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八代のまちをつくった石造土木構造物

熊本大学        
熊本創生推進機構 准教授
田 中 尚 人

キーワード:選奨土木遺産、日本遺産、干拓

1.はじめに
八代平野は、遠浅の八代海(不知火海)の東側に形成された南北に細長い沖積平野であり、球磨川・氷川・砂川等の流入河川が扇状地や三角州を形成してきた。平野の半分近くが近世以降の干拓地であり、ここに人口約13万人、熊本県第二の人口規模を持つ八代市の中心市街地が位置する。
全国でも指折りの八代干拓事業は、近世から昭和期まで最先端の土木技術が注ぎ込まれてきた成果である。市内各地に干拓事業に関する遺構があり、このうち現存する石造樋門のいくつかは重要文化財や史跡として高い評価を受けている。現存する八代の干拓施設群(図-1)は、江戸時代の干拓施設と近代以降の干拓施設に大別される。江戸時代の干拓施設として、①高島新地旧堤防跡、②大鞘樋門群及び③七百町新地潮請堤防がある。近代以降の干拓施設として、④旧郡築新地甲号樋門及び⑤郡築二番町樋門がある。
これらの石造土木構造物を含め、八代で生まれ育った石工たちの業績が『八代を創造(たがや)した石工たちの軌跡~石工の郷(さと)に息づく石造りのレガシー~』として、2020(令和2)年6月日本遺産に認定された。同年7月にコロナ禍で起きた令和2年豪雨災害において甚大な被害があった球磨川流域の復旧・復興に、土木遺産の保存・活用が寄与することを祈念する。

2.近世の石造干拓施設
①高島新地旧堤防跡
現存する堤防跡(図-2)は全長約85m、幅約9.4mの直線状で二段構成、上下段間は幅約2mの平場、高さは最高部で4.5m。築石は石灰岩の自然石や粗割石を用いた野面積みで築かれている。干拓地側に面した部分と堤防上部は後世に掘削されたため、当時の姿を確認することはできない。

図1 八代の石造干拓施設群の分布

図2 高島新地旧堤防跡

②大鞘樋門群
八代市鏡町を流れる大鞘川に架かる樋門群。これらは四百町新地開に伴い、干拓地最北端に設けられた。当初は5基の樋門が建設されたが、現存するのは「殻樋(からひ:図-3)」「二番樋(図—4)」「江中樋(こうちゅうひ:図-5)」の3基。完成年は干拓が完了した1819(文政2)年と考えられる。現存の樋門はいずれも、上部を潮受け堤防として用いるために切石積石垣で構成されており、近世に建設された干拓樋門が大きな改変を受けずに残されている貴重な土木遺産である。
3つの樋門のうち、殻樋は2011(平成23)年7月の大雨のため樋門上部が崩落し、現在応急的保存措置が取られている。江中樋は2016(平成28)年の熊本地震によって南側の鞘石垣の一部が崩落、本体にも亀裂が生じ、干拓地側に傾斜する被害が発生した。鞘石垣は保存修復作業を実施し、樋門全体を固定する措置が取られている。

図3 大鞘樋門群「殻樋」

図4 大鞘樋門群「二番樋」

図5 大鞘樋門群「江中樋」

③七百町新地の樋門跡
1821(文政4)年に築かれた七百町新地潮請堤防とともに築造された樋門跡が3 か所残っている。堤防の一部に石垣状の護岸が設けられており、スリットがあることから、樋門として機能していたと考えられる。

図6 七百町新地の樋門跡

3.近代の石造干拓施設
④旧郡築新地甲号樋門 附・潮受堤防
旧郡築新地甲号樋門と潮受堤防は、1899(明治32)年に着工された球磨川の河口北方に広がる郡築新地の干拓に際して築かれた樋門及び干拓堤防跡である。郡築新地では、甲(三番町)、乙(七番町)、平(十一番町)の3 つの樋門が設けられた。
旧郡築新地甲号樋門は、1900(明治33)年に起工、翌年に竣工した。煉瓦造10 連アーチ式通水部の上方及び左右に、切石を垂直に積み上げたもので、樋門の海側には南北約1㎞にわたり石造潮受堤防を残す。旧郡築新地甲号樋門は、明治の干拓事業として有数の規模を誇る八代海干拓事業の代表的遺構であり、わが国に現存する組積造樋門として最大規模を有する。樋門壁面の切石積に巧緻な石積技術が発揮され、明治を代表する干拓樋門として重要である。

図7 旧郡築新地甲号樋門

⑤郡築二番町樋門
明治期に八代郡役所が干拓を行った事業地の堤防に設けられた樋門で、1936(昭和11)年の高潮被害後の補強改良工事時に設けられた。石造3連アーチからなり上部は石造の布積み、曲線を用いた細部なども相まって干拓事業の象徴として親しまれている。

図8 郡築二番町樋門

【参考文献・資料】
八代市ホームページ(http://www.city.yatsushiro.lg.jp/kiji00312753/index.html)
八代市教育委員会,『八代干拓遺跡群調査報告書』, 2018
文化庁・文化遺産オンライン(https://bunka.nii.ac.jp/)

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