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九州の川づくり心得集
~川づくりの担い手のための一冊~

国土交通省 九州地方整備局
河川部 河川工事課 課長
柳 田 公 司

国土交通省 水管理・国土保全局
防災課 災害査定官
上水樽 昌 幸

日本下水道事業団 九州総合事務所
施工管理課 課長代理
入 江 将 之

国土交通省 九州地方整備
鶴田ダム管理所 専門官
有 嶋 哲 朗

国土交通省 九州地方整備
筑後川河川事務所
日田出張所 管理第二係長
江 藤 優 太

キーワード:多自然川づくり、川の見方、川づくりの心得

1.はじめに
平成2年、「多自然型川づくりの推進について」の通達が発出された。「多自然型川づくり」とは、河川が本来有している生物の良好な成育環境に配慮し、あわせて美しい自然景観を保全あるいは創出する事業の実施をいう。前述の通達が出されて以来、各河川で様々な工夫を重ねながら治水機能と環境機能を両立させた数多くの事例が積み重ねられた。しかしながら、場所毎の自然環境の特性への考慮を欠いた河川改修や、他の施工箇所の工法をまねるだけの画一的で安易な川づくりも多々見られていた。平成18年、多自然型川づくりのレビューが行われ、これから目指すべき方向性として、こうした現状を認識し、今一度これからの川づくりのあり方を再検討し、次世代に恵み豊かな河川を引き継ぐための取り組みを一層推進すべきであること。更には、「多自然型川づくり」の考え方は、すべての川づくりの基本であることから、モデル事業のような誤解を与える「型」から脱却し、普遍的な川づくりの姿として「多自然川づくり」へと展開していくことが提言された。
しかしながら、昨今、九州の川づくりは様々な課題を抱えている。九州地方整備局の職員一人一人が携わる業務内容が多岐にわたることから、川づくりに率先して取り組む職員が少なくなっている。また、日常から机上の作業に追われ現場に赴く機会が少なく、現地を反映した設計・施工に課題が残る事例も少なくない状況であり、国土強靭化施策の一つとして河川工事も増加しているが、その中で多自然川づくりが十分に反映されていないことが見受けられる。
そこで、この度、現場を確認しながら川の見方を知り川づくりを学ぶなど、職員が現場に赴くきっかけとなることを目的に、河川工事課に所蔵する数ある多自然川づくりに関する資料から、川づくりの心得をエッセンスとして抽出し、効率よく学べる資料を「九州の川づくり心得集」(以下、心得集)としてとりまとめたので紹介する。

2.基本方針と九州河川技術伝承会
心得集作成にあたって、九州河川技術伝承会懇談会(以下、伝承会)を開催しOB 連絡会にも協力を頂いた。伝承会とは、九州地方整備局が培ってきた河川技術を次世代に伝承し、新技術と相まって河川技術を発展させ、新しい時代における河川の整備および管理に資することを目的とし、九州地方整備局河川工事課に在職した現職連絡会及びOB連絡会から成る内部組織である。
今回、令和4年9月と12月に伝承会を開催した。
9月の伝承会では、現職より川づくり伝承資料の作成方針について説明を行った。作成の基本方針(案)として、以下のとおり確認された。
①全ての川づくりの基本となる「心得」を説く
②概要版ハンドブックにより携行性を高める
③継続的なブラッシュアップを行う
OB 連絡会からは「はじめから情報を詰め込み過ぎず、川の見方や川づくりの基本の基となるエッセンスをまず整理し、継続して少しずつ改訂していく作り方が良い。」等の多くの助言を頂いた。
12月の伝承会では、9月の伝承会での助言を反映させつつ「(仮題)九州の川づくり心得集」としてとりまとめ、現職より説明を行い、ご意見等を頂いた(写真- 1)。

写真1 R 4. 12. 23 九州河川技術伝承会の様子

頂いたご意見等の一部を以下に紹介する。
・表紙の写真は目指す川の姿を表すものが良い。
・河畔林の繁茂が流下能力の阻害になる場合が多いため、そのこともきちんと説明しておく必要がある。
・洪水時の川は平常時とは様相が全く異なるため、洪水時の写真も掲載した方が良い。映像や音、匂いからも迫力を感じるので、現場にも行くべきである。
この他、心得集に掲載する写真等について、説明文の理解度を高めるためのより適切な写真や裏表紙に用いたアユの友釣り仕掛け等の挿絵を提供頂いた。

3.九州の川づくり心得集
(1)心得集の概要
伝承会での意見等を踏まえて、令和5年1月、「九州の川づくり心得集 ~これから川づくりを始めるあなたへ~」として完成した(図- 1、2)。
心得集は、詳細な技術論ではなく、これから川づくりを担う現役職員の道しるべとなる川づくりの基本的な考え方=「心得」を掲載している。心得集は「第1章 川の見方編」、「第2章 川づくり編」、「川づくり事例集」の3部構成とした。第1 章は「川とふれあい、川を知る」をコンセプトとして、“ 現況を的確に把握し川づくりの方針を立てるための川の見方の心得” を、第2 章は「川の変わりを想像し、川と創造する」をコンセプトとして“ 治水と環境・景観の両立や再度災害の防止を図るための8 つの川づくりの心得” として以下を紹介している。①川幅を広げよう②良い地形は保全しよう③河床を平らにしない④河床の石を取り除かない⑤護岸の必要性を考えよう⑥川の形に変化を持たせよう⑦川の連続性を確保しよう⑧構造物のデザインに気を配ろう。「川づくり事例集」は国、県、政令市が参加し令和4年で30 回目の開催を迎えた「うるおいのある川づくりコンペ」で発表されこれまで蓄積されてきた九州の川づくり事例の中から、より良い川づくりに取り組んだ事例を抽出し川づくり事例集としてとりまとめた。
また、各章に関するコラムや九州の河川環境行政の歩み、若い職員へ伝えたい過去の学識者や九州地方整備局職員OBのご発言集なども掲載し、読み物として楽しむ内容も掲載した。

図1 <表紙>目指すべき川の姿を表紙写真に採用し、いい川を感じて貰う

図2 <裏表紙>アユの友釣り仕掛け等を配し川遊びのきっかけづくりに期待

(2)心得集の構成
1)目次構成
心得集の目次は前述のとおり、第1 章川の見方編、第2 章川づくり編、川づくり事例集で構成した(図- 3)。

図3 目次構成

2)ページ構成
各ページ上段には、「あなたは川でどのようなことをやってみたいですか?」のように、読み手に問いかけ、興味を引くような記述になるよう工夫した(図- 4 ①)。
問いかけ後の次の記述では、「川づくりでは、あなたが好きな川遊びを将来に渡り続けられるか、という視点を持つことも大切です。」のように記載項目のポイントや気付きを促すような記述になるよう工夫した(図- 4 ②)。
ページ下段の☞マークは、第1 章、第2 章、事例集が相互に連結し、学びを深められるようにした(図- 4 ③)。
心得集は詳細な技術論ではなく川づくりに取り組むにあたり基本的な事項を取りまとめたものであるため、川づくりに興味が沸きより深く学びたい読者向けに、【Check】マークで参考となる技術資料を紹介している(図- 4 ④)。
また、若手職員を対象とした心得集であることから、直感でわかりやすい紙面となるよう、図や写真を多用した。

図4 ページ構成の例

3)コラム
川づくりを進める上で必ず参照すべき資料や参考となる情報のほか、これまでの河川環境行政の歩みといった読み物まで、第1章には含めていない様々な話題をコラムとして掲載した(図- 5)。

4)伝えたい言葉
これまで多自然川づくりに関する講演会等を実施してきたが、九州管内の川づくりに深く関わってこられた学識者や河川行政経験者の発言から、若手職員へ「伝えたい言葉」として掲載した。その一例を示す。
「多自然川づくりというのは、水面から下の世界、生態系の復元」
  ~福留脩文 氏~
「現場を見て、皆でしっかり議論することが大事」
  ~杉尾哲 氏~
「技術力とは初期段階は知識、次の段階はどういう手順で作るか仕組みがわかること。そのためには現場に行くことが必要」
  ~河川行政経験者~
「川づくりは点の技術だけれど、人づくりもできるし、流域の魅力づくりにも貢献できる」
  ~河川行政経験者~

図5 川の見方編に掲載したコラムの例

5)川づくり事例集
「第2 章川づくり編」や「コラム」に関わる参考事例集も掲載した。事例の多くは九州多自然川づくり協議会が主催する、「うるおいのある川づくりコンペ」で発表され蓄積されてきた川づくり事例の中から、より良い川づくりに取り組んだ事例を抽出し川づくり事例集としてとりまとめた。前述のコンペは国、九州7県、九州の政令指定都市が参加しており、令和4年度で第30回の開催を迎え、これまで多くの事例が発表されている。この中から第2章で紹介した8つの川づくりの心得毎に、他の河川でも参考になるような事例を掲載した(図- 6)。

図6 川づくり事例集の例

4.おわりに
伝承会OB連絡会の多大なご協力を頂き、今回第1版としてとりまとめた。OB 連絡会の皆様には伝承会での助言や資料提供等を頂き改めて感謝申し上げる。心得集は作成して終わりの一過性の資料ではなく、時代や技術の変化、現役職員のニーズに合わせて継続的な改定を行っていく方針である。
これからの川づくりを担う若手河川技術職員が、心得集を川づくりの基本の「基」とし、デスク上や現場で手に取り、川づくりと向き合う職員が一人でも多く育ち、その地域に似合った川づくりが推進され、次世代に恵み豊かな河川が引き継がれることを期待する。

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