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公共工事に関する入札・契約制度の改革について

建設省九州地方建設局企画部
技術管理課長
森  弘 光

わが国における公共工事の入札・契約制度は,明治33年に創設されて以来,現在迄の約90年間,指名競争入札方式を基本に,進められてきました。
しかし,
① 日米建設協議を契機に,わが国における建設市場の国際化が急速に進展していること
② 建設業における公正な競争の確保の要請が高まっていること
③ 民間の技術開発の進展に伴い,それを活用する必要があること
と言った事などの新たな社会経済情勢の展開を踏まえ,入札・契約制度のあり方を見直す必要があることから,平成3年6月,建設大臣は中央建設業審議会に諮問されています。
一方,中央建設業審議会においては,この諮問に基づき,約1年半に亘って審議がなされ,平成4年11月に「入札・契約制度の基本的あり方について」答申を行っています。建設省においては,以上のことから,公共工事の品質の確保,広範囲な参加機会の確保,技術力に基づく競争性の確保等の要請に応えるため,平成5年度当初より,「技術情報募集型」,「施工方法等提案型」および「意向確認型」等多様な入札方式を導入し,試行を行っている所であります。
なお,ここで示す3方式の内容は概略以下のとおりです。

1 技術情報募集型指名競争入札方式
技術的に高度な工事の実施に際して業者の技術力評価を的確に行う方式で
① 対象ランクの全ての業者に対して事前に工事概要,技術資料の作成,提出方法等の掲示を行う。
② 入札意欲のある業者から,同種・類似工事の実績,配置予定技術者の資格・経験,施工計画等の技術情報関連資料の提出を求める。
③ 地方建設局内に設置された技術審査会において,技術資料を厳正に審査する。
④ 合格者は不誠実な行為がない限り指名される。
⑤ 要請があれば,技術審査会の結果を通じて非指名の理由を説明する。
と成っており,本方式の導入によって,従来の指名競争入札方式と比べ,以下のような改善がなされます。
① 建設業者が自らの意欲に応じて幅広く入札参加出来る一般競争入札方式の長所を最大限に活かす事により,透明性・競争性が高まる。
② 良質な施工を確保するために必要となる技術的要件等の事前審査を併せて行う事により技術的競争性が高まる。
③ 非指名の理由を説明する事により,透明性が高まる。
なお,平成5年度は,おおむね10億円以上の高度な技術力を要する工事を対象に試行を実施(九州:4件)。

2 施工方法等提案型指名競争入札方式
民間の技術開発の進展が著しい分野の工事において,施工方法等に関する新たな提案を募り施工に反映させる方式で
① 「技術情報募集型」の掲示内容に加え,施工方法の提案を求める工事の対象範囲,発注者の想定する標準的施工方法等の掲示を行う。
② 技術審査会において独自の提案内容を含めて審査し,不適切な提案についてはその旨通知する。
③ 合格者は,不誠実な行為がない限り指名される。
④ 要請があれば,技術審査会の結果を通じて非指名の理由を説明する。
となっており,本方式の導入によって技術情報募集型に加え,新技術,新工法の開発に対するインセンティブを与えるという改善がなされます。
なお,平成5年度は九州は実施していません。

3 意向確認型指名競争入札方式
入札参加意欲を尊重すると共に技術的適正をより的確に評価するため,入札参加の意思を確認し,簡易な技術資料の提出を求め,指名する方式で
① 対象ランクの登録業者の中から工事規模格付け時の評価および建設業者の地域的特性を中心に相当数(20社程度)の業者を選択する。
② 選択された業者に対し,受注意欲の確認を行うと共に簡易な技術資料(類似工事の実績および配置予定技術者)の提出を求める。
③ 受注意欲のある業者から提出された技術資料を参考に技術的評価等の指名基準に基づき10社程度選定する。
となっており,本方式の導入によって,従来の指名競争入札方式と比べ,以下のような改善がなされます。
① 受注意欲の高い業者を選定する事により,競争性が高まる。
② 指名基準のより的確な運用が可能となる。
③ より良質な施工を確保しうる。
なお,平成5年度は,おおむね2億円から5億円の工事を対象に試行を実施(九州:3件)。
しかし,ちょうど同時期に,地方公共団体の首長とわが国の建設業界を代表する企業の幹部が公共工事を巡る贈収賄容疑で,相次いで逮捕,起訴されたことにより公共工事の執行,ひいては公共工事そのものに対する国民の信頼が著しく損なわれるに至りました。中央建設業審議会では,このような事態を重く見て,平成4年の答申において「引き続き検討する」とされていた一般競争入札方式の導入を含め緊急な検討が必要と判断し「公共工事に関する特別委員会」を設立,し平成5年8月2日の第1回委員会以来12月21日迄の約5ヵ月の間に11回の委員会を開催し,審議が成され,このたびその結果が中央建設業審議会に報告されました。
なお,報告(建議)の内容としましては入札・契約制度の改革にあたっての留意点を始め,改革の基本的視点(現在の問題点,改革の基本的視点,および改革の基本的考え方),改革の基本方針(一般競争方式の採用,指名競争方式の改善,その他の入札・契約方式),制度改革の具体的提案(競争参加資格審査制度の改善,苦情処理制度の創設,入札監視委員会(仮称)の設置,建設業者選定のためのデータベースの整備,履行保証制度の抜本的見直し,共同企業体制度の改善,コンサルティング業務発注の透明性・客観性・競争性の向上,制裁措置の強化,予定価格をめぐる措置),新しい競争体制に向けての課題(競争条件の整備,発注体制の改善,建設業界の信頼回復)など,入札・契約制度全般に亘る改革について提案されています。
中でも,今後の入札・契約方式としては
 ① 一般競争方式
  (一定規模以上の工事を対象)………………図ー1,表ー2
 ② 指名競争方式
  (公募型,工事希望型)………………………図ー2
 ③ その他の入札・契約方式
  (技術提案総合評価方式,随意契約方式)…図ー2
を導入することとされており,従来,ともすればある一つの方式(例えば指名競争方式)が全ての公共工事を通じて最もふさわしい入札・契約方式であるというように考えられがちでしたが,今回の多様な入札・契約方式の導入により,それぞれの方式の特徴を勘案しながら対象工事の性格,建設業者の状況等市場の特性に応じた最適な方式を選択することが可能となります。

さらに,信頼のおける建設業者を選定するためには,客観的なデータ(建設業者に関する財務・経営情報,過去の工事実績およびその成績,手持ち工事量,技術者データ,労働福祉の状況など)を出来るだけ多く収積し,それを活用する事が必要であると提案されています。
しかし,このようなデータの収集およびデータベースの整備は,各発注機関がばらばらに行うことは非効率であり,従って共同で利用できるようなデータベースの整備を進める事が必要になってきます。
そのため,建設情報を広く手掛けている「㈶日本建設情報センター(通称:JACIC)」により,建設省・農林水産省・公団等の国の機関,地方自治体および外郭団体,公益事業を営む民間企業(電力,ガス,通信,鉄道等)が発注した工事請負金額5,000万円以上の工事実績につきまして,平成2年4月1日以降に竣工した工事を対象に,工事実績データベースの構築を実施する事になりました(表ー1)。

この件につきましては早急な整備が必要である事から,2月上旬より建設業協会等への説明会を実施してきました。今後ともご協力お願いします。
一方,新たなガット政府調達協定に関する交渉が実質的に妥結し,1996年から世界の主要国を中心に,工事および設計・コンサルティング業務を含むサービス調達について,新たな国際的なルールが確立されようとしています。
そのため,各発注者においては今後,これらの新しい動向を踏まえて各々公共事業の入札・契約手続きの改善に取り組む必要がありますが,と同時に,対外的な関係についてはわが国として統一的な対応を図る必要があります。
その共通的な指針として,平成6年1月18日「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画について」が閣議で策定されました。
例えば新しい入札・契約方式の実施時期については,可能な限り平成6年度当初予算に係る公共事業から実施することを基本とし,同年度末までに基準額以上の調達について透明・客観的かつ競争的な調達方式を採用する体制を整える事となっています。
その他,入札改善に係る主要項目に関する建議と行動計画の考え方について,表ー2に整理していますので参考にしてください。
最後になりましたが,今回の建議は,入札・契約制度全般に亘る思い切った改革について提案されたものです。
しかし,公共事業にまつわる不正は,これらの制度の改革のみによって防止できるものではありません。
そのためには,広く関係者の意識改革を始め,政治改革の実施,不正行為の取り締まりの強化等総合的な取組が不可欠であります。ご存知のように,住宅・社会資本整備に寄せる国民の期待は非常に高く,また,建設業は地域の経済を支える基幹産業として,わが国の産業全体における重要な雇用の場としてその役割は重いものがあります。
今般の改革が公共事業に関する行政の見直しや,建設業界の構造変革につながるものであるといった自覚を持ち,着実に取り組んでいく事が望まれます。

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