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五ヶ瀬川・大瀬川適正分派に向けた
水理模型実験の有用性についての一考察
志賀三智
小野富生
荒武宗人

キーワード:水理模型実験、適正分派、河川整備計画

1.はじめに
五ヶ瀬川は平成16年1月に河川整備基本方針を策定、平成20年2月に河川整備計画を策定し直轄河川改修事業を進めている。
平成17年9月には台風14号により既往最大規模の洪水が発生し、延岡市街部の数カ所において堤防を越えるなどの被害が生じた。これを受け、河川激甚災害対策特別緊急事業(以下、「激特事業」という。)を平成17年度より22年度まで実施してきた。
今後は、河川整備計画河道の整備を進めるとともに、五ヶ瀬川、大瀬川への洪水適正分派対策を行うことが、河川整備計画での大きな事業である。
これまで適正分派対策は、数値シミュレーションで検討を進めてきた。しかしながら、分派点近傍では複雑な水理現象や河床変動などの影響要因が多くあることから、数値シミュレーション結果の妥当性を確認する必要がある。そのため、分派点を再現した水理模型実験により、数値シミュレーションで設定した河道を対象に、計画河道での分派比、河床変動による河道・施設への影響を確認した。
本稿では、水理模型実験と水理解析の組合せによる洪水時の適正分派対策の検討内容等について紹介する。

2.適正分派対策の検討
2.1 現状
五ヶ瀬川の改修事業は、河川整備計画目標流量である平成5年洪水流量6,500m3 /s を安全に流下させることを目標としている。しかし、現況河道における分派量は、五ヶ瀬川で1,900m3 /s と目標流量2,100m3 /s に対して200m3 /s 少なく、大瀬川においては4,600m3 /s と目標流4,400m3 /sに対して200m3 /s 多く流れている状況であり、適正な分派となっていない(図-1、図-2)。
目標流量に対して多く流下している大瀬川は、右岸下流部の延岡市街部において非常に資産の多い重要な区間を有しているため、大瀬川の整備計画河道を完成させる事とともに、適正分派を行い、水害リスクを軽減させることが求められている。

2.2 検討の進め方
五ヶ瀬川は、300年以上続く伝統漁法「アユやな」にも代表されているように水産資源の宝庫であり、水産資源保護法の保護水面にも指定されている。また、アユ漁が盛んに行われ、延岡市の水産業、観光の資源となっている。
そのため、水環境へ与える影響を考慮して、新たな適正分派対策は、横断工作物を用いない自然分派の形状を基本に検討することとした。
適正分派対策の検討は、「固定床実験」「移動床実験」「水理解析」の3種類の検討方法を用い、整備計画河道及び基本方針河道の2河道を対象に実施した。模型縮尺は、重要区間である分派点の平均年最大流量における水深が約2m程度であることから、粘性の影響を模型で回避できる水深3㎝以上を考慮し、縮尺1/70 とした。模型実験・水理解析ともに、検討を実施するにあたって平成17年9月の台風14号洪水を対象に検証再現を行った。
固定床実験では、自然分派方式による分派量の評価を行い、移動床実験では河床変動が分派量に与える影響を確認した。移動床実験で得られた河床変動特性は、水理解析に反映させ、最終的には維持管理の軽減やアユ産卵場の保全を目指した整備計画河道を設定している(図-3)。
検討にあたっては、学識者、国総研河川研究室を委員とする「五ヶ瀬川分派対策技術検討会」を設置し検討を進めることとした(表-1、写真-2)。

2.3 着眼点
今回の実験での着眼点は、以下の3点である。
①平成17年9月の台風14号洪水を対象とした検証実験による実績の痕跡水位、分派量の整合。
②基本方針河道、整備計画河道実験での、目指すべき分派量及び流下能力の確保。
③移動床実験による河床変動傾向の把握や新たな水衝部等の発生の有無を確認。移動床実験での計測項目は以下のとおり。
・ピーク水位
・分派流量
・通水後河床高
・流況撮影及びPIV解析(※)
・構造物周辺河床高の経時変化
・特徴的変化の生じる箇所の河床高経時変化
・観測所地点等の水位の経時変化
※浮子を流下させ、その移動距離を画像解析により分析し、河道の流速分布を計測する方法

3.固定床による検討
3.1 検証実験
当初、痕跡水位を一致させることに主眼を置き横断方向に一様にイボ粗度を配置したが、実績分派量の再現性が低かった。そこで、水深ごとにイボ粗度の効果が異なることに着目し、横断方向に粗度を調整する方法を採用した(図-4)。
結果、実績の痕跡水位、分派量ともに再現性を確保でき、現地越水箇所も再現した(図-5、写真-3)。

3.2 基本方針河道の検討
検証実験により設定した粗度配置を踏襲した模型を対象に、基本方針河道実験を実施した(写真-5)。実験の結果、自然分派方式(掘削+引堤)において、目標分派比1:1.8 に対し、1:1.79 となり、目標を概ね満足する分派比が得られた(図-6)。

また、対案として挙げられた分派施設(導流堤、水制)による分派機能の効果を確認したところ、自然分派方式(掘削+引堤)の効果を軽減できるほどの効果は得られず、分派施設は有効でないと判断した(表-2、写真-6)。

3.3 整備計画河道の検討
河床掘削を先行した場合、適正分派が実現できないことから整備計画河道は「引堤先行」とし、河床掘削高を調整して自然分派方式で適正分派可能な整備計画河道を設定することとした(図-7、表-3)。

適正分派可能な河床掘削高は、固定床水理解析により設定した。水理解析での河床掘削高と分派比の関係から、適正分派可能な河床掘削高は現整備計画河道掘削高+40cm となった(表-4)。設定した河床掘削高での水位はHWL 以下となり、流下能力も問題ない(図-8)。

4.移動床による検討
4.1 基本方針河道の検討
実験の河床材料は、河床材料調査結果をもとに代表粒径(D50)を中心に粒径分布が近似するよう複数の土砂(硅砂及び砂、砂利等)を混合して設定し(図-9)、河道形状は、固定床実験で設定した河道を再現し、河床変動傾向を把握した。
実験の結果、分派点近傍での河床変動は小さく、分派比率への影響がないことを確認し、基本方針河道における河床変動対策は必要ないと判断した(図-10、11)。

4.2 整備計画河道の検討
(1)水理解析による整備計画河道の設定
整備計画河道の検討は、水理解析と水理模型実験を組み合わせて実施した。検討は、水理解析により維持管理を含めた最適な整備計画河道を設定し、水理模型実験によりその効果の検証を行う方法とした。
水理解析による整備計画河道の設定での検討内容は下記のステップで実施した。

【STEP1:計画分派の確保】
計画分派の確保では、固定床水理解析で設定した現整備計画河道掘削高+ 40cm で解析を実施した。
分派比、流下能力とも問題ないが、分派点付近で土砂堆積が顕著となり、アユ産卵場が洗掘傾向となった(図-12)。

【STEP2 計画分派の維持(再堆積抑制)】
計画分派の維持(再堆積抑制)では、分派点付近の河床変動抑制を図る河道形状を設定した。
分派点付近では河道が漸拡していることに着目し、五ヶ瀬川9k000 ~ 10k200 左岸高水敷を切り下げ、分派点下流大瀬川左岸砂州の現況を残すことで、縦断的な掃流力の変化を小さくし、この区間の洗掘・堆積の抑制及び分派点付近の堆積土砂を下流まで流下させることとした
また、アユ産卵場洗掘抑制のため、右岸に寄った洪水流の改善を狙いとした、左岸砂州切り下げを実施した(図-13)。

【STEP3 計画分派の維持(植生・樹木管理)】
計画分派の維持(植生・樹木管理)では、掘削に伴い消失する分派点の樹木の再繁茂の影響について把握するため解析を実施した。
解析の結果、分派点の堆積土砂が下流へ延伸し、アユ産卵場の洗掘傾向が緩和することとなったことから、設定した河道は河床変動抑制効果が確認され、維持管理面からも優位な対策といえる(図-14、15、表-5)。しかし、分派点の樹木が再繁茂した場合、適正分派を達成できないため、樹木管理には留意が必要である。

(2)水理模型実験による検証
水理解析により設定した河道の妥当性を検証するため、水理模型実験を実施した。
局所的に河床変動の大小はあるが、全体的な河道内の地形変動の傾向は水理解析と一致している。また、分派比、流下能力とも解析結果と同様の結果となっており、解析結果の妥当性が確認できた(図-16、17、表-6)。

(3)長期河床変動予測
水理解析及び水理模型実験により設定した整備計画河道に対し、長期的な流況(10カ年程度の洪水ハイドロ)を与えた場合の河床変動や整備計画規模洪水が流下した場合の分派特性を把握し、設定した河道形状の妥当性を確認した(図-18)。

河床変動の影響を考慮した整備計画河道の分派比は長期河床変動後においても概ね計画を満足しており、流下能力もHWL以下で流下可能となっている(表-7、図-19)。

また、分派点周辺での大きな堆積や洗掘はなく、分派後の五ヶ瀬川湾曲部外岸での局所的な洗掘はみられるものの、全体としては河道改修による影響は小さいものとなっている(図-20)。

5.まとめと今後の予定
本検討では、数値シミュレーションで設定した適正分派対策の妥当性を水理模型実験により確認した。
固定床で設定した適正分派が可能な河道形状に対し、移動床による河床変動の影響を確認した上で、維持管理を踏まえた河道形状を再設定している。分派機能としては、横断工作物を用いない自然分派方式により、適正分派が可能となっていることを確認し、整備計画河道として設定した。そして短期的な洪水だけでなく、長期的な洪水に対しても分派比及び流下能力を満足し、かつ維持管理面でも有意な掘削形状となっている。ただし、局所的な洗掘や、樹木管理といったことに対しては今後設計段階で留意が必要である。
五ヶ瀬川・大瀬川適正分派対策では分派比及び分派点の形状を大きく改変することとなる。また分派点のような複雑な水理現象や河床変動が、分派に与える影響要因として懸念される場合には計画の確実性がより強く求められる。
今回の水理解析と水理模型実験を併用した手法により、数値シミュレーションだけでは見えてこない、より具体的な河床変動や局所的な洗掘、河道内樹木の影響等を把握できたことは、今後の計画の確実性をより高める上で、有用であったと考えられる。
今後は、適正な分派量が確保できているか現地検証するために、分派点付近での観測(モニタリング計画)の立案が必要となる。

6.おわりに
本検討の実施にあたり、ご指導いただきました宮崎大学 杉尾名誉教授、村上教授、国総研河川研究室 服部室長(現京浜河川事務所長)、また貴重な資料や情報の提供を頂いた(株)建設技術研究所の皆様には多大な協力をいただき感謝いたします。
今後も適正分派対策実現のため、引き続きご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。

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