九州管内における道路切土のり面の施工事例について
建設省佐伯工事事務所
所長
所長
碇 公 男
建設省九州地方建設局
道路工事課 課長
道路工事課 課長
椛 島 誠 吾
建設省九州地方建設局
道路工事課
道路工事課
桜 井 敏 朗
1 まえがき
道路のり面の設計に当たっては,当該地区の地形・地質・道路環境・気象等の多くの条件を考慮し,のり面工の設計基準に基づいて,勾配,小段,保護工,排水工等の設計が成されているが,現地に応じた経験的判断も加えているのが一般的である。本報告は,今後の切土のり面工の設計に際し,その判断資料として活用されることを目的として,九州管内の建設省直轄の一般国道を主体に,一般的な設計によって施工されたのり面100箇所について調査したものである。
2 調査方法数
切土のり面の設計・施工は,大きく地質と地形の2つの素因に支配される場合が一般的である。地質については,3で説明するような九州内の地質分布状況から判断して,本調査の目的のために表ー1の様に概ね以下の9種類程度に分けて,各地質地山とそれに対する様々なのり面工を広範囲に抽出した。調査の対象となった道路を図ー1九州地質略図に併記する。
3 九州内の地質概要
九州の地質は,中央構造線と見なされる臼杵ー八代構造線以北の内帯と呼ばれる中北部九州地域と,この構造線以南の外帯と呼ばれる南部九州地域に大区分される。
内帯には,古生層・変成岩・花崗岩・中生層・古第三紀層の古期岩類に,新生代火山岩類としての九州北西部の玄武岩類や大分県北部~福岡県南部および熊本県北部一帯の豊肥火山岩類が分布する。外帯には,古・中生層を主とする秩父帯・四万十層北帯と古第三紀~前期中新生層の四万十層南帯(日南層群等)に,新第三紀堆積岩類の宮崎層群,第三紀の肥薩火山岩類および第四紀火山岩類として姶良・阿多・耶馬渓カルデラを起源とする火砕流堆積物が分布する1)。
4 調査結果
1)地質とのり面勾配
図ー2は,各地質におけるのり面平均勾配の施工事例を示したものである。全体的な傾向としては,主として1:0.3~1.2の範囲を示すが,地質によって異なる分布域がみられる。第三紀層,溶岩類については,緩勾配の施工例が見受けられる。これらの地質は,風化,破砕等による岩質の変化が大きいもので,特に第三紀層は非常に幅広い範囲に分布する。これは,第三紀層の特徴である層理面傾斜,風化,スレーキング,応力解放による脆弱化など,多くの工学的問題が反映しているものと思われる。
2)地質とのり面工種
地質とのり面工種の関係については,各地質に対して対象のり面を各小段ごとに分解し,その工種の頻度を検討した。のり面工の内訳は,表ー2通り14工種に数えられる。これらの工種は,目的・特徴によりA~Eに分類される。
各地質とのり面工の関係は図ー3(a),(b)に示す通りであり,それらの傾向をまとめると表ー3の様な傾向が伺える。
5 施工事例の考察
4 1)~2)では全体的な領向を示したが,個々の事例について代表的あるいは留意すべきのり面について,各地質別に取り上げて説明する。
1)中・古生層
全般に硬質な岩が大勢を占めているが,構造的な攪乱による脆弱部を内在する所も多い。一般に,軟質部ではコンクリート張工と岩盤緑化工,硬質部ではモルタル吹付工の事例が多く見受けられるが,国道3号鹿児島県阿久根市大川(写真ー1)の事例では,地山自体はやや硬質であるが,密な層理を成しており脆弱化し易いために,4段のり面全体に対して,コンクリート張工で押える工法が採用されている。
2)第三紀層
砂岩および頁岩の層理面構造は,層理面傾斜や割れ目の発達を伴い,風化,湧水等により問題の多い地層であり,のり面工も多様である。脆弱部あるいは流れ盤に対しては,コンクリート擁壁工,吹枠工,コンクリート張工,プレキャスト枠工等でのり面を抑えている。流れ盤構造のところでの崩壊変状等が見られた例として,国道201号福岡県粕屋郡篠栗町福岡東バイパスののり面では,挟炭層が切土による応力開放によって地下水の通水層となり,頁岩層を脆弱化させて,層理面すべりを誘発させたものと推察される。そこでのり面の緩勾配化を図り,吹付枠工とアンカー工を併用したことで安定性を確保している。また,国道220号沿線(写真ー2)の日南層群および宮崎層群が分布する地域では,受け盤構造のり面に対して,風化および落石対策として急勾配のり面(1:0.3~1:0.5)へのモルタル吹付工あるいは落石防護網工法を施している。
3)溶岩類
岩相は,節理を伴う硬質部が主体を成すが,部分的には風化によって著しく土砂状を呈する所が見られる。のり面工は,硬質部でモルタル吹付工,軟質部ではプレキャスト枠工等の採用が多く見られた。佐賀県多久市県道(写真ー3)の事例では,板状節理の発達した玄武岩のり面に対して,のり面上部の敷地の制約を受けて,1:0.3の急勾配のり面による大型の特殊なプレキャスト枠工+アンカー工併用による事例が見られた。
4)凝灰角礫岩
凝灰角礫岩の性状は固結の程度,角礫の混入割合と大きさなどによって様々であり,これに応じてモルタル吹付工,コンクリート張工,もたれ擁壁工等多種におよぶ。国道10号鹿児島県鹿児島市吉野町および国道212号大分県下毛郡耶馬渓町(写真ー4)では固結度が高くほぼ直立したのり面で,無処理およびモルタル吹付ののり面工法が見られる。しかし,長期的な安定に対しては角礫の崩落および表面剥離の危険性が多く,安定したのり面工法を必要とすると思われる。
5)溶結凝灰岩
溶結凝灰岩は,火砕流堆積物のうちの溶結部を指す。これらの多くは柱状節理を伴い,岩質は割合に堅硬である。
そこで,急崖で節理構造を利用して階段状に整形したのり面が多い。従って,のり面は急勾配によるモルタル吹付工の事例が多い。代表的なものとして,国道210号大分県日田市天瀬町(写真ー5)があり,節理によるトップリング崩壊防止のためにコンクリート張工とロックボルト併用した工法がのり面の一部に用いられている。
6)しらす
しらすは,火砕流堆積物のうちの弱~非溶結部を指す。調査対象箇所では,大半が中硬質しらすに相当するものが多く見られた。これらは,比較的急勾配で安定しているが,一般に雨水による浸食に弱い特性を有しており,のり面工法はモルタル吹付工が多く採用されている様である。また,軟質部では,1:1.0以上の緩勾配でプレキャスト枠工,ブロック張工が用いられている。のり面上部のローム層に対しては植生工を用いられることが多い。鹿児島県川辺町の町道ののり面では,1:0.3の非常に急勾配かつ高いのり面でのモルタル吹付工の例が見られるが,一般に「しらす土工指針(案)」(九州地建)に準じた施工がなされ,ほぼ安定したのり面を維持している。なお,国道226号鹿児島県指宿市喜入町(写真ー6)での待受けの擁壁工は,しらす急崖部に対する一工法として参考になる事例である。
7)花崗岩類
花崗岩類は,切土対象となる所では風化によってまさ土化している所が多い。のり面工法の特徴として,岩質部では1:0.3程度の急勾配,まさ土部では1:1.0前後の勾配の使い分けが成されている。岩質部のり面として,国道202号福岡県糸島郡二丈町では,1:0.3の急勾配で落石防止網工のみが採用されている。また,まさ土部のり面として,国道202号佐賀県東松浦郡浜玉町(写真ー7)に代表される様な,プレキャスト枠工に植生工を併用した事例も多い。
8)変成岩類
変成岩体の切土のり面では,片理面と割れ目の密な発達によって,地山の脆弱化を成すところが見られ,崩壊および変状を生じさせる素因となっている。のり面工は,モルタル吹付工,吹付枠工,コンクリート擁壁工が多用されている。国道326号線の宮崎県東臼杵郡北川町山瀬および深瀬(写真ー8)に見られるのり面では,脆弱な岩体を切土することによって,変状を生じたものと思われ,吹付枠工,大型プレキャスト法枠工+アンカー併用工法を用いた安定対策の事例が見られる。
6 あとがき
調査結果から,未固結土やまさ土のり面を除いて,モルタル吹付工が多用されている。この工法は,施工性が良く適用範囲が広くかつ安価であることが要因となっていると思われる。多くのモルタル吹付のり面を観察したところでは,古いのり面ほどクラックの発生が多く認められ,損傷の度合いも大きく,そこに雑草や雑木が根を生やして傷みを助長しているケースもあった。それに,周辺の景観に馴染み難い点があり,安易な多様化の実態に対して注意を促したい。また,第三紀層および変成岩類では,層理面の領斜や節理面の発達に伴う地山の脆弱化を成すところが見られ,抑止効果の高いコンクリート擁壁,のり枠工とアンカー工併用による事例が多くみられた。しらすは,一般に雨水による浸食に弱い特性を有しているが,「しらす土工指針(案)」(九州地建)に準じた施工が成され,ほぼ安定したのり面を維持している。景観を考慮したのり面も数箇所見られ,今後は道路環境に対するニーズも高まる方向を踏まえ,景観に対する配慮も積極的に取り組む必要があると思われる。
調査を行ったのり面は,実に多種多様である。本調査結果は,今後,のり面工法を設計する場合に,地質や地形,周辺環境等の諸要因を多角的な観点から検討および判断する資料として,十分に活用されれば幸いである。
参考文献
1)三浦三郎:九州の地質,土と基礎,Vo136,No.3,PP.15-20,1988.