入札契約制度と多様な発注方式について
国土交通省 北九州国道工事事務所
所長
(前)国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術開発調整官
所長
(前)国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術開発調整官
高 場 正 富
1 入札・契約制度の全体像について
建設業は,国内総生産の約2割弱に相当する建設投資を担うとともに,全就業人口の約1割を擁する我が国の基幹産業であり,また,国民生活を支える住宅・社会資本整備の担い手として,重要な役割を果たしている。
公共工事の入札・契約制度としては,我が国において明治33年の創設から,指名競争方式を基本としてきたが,高度情報化の進展や規制緩和,さらに我が国建設業界を代表する企業を巻き込んだ公共工事の発注をめぐる不祥事等をきっかけに,平成5年中央建設業審議会から建議がなされた。
この基本方針としては,透明性・客観性,競争性を大幅に高め,発注者として「不正が起きにくいシステム構築」を目指すとされた。
(1)公共工事の入札契約制度の改革について
①一般競争方式の採用
②指名競争方式の改善
③多様な入札・契約方式の活用
等に取り組むこととされ,各発注者により,直ちに着手されており,本制度も次第に定着してきている。
(2)上記3点以外の直轄の取り組みとしては
①コスト縮減:目標期間を平成20年度末とし,ライフサイクルコストの低減等総合的なコスト縮減に取り組んでいる。
②品質確保:「公共工事の品質確保のための行動指針」により,民間技術の積極活用が提示され,「多様な入札・契約方式」の試行として,「実験計画」が現在も進められている。
③設計・コンサルタント業務:価格競争入札方式からプロポーザル方式を活用した技術者評価型や総合評価型等,業務内容に応じた発注方式が提示され「実験計画」として取り組んでいる。
④発注者責任:「発注者責任研究懇談会」では,現在,発注者・受注者の役割分担,そして受注者の体制評価に基づく発注者支援制度等の具体化,さらには企業評価の結果を反映した的確な企業選定の具体的方策の検討等について,取り組んでいる。
2 入札・契約の適正化の促進について
(1)入札・契約適正化法の目的
公正で民主的な行政運営を実現し,行政に対する国民の信頼を確保するという観点から,より一層の情報公開を図ることを目的に「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が平成11年5月成立し,本年4月から施行されている。
この情報公開の流れに,入札・契約の分野も積極的に取り組み,公共工事に対する国民の信頼の確保と建設業の健全な発達を図る事を目的に,「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が,平成12年11月に成立し,入札・契約情報の公開が義務付けられることとなった。
(2)入札・契約適正化法の基本となるべき事項
適正化を図るため,発注者が取り組むべき基本項目としては,
①入札・契約の過程,内容の透明性の確保
②入札・契約参加者の公正な競争の促進
③不正行為の排除の徹底
④公共工事の適正な施工の確保
以上の4項目としている。
(3)法での発注者に対する義務付け措置
発注者に義務付けされた項目としては,
①毎年度の発注見通しの公表:発注者は,毎年度,発注見通し(発注工事名,工事概要,入札時期等)を公表しなければならない。
②入札・契約に係る情報の公表:発注者は,入札・契約の過程(入札参加者の資格,入札者・入札金額,落札者・落札金額等)及び契約の内容(契約の相手方,契約金額等)を公表しなければならない。
③不正行為等に対する措置:発注者は,談合があると疑うに足りる事実を認めた場合には,公正取引委員会に対し通知しなければならない。
また,発注者は,一括下請負等があると疑うに足りる事実を認めた場合には,建設業許可行政庁等に対し通知しなければならない。
また,発注者は,一括下請負等があると疑うに足りる事実を認めた場合には,建設業許可行政庁等に対し通知しなければならない。
④施工体制の適正化:公共工事における一括下請負(丸投げ)は全面的に禁止する。
また,受注者は,発注者に対し施工体制台帳を提出しなければならないものとし,発注者は施工体制の状況を点検しなければならない。
また,受注者は,発注者に対し施工体制台帳を提出しなければならないものとし,発注者は施工体制の状況を点検しなければならない。
以上の4項目を,発注者に義務付けている。
(4)法での適正化指針の概要
入札・契約の適正化に向け,各発注者が自ら取り組むべき内容を提示することとなる「適正化指針」の策定手続き等については,
①指針の閣議決定:国土交通大臣,総務大臣および財務大臣は,関係省庁に協議し,指針の閣議決定を求めるものとする。また,国土交通大臣は,あらかじめ中央建設業審議会の意見を聴取することとする。
②指針の内容:指針においては,入札・契約適正化の墓本となるべき事項に従って,次の事項を定めるものとする。
・入札・契約の過程等について,学識経験者等の意見を反映させる方策に関すること。
・苦情処理の方策に関すること。
・入札・契約の方法の改善に関すること。
・工事の施工状況の評価に関すること。
・その他入札・契約の適正化のための必要な措置に関すること。
③発注者の責務:指針に基づき入札・契約の適正化を推進するものとする。
・不良・不適格業者の排除。
・ISOの活用に関すること。
・IT化の推進等。
・発注者相互の連絡,協調体制の強化。
④指針のフォローアップ:国土交通大臣,総務大臣および財務大臣は,毎年度,発注者による措置状況を把握・公表するとともに,特に必要のあるときは改善の要請を行うものとする。
以上の4項目を,各発注者に努力義務として取り組むこととしている。
(5)発注者による情報の収集,提供等
発注者として,適正化の促進を図るため,
①国土交通大臣,総務大臣および財務大臣は,入札・契約の適正化の促進に資する情報の収集,提供等に務めるものとする。
②国,特殊法人等および地方公共団体は,その職員に対し,関係法令,施行技術に関する知識の習得等に努めるものとする。
③国土交通大臣および都道府県知事は,建設業者に対し,関係法令に関する知識の普及等に努めるものとする。
以上の項目を,発注者に取り組むべきと義務化している。
(6)法律施行令等の概要
「公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律」で規定された,特殊法人等の範囲や情報の公表等について,「公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律施行令」が平成13年2月に閣議決定され,これにより,具体的法人名や具体的事項が提示されている。
①特殊法人等の範囲:首都高速道路公団,新東京国際空港公団,地域振興整備公団,都市基盤整備公団,日本鉄道建設公団,日本道路公団,阪神高速道路公団,本州四国連絡橋公団,水資源開発公団,緑資源公団,宇宙開発事業団,科学技術振興事業団,簡易保険福祉事業団,環境事業団,国際協力事業団,労働福祉事業団,帝都高速度交通営団,関西国際空港株式会社,核燃料サイクル開発機構,雇用・能力開発機構,新エネルギー・産業技術総合開発機構,日本芸術文化振興会,日本原子力研究所,日本体育・学校健康センター,日本中央競馬会,年金資金運用基金,放送大学学園。
そして,空港周辺整備機構,自動車事故対策センター,通信・放送機構,日本下水道事業団,日本障害者雇用促進協会,日本万国博覧会記念協会。
この他,独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター,独立行政法人国立科学博物館,独立行政法人国立少年自然の家,独立行政法人国立女性教育会館,独立行政法人国立青年の家,独立行政法人国立博物館,独立行政法人国立美術館の計40法人。
②発注の見通しの公表
・対象除外工事:秘密にする必要があるもの,予定価格が250万円を超えないもの。
・公表事項:工事の名称,場所,期間,種別,概要,また,入札および契約の方法,この他,入札時期(随意契約の場合には契約締結時期)
・公表時期:毎年度2回で,4月1日(予算が成立していない場合には,予算の成立日)以後遅滞なく,と10月1日を目途に。
・公表方法:官報等への掲載,この他,掲示,閲覧又はインターネット(年度末まで)のいずれかの方法。
③入札及び契約の過程・内容の公表
・対象除外工事:秘密にする必要があるもの,予定価格が250万円を超えないもの。
・公表事項(入札契約の過程に関する事項):
a 競争参加者資格(業者の等級を含む)。
b 有資格業者名簿。
c 一般競争に参加しようとした者の名称,その者のうち競争参加者資格が無く
参加できなかった者の名称,理由。
参加できなかった者の名称,理由。
d 指名基準,指名業者名,指名理由。
e 入札者名,入札金額,落札者名,落札金額。
f (国の場合のみ)低入札価格調査基準。
g 低入札価格調査の経緯。
h 総合評価競争入札を行う場合の理由,落札者決定碁準,落札理由。
i (地方公共団体の場合のみ)最低制限価格未満の入札者名。
j 随意契約の相手方の選定理由。
・公表事項(契約の内容に関する事項):
a 契約業者名,住所。
b 工事の名称,場所,種別,概要。
c 工事着手の時期および工事完成の時期。
d 契約金額。
e 金額の変更を伴う契約変更の内容,理由。
・公表時期:個別の入札・契約に係わる情報については,契約・変更後遅滞なく。
・公表方法:掲示,閲覧又はインターネット(公表後1年間)
以上の項目が,発注者として,入札・契約に係わる公表が義務付けられる具体的事項として提示されている。
(7)発注者としての対応等
平成6年農林省,運輸省,建設省が共同で「公共工事の品質に関する委員会」を設置し,平成8年1月に報告書がまとめられた。
これを受け,平成8年9月建設省で,「公共工事の品質確保等のための行動指針検討委員会」を設置し,発注官庁としての行動指針を平成10年2月にとりまとめた。
この行動指針で示された,公共事業の執行方式の改善策を検討するため,農林省,運輸省,建設省が共同で,平成10年4月に「発注者責任研究懇談会」を設立し,公共工事の発注方式等の改善に向けて作業が進められている。
このような状況のもと平成12年7月に,九州地域の各県土木関係部,沖縄総合事務局と九州地方建設局は,「公共工事の品質確保等に関する連絡協議会」を組織し,不良・不適格業者の排除や施工中における技術者の専任制確認の徹底等に取り組んでいるところであり,今回の適正化指針で示されている,「発注者相互の連絡,協調体制の強化」についても,現状で対応できると感じているものの,通達等が明らかになった時点で検討することとしている。
3 多様な発注の取り組み
(1)工事関係
「発注者責任研究懇談会」は,発注者責任の定義を「公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供する責任」とし,「発注者責任を果たすための具体的施策のあり方(第一次とりまとめ・平成12年3月)」をとりまとめ,「発注者の評価」,「企業の評価」,「工事の評価」の3つの評価を軸とした工事発注段階以降の新たな制度づくりのあり方を提案し,現在,工事発注段階以降の調達プロセスにおいて以下の4つの点について検討した。
・発注者支援制度等を検討する前提となる発注者・受注者の役割分担と発往者の体制評価。
・発注者支援制度等の具体化に必要な事項。
・企業評価の結果を反映した的確な企業選定の具体的方策。
・特許工法等の知的財産権の活用方策。
(2)設計コンサルタント業務関係
一方,調査・設計段階に関しては,平成11年10月に「設計・コンサルタント業務等入札契約問題検討委員会」が設立され,平成12年3月に発表された中間とりまとめでは,企業・技術者評価の徹底発注者支援方策としてのアドバイザー制度,プロポーザル方式の改善等が提言されている。
(3)実験計画
工事発注段階や調査・設計段階について提案された方策等を「実験計画」として,各発注者が試行等により,実際に取り組むことによって,調査・設計,工事の各段階において,発注者責任を果たすための入札・契約制度等の改善並びに課題解決が進んでいくものと考えられる。
現在,工事発注段階での「実験計画」は,
①総合評価方式,
②設計施工一括発注方式,
③契約後VE方式の提案範囲拡大,
④性能規定発注方式,
⑤マネジメント技術活用方式,
⑥技術活用型入札契約方式(技術指定システム,技術募集システム,テーマ設定システム)
⑦新・工事成績評定要領に基づく企業選定,等27方式を各整備局で取り組んでいる。
また,調査・設計段階では,
①施行段階でのコンサルタントの活用
②新業務実施評価システムに基づく企業選定
③入学試験・面接方式
④アドバイザ一方式
⑤一連業務の一括発注
等14方式を各整備局で取り組んでいる。
(4)九州地方整備局における取り組み
建設業の健全な発達を図るためにも発注者責任を果たすためにも,各種入札・契約方式の取り組みが重要と判断される。
このため,本年3月九州地方整備局内に実験計画(入札契約関連推進会議並びに幹事会)を組織し,積極的に取り組むこととなった。
当面,実験計画に提示されている契約方式に取り組む工事事務所を選定し,事務所での委員会方式による当該契約方式の課題検討を踏まえ,当該契約方式の試行を行うことにしている。
なお今後も,各種委員会等から具体的施策について提言されると考えられるので,これらについても積極的に取り組むことにしている。