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国道35号 佐賀県武雄市 踊瀬おどりせ視距改良工事の施工報告
~切土のり面のスレーキング崩壊に対する緊急対策~

国土交通省 九州地方整備局
佐賀国道事務所
専門調査官
平 石 貴 義

キーワード:視距改良事業、スレーキング、法面・斜面安定化対策

1.はじめに
国道35号は、佐賀県武雄市を起点とし、有田焼の産地である西松浦郡有田町を経由して、長崎県佐世保市を終点とする重要な幹線道路である。
今回報告する踊瀬地区は、平面線形が連続した急カーブの先に狭隘なJR佐世保線の踊瀬跨道橋(煉瓦アーチ橋)が国道を横断するなど、視認性が悪く交通事故が多発する箇所である。このような背景を踏まえ事故ゼロプラン対象箇所として、交通事故の削減、安全性及び走行性の向上を目的として、平成20年に視距改良事業に着手し、令和7年3月に完成・供用開始した。
事業推進にあたっては、現道拡幅とバイパスを組合わせ、JR佐世保線を供用させながら国道をアンダーパス施工で計画する一方、当該地区周辺一帯はスレーキング特性の強い地質が分布する等、道路法面等の安定性に留意しながら計画~設計~施工を進める必要があった。
本稿では、地形地質に関連する複数の制約条件を加味しながら事前に法面等の安定化対策を行った事例や施工中に発生した法面崩壊等の対応結果等を報告する。

図1 位置図

図2 視距改良事業平面図

写真1 視距改良工事後(現況写真)

2.踊瀬地区の地形地質等
(1)広域的な地形地質
当該地は、佐賀県武雄市中心から西南西約3kmに位置し、広域的には300~ 600m級の山地が広がる。当該区間は武雄市北方の蓬莱山(329.7m)から南南西に延びる低山地を横断しながら終点側(有田町)にかけて徐々に高度を上げてゆく区間であり、国道と並行するJR佐世保線とは区間中間部で交差している。
当該地周辺は新生代古第三紀杵島層群の行合野層砂岩の分布地域である(図-3)。周辺の露頭や調査ボーリング結果では砂岩の他、凝灰質泥岩、砂質泥岩等が確認された。地質構造は走向NW-SE(平均N50°W)、SW(平均20°S)傾斜となり、視距改良区間に対して流れ盤となる部分が卓越する。
また周辺には西岳玄武岩類と呼ばれる輝石玄武岩の貫入岩体や断層が多数分布し、これらは当該地周辺の地質構造(NW-SE)と同方向に分布している。
杵島層群は唐津~伊万里~武雄~佐世保にかけて広く分布する地質である。分布域には多数の斜面変動が確認され、平成30年10月国道497号府招地区の大規模法面崩壊等もその一つである。

(2)視距改良区間の地質・微地形分布等
上記の地質特性を踏まえ、視距改良検討と併せて区間周辺における地質性状や斜面変動に起因する微地形の分布調査、主たる変動地形における調査ボーリング等を実施した。
図-4 に示すとおり、区間全体にわたって崩壊地や崖錐地形、明瞭な地すべり地形等の多数の変動地形が分布している。また流れ盤となる地質構造に加え、断層や玄武岩類の貫入の影響等で杵島層群の堆積岩類は破砕質な地質であること、ボーリングコアを用いた室内岩石試験からはスレーキング特性を有する岩質が確認されること等、法面・斜面が不安定化しやすい素因を有している。
写真-2は当該区間のJR跨道橋床掘掘削時に、切土後の応力解放によって掘削面の砂質泥岩がスレーキングし、不安定化した状況である。

図3 広域地質図(ノンスケール)

写真2 スレーキング状況(JR跨道橋床掘時)

3.細区間毎の法面・斜面対策等
視距改良区間は、地形状況(尾根型・谷型地形、崖錐地形、地すべり地形等)、地質性状(杵島層群堆積岩類、玄武岩類、崖錐堆積物等)、地質構造(流れ盤の有無等)、道路構造(切土規模や方向等)、JR線の有無等の各種条件の組合せによって法面・斜面の安定性や施工条件等に相違が生じる。このため視距改良事業に伴う切土法面・斜面対策は地形や地質に応じて細かく区分して検討・設計し、改良工事を進めた。

図4 変動地形分布図

(1)No.22+18 ~ No.27+00 付近(上り・下り)
当該区間は事前の地質調査段階で法面安定に影響するような地質や変動地形が認められなかったため、切土勾配1:1.0(植生工)として法面施工に着手した。しかし、法面下段では細粒砂岩とスレーキング性の強い泥岩が法面に対して見かけの傾斜上、やや流れ盤気味で互層状に狭在し、泥岩部の浸食と切土後の緩みによって細粒砂岩部が小ブロック状に崩落しやすい法面状況が確認された(写真-3)。以上から、法面保護工として法枠工を施工した(写真-1)。

写真3 区間(1)法面状況、図5 区間(1)の代表断面図(最下段に法枠工施工)

(2)No.28+4 ~ No.29+18 付近(上り)
当該区間はJRに近接する新規切土法面(3段)であり、切土施工後に上部2段(泥質砂岩のD級とCL級の境界部)において法面崩壊が発生した箇所である(写真-4)。法面崩壊は風化岩すべりで崩壊要因は表-1 に示すとおりであった。
各種調査・解析結果を踏まえ、対策工の比較検討(第1案(排土)、第2案(排土+ 切土補強)、第3案(押え盛土)、第4案(抑止工))を行った結果、JRや背後斜面への影響が小さく、経済性に優れる第4案(抑止工 法枠+ 鉄筋挿入工)を採用した。また誘因の一つである過剰間隙水圧に対しては、横ボーリング工を崩壊面(D級とCL級の境界付近)に設置し、工事を再開した(図-6・7)。
さらに上記崩壊やJR跨道橋床掘掘削時の事象を踏まえ、当該区間の下部法面を含めた法面対策を見直した。下部法面の泥質砂岩が分布する範囲では、スレーキング特性、流れ盤としての評価、切土後の応力解放による地山劣化等を考慮して、当該区間の切土勾配は1:1.2 が妥当であると判断した。その結果、現況施工済みの法面勾配1:1.0に対する安定性確保を目的として、「法枠工+鉄筋挿入工」(枠内密閉型/ モルタル)による法面抑止を行うこととした。

表1 崩壊要因整理表

写真4 区間(2)崩壊箇所の写真

図6 区間(2)対策平面図

図7 区間(2)崩壊箇所の対策復旧断面図

(3)No.34+8 ~ No.37+5 付近(上り)
当該区間は事前の微地形分布調査で2つの尾根型斜面の先端部に地すべり地形が確認された(図-8)。そこで調査ボーリングを実施し、地形・地質性状に応じた測線を設定し、法面・斜面の安定化検討を行った。以下に当該区間の各測線の特徴を示す。
① E 測線(尾根型斜面):背後に広範囲にわたり崩積土が厚く分布する。尾根先端部に地すべりブロックが想定され、切土法面・背後斜面の安定性確保が必要となる。
② F 測線(尾根型斜面):尾根先端部に未固結土砂が分布する。この未固結層を移動土塊とする地すべりブロックが想定され、切土法面・背後斜面の安定性確保が必要となる。
③ E 測線-F 測線間(谷型斜面):尾根に挟まれた谷地形である。軟弱な未固結層が分布し、地表水の流下も確認される。降雨時の切土法面からの多量の湧水や湧水に伴う法面不安定化が懸念される。
各種検討結果より、① E 測線、② F 測線とも斜面内の崩積土を移動土塊とする地すべりブロックの安定性確保を目的として、「長尺鉄筋挿入工による抑止対策(+法枠工)」を実施した(図-9・10)。③ E 測線-F 測線間の谷型斜面に対しては、浅層地下水排除や周辺一帯の地下水位低下が当該区間全体の斜面・法面安定化に効果的であると考え、区間全体に横ボーリングを実施し、豪雨時の地下水上昇を抑制する対応とした(写真-5)。

図8 区間(3)地すべり分布図(E測線・F測線)

図9 区間(3) 対策工断面図(E測線)

図10 区間(3)対策工断面図(F測線)

写真5 区間(3)対策工事後の状況

4.おわりに
既述のように、国道35号踊瀬地区に分布する杵島層群の堆積岩類は特有の地盤特性(スレーキング、流れ盤等)によって一連の視距改良工事において様々な法面・斜面対策を行いながら工事を進める必要があった。
本施工報告が同種、同様な地形地質での対応が必要となる施工現場の一助となれば幸いである。
最後に、本事業の完成を迎えることができたのも、事業へのご理解・ご協力をいただいた地元住民や関係機関の皆様、厳しい現場条件で奮闘いただいた施工業者や各調査・設計コンサルタントの皆様など、多くの方々のご尽力の賜物であり、この場を借りて感謝申し上げたい。

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