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道守みちもり」 古代からの遺伝子
~地域の道をだれがいかに守っていくか~

長崎大学 工学部長・工学研究科長 教授
松 田  浩

長崎大学工学部インフラ長寿命化センターは平成18 年に設立されました。当時は小泉政権下、郵政民営化の旗印の下に、道路公団民営化や道路特定財源の一般財源化がなされた時代です。
観光立県を推進する長崎県には、「明治日本の産業革命遺産」や「教会群とキリスト教関連遺産」等の観光資源が半島や離島に点在し、それらを結ぶ道路、渡海橋、港湾等のインフラ構造物が多数存在し、現在老朽化が進行しています。一方、県財政状況は厳しく、土木事業費は削減され、維持管理費の増額も見込めない状況にあります。
このような中、道守養成講座は平成20 年度から文部科学省「科学技術振興調整費」の支援により開始されました。長崎県内の自治体職員、建設業界、地域住民を対象とし、まちおこしの基盤となる道路インフラ施設の維持管理や長寿命化に係る各種技術レベルを有する技術者を養成する道守養成講座を確立してきました。長崎大学で養成してきた“ 道守” は、平成26年に国土交通省の「社会資本の維持管理及び更新を確実にするための民間資格」として登録され、長崎県橋梁点検業務委託事業や国交省九州地方整備局の総合評価落札方式において配置技術者の評価に組み込まれるようになりました。
平成26年から開始された科学技術振興機構(JST)のSIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」では、①点検・診断、②補修・補強、③情報・通信、④ロボット、⑤アセットマネジメント、等々の先端技術の開発・実装が推進されています。平成28 年からはSIP 研究開発成果等の情報共有、自治体等への実装支援、インフラ人材育成を目的として、地域実装チームが形成され、全国各地でSIP 技術開発等の社会実装が進められました。長崎県でも道守の方々と共にSIP 等で開発されたインフラ点検技術の実証試験を実施しています。
「インフラとは“ 人間が人間らしい生活を送るために必要な大事業” である」との「ローマ人の物語」の一節を講演等でよく引用しています。また、質の高い交通インフラを有するドイツでも「国民生活を豊かにするため」として更なる投資が実施され、国際的に見ても「公共インフラへの投資増大は残された数少ない成長促進のための政策手段である」と、その重要性は随所で説かれています。
日本でも遥か律令制時代に大化改新の詔で謳われた古代の道「七道駅路」が造られました。利他行の行基は民衆に入り、橋がない所には橋を架けました。現代の行基と言われるペシャワール会中村哲医師は、アフガン難民の診療をきっかけに、井戸・水路工事による水源確保事業などの支援活動を続けておられます。
2050年には現居住地域の6 割で人口が半減し、それとともに老朽インフラ増加、技術者減少、維持管理費用増大が予測されています。一方では、安全で便利な世界に先駆けた次世代インフラの構築が求められています。長崎大学では、インフラ整備への地域住民の協働参画として「道守」養成事業と、SIP インフラ等で開発されている先端技術の社会実装の活動を進めています。インフラ整備の重要性を市民合意として広く浸透させることが最大のミッションです。「インフラ整備」という古代からの遺伝子は、道守、山守、川守、海守等のDNA にも引き継がれていくべきだと思います。

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