九州技報 第14号 巻頭言
建設省九州地方建設局 局 長
荒 牧 英 城
「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉がある。なるほど,雲仙普賢岳の火山活動は200年の眠りを覚ましたもので,まさにその言葉通りの感があるが,風雨による災害は,九州においては忘れる暇もなくやってくる。
九州は,シラスや有明粘土層などの独特な土壌条件を持ち,また梅雨前線が停滞しやすく強い台風が襲来する地理的条件を有するなど災害にあいやすい状況にあり,洪水,土石流などによる従来型の災害から風倒木など新しいタイプのものまで,まさに「災害のデパート」という感がある。
今年は,九州各地で雨に悩まされたが,特に鹿児島を中心とする南九州では記録的な長雨と豪雨により,各地で人命,住宅あるいは交通網の杜絶など大きな被害を被った。災害による死者は九州各地で143名,鹿児島県内だけでも118名にものぼっている。しかし,今年の被害の状況からみても,近年の自然災害は戦後間もない時期のそれに比べると,その規模,原因などかなり様相が変ってきているように思われる。すなわち,大河川の氾濫による広域的な被害は少なくなり,局所的な土砂崩れや都市河川,内水の氾濫によるものが多くなっている。このことから,過去の災害を知る人には,「雨の割には被害は少なくて済んだのではないか」と評価する人も多かった。
これは,厳しい自然条件を有する九州においては,従来から治水事業に大きなウエイトが置かれ,多くの努力が積み重ねられた成果の表われであると言えるだろう。下筌,松原の両ダムにおいては合計6万m3にものぼる流木が流れ込んだが,ダムのおかげで,流木による下流域への被害を未然に防ぐことが出来た。これなどは,ダム建設の時には予想もされなかったダムの効果ではなかろうか。また,佐賀の低平地においては,六角川などを中心とした激特事業が進められたことから,今年は比較的軽微な被害ですんだことなど,その例として挙げることが出来よう。
しかし,直轄河川20水系のうち,19水系において警戒水位を突破し,川内川や五ケ瀬川など5つの河川では計画高水位以上の水位が観測された。8月9日~10日にかけての台風7号による五ケ瀬川の出水は,計画高水流量(6,000m3/s)を500m3/sも上回る大きなものとなり,下流の延岡市では深夜に約6,400人の市民が避難するという事態となった。幸い大被害にはならなかったが,降雨,潮の干満の条件が少しでも違っていたら大被害になったのではないかと言われている。ダムや堤防をつくるには,多くの費用と長い時間を要することから,今年の災害をみるにつけても,地道に災害に強い国土づくりの努力を続ける必要があることを痛感させられる。「災害への備えは,日々の努力の積み重ね」ではないだろうか。