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公共事業支援統合情報システム
(建設CALS)について

建設省九州地方建設局企画部
 技術管理課長
赤 木 宣 威

1 情報技術の発展
電子的に蓄積されたデータの検索や,ワープロ・CADで作成された書類・図面を再利用することは,コンピュータの特徴を最大限に活用する身近な例である。しかし,この情報化・OA化は個々の需要に応じて現場主導で行われたものでありデータの表現形式や媒体の標準化が適切に行われず,部署をまたがる情報の交換や共有を実現するまでには至らなかった。
一方,情報機器の発達や通信ネットワーク技術の発展により,オンラインでのデータ情報交換のための環境が整ってきており,国や企業の枠を超えた広範囲での情報共有や連携が可能となってきている。

2 公共事業における情報化推進の必要性
一般競争の本格導入を柱とする公共工事の入札・契約制度の改革に象徴されるように,公共事業を取り巻く環境は大きく変わろうとしているが,国民の税金を財源として実施する公共事業においては,工事の品質の確保と建設費の縮減が常に求められる。
公共工事の品質を確保するためには,客観的な企業情報や技術者情報に基づく優良な業者の選定が重要であり,データベースを中心とした情報システムの整備が必要である。また,業務執行の各段階で発生する多量の技術情報を的確に管理・活用することも重要である。
建設費の縮減を図るためには,工程管理の合理化,設計書・報告書作成作業の省力化等により生産性の向上を図ることが重要であり,情報化が有効な手段となる。
さらに,WTO政府調達協定の発効により,国際的な調達の透明性を確保し,国際的に開かれた建設市場を確立するためには,内外無差別の原則の下,海外企業に対しで情報を適切に公開することが必要であり,この面からも公共事業分野の情報化が求められている。
また,行政全般については,行政情報の高度利用や事務処理の効率化,行政サービスの高度化等を図る観点からも情報化が求められている。
一方,受注者として公共事業の一翼を担う建設産業にあっては,企業体質の強化を図り,コスト削減,元下関係の適正化などを進めるために情報・通信技術の活用が求められている。(図ー1参照)

3 米国におけるCALS
米国国防総省は1980年代当初から,兵站の合理化を目的として開発・調達・保守の一連の流れにおけるデータ表現や諸手続きの標準化に取り組んだ。関連企業とのデータ交換や取引情報などを一定の標準に則って電子化してペーパーレスの環境をつくるこの活動は,1990年代には防衛産業から全民生分野に波及した。この電子活動とこれによる業務プロセスの改善がCALS(Continuous Acquisition and Life-cycle Support:生産・調達・運用支援統合情報システム)といわれるもので,現在では軍需に限らず広い場面でのデータ利用を対象とした概念に変貌しつつある。
CALSが従来の情報化やOA化と大きく違う点は,個々の利益に加え,全体の効率化を意識することにあり,ネットワークやデータベースなどの情報技術を駆使した他の組織・機関と情報の交換・共有により,コスト縮減や納期短縮,品質の確保・向上を図ることを目的としている。
1994年10月に成立した連邦調達簡素化法では,1997年1月までに政府調達を全面電子化(Electronic Commerce)することを義務づけている、また国防総省を中心として官民共同プロジェクトで各種の標準化に取り組んでおり,その標準をいかに早く国際標準までに格上げするかを国家戦略として位置づけている。

4 建設省における取り組み
(1)研究会の活動
建設省では,平成7年5月に技術審議官を会長とし,省内の関係部局,関係機関および業界団体メンバーとする「公共事業支援統合情報システム研究会」を設立し,CALSを念頭に置いた公共事業執行プロセスのシステム化の研究に着手した。
研究会での検討は,システムについての検討,要素技術に関する検討,普及に向けての検討の3つに大別される。(図ー2参照)

(2)検討内容の概要
① システム全体像の検討
公共事業支援統合情報システムに対するコンセンサスを得るため,システム全体像のイメージを明らかにする。
なお,この全体像は固定したものではなくケーススタディや実証フィールド実験を進める中で適宜見直しを図る。
② ケーススタディ
CALSの導入にあたっては,当初から全体の最終形を目指すのではなく,公共事業の執行プロセスの中から幾つかのフェーズを選び出し,効果の高いところ,実現可能なところからケーススタディ,実証実験等から順次,段階的に導入する。ケーススタディは,以下に示す6つのフェーズを対象に検討を進める。
ケーススタディでは,CALSを適用することによって,現状の業務がどのように変わるか,具体的な処理手順や方法を想定して分析し,実施上の問題点や課題,その解決方法などを整理する。
 1)設計~積算に至るプロセス
 2)発注公告~契約手続きに至るプロセス
 3)施工中の官民の情報のやりとり
 4)各種技術基準類の電子化(SGML化)
 5)施設の運用管理に係わるプロセス
 6)利用申請~許認可手続きのプロセス
なお,この際,CORINS,JACIC-NET等の既存のデータベース,ネットワークを有効に活用する。
③ システム整備基本計画の策定
公共事業にCALSを導入していく際の進め方,スケジュールの指針となるシステム整備基本計画を策定する。
④ 要素技術の適用性検討
CALSを構成する要素技術(データ標準や規格等)の構成や内容を調査し,公共事業支援統合情報システムに適用できるか,また,どの程度まで実用可能であるか等について検討する。
〔要素技術の例〕
 SGML    文書表記の規格
 STEP    3次元の製品データ規格
 EDIFACT  EDIデータの規格

5 システム整備の効果
公共工事を含む建設の分野は,
① 発注者,受注者や下請,資材納入業者等関係者が多く,この間で頻繁に情報が交換されている。
② 交わされている情報は,文書のみならず図面や設計計算書等多様な内容であり,かつ量も多い。
③ 施設のライフサイクルが長く,長期間に亘る維持修繕,管理が必要で,これを支える情報の役割が大きい。
といった特徴があり,CALS導入の効果が特に高いと考えられる。
建設CALSの構築により実現される情報の交換・共有・連携の環境は,公共事業に携わる全ての機関に利益をもたらす。
例えば発注者側では,調査・設計から工事・管理に至るまで,公共施設のライフサイクルに亘る情報の利用が可能になり,品質向上,コスト縮減のみならず,事業執行の迅速化,効率化に結びつく。受注者側では,発注者や関連企業との間で,より正確で迅速な情報交換,経済的な資材の納入等が可能となり,企業としての競争力強化の手段となる。また,公共施設等の情報の公開は,公共事業への国民の理解・関心の向上が期待される。

6 今後の展開
CALSは,情報をベースに業務の流れ,仕事の枠組み,組織の係わり方,さらには業態そのものを変えるものである。
建設CALSを進めるにあたっては,情報化の誰進によって従来の業務や収引形態そのものが変わることを念頭に置くことが重要である。今までの仕事をそのまま電子情報化するのではなく,不合理な点等必要な場合には積極的に業務プロセスの見直しを行った上で情報化を進めることが必要である。
また,CALSの視点として,企業内や部門内の最適化ではなく,全体の最適化を図ることが重要であり,建設分野へのCALS導入も関係機関が一丸となって取り組むことが重要である。例えば,発注者のみが情報化を進めても,受注者,資材納入業者が対応しなければ,情報化の効果は期待できない。
米国におけるCALSがユーザーであり,かつ調達者でもある国防総省のリーダーシップで進んだように,標準化が中心となるCALSを推進するうえで,建設サービスの調達者でもある公共発注者の役割が重要である。
建設省においては,「公共事業支援統合情報システム研究会」を中心として,建設産業界や大学等とも連携をとりながら,強力に建設CALSの導入を推進することとしている。
建設CALSは,建設分野を取り巻く様々な課題に対応するための手段として重要であると同時に,世界的にあらゆる分野の情報化が推進する中で,取り組まざるを得ない,避けて通ることができない課題である。
この取り組みに対する関係機関,建設産業界の積極的な参加が期待される。

7 対象期間の考え方と整備目標
対象期間はある程度長期に及ぶ必要性があり,2010年までを対象期間とする。また,各年度毎の具休的な目標設定が困難なことから,1996年から2010年までを短期・中期・長期の3つの期間に分けて,各整備期間における整備目標と目標達成に必要な検討事項などを立案するものとした。
 ・短期 1996年~1998年
  「実証実験の開始と一部電子データ交換の実現」
 ・中期 1999年~2005年
  「統合DBの構築と電子化に対応した制度の確立」
 ・長期 2006年~2010年
  「21世紀の新しい公共事業執行システムの確立」

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