~平成30年7月豪雨を受けての取り組み~
国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
工務第一課 係長
筑後川河川事務所
工務第一課 係長
青 木 丈 治
国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
調査課 専門官
筑後川河川事務所
調査課 専門官
徳 永 久美恵
キーワード:内水氾濫、排水機場、流域治水、総合内水対策計画
1.はじめに
下弓削川及び江川は高良山 を水源とし、九州一の流域面積をもつ筑後川に注ぐ一級河川である(図- 1)。両河川とも福岡県久留米市内で完結しており、下弓削川流域には住宅地や商業地が(写真- 1)、江川流域には水田が広がっている。
両河川流域の地形は、北側(筑後川方向)以外の標高が高くなっており、降雨時に筑後川に排水が十分に行われなければ雨水が溜まりやすい(図- 2)。
下弓削川、江川と筑後川の合流部にはそれぞれ枝光排水機場、江川排水機場があり、出水時に両支川より筑後川本川の水位が高い場合は水門を閉め、必要に応じてポンプを用い筑後川本川に排水を行っている。
2.平成30年7月豪雨の内水氾濫
九州北部では、平成30年7月5日から6日にかけて台風第7号の影響により広範囲で長時間にわたって雨が降り続き、筑後地方の多くの自治体では大雨特別警報が発令された。本豪雨は短時間に激しく降るというよりは、長く降り続いては小康状態となり、再びまとまって降りだすといった状況で約1日半にわたって雨が降り続いた。H24.7 九州北部豪雨と比較すると、久留米雨量観測所の累加雨量は約1.3 倍近い407㎜となった(図- 3)。
筑後川中流域では、断続的な降雨により、6時間~ 48時間雨量(中~長時間雨量)で観測史上最大の降雨強度を記録した。その結果筑後川本川の水位が上昇し、下弓削川の水位を長時間上回った。筑後川から下弓削川に逆流を生じさせないため、元村水門を閉鎖し、枝光排水機場を用いて28.8時間にわたり最大毎秒15m3、総排出量約160 万m3(PayPay ドーム約1 杯分)の強制排水を行った(図- 4)。しかし、流入量が多かったため下弓削川の水位が上昇し、内水氾濫が発生、床上浸水304 戸、床下浸水1,059 戸の被害が生じた(写真- 2)。氾濫解析シミュレーションの結果、毎秒40m3の流量が発生していたと推測されている。
3.下弓削川・江川総合内水対策計画
(1)計画概要
前述の豪雨被害を受け、国・県・市が連携し、浸水被害軽減に効果的なハード・ソフト対策を集中的に実施することで早急に地域の安全性の向上を図るとともに、住民の自助・共助の取り組みを支援する「下弓削川・江川総合内水対策計画」を策定した。
下弓削川流域において国・県・市の役割分担のもと、枝光排水機場のポンプ増設等のハード対策を実施し平成30年7月豪雨と同規模の降雨による床上浸水被害軽減を図る。また、住民の情報収集等の支援のためのソフト対策を実施する。
(2)ハード対策
ハード対策として以下のいくつかの事業を実施、または実施予定である(図- 5)。
〇下弓削川等からの溢水等を防止するための対策(県・市)下弓削川及び中谷川の護岸高が相対的に低い区間について、パラペット等の特殊堤による嵩上げを行う。(写真- 3 の①)。
〇下弓削川からの逆流防止対策
(市)下弓削川に接続する水路に逆流防止ゲート(フラップゲート)を設置する(写真- 3 の②)。
(市)下弓削川に接続する水路に逆流防止ゲート(フラップゲート)を設置する(写真- 3 の②)。
〇下弓削川への流出抑制対策
(市)学校グラウンド、公園及び溜池を活用し流域貯留施設を整備する(写真- 3 の③)。
(市)学校グラウンド、公園及び溜池を活用し流域貯留施設を整備する(写真- 3 の③)。
〇下弓削川流域における雨水排水対策
(市)主要な水路の流下能力を検証の上、雨水幹線の改修を行う。
(市)主要な水路の流下能力を検証の上、雨水幹線の改修を行う。
〇河道・管理施設等の適切な維持管理
(国・県・市)洪水時に安全性が確保できるよう、流下断面を阻害する土砂や樹木に関しては除去を行う。
(国・県・市)洪水時に安全性が確保できるよう、流下断面を阻害する土砂や樹木に関しては除去を行う。
〇下弓削川の河川水位を低下させるための対策
(国・県・市)枝光排水機場のポンプ増設(詳細は4章で述べる)。
(国・県・市)枝光排水機場のポンプ増設(詳細は4章で述べる)。
(3)ソフト対策
ソフト対策として以下の対策を実施、または実施予定である。
〇住民の適切な避難判断を支援するための情報提供
(国)防災情報が一元的に閲覧できるポータルサイトの開設
(国)排水機場の監視カメラ画像のHP 公開(図- 6)
(県)危機管理型水位計、簡易監視カメラの設置、HP 公開
(市)水門・樋門の開閉状況のHP 公開
(国)防災情報が一元的に閲覧できるポータルサイトの開設
(国)排水機場の監視カメラ画像のHP 公開(図- 6)
(県)危機管理型水位計、簡易監視カメラの設置、HP 公開
(市)水門・樋門の開閉状況のHP 公開
〇平時からの住民への水害リスク情報の提供
(国・県・市)災害リスク説明・防災教育の実施
(市)ウェブ版ハザードマップの導入
(国・県・市)災害リスク説明・防災教育の実施
(市)ウェブ版ハザードマップの導入
〇住家等の新規立地の抑制や、河川・水路等への雨水流出を抑制し、浸水に強い建築物への誘導を図る取り組み
(市)居住誘導区域の見直し等による土地利用のコントロール
(市)雨水貯留施設(タンク)等の設置に伴う助成制度導入
(市)居住誘導区域の見直し等による土地利用のコントロール
(市)雨水貯留施設(タンク)等の設置に伴う助成制度導入
4.枝光排水機場のポンプ増設
前述のハード対策の1 つである枝光排水機場のポンプ増設について実施内容を紹介する(図-7)。既設排水機場(15m3 /s(5m3 /s × 3 台))の東側スペースに排水能力11m3 /s のポンプ(2.75m3 /s × 4 台)を増設した(写真- 4 の①)。また、電気室を新設し、既設の元村 水門の3 門のうち、1 門をポンプ排水兼用として利用できるよう川裏ゲートを新設した。さらに、増設ポンプから元村水門函体まで接続函渠(L=21m H2.25 × B2.5)を構築し排水口を設けた(写真- 4 の②)。ポンプ稼働時には、新設した川裏ゲートを閉鎖し、元村水門のうち、排水兼用の1 門のみを開けることによって本川に排水を行う。
5.施工状況
6.対策実施の効果について
10年確率降雨強度に対して、本計画で予定しているハード対策実施前後の内水浸水想定区域と浸水想定深を解析によりシミュレーションした結果、排水量11m3 /s のポンプを増設した際に、床上浸水が解消される効果が見込まれた(図- 8)。
7.おわりに
本施工にあたっては、非常に厳しい工程の中、土木、機械、電気、営繕と多くの施工業者が関係していたが、施工業者間の綿密な調整と協力により、無事に完成させることができた。
また、枝光排水機場の増設に当たっては、既設の水門を活用することで本川堤防の掘削や嵩上げ等を行わず、長期の通行止めを回避することで工期短縮が図られた。令和4年度の出水期から稼働開始し、県や市が整備した他のハード・ソフト対策とともに内水氾濫軽減への貢献を期待されている。
そして、現地には地元住民をはじめ多くの方が説明会に訪れており、関心の高さが伺える(写真- 16)。今後も流域治水対策を関連機関と協力しながら進めていきたい。