新入大橋における橋梁下部工施工時の
被圧地下水対策について
被圧地下水対策について
福岡県 直方県土整備事務所
道路建設課 建設第一係
技術主査
道路建設課 建設第一係
技術主査
福 澤 賢 作
キーワード:橋梁架替、被圧地下水、盤ぶくれ、固結工法
1.はじめに
本県では県道直方鞍手線(直方 市大字下新入 )において、図- 1 に示す新入大橋橋梁架替工事を含む道路改築事業に取り組んでいる。本橋梁は橋長111.5mのPC4径間連結ポステンバルブT 桁橋である。本工事は、1期施工で下流側の橋梁新設、2期施工で上流側の既設橋撤去及び新設という分割施工を計画している。
今回、橋梁設計に当たり、河床部を含むボーリング調査を行ったところ、透水性の低い沖積粘土層より下位に分布する沖積砂礫層と基盤岩から、それぞれ河川水位より高い水頭を持つ被圧地下水が確認された。
そこで、地形や地質から見た被圧地下水の要因とその危険性を推定し、橋梁工事を安全に実施するための対策工法の検討を行った。
また、工事期間中の安全確保を目的とした、被圧地下水等の水位観測を実施した。
2.地形・地質から見た被圧地下水の要因
地形的に新入大橋は、北流する犬鳴川の中流域に位置し、左岸側には山体が迫り、右岸側では沖積平野が広がっているが、その上流域には山体が存在する。
地質的には、基盤岩は古第三紀層の砂岩・頁岩・礫岩、その上位に未固結な沖積世の粘土、砂、砂礫層が河床部で約23mの層厚で分布している。
なお、現橋の上流側約150mの河床部には左岸側山体より伸びた尾根端部にあたる砂岩・礫岩の露頭が確認できる。
平成26年度と平成28年度に実施した、河床部~河川敷きのボーリング調査において、全孔(6孔)で被圧地下水が確認された。地質縦断図を図- 2に示す。この被圧地下水は、沖積砂礫層と基盤岩で確認され、その水頭は異なる。この被圧地下水は以下のような状況で確認された。
まずは、河床から沖積粘土層を掘削し、下位の沖積砂礫層に到達した際、写真- 1(左)に示すように勢いがある大量の湧水が確認できた。その最高被圧水頭はDL.+7.29m(GL.+2.90m)であった。
次に基盤岩に到達した際、極わずかな湧水で、写真―1(右)に示すようにパイプを立ち上げると、ゆっくりと水位が上昇する状況であった。その最高被圧水頭は、上位の沖積砂礫層より0.95m高いDL.+8.24m(GL.+3.85m)であった。
この時の自由地下水とみられる河川水位はDL.+5.39m(GL.+1.00m)付近であった。
図―3(左)に不透水層~難透水層が無い場合の水頭を示す。河床部と遠隔地の水頭差は生じない。しかし、不透水層~難透水層により封じ込まれることで河床部と遠隔地で水頭差が生じ(図- 3(中))、今回の調査ボーリングのように不透水層~難透水層を貫くと被圧地下水が噴き上げてくる(図- 3(右))。
当地区の地形や地質からその要因を推定する。
図- 4 ~ 5 の模式図に示すように周辺の山体および上流域の水頭が河床部下位の沖積砂礫層に繋がっており、河床の粘土層が難透水層となり、山体および上流域から繋がる水頭いわゆる被圧地下水を封じ込められていることが推定される。
湧水量に関しては、基盤岩の地下水の主体は亀裂に依存した裂か水のため少量であるのに対し、沖積砂礫層は透水性が高く、湧水量は非常に多い。
写真- 2 ~ 3には、最高被圧水頭が確認された、H28-No.2 孔のボーリングコア写真を示す。沖積砂礫層は粒径が粗く細粒分含有率も少ない。
基盤岩は、亀裂間が細礫状になっている箇所や亀裂面が酸化褐色を呈す箇所、岩芯部まで褐色化している箇所が認められる。
また、当地区では土の物理特性や液状化対象土層の有無を判定するために、各層で室内土質試験を実施した。ここでは、被圧地下水が確認された、沖積砂層(As3)と沖積砂礫層(Asg)の土質試験結果を表- 1 に示す。20%粒径より、透水係数を推定するとAs3 層がk= 1.0E-05(m/s)オーダー、Asg 層がk= 1.0E-04(m/s)のオーダーで透水性が「高い」状態の土層であるといえる。
3.対策工法の検討
被圧地下水により発生が懸念される「盤ぶくれ」について記す。図- 6 にそのイメージを示す。難透水層には、被圧地下水による揚圧力と、それに対する抵抗力が作用しているが、橋梁下部工工事に伴う掘削により難透水層に係る土圧が軽減されるため、揚圧力と抵抗力のバランスが崩れ掘削底が持ち上がる「盤ぶくれ」が発生する可能性がある。
そこで、被圧地下水が観測された橋梁下部工4基(A1,P1 ~ P3)において、「仮設構造物の計画と施工(土木学会)」に基づき「盤ぶくれ」対策の必要性を検討した。検討に当たっては、基盤岩で観測された最高被圧水頭DL.8.24mを用いた。
検討結果を表- 2 に示す。
揚圧力が揚圧力抵抗力を上回ったP1 ~ P3橋脚について、施工時の安全性を確保出来ないおそれがあるため、「盤ぶくれ」対策を検討することとした。A1橋台については、P1 ~ P3橋脚に比べて掘削底が高く、揚圧力抵抗力を大きく確保できたため、「盤ぶくれ」対策は実施しないこととした。
対策工法については、「盤ぶくれ」対策を検討する上で「①揚圧力を低減する」「②揚圧力抵抗力を向上する」の2方向から検討を行った。
まず「①揚圧力を低減する」について、被圧水頭の低減を図るディープウェル工法を検討した。
本工法では被圧地下水層に水中ポンプを配置し、水位低下を図ることとなるが、本箇所周辺は井戸水を利用している集落が多数あり、また周辺一帯が軟弱地盤であることから、井戸枯れや地盤沈下など周辺環境へ甚大な影響を及ぼすことが懸念されるため不適とした。
次に「②揚圧力抵抗力を向上する」について、固結工法の適用を検討した。図- 7 ~ 8 に示すとおり、掘削底部のAc3 層(粘性土)に地盤改良を行い、掘削底から難透水層下面までの土被り荷重の増加と、鋼矢板~難透水層の摩擦係数上昇を図るものである。固結工法にはスラリー機械撹拌による深層混合処理工と高圧噴射工を採用した。
本対策工法により「盤ぶくれ」に対する工事の安全性は確保したものの、当然ながら設計に使用した最高被圧水頭DL+8.24mを超える被圧水頭が観測された場合、工事の安全性を担保できなくなる可能性がある。
したがって、当地区では、「①岩盤の被圧地下水 ②沖積砂礫の被圧地下水 ③自然地盤の水位および ④河川水位」との相関を把握することを目的とし、全4 基の自記水位計(圧力センサー式 観測頻度1 回/1時間)を設置し、工事期間中の安全管理を含めた継続的な水位観測いわゆる「観測施工」を実施した(図- 9)。
4.被圧地下水等の観測結果
自記水位計設置標高と観測結果を図- 10、全期間の観測結果を図- 11、表- 3 に示す。
地下水位変化を解析する上で降雨量は重要であるため、降雨量データをアメダス(福岡県八幡観測所)より収集し、解析に活用した。
図- 11 より、河川水位は①下流側にある堰の開閉により大きく変動する事や②降雨による変動が顕著に表れている事が判る。また、各観測孔の水位も、概ね河川水位や降雨に連動して変動している事が読み取れる。基盤岩と沖積砂礫層の観測水位(被圧地下水)データは、観測開始当初より現在まで、調和した動きを示している。
工事中に問題となる観測期間中の基盤岩の最高被圧地下水はDL.+7.362m(2021.10/17)であり、H29.1 の最高被圧水頭(DL.+8.24m)より0.878m低い位置であった。加えて、沖積砂礫層の最高被圧地下水もDL.+6.988m(2022.9/20)と最高被圧水頭(DL.+7.29m)より0.302m低い位置であり、今回の工事期間中における水位としては問題ないものであった。
雨量と水位の連動について補足する。図- 12は、観測期間中の最大降雨量(98.5mm/day)が観測された2022.9/19 付近の各観測データを詳細に示したものである。同図より、No.3 の自由地下水位は9/18の降雨により翌日の0時頃より急激に水位が上昇し6時間程で最高水位に近い状態になっている。しかし、No.1 とNo.2 の被圧地下水位は、9/19の早朝より次第に上昇し、日付の変わる9/20 付近で概ね最高水位となっている。結果、自由地下水と被圧地下水の降雨による最高水位に達する時間には、半日~ 1日程のタイムラグが認められた。これは、今後の施工の安全においても参考となる結果であるといえる。
5.今後の取り組み
現在、新入大橋では令和3年10月から橋梁下部工工事に着手しており、本稿執筆時点(令和5年5月)で、P1・P3橋脚が竣工、A1橋台及びP2橋脚が施工中である。P1 ~ P3橋脚においては固結工法による盤ぶくれ対策を講じており、同被害は発生していない。
また、水位観測結果について、本稿執筆時までに最高被圧水頭は観測されていないが、下部工施工時の基礎掘削等による排水が少なからず影響している可能性があり、平時の被圧水頭を把握できたとは言い難い状況である。今後は、平時における各層の被圧地下水位の変動を把握し、施工の安全性向上に繋げることが重要だと考える。
最後に、今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた、株式会社ジオテック技術士事務所や株式会社技術開発コンサルタントの皆様方に感謝の意を表す。