一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
五ヶ瀬川の歴史的治水施設「畳堤」
木原万里子
1.城下町延岡と五ヶ瀬川
五ヶ瀬川の源流は、宮崎県と熊本県の県境にそびえる向坂山です。そこより発した川は高千穂、日之影を経ながら、多くの支流を集めつつ延岡平野へと流れ込みます。さらに延岡市街地に入る直前には分流して五ヶ瀬川と大瀬川となり、市街地を貫流します。
町は川を中心に形成されています。今から400年ほど前、五ヶ瀬川と大瀬川に囲まれた川中地区の中程にある小高い山に城が築かれ、以降、城を中心に政治、経済、文化が発達しました。現在も城跡の東側は市役所や裁判所等が並ぶ官庁街です。

2.畳堤の概要
「畳堤」は高さ60㎝の橋の高欄に似たコンクリート製の堤防で、上から見ると幅7㎝の隙間があります。この隙間に畳をすっぽりとはめ込みました。台風などで川の水が堤防を越えて氾濫する前に、畳を立てて洪水を防いだのです。地元の人達は昔から「高欄」と呼んでいましたが、正式の名称は特殊堤防「畳堤」です。

3.畳堤の沿革
水郷延岡と称されるように延岡市内には五ヶ瀬川、大瀬川、祝子川、北川の四つの大きな河川が流れています。五ヶ瀬川の洪水の原因は台風が殆どで「台風性河川」と一般に呼ばれています。
台風が接近すると海の湿った空気が一気に九州山地に吹き寄せて、急激に雨雲が発生し、豪雨をもたらすために洪水が頻繁に発生します。五ヶ瀬川流域に降った豪雨は、一気に延岡市内に流れ込み、大きな被害を幾度となく発生させています。
一度豪雨が降ると、四つの川の水が一気に五ヶ瀬川に合流し、河口に流れ込みます。かつては河口が小さかったために、流水は膨れ上がり、堰上げ現象が発生して、市街地は浸水の危険にさらされたのです。そこで、ふだんはつながっている浜を切って、河口を広げる作業が行われたのですが、「畳堤」は、その作業が終わるまでの時間を稼ぐ目的で考案されたのではないかと考えられています。
一般から提供のあった写真や新聞記事により、「畳堤」の設置が大正末期から、昭和初期であることがわかりました。全国に五ヶ瀬川を含めて3つの河川に「畳堤」が現存しています。そのなかで五ヶ瀬川の「畳堤」が最も古いと推察されています。

4.畳堤のしくみ
畳のサイズは4種類に大別されます。延岡市内の家では当時、五八間の畳(江戸間)が利用されており、現存している「畳堤」にはめ込んだところ、寸法がピッタリと合いました。
「畳堤」に一般家庭の畳が使われたということは、住民自ら我が家の畳を持ち出して洪水を防いでいたことが考えられます。これは、住民一人ひとりの防災意識の有り方を示唆した事例ではないでしょうか。
「畳堤」は構造力学的にも優れた構造で、鉄筋コンクリートによるラーメン構造をなしています。畳が水を含んだときの寸法の変化まで計算されており、洪水による圧力に耐える造りになっています。

5.五ヶ瀬川の畳堤を守る会の活動
平成13年に「五ヶ瀬川の畳堤を守る会」を設立し、歴史的治水施設「畳堤」の保存と「防災の心」「郷土愛」「皆で助け合う心」「自らまちを守る工夫」を学び、人づくり街づくりへ展開する活動、市民の河川への防災意識の高揚、防災活動の推進・啓発に取り組んでいます。

(主な活動の内容)
・清掃、保全活動・畳堤の仕組みと歴史の調査研究
・畳堤モニュメント設置
・調査結果報告:「畳で街を守る」冊子(2,000部)会員、防災関係部署、有志市民に配布
・紙芝居:「畳でまちをまもったおはなし」を企画製作し、小学校児童へ出前講座
・畳堤に畳をはめ込む実演(消防団員による)
・市民防災フォーラムとパネルディスカッション(平成17年台風14号をテーマ)
・会報「空飛ぶ畳」発行
・「畳堤の詩」CD(作詞、作曲、CD製作)
・地域防災勉強に役立てるため、畳堤の傍「畳堤コーナー」に、畳堤説明板を設置
・畳堤の内部構造、構成材質の調査(国交省)
・「なぞの畳堤」:畳堤のなぞ解きと畳堤マップの企画
・郷土のお菓子「畳堤サブレ」を開発。身体障害者授産施設で製作・販売
・市民防災フォーラム2009 開催(国、県、市、関係団体が一堂に会し「そのとき連携は?」のテーマーでパネルディスカッション)
・「畳堤」の実物大模型製作と説明書展示(消防署防災センター内)
・市民防災フェスタ、橋の日、各種防災訓練、地域自主防災組織結成等の、協力・支援
・畳堤紹介動画DVD を作成し、31市民団体へ出前講座
・畳堤に畳を入れて投光器でライトアップ

(受賞歴)
・平成22年6月河川功労者表彰を受賞(公益社団法人日本河川協会)
・平成26年11月水防功労者国土交通大臣表彰を受賞
・平成27年 9月「畳堤」土木学会選奨土木遺産に認定(社団法人土木学会)

6.おわりに
今後は五ヶ瀬川に続いて整備されたといわれる岐阜県岐阜市の長良川・兵庫県たつの市の揖保川の畳堤を会員で訪れ、流域住民と交流していきたいと考えています。さらに、畳堤のある3市の有志を核に、防災連携や水防サミットを開催し、郷土の先人の柔軟な発想と技術力・実行力を讃え、防災、減災のシンボル、水辺の風情を楽しめる観光資源として、市民有志や高校生の協力によるシンボルづくり等を通じて、さらに全国に発信していきたいと考えています。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧