国道327号諸塚村道路崩壊における災害復旧(権限代行)の取組み
国土交通省 九州地方整備局
延岡河川国道事務所
建設監督官
延岡河川国道事務所
建設監督官
藤 野 貴 範
キーワード:台風14号、災害復旧、道路崩壊、権限代行、仮橋設置による片側交互通行
1.はじめに
令和4年9月台風14号による大雨で、国道327号では宮崎県東臼杵郡諸塚村と宮崎県東臼杵郡椎葉村の2カ所で道路崩壊が発生し、全面通行止めになった。そのうち、諸塚村の被災箇所では延長約80m、高さ約60mにわたって道路が崩壊したため、全面復旧には時間を要することから、早期に片側交互通行で交通開放する必要があること、また応急復旧には高度な技術力を要するため、国による権限代行での応急復旧をおこなった。
本稿は、災害発生後の現地調査から権限代行による応急復旧までの取組みついて報告する。
2.気象状況と被災状況
台風14号は、令和4年9月18日19時頃に非常に強い勢力で鹿児島市付近に上陸し、翌19日朝にかけて九州を縦断した。九州を中心に記録的な大雨や暴風となり、宮崎県諸塚村の道路崩壊箇所付近の雨量計で、9月17日0 時から9月19日24 時までで、時間雨量最大49mm、総雨量740mmを観測した(図- 1)。
その影響で山の表面からあふれ出た水等により、EPS工法(発砲スチロール土木工法)による軽量盛土(高さ約13m)と下方の平板ブロックアンカー工が、19日8 時頃に幅約8.5m、延長約30m にわたって崩壊した(写真- 1、2)。
3.被災後の経緯
宮崎県の要請を受け早急な対応が必要となったため、道路崩壊発生の翌々日には、国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人 土木研究所の専門家および、九州地方整備局TEC-FORCEとの合同による現地調査を実施した(写真- 3)。
現地調査による解析の結果、全面復旧は時間を要することが判明したため、優先的に片側交互通行による1車線を早期に確保する応急復旧を目指す方針とした。
なお、応急復旧には高度な技術力を要するため、宮崎県からの要請を受け、国による権限代行での災害復旧事業として工事着手し、効果的に設計と工事を並行して実施し、被災から約7 か月後に片側交互通行による交通開放に至った(図- 2)。
4.現地調査結果について
現地調査結果から被災箇所の現地特性が確認され、復旧にむけ特に注意すべき内容が明らかになった(写真- 4)。
①狭隘な施工ヤード
・道路崩壊により、残った道路幅員1 ~ 2m 幅での施工。
②脆弱な地盤
・崩壊斜面の岩は、破砕状の特性があり、地山としては脆く不安定な地質構造となっており、施工時の振動等によるさらなる崩落斜面拡大への配慮が必要である。
③残存EPS部の評価(写真- 5)
・EPSと地山の間が中抜けし空洞でスカスカで、それが広範囲に及んでいる可能性がある。
・全国的に見ても、過去、熊本地震でEPS本体のみ補修した実績はあるが、今回のようにEPS背面の地山崩壊箇所での補修実績は無い。
5.応急復旧計画
応急復旧計画は道路区域内とし、将来の本復旧計画・施工及び山側の民地に配慮して、崩壊部の山側に可能な限り寄せて仮橋を設け、仮橋より椎葉村側は旧道を利用して迂回ルートを計画した。迂回延長は約170mとなった(写真- 6、7)。
応急復旧の検討段階では、本復旧は山間部の急斜面の道路構築に適した鋼製桟道橋(メタルロード工法)が最適案とし、施工方法は車両通行を切回すために半断面ごとの段階施工とした。応急復旧仮橋は、本復旧の施工段階を考慮した位置及び幅員とした。
6.復旧工事における工夫
復旧工事について工事工程を十分に調整し、次の通り施工ステップを計画し、遅延無く効率的な施工を実施した。
①残存約1,500 体の軽量盛土を撤去
(写真- 8)
②崩壊斜面はモルタル吹付し斜面を安定
(写真- 9)
③その後、仮橋の下部工をダウンザホールハンマで打設し、覆工板を設置。
約70m を45日で設置(写真- 10)
※仮橋施工は道路が寸断されていることから、90tクローラクレーンで日向側から一方向からの片押し施工となるため、使用するクレーンのキャタピラ幅を考慮し幅員を「6m」とした。
【工夫①:索道設置による残存EPS撤去】
道路が寸断されているため、撤去したEPSの仮置きヤード、また、クレーン搬入・配置箇所が狭く、制限があった。また、撤去すべきEPSも、椎葉村側に多く残っていたこと。くわえて、搬出の大型トラックも日向市から一方向からしか進入できないため、崩壊部の椎葉村側で撤去したEPSは、索道を70m 設置し、日向市側に随時搬出を実施した。
これにより、効果的に施工ヤードが確保され、作業が滞ることなく実施できた(写真- 11)。
【工夫②:ジャッキ付き油圧式テーブルマシン】
今回、急傾斜の現場であったため、固定式テーブルマシーンでは、都度、調整が必要となることから、「ジャッキ付き油圧式テーブルマシン」を使用した。これにより、水平・垂直の調整をスムーズに行えるように工夫した。
さらに、①作業半径が大きく取れる②補助クレーンが不要となり効率的な施工を実施できた。これにより、当初予定工期の半分(約36日)の工期短縮が実現できた(写真- 12)。
7.復旧工事完了
道路寸断箇所を境に2 社により応急復旧工事を施工。工事の施工性を総合的に判断し、A 社は仮橋設置をメインとし、B 社は残存EPS撤去、モルタル吹付けをメインとした。施工ステップとして、まず、はじめに残存EPS撤去が必要であった。機材搬入一つにおいても両社が連携し工事工程を密に調整することで、遅延無く施工を実施した。加えて、県も含めた地元調整も施工段階に応じて速やかに実施したことで理解を得られた。
本工事の要であった仮橋の鋼材手配についても、世界情勢もあり鋼材入手が困難な状況下において、各方面に手配をかけスムーズな入手が出来たことも約7 ヶ月間の早期開放につながったと考えられる(写真- 13)。
今回、発災当初から各種現地調査、応急復旧工事の計画および工事施工に携わっていただいた建設会社、コンサルタント等みなさま、また、本来の道路管理者である宮崎県・特に諸富駐在所、そして、本論文の作成にあたり、知識や資料の提供及び助言、指導をいただきました全てのみなさまに感謝申し上げます。
地域のみなさまには、長らくの通行止めで不便をおかけし、ようやく令和5年4月28日に宮崎県に引継ぐ事ができた。開通にあたり地元の方々から余りある感謝を頂いた事に改めて、お礼申し上げます。