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有明海沿岸道路 大野島IC~諸富IC間の開通について
~有明海沿岸道路で初めて福岡と佐賀がつながる~

国土交通省 九州地方整備局  
有明海沿岸国道事務所 工務課長
廣 渡  学

キーワード:有明海沿岸道路、開通、整備効果

1.はじめに
有明海沿岸道路は、有明海に沿った福岡県・佐賀県・熊本県の3 県をネットワークで結ぶ高規格道路である(図-1)。有明海沿岸国道事務所は、この3 県に跨がる道路を整備・管理する国道事務所として平成31年4月に発足した。当事務所は、「国道208号 有明海沿岸道路(大牟田~大川)」として福岡県大牟田市から大川市までの延長27.5㎞、および「国道208号 大川佐賀道路」として福岡県大川市から佐賀県佐賀市まで延長9.0㎞の事業を担っている。
今回、令和4年11月12日(土)に大野島IC~諸富IC 間(延長1.7㎞)が開通し、有明海沿岸道路で初めて福岡県と佐賀県がつながった。
本稿では、有明海沿岸道路の特徴や開通区間の特徴、これまでの整備効果、地域との取り組みについて報告する。

図1 広域道路ネットワーク計画図

2.有明海沿岸道路の特徴
有明海沿岸には、非常に軟弱な地質が厚く堆積しており、この軟弱地盤上での高盛土や長大橋などの建設は、全国でも事例が少なく、軟弱地盤に対する各構造物の安全性の確保、周辺環境への影響等への配慮、建設コストの縮減などの様々な課題への取り組みが行われている。
当該地域の軟弱地盤は、有明粘土層と言われる非常に柔らかい粘性土主体(粘土、シルト)の地層で構成されている。軟弱層の層厚は、福岡県側で層厚10m 程度、佐賀県側に向かって層厚は徐々に厚くなり20m 程度分布する(図-2)。そのため、盛土施工時には過大な沈下や道路の走行性に悪影響を及ぼすような長期的な沈下や構造物との境界での段差の発生、掘削時には掘削法面の崩壊が懸念されるような地盤である。
佐賀県側ではこのような軟弱地盤上への盛土に対し、盛土の安定・沈下および周辺地盤の変位対策として浅層混合処理工と着底式の深層混合処理工(低改良率)を併用した対策工を採用している。また、深層混合処理工を低改良率とすることでコスト縮減や地下水への影響の低減を図っている(図-3)。

図2 有明海沿岸道路の模式地質断面図

図3 軟弱地盤対策工法

(2)開通区間(大野島IC~諸富IC間)の特徴
令和4年11月12日(土)に開通した大野島IC~諸富IC(延長1.7㎞)は、有明早津江川大橋(延長854m)と諸富高架橋(延長330m)とで構成している。
有明早津江川大橋の渡河部の構造は「鋼4径間連続単弦中路式アーチ橋」である(写真-1)。近隣には世界遺産である「三重津海軍所跡」が存在しており歴史文化と引き立合うような準主役のシンボルとして、周辺景観と調和し桁の水平ラインを基調としつつ構造物の圧迫感を軽減する桁橋とした。色彩は、早津江川周辺の平坦で田園・河口景観を基調とし自然が豊かに広がる地域であるため景観になじむ薄い緑色の裏葉色を採用した。

写真1 有明早津江川大橋

図4 架橋地周辺の景観特性と橋梁計画

また、本橋は曲線かつ斜角を有する鋼単弦中路式アーチであり、アーチリブと補剛桁の結合部は3 次元FEM解析により算出した局部応力を考慮し設計に反映した。また、3Dモデルにより点検導線等も確認し維持管理に配慮した計画を行った。
アーチ部分と桁橋部で耐風特性が異なるため、風洞試験で得られた空気力を用いた時刻歴応答解析により耐風安定性を評価し、耐風対策フェアリングの設置範囲(写真-2)を設定した。

写真2 フェアリングの設置範囲

3.有明海沿岸道路の整備効果
(1)80万人都市圏の出現へ
有明海沿岸には、多くの観光資源や物流・人流の拠点が存在しており、有明海沿岸道路や周辺の交通網によりこれらを繋ぐことで地域経済のさらなる発展が見込まれ、周辺の市町村が一体となった80万人の都市圏を形成することできる(図-5)。

図5 有明海沿岸80万都市の形成<

各地に点在する観光施設には、福岡県内において三池炭鉱跡の「宮原坑」、世界文化遺産である三池港(写真-3)がある。三池港の貨物取扱量も有明海沿岸道路の延伸と共に伸びてきている。みやま市には伝統芸能「宝満神社奉納能楽」、柳川市には水郷柳川の川下り、大川市には家具生産高日本一を誇る木工の産地など魅力的な観光資源が豊富にある。
また、佐賀市には、物流・人流の拠点となる九州佐賀国際空港(写真-4)やバルーンフェスタなどがある。

写真3 世界遺産 三池港

写真4 九州佐賀国際空港

(2)所要時間の短縮
九州佐賀国際空港と大牟田市間の所要時間は、有明海沿岸道路の開通前では国道208 号等を利用し約90分であったが、開通区間が延びるとともに時間短縮が図られ、今回の大野島IC ~諸富IC間が開通することで所要時間が半分の約44分となりアクセス性が向上した(図-6)。
また、九州佐賀国際空港の乗客数も平成30年には約82 万人に達し、7年連続で最高記録を更新した。

図6 大牟田市~佐賀国際空港間の所要時間の変化

現在、コロナ禍で乗客数は減少しているが、コロナ禍が明けた後は、多くの利用が見込まれる。

(3)豪雨等の災害時に代替路として機能
近年、九州地方においては、豪雨や地震等による自然災害被害が増加しており、令和元年8月豪雨時では佐賀市内でも大規模な浸水被害が発生した(写真-5)。主要な幹線道路は冠水し、周辺交通が麻痺する中、道路高が高い有明海沿岸道路は浸水の影響を受けにくい構造である(図-7)。
今後も豪雨災害の頻発化・激甚化が懸念されることから、有明海沿岸道路が物資の輸送、避難、救命救急活動、復旧作業などの代替道路としての活用が期待される。

写真5 佐賀市内の浸水状況

図7 浸水時横断イメージ図

4.地域住民との協力・連携
有明海沿岸道路の工事に際しては、地域の方々のご理解とご協力により、工事を円滑に進めることができた。これまで開通してきた各区間においては、施工段階や開通直前段階で、見学会やイベントなどを開催してきた。
今回の開通区間においても、令和4年8月27日に地元佐賀市内の小学生ら約150名を諸富高架橋に招き実施した「ペイント大会」、佐賀大学の学生や佐賀・福岡の各道守の方、近隣住民による現場の見学会など多数のイベントを開催した(写真-6・7・8)。
こうした地域住民とのふれあいを重ねることで、地域の方々が有明海沿岸道路をより身近なものと捉えていただき、道路への愛着と、今後の事業へのご理解につながるものと期待している。

写真6 開通前の橋梁上で実施したペイント大会

写真7 佐賀大学の学生を対象とした見学会

写真8 開通前の橋梁上で実施したペイント大会

5.おわりに
有明海沿岸道路には多彩な姿を見せる橋梁や構造物が建設され、地域のランドマークとなっています。特に矢部川に架かる矢部川大橋(写真-9)は、コンクリート斜張橋で支間長が日本一である。また、筑後川に架かる有明筑後川大橋(写真-10)は、日本で初めての橋梁形式となる2連の中路アーチ橋を採用した。その他にも多くの長大橋が存在しており、直轄国道でこのような橋梁を間近に見ることができるのは非常に貴重な経験である。
有明海沿岸地域の更なる発展・産業振興や、災害に負けない国土づくり、また地域の方々にも愛着を持っていただけるような道路を目指し、今後も、熊本・佐賀方面の未開通区間の早期完成に尽力したい。

写真9 矢部川大橋

写真10 有明筑後川大橋

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