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九州道路メンテナンスセンターの設置
~目指すは、九州道路インフラの「かかりつけ医」~

国土交通省 九州地方整備局  
九州道路メンテナンスセンター長
猪 狩 名 人

キーワード:予防保全、技術支援、メンテナンス

1.はじめに
国民生活や社会活動、経済を支える道路や橋などのインフラは常に安全かつ持続可能でなければならない。そのためには、老朽化が進行している橋梁など道路インフラをいかに効率的、効果的にメンテナンスしていくかが重要である。
平成25年に法定化された5年サイクルの定期点検も平成31年度から2巡目に入り、国、地方公共団体問わず建設経過年数が長くなるほど、修繕などの措置が必要な施設が多くなる傾向が分かってきている。
しかし、早期に措置を講ずべき施設に対する措置の進捗が遅れているため、予防保全的な措置への移行が十分ではない状況である。
これらの状況を改善し、より効率的・効果的なメンテナンスを推進するため、令和4年4月に新たな組織として、九州道路メンテナンスセンター(以下、「九州道路MC」という。)が設置された。
本稿では、メンテナンスに関する技術支援など九州道路MCの主な取組みを紹介する。

2.直轄国道における取組み
(1)橋梁の定期点検
5年サイクルで実施されている定期点検において、九州道路MCは診断業務の発注を担当(点検業務は各事務所で発注)すると共に、点検・診断等における留意事項の周知や事務所毎の「橋梁対策区分判定会議(写真- 1)」で決定される対策区分の判定及び健全性の診断に対しての技術的助言・支援等を行っている。

写真1 橋梁対策区分判定会議

(2)新技術(点検支援技術など)の活用促進
建設労働者の減少時代を迎える中、生産性向上と業務効率化を如何に進めるかが課題となっている。
九州道路MCでは、橋梁の点検・診断における新技術の活用促進による業務の効率化を促進するため、道路管理者(直轄、地方公共団体など)への「点検支援技術(写真- 2)の情報提供」を行うと共に、令和4年度から直轄国道における橋梁点検において活用が原則化された「点検支援技術の活用実績の検証」を行う。

写真2 桁下空間が狭い箇所等における点検支援技術の例

(3)メンテナンスデータの管理・分析
これまで、直轄国道においては、橋梁やトンネルなど道路構造物の機能に影響が生じた時点で修繕(事後保全型メンテナンス)していたため、必ずしも効率的な修繕になっているとは言えない。
1巡目の点検[H 26 ~ 30]で早期に措置を講じる必要があるとされた橋梁においても一部で措置がなされていない状況(表- 1)が見受けられることから、九州道路MCでは、「点検結果」「補修設計成果」「補修工事成果」などを管理・分析することによる効率的な修繕(予防保全型メンテナンス)の促進に資する修繕計画の立案等について検討している。

表1 早期に措置が必要な橋梁(1巡目結果)

3.地方公共団体に対しての取組み
(1)技術相談・支援
今、多くの道路管理者がインフラメンテナンスを進めていく上で「人材」や「技術力」、「予算」不足という課題を抱えている。
なかでも、直轄や高速道路会社、県、政令指定都市と比較して、九州にある橋梁の約7割(図- 1)を管理している市町村においては、技術職員不足や予算面で難しい状況にある。

図1 管理施設数

よって、今後、損傷が軽微な段階で補修を行う事により、将来の維持管理費を縮減し、橋梁の長寿命化を図る「予防保全型メンテナンス」に転換していく上では、市町村など地方公共団体への支援や協働が不可欠であるため、九州道路MCでは、地方公共団体など道路管理者からの道路メンテナンスに関する技術相談を広く受け付け、必要な技術的助言や情報提供を行っている(図- 2)。

図2 技術相談の流れ

技術相談は、緊急時を除いて、原則九州道路MC のホームページ(図- 3)から受け付けており、内容の確認を行った上で、必要に応じて打合せ(写真- 3)や現地調査(写真- 4)を実施し、技術的助言等を行っている

図3 九州道路MCホームページ

左写真3 打合せ状況 右写真4 現地調査状況

また、技術相談の内容に応じて「インフラメンテナンス国民会議 九州フォーラムのテックシニアーズ」や「国土技術政策総合研究所」「土木研究所」などと連携して対応するなど、高度な相談内容についても対応できる体制(図- 4)を構築している。

図4 技術相談対応体制

(2)直轄診断の実施・修繕代行の技術支援
地方公共団体からの要請により緊急的な対応が必要かつ高度な技術力を要する施設について、九州地方整備局、国土技術政策総合研究所、土木研究所など国の職員等で構成する「道路メンテナンス技術集団」による直轄診断を実施している(図- 5)。

図5 直轄診断全体の流れ

診断の結果、診断内容や地域の実情等に応じ、修繕代行事業(写真- 5)(写真- 6)を実施し、事業が円滑に進捗するよう技術的助言を行っている。

左写真5 呼子大橋(佐賀県唐津市) 右写真6 天大橋( 鹿児島県薩摩川内市)

(3)技術資料(参考資料)の作成
九州は全国の中でも石橋が非常に多い。道路橋は5年サイクルで法定点検を行い、健全性の診断を実施することになっており、実施に際しては、技術的助言である「道路橋定期点検要領(H31.2)」によっているが、上記に石橋に特化した記述がないため、数多く石橋を保有し管理している地方公共団体から石橋に関する技術資料作成のニーズが非常に高い(写真- 7)。

写真7 専門家との石造アーチ橋の現地調査

そのニーズを受ける形で今般、九州道路MC及び九州地方整備局道路部が事務局をつとめる「道路橋石橋維持管理検討委員会(委員長:熊本大学山尾名誉教授)」で、道路橋石橋[石造アーチ橋](図- 6)の定期点検に関する参考資料を作成している。

図6 石造アーチ橋の構造

(4)研修等の開催
先に述べた地方公共団体などの道路管理者が抱える「人材」及び「技術力」不足という課題を少しでも改善すべく、技術力の向上を目的とした技術者育成として橋梁に関する研修等を実施している。

a)道路橋の定期点検に関する研修
 【橋梁初級Ⅰ研修】
道路橋の定期点検に関して、省令に定められている「知識及び技能を有する者」が最低限必要な知識と技能を座学及び現地実習(写真- 8)で習得する。
なお、本研修内で実施される試験に合格した場合は、「道路橋点検士補検定試験」の受験に必要な2つの要件(①道路橋点検士技術研修会受講②実務経験又は資格)のうち、①について免除される。

b)道路橋の措置(修繕など)に関する研修
 【橋梁初級Ⅱ研修】
道路橋の措置を実施するにあたり、適切に構造物の状態や損傷原因を評価し、また、様々な技術を評価・適用するための要点を概観するために必要な基礎知識を座学(写真- 9)で習得する。

左写真8 現場実習 右写真9 座学

4.おわりに
道路法第四十二条に「道路管理者は、道路を常に良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」とあり、それに基づき道路の維持管理は行われている。
メンテナンスの本来の目的は、単に構造物を直すということではなく、「人の命が失われない」「人が怪我をしない」ためにはどうすればいいのかというところにある。これを念頭に置いた上で国民生活や社会活動、経済を支える道路や橋などのインフラをどのように効率的・効果的にメンテナンスしていくのか、各道路管理者などと共に考え、取り組んで参りたい。

【九州道路MCホームページURL】
 https://www.qsr.mlit.go.jp/rd_mainte/
【九州道路MCメールアドレス】
 qsr-kyushudoro@mlit.go.jp

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