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東九州自動車道佐伯トンネルの工期短縮を目指した施工
浅井博海

キーワード:東九州自動車道、山岳トンネル、工期短縮

1.はじめに
東九州自動車道は、北九州を起点に大分県、宮崎県を経て鹿児島市に至る延長436kmの高速自動車国道である。北九州~宮崎のうち佐伯~延岡間は新直轄方式による整備区間であり無料で高速道路を通行できることになる。本路線の整備により、東九州地域の発展や災害時の緊急輸送道路としての活用など地域浮揚に大きく寄与することが期待され、早期開通を望まれている路線である。
現在、当事務所では東九州自動車道(佐伯~蒲江)約20.4km において平成26年度開通を目指し鋭意工事を進めている。当該区間が開通すると大分~宮崎が高速道路でつながることになる。その中で今回紹介する佐伯トンネルは、東九州自動車道の北九州~宮崎間では最後の施工となる延長1,561m のトンネルで、東九州自動車道(佐伯~蒲江)の早期開通には、工期短縮が大きな課題となっていた。本報告は、佐伯トンネル工事における工期短縮の取組みとして実施した、施工機械の大型化によるトンネル掘削、断層区間における迅速な切羽前方探査および坑門工の鉄筋型枠先行工法について報告するものである。

2.トンネル掘削工程の短縮
2-1 機械掘削機の導入
当工事における主要な地質は、図2-1の地質縦断図に示すように砂岩・頁岩から成り、設計では発破による掘削とされていた。しかし、トンネル掘削開始から300m地点の掘削では、砂岩・頁岩ともに風化が進んだ多亀裂のやや軟化した岩質であること、また断層も多く分布しており、この時点で発破掘削よりも機械掘削を行ったほうが、安全かつ掘削工程の短縮を図ることが可能と思われたため、発破掘削から機械掘削に変更した。ただし、上半高さや岩質の硬度から掘削機械は標準より大きな機械を導入することとした。

写真2-1に機械掘削の状況を示す。

2-2 ずり積込機械とずり運搬車の大型化
当工事では、掘削ずり搬出の時間を短縮するため、積込機械のホイールローダと運搬車のダンプトラックを大型化した。
ホイールローダのバケット容量は通常2.4m3であるが、当工事では3.0m3のものを使用し、ダンプトラックは積載量10tから積載量30tの重ダンプとし、重ダンプは最大で5台使用した。
写真2-2に掘削ずり積込状況を示す。

2-3 エレクター付吹付機の導入
通常のトンネル掘削作業において、鋼製支保建込みはドリルジャンボを使用し、コンクリート吹付けでは吹付機を使用する。当工事では、鋼製支保建込みからコンクリート吹付けの作業で、施工機械の入替えに係る時間を短縮するため、エレクター付吹付機を使用した。
エレクター付吹付機は、切羽に鋼製支保を建込むためのエレクターを搭載しているため、一次吹付け、鋼製支保建込み、二次吹付けの一連の作業を連続的に行うことができる。
写真2-3にエレクター付吹付機による鋼製支保建込み状況を示す。

このように、施工機械の大型化等を図ることで、掘削工程を当初の30ヶ月から22ヶ月に短縮することができた。また、当工事の代表的な支保パターンであるCⅡの掘削実績は、最大で月進行121m(CⅡの発破工法による積算進行は48m)を記録した。

3.断層区間における迅速な切羽前方探査
トンネル掘削の工程は、地質状況により大きく左右される。本トンネルにおいては、設計段階で10もの断層(図2-1参照)が予測されており、地質が悪いと想定される断層区間の掘削を円滑に進めることが、工期短縮の要訣であった。
断層1~断層7 については、想定した断層の位置、規模が異なり、岩質が想定を超えるほど悪く、度々、写真3-1、3-2に示すような切羽の崩落や突発的な湧水が生じた。このため、円滑な掘削作業を進めることができず、その都度検討を行い、注入式長尺先受けや水抜ボーリング等の対策工を実施した。

当工事では、断層8~10 の掘削作業を円滑に進めるには詳細な断層の情報を得ることが重要と考え、ボーリング調査による切羽前方探査を実施した。
ボーリング調査による切羽前方探査には、ロータリーパーカッションドリルによるワイヤーライン工法を採用した。ワイヤーライン工法は2日で100m程度の調査が可能であるため、トンネル掘削を行わない休日に調査を実施し、トンネル掘削の進行を妨げず、施工を行うことが可能であった。
迅速に切羽前方探査が行えた事により、採取コアから断層の情報を早期に把握し、トンネル掘削前に当該区間の支保パターン等の検討をできるため、トンネル掘削を円滑に行えた。また、ボーリング孔からの水抜き効果も高く、掘削時の湧水による切羽の不安定化の軽減により切羽作業員の安全性の向上も図られたと考えられる。

4.坑門工の鉄筋型枠先行工法
一般的に坑門工は、覆工コンクリート工で使用するセントルを設置後、足場・鉄筋および型枠を組み立てる。このため、覆工コンクリート工と坑門工の併行作業はできない。
当工事では、終点側(出口側)坑門工の施工期間を短縮するため、覆工コンクリート工と坑門工の併行作業を行うことが可能な坑門工の鉄筋型枠先行工法を採用した。図4-1に従来工法と鉄筋型枠先行工法の比較図を示す。

鉄筋型枠先行工法は、足場を組立てるための門型架台と型枠を組立てるための型枠受け支保工を使用することにより、セントルを使用しなくても足場、鉄筋および型枠の組立てが可能である。
当工事では、鉄筋型枠先行工法を採用することで、覆工コンクリート工と坑門工の併行作業が可能となり、坑門工施工期間である約1 ヶ月を短縮することが可能となった。

5.おわりに
当工事は、平成26年1月末にトンネル掘削は終点部へ到達し、平成26年2月8日に貫通式をおこなった。貫通式では、終点側坑口部の最後の1mを通常作業と同様に大型の自由断面掘削機で貫通させた。当日は、地元住民等の来客者、発注者および施工者が貫通の歓びを味わった。
佐伯トンネルは、地質状況も悪く、大幅な工期短縮を求められた難工事であったが様々な工期短縮の手法を用い、当初計画どおり掘削工程を8ヶ月短縮し、平成26年7月の工事完了が達成された。特に、当工事では、10もの断層があり、施工における反省をフィードバックし、先行ボーリングによる切羽前方探査であらかじめ前方の地質を把握することができたのは、非常に効果的であった。また、ボーリング孔は水抜きの効果もあり、地山区分が上がるなど経済的にもなった。今後、断層が多い箇所や湧水量が多い箇所のトンネル工事では、先行ボーリングによる切羽前方探査の検討を行うことが望まれる。
今回の工期短縮は、前述したような様々な工程短縮の手法によるところが大きいが、発注者と施工者が工事完成に向けて一体となり、「いきいき現場向上会議」等で相互に知恵を出し合い工夫した成果ともいえる。
最後に、工事による多大な影響でご迷惑をおかけした地元関係者の方々の協力、工期短縮を命題に無事施工していただいた熊谷組の皆様に感謝の意を表します。
ありがとうございました。

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