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沖縄県における首里城復興の取り組み

沖縄県 土木建築部
首里城復興課
課長
知 念 秀 起

キーワード:首里城復興、寄付金活用、首里杜すいむい地区

1.はじめに
令和元年10月31日未明に発生した火災により、首里城正殿を含む建物7棟が全焼、2棟が一部焼失しました。そして、施設内に展示・収蔵されていた多くの美術工芸品等も被害を受けました。
その後、国は一日も早い首里城の復元に向けて、「首里城正殿等の復元に向けた工程表」を令和2年3月27日に関係閣僚会議で決定しました。
一方、沖縄県では、首里城の復興にあたって、復元はもとより首里城に象徴される琉球の歴史・文化の復興に取り組むとした首里城復興の基本的考え方を令和元年12月に策定し、その考え方に基づいた基本方針を令和2年4月に策定しました。
それから、基本方針で示した主な施策について、具体的に取り組む際の方向性等を具体的に定めた「首里城復興基本計画」を令和3年3月に策定しました。
首里城復興基本計画は8つの基本施策で構成され、そのうち、寄附金を活用した木材や瓦等の調達、防災機能の強化、公園整備やまちづくり、地域連携などの各種関連事業を沖縄県で担うこととしています。

写真1 首里城(令和元年11月1日時点)

2.寄附金を活用した復興への取り組み
(1)首里城復元整備に係る寄附金の活用
首里城火災に対して県内外から多くの寄附金が寄せられ、沖縄県では、寄せられた寄附金を首里城火災からの復興を目的とする費用の財源に充てるため、令和2年3月に「沖縄県首里城復興基金」を設置しました。
また、令和2年7月には、寄附者の想いを尊重し、寄附金を有効に活用することを目的に「沖縄県首里城復興基金の活用に関する方針」を策定しました。方針では、活用範囲を「焼失した首里城城郭内施設等の復元」とし、首里城の復元に取り組む国と協議、調整が整った事業に寄附金を充当することとしています。令和5年9月時点で、国と協議が整った以下の制作物について有識者監修のもと製作に取り組んでおり、大径材、礎石等の一部については既に正殿工事現場に引渡しを終えました。また、今回の復元では、県内における技術継承・人材育成を念頭に製作過程の記録や若手技術者の参加等に取り組んでいます。

①正殿の木材調達に関する事業
 大径材のうち柱材と小屋丸太梁・造作材(外壁、天井、床板等)
②正殿の赤瓦調達に関する事業
 正殿に使用する赤瓦(約6 万枚)・雲形飾瓦くもがたかざりがわら
大龍柱だいりゅうちゅう等の石彫刻、唐破風妻飾からはふつまかざり等の木彫刻及び龍頭棟飾りゅうとうむなかざり等の焼物など、屋外彫刻の復元に関する事業
大龍柱だいりゅうちゅう小龍柱しょうりゅうちゅう石高欄いしこうらん礎石そせき・石階段・懸魚げぎょ唐破風妻飾からはふつまかざり向拝透欄間こうはいすかしらんま向拝こうはい奥の彫刻物・龍頭棟飾りゅうとうむなかざり・鬼瓦・せん(約1,500 枚)
扁額へんがくなどの室内装飾の復元に関する事業
 扁額へんがく(3 点)・1 階御差床垂飾うさすかたれかざり・1 階及び2 階台御差床だいうさすか・1 階及び2 階御差床うさすか

写真2 首里城復興基金(寄附金)充当個所

(2)伝統的な建築等技術に係る人材育成の取り組み
焼失した首里城城郭内施設等の復元に活用する「首里城復興基金」は、令和4年の正殿本体工事着工を節目とし、令和4年3月で受入を終了しました。同年4月からは、首里城の復元後を見据え、伝統的建造物等の維持・補修を担う県内人材の育成や首里城周辺の歴史・文化施設整備、歴史まちづくりの推進等を目的とする新しい基金として「首里城未来基金(正式名称:首里城歴史文化継承基金)」を立ち上げました。
令和5年9月には、建造物木工と木彫刻の2分野において人材育成事業を開始し、座学や実習、先進地視察を通して伝統技術の継承・人材育成に取り組んでいます。

3.火災の原因究明及び防火設備・施設管理体制の強化
(1)再発防止検討委員会(第三者委員会)設置
沖縄県では、首里城火災の再発防止の観点から、防火対策及び管理体制のあり方を検討するため、令和2年3月に法律、消防防災、建築防火、公園計画の専門家で構成される「首里城火災に係る再発防止検討委員会」を設置しました。
委員会は、令和2年3月18日から約1年間で6 回の委員会開催、現地調査等を行い、令和3年3月30日に「首里城火災に関する再発防止策等報告書」をとりまとめています。

(2)首里城火災の再発防止策(基本的な方向性)
首里城火災に係る再発防止検討委員会の報告書では、7 項目の「再発防止策の基本的な考え方・原理原則」の提言がされました。
 1 防災センター機能の一元化
 2 防災・防犯設備の強化
 3 自衛消防隊の体制強化
 4 消防との連携強化 
 5日常の管理業務
 6 継続的な改善   
 7 管理体制のあり方
沖縄県では、委員会の提言を踏まえ、今後、首里城公園の管理体制の構築に向けた取組を進めていくにあたり、関連する提言を県の取組方針として3つの柱にまとめた「首里城火災に係る再発防止策(基本的な方向性)」を令和3年4月に策定しました。
 ① 防災センター機能の再編
 ② 防災・防火設備等の運用体制の強化
 ③ 管理運営に関する制度の活用方法の見直し

(3)首里城公園の管理体制構築に向けて
沖縄県では、二度と首里城を焼失させることが無いよう、「首里城火災に係る再発防止策(基本的な方向性)」に基づく具体的な取組を進めていくにあたり、令和3年度から「首里城公園管理体制構築検討委員会」を設置し、現在、首里城公園の管理体制構築に向けて取り組んでいます。

4.首里城公園のさらなる魅力の向上(中城御殿跡地なかぐしくうどぅん整備)
首里城復興基本計画においては、首里城に象徴される琉球の歴史・文化を次の世代に確実に継承し、沖縄発展の礎としていくため、中城御殿なかぐしくうどぅん跡地整備や新首里杜すいむい構想による歴史まちづくりの推進など、首里城公園及び周辺地域のさらなる魅力向上に取り組むこととしています。

(1)中城御殿なかぐしくうどぅんの概要
中城御殿なかぐしくうどぅんは、琉球王国時代の国王世子せいしの邸宅です。1600年代の創建当初から二百数十年間は現在の沖縄県立首里高校敷地内にありましたが、1874年(明治7年)に現跡地である龍潭りゅうたん(人工池)の北側に移転されました。1879年(明治12年)の首里城明け渡し以降は国王であった尚家の本邸として利用されており、1945年(昭和20年)の沖縄戦により焼失してしまうまで、様々な祭祀儀礼が行われていました。このような経緯から、首里城公園県営区域内に位置する中城御殿なかぐしくうどぅん跡地は、歴史的にも大変重要な場所となっています。

(2)取組方針
首里城火災では、正殿等の建物のみならず、美術工芸品等についても甚大な被害を受けたため、基本計画では、火災前に首里城にあった貴重な美術工芸品を中城御殿なかぐしくうどぅんにて展示・収蔵する方針を踏まえ、展示収蔵機能の拡充や、防火防災機能の強化などを位置づけました。

図1 中城御殿跡地整備事業

5.「新・首里杜すいむい構想」による歴史まちづくりの推進
(1)首里杜すいむい構想及び首里杜すいむい地区
首里杜すいむい構想とは、昭和59(1984)年に沖縄県が策定した「首里城公園基本計画」において示された首里城公園整備の基本理念となる構想であり、首里城公園を中核にこれを取り巻く城下町(首里杜すいむい地区)、そして二つの水系が骨格となって都を発展させてきた首里のまち一帯を首里歴史的風土保全地区という3重構造のエリアが設定されています。
本構想は、今後の首里のまちづくりの方向性を示すと同時に、首里城公園の位置づけを明らかにし、その後の国や県の首里城公園の整備や那覇市のまちづくりに反映され、首里の歴史的まちづくりの推進に活かされています。

(2)取組方針
首里杜すいむい構想策定から35年以上経過し、これまでのまちづくりの課題及び社会状況やニーズの変化に対応するため、沖縄県は、「首里城復興基本計画」に新・首里杜すいむい構想を位置付け、新たに50年、100年後に伝承していく歴史、文化的な首里杜すいむい地区の形成に取り組むこととしています。
新・首里杜すいむい構想の方針は、「①中核をなす首里城及び外苑の一群の文化資源を保全・整備するとともに、文化を育む拠点の充実を図る。②古都首里の歴史的たたずまいに配慮した景観形成とともに、住みやすく魅力的なまちづくりを進める。③総合的な交通対策により、暮らしと観光が両立した歩行者中心のまちづくりを進める。④地形、地質、水系、植生等を基盤に形成された歴史的風土の環境を保全する。⑤行政機関及び地域住民、教育機関、関係団体等が連携して推進体制を構築し、整備基本計画の策定、実施に取り組む。」となっており、首里杜すいむい構想を基本としつつ、住環境、交通、推進体制などを追加した内容となっています。
令和3年度には、首里杜すいむい地区に関連する国、県、那覇市の分野別計画と整合を図り、歴史まちづくりの目標や具体的な施策を取りまとめた「首里杜すいむい地区整備基本計画」を策定しました。首里杜すいむい地区整備基本計画を策定することで、首里杜すいむい地区の歴史まちづくりの進捗を見える化し、効率的かつ効果的に事業を進めていきたいと考えております。

6.首里城復興に関するDX推進
(1)沖縄県とSCSK株式会社との連携協定
令和3年6月1日、沖縄県はIT企業であるSCSK株式会社と、「首里城復興におけるDX 推進に関する連携協定」を締結しました。この連携協定により、沖縄県とSCSK株式会社が協働し、首里城復興の様々な取組においてDXの推進により地域課題の解決を図ることとしています。その主な取組例について、以下のとおり紹介します。

(2)暮らしと観光が両立したまちづくり
駐車場や公園内施設におけるカメラ設置等により駐車場や施設の混雑状況を見える化し、AI を活用した個々人の嗜好に合わせた観光ガイドなどで周遊を促す仕組みと連動する取り組みを想定しています。特定の場所・時間に集中する混雑を分散させ、密状態の回避や渋滞等交通課題の解決を行うことで、利用客の満足度向上及び地域経済貢献についても寄与するものと考えています。

(3)歴史を体現できる都市空間の創出
景観や建造物のAI 画像認識技術とAR 技術を活用し、実際に目にしている光景にまつわる歴史(文化的背景、復元に至る工程・技術など)に関するコンテンツを提供することで、リアルとバーチャルが融合したより魅力的な歴史まちづくりを実現することとしています。

図2 デジタル技術活用のイメージ

7.イベント等を通した復興過程の公開
(1)首里城復興イベント開催
今しか見ることの出来ない首里城正殿工事の様子を実際に見てもらう機会を創出するため、首里城復興イベントを実施しています。令和4年度は、首里城公園内にてユネスコ無形文化財である組踊くみおどりの舞台鑑賞とプロジェクションマッピングを実施しました。

写真3 首里城北城郭でのプロジェクションマッピング

(2)正殿起工式に併せ実施した「木曳式(こびきしき)」
令和4年10月29日から11月3日にかけて、首里城正殿復元工事の始まりを記念すると共に完成を祈願する記念行事「木曳式」を実施しました。
木曳式とは、琉球王国時代に首里城の造営や修復に使用する御材木を運ぶ際に行われた行事です。
使用した御材木は、寄付金を活用して県が調達した県産材(オキナワウラジロガシ)で、樹齢98年、重さ 4t、長さ約9m の御材木であり、首里城正殿の小屋丸太梁として使用されます。

写真4 木曳式における木遣行列の様子

8.おわりに
現在、国による復元工事が進められ、首里城正殿については令和8年までに完成し、その後に北殿や南殿等を含めた復元に着手することとしています。
県では、復元はもとより、首里城に象徴される歴史・文化の復興を目指し、引き続き国、那覇市等の関係機関と連携を図るとともに、国内外の首里城を思う方々と一緒に取り組んでまいります。

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