全国初!内外水統合型多段階浸水想定図・
水害リスクマップの公表(白川)
~水害版企業BCP策定支援(流域治水の推進)~
水害リスクマップの公表(白川)
~水害版企業BCP策定支援(流域治水の推進)~
国土交通省 九州地方整備局
熊本河川国道事務所が
流域治水課
熊本河川国道事務所が
流域治水課
古 賀 千 裕
キーワード:多段階浸水想定図、水害リスクマップ、企業BCP
1.白川流域について
白川は、その源を熊本県阿蘇郡高森町の根子岳に発し、熊本平野を貫流し、有明海に注ぐ一級河川である。下流部には平成24年4月に全国で20番目(九州で3番目)に政令指定都市に指定され、約74万人(R7.3 時点)が暮らす九州第三の都市・熊本市が位置する(図-1)。

白川は上流域が急勾配であり、下流域が緩勾配であるとともに、有明海の干満の影響で洪水が流れにくいため、下流域で氾濫しやすいといった特徴をもっている。
また、市街部等では堤内地盤高が河川から離れるほど低くなっており、一旦氾濫すると甚大な被害が発生する危険性がある。昭和28年6月26日には戦後最大規模の洪水が発生し死者・行方不明者422名、市街部では2.3~3.4m浸水するなど甚大な被害が発生した(図-2)。その後も、昭55年8月、平成2年7月、平成24年7月の九州北部豪雨では沿川各所での洪水氾濫によって甚大な被害が発生した。

2.内外水統合型多段階浸水想定図・水害リスクマップ
国土交通省では、土地利用や住まい方の工夫の検討及び水災害リスクを踏まえた防災まちづくりの検討など、流域治水の取組を推進することを目的として、発生頻度が高い降雨規模の場合に想定される浸水範囲や浸水深を明らかにするため、「多段階の浸水想定図」及び「水害リスクマップ」を作成・公表している。
白川では、国管理区間からの外水氾濫状況を示した多段階浸水想定図・水害リスクマップを公表していたが、水災害リスクをより詳細に明らかにするため、全国初となる下水道等の内水氾濫も考慮した内外水統合型の多段階浸水想定図・水害リスクマップを令和7年2月12日に公表した。
多段階浸水想定図は、外水と内水でそれぞれ降雨量が異なる年超過確率規模(1/10、1/30、1/50、1/100、1/150(計画規模))により想定される浸水範囲を浸水深のランク別に区分し、異なる色で示した地図で、避難へつながる浸水リスクを把握できる(図-3)。
今回新たに考慮した内水氾濫の条件は、「多段階の浸水想定図及び水害リスクマップの検討・作成に関するガイドライン R5.1」に基づき設定し、検討を行った。
内水氾濫の条件として、白川で発生した過去の主要な洪水波形から、本川水位が堤内地よりも高い内水継続時間帯の降雨が最も大きくなる波形を選定した。
降雨継続時間は内水地区の代表地地盤高を外水位が上回る時間により12時間と設定した。3m未満の開水路の排水能力については、近年の内水浸水実績がある洪水を対象にケースごとに検証計算をし、浸水実績の再現性が高いものを選定した。
また、白川本川や排水河川には、流出計算で求めた同一の降雨時の流量を上流端の境界及び残流域(支川)へ条件として与えている。
氾濫水の拡散や本川等への排水については幅3m以上の水路をモデル化し、一次元不定流解析で考慮した(図-4)。
外水氾濫は、白川水系河川整備基本方針で定めた条件で氾濫解析を行い、浸水範囲及び浸水深を求め、内水氾濫と外水氾濫で深い方の浸水深を多段階の浸想図としてとりまとめた。

水害リスクマップは多段階浸水想定図を重ね合わせて降雨の発生確率ごとの浸水範囲を表示している。「浸水が想定される(10㎝以上)範囲」、「床上相当の浸水が想定される(50㎝以上)範囲」、「1階居室相当の浸水が想定される(3m以上)範囲」の3パターンを作成、公表し、中小規模の洪水でも比較的浸水しやすい場所が把握できる(図-5)。
住居スペースや1階をピロティ構造にするなどのまちづくりや住まい方の工夫、浸水確率を踏まえて事業計画に必要な資機材を2階以上に移動する、止水壁を設置するといったBCP(事業継続計画)の作成、企業立地選択等の検討、立地適正化計画における防災指針の検討・作成に活用するなど防災・減災につながる様々な活用方法がある。
3.水害版企業BCP策定の取り組み~浸想図と水害リスクマップの活用~
(1)水害版企業BCPとは
「BCP」とは、Business Continuity Plan(事業継続計画)の略称である。具体的には、災害時に企業が被災し、使える人やモノ・情報に制約がある中で、一日でも早く日常の業務を出来るようにするため、優先的に実施すべき対応を特定し、それを実現するために必要な手順や資機材、人員等を明らかにし計画としてとりまとめるものである。今回作成する「水害版企業BCP」は、浸水により施設や組織、人員が被災した状況を想定した計画である。水害版企業BCPを作成し、水害時に迅速かつ適切な対応をできるようにすることで従業員や顧客の命を守ることや被害拡大の抑制や早期復旧につながる。
(2)R6 水害版企業BCP策定支援
コストコホールセールジャパン株式会社熊本御船倉庫店
令和6年度に緑川水系御船川の近くに位置するコストコホールセールジャパン(株) 熊本御船倉庫店と連携し、御船町も含めた3者で1/30(約0.4mの浸水(外水氾濫のみ考慮))の降雨規模を目標とした水害版企業BCPを策定した。御船川の過去の水害、水害リスクについて勉強会を行った後、「浸水時に何をやるか」「誰がやるか」「いつするか」を工程表形式(タイムライン形式)で見える化することを主眼とし、3度のワークショップを通して策定に及んだ。ワークショップではARを用いて浸水被害状況をよりイメージしやすいよう工夫した(写真-1)。
「これまで想像で対策していた部分もあったが、今回の取組を通して水位など数字を基にした計画へ見直すことができた」と企業の方から意見を頂いた。

(3)R7水害版企業BCP策定支援
株式会社鶴屋百貨店
令和7年度は、1951年に設立した熊本を代表する百貨店であり、熊本市街部で白川沿川に本店を構える株式会社鶴屋百貨店(写真-2)と熊本市、当事務所の3者で連携し水害版企業BCP策定に向けた取り組みを行うこととなった。

きっかけは株式会社鶴屋百貨店から白川上流に位置する阿蘇立野ダムが完成したことにより洪水の発生頻度がどう変わるか、洪水浸水想定区域図の浸水深の変化について問い合わせがあり、更新前(平成29年5月)と今回更新した洪水浸水想定区域で浸水深がどのように変化したかなどを説明していく中で水害版企業BCP策定を行う運びとなり、令和7年4月にキックオフミーティングを実施。6月には白川の水害リスク等についての勉強会を行った。今後は内外水統合型多段階浸水想定図・リスクマップを活用して目標とする確率規模を決めるなど、複数回のワークショップを通して水害版企業BCPを策定していく予定である。
4.最後に
今後、今回の水害版企業BCP策定によって得た知見や作成手順について、「水害版企業BCP策定マニュアル」としてとりまとめ、熊本市等と連携し多くの企業の集まる場での紹介や策定支援について周知し、流域各企業への展開を図っていきたいと考えている。
また、水害版企業BCPを策定するだけでなく、そこから水害を自分事化し自ら考え行動できるよう、水害に関する意識向上を図り、流域治水の推進へつながるような取組としたい。

