五ケ山ダムにおける高速施工の取り組みについて
~巡航RCD工法による本体コンクリート打設~
~巡航RCD工法による本体コンクリート打設~
豊増隆敏
キーワード:FPC、2リフト連続施工、岩着RCDコンクリート、狭隘部のRCD工法
1.はじめに
五ケ山ダムは、2級河川那珂川(流域面積124km2、流路延長35㎞)の上流に、洪水調節・流水の正常な機能の維持・水道用水及び異常渇水時の緊急補給を目的として、福岡県が建設を進めている多目的ダムである。
那珂川の流域では、たびたび洪水被害が発生しており、近年においても平成11、15、21年に家屋浸水などの被害が発生している。
一方で、福岡都市圏ではたびたび渇水被害が発生しており、特に昭和53年には287日間、平成6年には295日間に及ぶ給水制限がなされている。
このように、洪水被害・渇水被害の軽減のため、早期完成が強く望まれているダムである。
2.ダムの概要
主なダムの概要は表-1に示すとおりであり、福岡県が管理するダムでは、総貯水容量、ダム規模ともに最大となる。
3.巡航RCD工法とは
巡航RCD工法とは、従来のRCD工法をより効率化・高速化し、打設速度を高い水準で維持する施工法であり、従来のRCD工法とは異なる下記の4つの特徴を有している。巡航RCD工法の施工概念図を図-2に示す。
①RCDコンクリートを先行して打設
②RCD端部は専用締固め機で締固め
③打止め型枠が不要、任意の場所で打止めが可能
④外部コンクリートは、RCDコンクリート打設と分離し後打設する。
巡航RCD工法は、これまで嘉瀬川ダム、湯西川ダム、津軽ダムの3ダムで堤体コンクリート打設の一部分の施工で採用され、従来のRCD工法より施工が合理化され効率化・高速化することが確認されている。
当ダムでは、この巡航RCD工法を、従来のRCD工法で予定した箇所で施工することとした。
施工にあたっては、『五ケ山ダム巡航RCD検討委員会』を設立し、さらなる合理化のための方法や必要な品質を確保する方法等について、専門的な意見や、施工の評価をいただきながら進めた。
4.高速施工の取り組み
五ケ山ダムで高速施工を目的として新たに取り組んだ施工技術は以下の4項目である。
①端部法面締固めにFPC(Flat Plate Compactor)を採用
これまでの3ダムでは、写真-2のような二面拘束型締固め機で端部法面締固めが実施されてきた。
この機械では、端部法面形状が固定されるため締固めを行う前に、バックホウによる端部法面整形(削取り)が重要な工程となっていたが、施工手間が増加することや、傾斜している下流面型枠と干渉するため外部コンクリート幅が広くなる傾向があった。
これに対し、FPCでは、写真-3のような平プレートにより端部法面の締固めを天端と斜面とそれぞれ一面ずつ締固めることができるため、バックホウにより行われていた事前の法面整形は、FPCに取り付けたバケットによる法裾の大玉処理だけで済み、作業効率が上がると共に外部コンクリート幅を設計幅に収めることが可能となる。
なお、FPCについては、試験施工により施工仕様を決定し実施工に導入した。
② 2リフト連続施工
これまでの3ダムでは、図-3に示すように1リフトの打設を完了させてから次のリフトの打設を行う『1リフトの施工』であった。この施工方法では、次リフト移行時に有スランプコンクリートの養生・硬化待ちが発生し打設効率が落ちる課題があった。
これに対し、当該リフトの有スランプコンクリートと次リフトのRCDコンクリートを並行して打設を行う『2リフト連続施工』はリフト間の待ち時間が解消され、効率的な打設を行うことが可能となる。
当ダムでは、計画段階より『2リフト連続施工』を前提としたコンクリート運搬設備を配置し、コンクリート製造設備の能力を最大限発揮できるよう打設の効率化に取り組んだ。
③岩着部RCDコンクリート施工法の技術開発
これまで、一般にRCD工法を採用したダムにおいては、不陸凸凹のある岩着部には、基礎岩盤と堤体コンクリートを確実に一体化し、密実で水密性に優れ、かつ必要強度を確保するため、有スランプコンクリートが用いられていた。
しかし、この有スランプコンクリートの打設は施工効率を低下させることとなっていた。
このため、岩着部コンクリートの要求性能を満足するGmax40㎜の岩盤部RCDコンクリート施工法の技術開発を行い、打設の効率化に取り組んだ。
④狭隘部のRCD工法の実用化
これまでの、RCD工法で施工されたほとんどのダムでは、堤体の上下流幅が15m程度以下となるリフトより高標高部については、主に下記の理由により有スランプコンクリートを用いたELCMによって施工されている。
A)施工幅が狭くなるとブルドーザの施工性が悪くなりGmax80㎜のRCDコンクリートでは、材料の均質性を確保することが難しくなること。
B)RCDコンクリートを運搬するダンプトラックとブルドーザとのすれ違い等に必要となる施工幅が十分確保できず、施工の安全性が低下すること。
これらA)B)の事象についてはGmax40㎜のRCDコンクリート及び巡航RCD工法の施工特性を生かすことで、施工幅の狭い場所でもRCD工法による施工が可能となる。
当ダムでは、84~85リフトをRCD工法による施工を実用化し、施工の効率化に取り組んだ。
5.高速施工の効果
①端部法面締固めにFPCを採用
FPCにより端部法面締固め時に事前の法面整形の簡素化が図れ、施工性が向上した。
さらに、リフト厚が変化する重機移動等で必要な斜路や、夏季期間に実施したハーフリフト等のリフトの変化にも自由かつ効率よく端部法面の締固めが可能となり、従来の機械に比べより効率的に施工できることとなった。
斜路の施工状況について写真-4に示す。
②2リフト連続施工
当ダムでの巡航RCDの施工区分について図-4に、打上り速度実績について表-2に示す。
打上り速度実績は、『1リフトの施工』が4.7m / 月に対し『2リフト連続施工』では6.0 m /月となり、約1.27倍の打上り速度で施工ができた結果となっている。打設量についても平成26年9月から平成27年6月の約10ヶ月間で約600,000m3の施工を行うことができた。
なお、前述のとおり『2リフト連続施工』を可能にするためには計画段階から異種配合のコンクリートを異なる打設箇所に同時並行で運搬可能な計画をする必要がある。当ダムでは、定点供給設備のSP-TOMと、空中輸送設備の18t固定式ケーブルクレーン等の組合せにより対応した。
③岩着部RCDコンクリート施工法の技術開発
当ダムのEL.365 m以上では掘削勾配が緩くなることから、岩着コンクリートの水平施工幅が広く打設量が多くなる53リフト(EL.369.5m)から85リフト(EL.396.5m)において岩着部RCDコンクリートによる施工を実施した。
施工実績は表-3のとおりであり、岩着部を有スランプコンクリートで施工した51リフトと、岩着部350m3の打設を岩着部RCDコンクリートで施工した53リフトの打設速度より、岩着部RCDコンクリートで施工した部分を有スランプコンクリートで打設した場合には約8時間(350m3÷ 41.1m3 /h)となるのに対し、岩着部RCDコンクリートで打設することにより約3時間(350m3÷ 147.8m3/h)へと約5時間相当短縮されていることが確認された。
④狭隘部のRCD工法の実用化
室内試験及び試験施工により決定したGmax40㎜のRCDコンクリート配合と施工仕様により、本来ELCMで施工する予定であった84 ~ 85リフトにおいてRCD工法による施工を実施した。
84~85リフトにおけるRCD工法の平均打設速度は約76m3 /h であった、これに対しELCMで打設した86リフトは約75m3/h であり、上下流幅の狭い堤頂部においてGmax40㎜のRCDコンクリートを使用し施工することで、ELCMと同等の施工速度が確保できることが確認された。
施工状況写真を写真-5~写真-6に示す。
なお、当ダムの施工では、85リフトでRCDコンクリートの施工幅が8m程度であり、これより高標高部の施工は、敷均しに使用した16tブルドーザの施工の安全上からELCMにより施工した。より狭い箇所への適用については、外部コンクリートのプレキャスト化や施工機械の小型化等により実施されることに期待したい。
6.堤体コンクリート打設実績
五ケ山ダムでは、前述のとおり、巡航RCD工法の全面的な採用及び新たに実施した施工技術によりコンクリート打設の高速施工に取り組んだ。
発注時のコンクリート打設計画は、固定式20tケーブルクレーン(以下「20tCC」という)2 条のコンクリート運搬設備を設置し、堤体上の運搬設備及び打設設備は20tCCの運搬能力(最大196.2m3 /h)に合わせ計画することにより、月最大の打設量は約5万m3、コンクリート打設工期については26ヶ月と計画していた。
これに対し、本体施工業者である、鹿島・飛島・松本特定建設工事共同企業体(以下「堤体JV」という)の計画では、18tケーブルクレーン1条、SP-TOM、及び6.5tケーブルクレーン1条の運搬設備で施工を行い、コンクリート打設期間を23ヶ月に設定し施工を進めた。発注時の打設計画、堤体JVの打設計画及び施工実績について表-4、図-5に示す。
表のとおり、巡航RCD工法を開始する平成26年6月までは堤体JVが設定した計画を下回っていたが、巡航RCD工法を開始後の平成26年10月には、月最大打設量76,067m3 /月を記録し、当初計画を上回った。その後も順調に推移し計画を上回った。
平成27年7月12日からELCMに切替えたが、これは堤体JVが当初計画していた時期より約1.5ヶ月早い時期であった。その後、高標高部で多少時間を要することがあったが、打設計画になかった非越流部のプレキャスト高欄の設置までを含め予定していた23ヶ月で打設を完了した。
7.おわりに
当ダムでは、前述した4項目について取組み本体コンクリート打設を実施した。
これにより、コンクリート打設期間を26ヶ月から23ヶ月に約3ヶ月短縮することができ、基礎掘削や天端橋梁架設の短縮を合わせると約1年の事業工期の短縮が図ることができた。
最後に、当ダムの巡航RCD工法の取り組みに多大なる尽力頂いた鹿島・飛島・松本特定建設工事共同企業体、大成・間・松尾特定建設工事共同企業体の皆様には厚くお礼申し上げます。
また、巡航RCD工法の基本技術や新技術開発に際して、藤澤侃彦(一般財団法人ダム技術センター)をはじめ『五ケ山ダム巡航RCD工法検討委員会(委員長:長瀧重義東京工業大学名誉教授)』の委員の方々には、的確な評価をいただきました。
あらためてここに記して感謝の意を表します。