷式

(1)信頼性の向上
排水ポンプ設備のうち故障率の高い機器は,冷却水系統を代表とする補助機器(以下,補機という。)が総故障件数の1/3を占める傾向にあり,従来使用されてきた冷却水系統の機器は,故障率が比較的高く,排水運転時の支障となることが多かった。本機場では,補機を減らすことにより故障要因を減少させ信頼性の向上を図ることを目的に,冷却水系統を省略した完全無水化システムの機場として設計,施工を行った。
① 主原動機のガスタービン化
本機場の原動機の出力は,吐出量,揚程より1100PSが必要となる。原動機としては,ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンが考えられるが次の理由により,ガスタービンエンジンを採用している。
a ディーゼルエンジンは,冷却水を必要とするがガスタービンエンジンの場合,必要とせず,これに伴う冷却水設備が不要になる。
b 設置スペースがディーゼルエンジンに比較し小さく,上屋も小さくできる。
c 全体工事費が安く,経済性に優れている。
また,併せて地域が第2種住専地域であること,本機場と同一建物に出張所が設けられることから騒音を小さくする必要があり,ガスタービン本体,付属機器,出力軸減速機等をパッケージに納めることで騒音を低減できる利点を有しているとともに,ガスタービンエンジンから発生する振動は,ディーゼルエンジンに比べて微少であり,土木,建築等の構造物に与える影響が少ない等の利点がある。
なお,今回高橋排水機場では,ガス発生機と出力タービンが分離された2軸式を採用しており,大きな始動トルクを必要とするポンプ設備の特性から,従来のディーゼルエンジン,一軸式ガスタービンエンジンに必要であったクラッチ,流体継手を不要なものとしている。

② 空冷式減速機
減速機の潤滑油の冷却方式に空冷式を採用し,冷却水を不要なものとした。本減速機は,伝達容量が1100PSであり,設計時点において空冷式としては,国内最大級の減速機を使用している。
③ 軸封水装置
ポンプ本体の軸封水装置には,無注水タイプを採用し,注水用の機器を不要なものとした。本機場では,フローティングシールを採用している。
④ 水中軸受け
ポンプ本体の水中軸受けには,潤滑水のいらないセラミックス軸受けを使用し,潤滑水ポンプの不要なものとした。
本機場では,これらの機器を採用することによりポンプ設備の無水化を図ると同時に,関連して停電時の電力供給に使用する発電設備(250kvA)の原動機についてもガスタービンエンジン(310PS)を採用しており,排水機場設備全体の無水化を図っている。
(2)操作性の向上
排水ポンプ設備は,通常,使用の頻度は極めて少ないが,操作時には誤操作のない適正な操作と確実な連続運転が必要とされる。また,運転に入ると数日に亘って運転が必要な場合もあり,操作員の疲労も多大なものになってくる。更に,排水操作に併せて,機器の故障等のトラブルが発生すると尚更のことである。
本機場では,これらを考慮しポンプ運転,管理に際しての操作員の負担軽減や操作支援のできるシステムとするとともに,故障時の対応を敏速にかつ適正に行う装置の導入を図った。
① 可動翼ポンプによる内水位一定制御の採用
本機場の排水ポンプは,3台が設置されているが,このうちの1台に可動翼を採用し,排水量の調節の可能な設備としている。残りの2台は,固定翼であり,排水量は常に最大量で運転する。この可動翼ポンプ1台と固定翼ポンプ2台の組み合わせにより内水位を一定に保ちながら排水する内水位一定制御を行うシステムとした。内水の流入量の増減に伴う運転方法を次に示す。
この内水位一定制御により,流入量の変動に対し,ポンプの頻繁な始動一停止操作を繰り返すことなく流入量に追従できる操作が可能なものとし,従来より故障発生割合の比較的高い始動操作の低減を図るシステムとすることにより,操作員の負担軽減を図ることとした。

② 運転管理装置,後方支援装置の導入
本機場では,施設の監視,操作支援を目的とした運転管理装置,後方支援装置を導入し,操作性の向上,故障発生時の対応,管理の向上を図っている。この装置は,運転管理装置,後方支援装置,高速トレンドモニター装置で構成されており,以下に主な機能の概要を紹介する。
a 運転管理装置
運転管理装置の機能は,施設の始動,停止操作のガイダンス,運転中の状態監視を行う「運転操作支援機能」,故障発生時に故障内容を表示し,いち早く故障原因を究明し早期の復帰を図るための「故障対応支援槻能」および日報,月報等の各記録データを保存する「記録,管理機能」を有している。

b 後方支援装置
後方支援装置は,機場のデータを無線装置を介して事務所へ電送し,事務所から運転支援,故障対応支援を行うことを目的としており,本装置の機能は,墓本的に運転管理装置と同様の内容が行えるものとしている。
c 高速トレンドモニター装置
ガスタービンエンジンの始動,停止時のデータを高速収集し,データを基にエンジンの傾向管理を行うものである。

4 本機場の経済性
高橋排水機楊では,無水化システムとすることによる信頼性の向上と経済性を考慮した設計,施工を行った。
本機場を無水化システムとしたことにより省略された機器を表ー1に示す。
しかし,ガスタービンエンジン,空冷減速機等の無水化を構成する機器単体の価格は,ディーゼルエンジン等従来からの機器に比較し高価なものとなる。一方,土木構造物の建設費は,機器点数の減少により機器の据付け面積が少なく,荷重も低減されることにより安価となる傾向にある。

また,排水機場は,常時待機状態であることが多く,管理運転を含めた点検整備,保守管理を定期的に行う必要がある。この点検整備,保守管理費用においては,冷却水系統の機器が省略されていることにより,機器点数が減少していること,併せて故障率が低下していることから従来機場に比較し軽減されていると考えられる。無水化システムの採用にあたっては,これらのトータルコストを充分検討のうえ採用する必要があった。
高橋排水機場における従来機場(デイーゼルエンジン+管内クーラー)との建設コスト比較の試算結果を表ー2に示す。
土木建築費,機械・電気設備費,維持管理費ともに若干であるが,コストの軽減ができたという結果が得られている。

5 あとがき
平成元年度の着工以来,約8ヵ年の歳月と総工事費約86億円を投じて,この3月に完成した高橋排水機場は,今年度の出水期より本格稼動を開始した。今年度は,度重なる出水により稼動の回数も多く,都度順調な運転を行っており,その機能は十分に発揮されているところである。参考に,1号ポンプ設置後の稼動状況を表ー3に示す。運転にあたっては,冷却水系統の補機のないことや運転管理装置等の導入により操作員の負担が少なく,関係者から高い評価が得られている。
また,高橋排水機場では,排水機場等を見学する施設や敷地を利用して,地域特有の樹種による生態系にやさしい空間を創造し,自然の中で子供たちが昆虫採集や自然観察のできる高橋自然観察園を設け,地域に開かれた排水機場の整備に努めているところである。
最後になりましたが,高橋排水機場の建設に際し,多大な尽力を下さいました地域の方々を初めとする関係者の皆様に厚く感謝の意を表すとともに,高橋排水機場が今後の周辺地域の発展に寄与することを願うものである。

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