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九州における地震被害の低減に向けて

 

九州大学大学院 教授
松 田 泰 治

 

今から100年前、わが国の地震防災を考える起点となった関東大震災が発生しました。関東大震災では10 万人を超える尊い人命が失われ、当時のGDPの約37%にのぼる想像を絶する被害が発生しています。阪神淡路大震災や東日本大震災の被害規模がGDPの約2%から3%だったことを考えると、被害規模の凄まじさがよくわかります。そのような甚大な被害から1世紀を経て、その間も様々な地震被害を経験しつつ、その都度、新たな知見を得ながら我が国の社会基盤施設の耐震性は向上してきました。今後、高度経済成長期以降に整備された社会基盤施設の老朽化が急速に進行することが予測される中、温暖化等による気候変動の激甚化、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などを念頭に置いた国土強靭化が強力に推進されています。また並行して、データとデジタル技術を活用したインフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)も進められており、防災・減災分野においても如何に情報を有効活用するが求められています。このような状況の中で、ここでは熊本地震で被災し、その後の復旧・復興に現地でかかわった経験から、地震防災に関連する様々な情報をより有効に活用することはできないかといった点に少し焦点を当てて考えてみたいと思います。

 

平成28年熊本地震では高速道路や国道で地震被害が発生し一時的に交通の麻痺が生じました。国土交通省や地方自治体を中心に道路啓開が進む中で、自衛隊、消防、警察の緊急車両と一般車両が混在し、一部で救命・救助活動に支障が生じました。特に災害発生後に急激に生存率が低下するといわれる72時間(3日間)が救命・救助活動に重要であり、この時間は道路啓開に関わる情報を管理しながら提供していく必要があるとの反省から、情報提供のあり方にも改善が加えられました。九州内の各種インフラを預かる各事業主体においては南海トラフなどのプレート境界型の巨大地震や活断層に起因する内陸直下型地震が発生することを想定し、発災直後の応急復旧に向けたタイムラインが策定されています。各事業主体が実施する緊急対応の活動において、特に発災直後の被害状況の全容把握においては時系列的な道路啓開の情報が最も重要になると考えられます。従って、これらの情報を各事業主体が連携して共有することにより、被害の全容把握を速やかに終え、結果として被害の大幅な軽減が期待されます。このような行動を実現するためには各事業主体の担当者が個々のタイムラインの情報を共有して常日頃から人間関係の資産(顔の見える関係)を構築しておくことが重要と考えています。このような交流の受け皿として九州地方整備局ではインフラを預かる国、高速道路・鉄道、電力・ガス・通信や災害情報を預かる気象台・国土地理院などからなる減災コンソーシアムin Kyushu を設置して、道路啓開情報をはじめとする各事業主体にとって共通的に有益な情報を共有する仕組みを模索中です。このような活動を通し九州における地震被害の低減に向けた人間関係の資産構築と減災力の向上を期待したい。

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