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道路事業における新たなデジタル技術の活用について
~博多バイパス(下臼井~空港口)におけるメタバースの構築・活用~

国土交通省 九州地方整備局
福岡国道事務所
技術副所長
城 戸 康 介

キーワード:博多バイパス、インフラDX、メタバース

1.はじめに
加速度的に進展するデジタル技術の活用拡大など、激しく社会情勢が変化する中で、インフラ分野においてもデータやデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するだけにとどまらず、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、インフラへの国民理解を促進するとともに、安全・安心で豊かな生活を実現するためのインフラDXの取組が進められている。
本稿では、国道3号博多バイパス(下臼井~空港口)事業(以下、「本事業」という。)におけるメタバースの構築・活用事例等について紹介する。

2.博多バイパス(下臼井~空港口)の概要
九州・西日本の拠点空港である福岡空港では、航空機混雑の解消及び将来の航空需要の増加に対応するため、滑走路増設事業が行われており、更なる利用者数の増加が見込まれている。こうした中、福岡空港へのアクセス手段の約4割を占める自動車交通の円滑化が求められている。
本事業は、国道3号の主要交差点を立体化する延長1.6kmの事業であり、福岡北九州高速道路公社による福岡高速3号線(空港線)延伸事業と一体となって、主要渋滞箇所となっている下臼井交差点、空港口交差点をはじめとする福岡空港周辺道路の渋滞緩和、福岡空港や博多駅などの物流拠点や医療施設へのアクセス強化を図ることを目的とした事業である(図- 1)。

図1 博多バイパス(下臼井~空港口) 位置図

3.メタバースの取組
(1)取組の概要
本事業は、福岡の市街地に位置し、地域住民や沿線店舗、道路利用者等の関係者が多数であることに加え、福岡北九州高速道路公社による事業と合わせ、現在の空港口交差点が複雑な3層構造となるため、円滑な事業推進には正確なイメージを共有する等、地域との合意形成が欠かせない。
そこで、目的ごとに様々な視点から様々な断面を見ることができるメタバース(仮想空間)の構築・活用に取組むこととした。
今般構築したメタバースは、道路の概略設計や基盤地図情報等を基に作成した3次元モデルに、車両や人の動き等の時間軸を加えた4 次元メタバースとすることで、事業完了後の車両、自転車及び歩行者の利用状況や事業の効果を視覚的にわかりやすく表現した(図- 2)。

図2 メタバースの画像(空港口交差点)

(2)メタバースの構築
①メタバースの構築方法
メタバースは以下の手順(図- 3)で、利用目的に応じて2つを構築した。
1つ目は、事業全体を俯瞰して全体概要が把握できるためのもの(以下、「全体俯瞰モデル」という。)で、事業区間全体を構築している。2つ目は、交差点(空港口交差点)を人の目線でより詳細に解説できるためのもので、交差点周辺の360度がじっくり見渡せるよう構築した(以下、「詳細モデル」という。)。なお、共通して遠景の山並み等の地形は、事業範囲を含む約1,600km2の範囲を構築している。

図3 メタバースの構築手順

②地形・橋梁・道路等の作成(静的コンテンツ)
地形、建物の高さおよび平面形状については、人の目線で遠景の山並みや街並みが再現できるよう国土地理院で公開されている基盤地図情報データを基に作成した。なお、建物は3DモデリングソフトBlender を使用し、建物テクスチャを現地で撮影した写真を基に作成した。
橋梁、道路、道路付属物については、設計成果を基に3Dモデルを作成した。全体俯瞰モデルでは作成した3DモデルをBIM/CIM としての活用ではなく、事業全体を俯瞰し、全体概要が解説するために、建物はLOD100レベル、橋梁、道路、道路付属物はLOD200レベルで作成した。詳細モデルでは空港口交差点において局所的に人の目線で解説できるようにするために建物、道路、道路付属物モデルはLOD200レベル、橋梁はLOD300レベルで作成した(表- 1)。

表1 作成した3Dモデルの詳細度

③車両・人等の追加(動的コンテンツ)
リアルタイム3DビジュアライゼーションソフトであるTwinmotion を用いて車、トラック、自転車、人の動きを追加した。
Twinmotion では車両や人の導線を設定し、速度や密度を自由に変化させることができる他、地域や四季、天候も任意に設定が可能であり、構築した地域の場所は福岡市に設定し、季節は夏、時間帯は正午すぎ、天候は晴れに設定した。

図4 Twinmotionでの設定画面の一例

4.メタバースの活用
(1)活用事例
①メタバース内での動画・静止画の撮影
構築したメタバース内では、自由な位置・視点から動画撮影や静止画撮影が可能である(図- 5)。
また、プレゼンテーションファイルとしてPCで実行できる形式に出力することで、時刻、季節等を変化させたり、あらかじめ設定した視点や自由視点(歩行視点、飛行視点)での将来の事業完成した仮想世界が観覧できる。

図5 メタバース内で撮影した静止画の一例

②事業紹介動画での活用
メタバース内で撮影した動画を用いて、AIによるナレーション、字幕、キャプションを追加した事業紹介動画(図- 6)を作成した。この動画を作成することで通常の事業パンフレットやイメージパースよりもより将来像が可視化され、わかりやすいものとなった。
なお、本動画については事業概要や事業効果等と組み合わせたYouTube 動画として福岡国道事務所のホームページに公開している。

図6 事業紹介動画の1シーン

③事業着手式でのHMD視聴による活用
令和5年3月に開催した本事業の事業着手式において式典参加者の皆様に完成イメージを実感していただくための取組も実施した。
具体的には、パソコン用の実行形式で出力することで、パソコンとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を接続し、歩行視点や飛行視点など自由な視点でメタバース内を観覧することとした。この場合、パソコンにはGPU を装着したゲーミングパソコンが必要となり、HMDとコントローラーの操作にはある程度の習熟が必要である。
このため、事業着手式では、より安易に操作できるようHMD(MetaQuest2)内に360 度動画(図- 7)を保存し、HMD一括操作ソフト(リモート管理)にて動画再生を行った(写真- 1)。

図7 メタバース内で撮影した360度動画の一例

写真1 事業着手式での来賓によるHMD視聴の様子

(2)これからの活用
①地元説明会等での活用
本事業については、今後、地元住民等へ設計説明会を実施する予定である。従来の設計説明会では道路計画図や模型等を用いて事業完了後のイメージを持ってもらっていたが、メタバースを活用することで、車両、自転車及び歩行者の利用状況や事業の効果を視覚的に訴えることが可能となる。
また、先に紹介したHMDを着用することで、あたかもその場に居るかのような没入感を体験することが可能となり、従来の方法に比べ円滑に合意形成を図ることができると考えている。
②景観や日照阻害検討での活用
本事業は福岡空港や博多駅から近く、福岡の玄関口としての役割も担っていることから景観への配慮も必要不可欠となっている。
景観検討にあたってもメタバースの特徴を生かし、構造物の色彩のみならず、季節や時間帯等による見え方を変化させながら様々な視点から検討を進めていく。
また、本事業は国道3号博多バイパスの道路中央部に高架橋を設置し立体化する事業のため、国道沿線の建物や店舗への日照阻害の影響についても検討を進めたい。

5.今後の展開
メタバースに用いるBIM/CIM 等の3次元データについて詳細なデータ(道路詳細設計、橋梁詳細設計成果)へ更新し、現実の世界をよりリアルに再現するとともに、道路建設(設計~施工)に限らず、将来の維持・管理(例えば、橋梁点検等)へ活用できるような検討等を進めたい。
また、3次元データをオープンデータにすることで、例えばビデオゲームを通して土木技術の魅力を未来の土木技術者に発信する等、様々な利活用が進むことを期待したい。
現在、九州地方整備局インフラDX推進室において、メタバース内の3次元データを利活用したビデオゲーム(フォートナイト)の試作(図-8)にも取り組まれており、令和5年11月21日、22日に開催された「先進建設・防災・減災技術フェアin 熊本」で展示したゲーム体験のブースは学生等の若い世代から好評を得ていた(写真- 2)。

図8 本事業で試作したフォートナイト

写真2 先進建設・防災・減災技術フェアでの様子

6.おわりに
今般構築した4次元メタバースについては、インフラ(道路)分野では全国初の取組であったが、構築にあたっては、九州地方整備局インフラDX推進室、いであ株式会社の関係者の皆様の協力なくして実現することはできなかった。この場をお借りして感謝を申し上げたい。
本事業のメタバース構築・活用事例がきっかけとなりインフラDXの取組が加速化することを期待している。

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