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九州技報 第6号 巻頭言

佐賀大学 理工学部教授 
(前 佐賀大学 理工学部長)

高 田  弘

数十年もの間,大学で土木工学の教育に携わっていると,社会の移り変わりに応じて,土木技術そのものの変化はもちろん,この分野を志望する学生数の増減や考え方の変化等が敏感に感じられて,大変興味深い。
元来,土木技術というものが国土の保全や社会基盤の整備を主たる目的とする以上,歴史の流れ,社会思潮やライフスタイルの変化,価値感の多様化等と密接に関連し,いわゆる社会工学的特性が強いことは当然である。
“技術は時代を創る”というけれども,また“技術は時代とともに”変化し,これに対応してゆくもので,常にそれらとの調和,整合を考えていかないと,単なる職人的な狭い視野の中で,硬直した技術観に留まっていたのでは,それぞれの時点での展望は開けないであろう。
しかし,われわれ土木屋の世界を見渡すと,必ずしも柔軟な対応がなされているわけではなく,新しいニーズや工学のソフト化に戸惑ったり,あるいは様変わりした仕事の分野で苦労したりする反面,逆に頑迷な古さを誇示したり,存在価値を見いだそうとするような面もあって,むしろ,他の分野に比べてそのような対応が不得手な体質を根強く持っているように思われる。
最近,大学の土木系学科にも女子学生が入学してくるようになって,かなり様変わりはしてきたけれども,全般的には必ずしも多くの優秀な若者達がこの分野を自分等の世界として歓迎しているわけではない。
意欲のある若者達が時代感覚との違和感なしに,この分野に愛着と希望を持ってくれるようにするためには,われわれ自身の従来の考え方ややり方にも反省すべき点が多く,体質改善も必要である。
一方,今後の土木技術分野を考えた場合,国土保全や防災,あるいは高速交通ネットワーク,水資源や大型リゾート開発等,数多くのプロジェクトがあるが,最も大きな問題としては,やはり,都市の開発整備の問題を挙げることができる。
全人口の70%以上が都市地域に住むわが国では,快適な都市環境と住環境の整備こそが緊急な課題であり,衣食は足りても真の豊かさが感じられない原因の多くがそこにあることを銘記すべきである。
外国で土地やビルを買い漁るような,いわゆるジャパンマネーが余っているのなら,むしろ国内の都市整備に振り向けるような施策を講じて貰いたいと思うし,繁栄をきわめている現在こそ,100年の大計を実行する好機であろう。
われわれもまた,土地問題や環境問題等をもっと広い視野から考えて,将来の都市のあり方やそれに関連した整備技法についての研究を進め,重厚な欧米の都市に負けないような“まち”を後世に残す責務があるのではなかろうか?
土木技術というものが単なる強度や効率の計算という面だけでなく,いろいろな価値感の上に立って,快適な社会生活を創造し,デザインしてゆくものであることを強力にアピールすることによって,ロマンと夢をもった優秀な若者がより多くこの分野を志し,新しい感覚で生き生きと活躍してくれることを期待したいものである。

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