一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
球磨川水系河川整備計画(県管理区間)について
~球磨川流域の新たな治水の方向性“ 緑の流域治水” ~

熊本県 土木部河川港湾局 河川課
課長補佐(計画調査担当)
江 口 貴 弘

キーワード:緑の流域治水、流水型ダム

1.計画策定に至る経緯
令和2年7月豪雨では、線状降水帯による記録的な豪雨が球磨川流域を襲い、50 名以上の方が亡くなり、橋梁など多数の施設が被災しました。発災後、球磨川流域の今後の治水の方向性を決めるため、国土交通省や流域市町村とともに「令和2年7月豪雨検証委員会」を立ち上げ、豪雨災害について検証を行いました。また、本県知事が、流域全ての市町村を対象に30 回にわたり、住民の皆様などにお会いし、直接、御意見や復興への思いを伺いました。こうした経緯を踏まえ、知事は、令和2年11月19日に球磨川流域の新たな治水の方向性として、遊水地の活用や森林整備、避難体制の強化を進め、さらに、自然環境との共生を図りながら流域全体の総合力で安全・安心を実現していく“ 緑の流域治水” の考え方を表明し、その一つとして命と清流を守る「新たな流水型ダム」の建設を国に求めました(図- 1)。
令和3年3月には、令和2年7月豪雨のような災害を二度と生じさせないとの考えのもと、流水型ダムの調査検討を含む「球磨川流域治水プロジェクト」が策定されました。また、令和2年7月豪雨が当時の基本高水を上回る洪水であったことから、令和3年7月に、気候変動と流域治水の新たな視点を踏まえた球磨川水系河川整備基本方針の見直しの審議が開始され、知事が委員として参加した社会資本整備審議会における延べ7回の審議を経て、令和3年12月に“ 緑の流域治水”の理念が盛り込まれた新たな河川整備基本方針に変更されました。

図1 緑の流域治水

2.河川整備計画(県管理区間)の概要
県では、球磨川流域内の80 河川を管理しています(図- 2)。球磨川水系河川整備計画(県管理区間)(以下、「本計画」という。)では、新たな河川整備基本方針の目標に向けて、球磨川本川(河口~市房ダム手前)及び川辺川(本川~柳瀬橋、ダムサイト~湛水区間)を管理する国土交通省と連携し、球磨川流域における「命と環境の両立」の実現などを基本理念に位置付け、令和2年7月豪雨で甚大な被害を受けた球磨川流域の創造的復興を成し遂げるとともに、安全・安心な暮らしと球磨川流域の豊かな恵みを次世代に引き継ぎ、流域全体の持続可能な発展につながるよう河川整備に取り組むこととしています。

図2 球磨川流域図

(1)洪水等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
本計画では、洪水等による災害の発生の防止又は軽減に関する目標として、気候変動による降雨量の増加を考慮(約1.1 倍)して算出した年超過確率が概ね1/30 規模の目標流量を安全に流下させることとし、“ 緑の流域治水” の考え方に基づき、①「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」、②「被害対象を減少させるための対策」、③「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」に取り組むこととしています。
国管理区間における河川整備とともに、本計画に基づく河川整備を実施することで、令和2年7月豪雨を含む気候変動による降雨量の増加を考慮した戦後最大規模の洪水と同等の洪水に対して、家屋の浸水防止など流域における浸水被害の軽減を図ります。

①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策
河道の整備により必要な河道断面を確保しつつ、令和2年7月豪雨では、本川のピーク流量が極めて大きくなったことを踏まえ、支川の洪水が本川に流入して本川の洪水を形成することを念頭に、支川から本川への洪水の流入をできるだけ分散させ、更なる水位の低下を図るため、遊水機能を有する土地の確保・保全に取り組むこととしています。これは、洪水の一部をとどめておくことができる河川沿いの土地を確保し、水辺から陸域までの連続性の確保に努めるとともに遊水機能を保全することで、洪水を一時的に貯留してゆっくり流すグリーンインフラとして活用するものです(図- 3)。
確保した土地では、浸水状況を把握し、市町村と連携して発信することで、周辺にお住いの方々の速やかな避難に活用するとともに、多様な生物が生息・生育・繁殖できる環境を保全・創出することとしています。また、持続的な管理に向けて、研究フィールドや交流・学習の場などとして様々な主体の参画を図っていくこととしています。

図3 遊水機能を有する土地

また、流域治水の一環として集水域で様々な関係者が取り組む貯留・浸透機能の普及・拡大に向け、「営農継続と水田貯留機能のフル活用による田んぼダム」の取組み効果の定量化等に必要な技術支援に取り組むとともに、より多くの関係者の参画や効果的な対策の促進を図るため、流域治水における貯留・浸透機能の重要性を発信するなど、理解の醸成や合意形成に協力していくこととしています。

写真1 田んぼダム

さらに、令和2年7月豪雨では、大規模な土砂の堆積や多量の流木が発生したことを踏まえ、洪水中も流下能力を維持できるよう、土砂の堆積しにくい河道、土砂の流出抑制施設、流木の捕捉施設を整備するなど河川区域における土砂・流木対策に取り組むこととしています。また、流域全体で洪水中の堆積土砂や流木の発生をできるだけ抑制するため、治山や砂防などの集水域の関係者と連携し、流域治水における土砂・流木対策の重要性を発信するなど理解の醸成や合意形成に協力することとしています。

②被害対象を減少させる対策
連続堤の整備による治水対策が困難な山間狭窄部においては、洪水時における河川水位や本川の背水による影響を考慮し、集落を効果的に守る輪中堤の整備や、市町村による災害危険区域の指定と一体となった宅地かさ上げにより被害対象を減少させる対策に取り組むこととしています。また、氾濫域において、土地利用規制やリスクの低いエリアへの誘導等が適切に行われるよう浸水想定区域図などの災害リスク情報の提供や必要な技術支援を行うこととしています。

③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策
本計画の基本理念では、令和2年7月豪雨災害を教訓として、関係機関と連携・協力し、避難・水防対策・まちづくりを一体的、計画的に推進することにより「流域関係者一人一人が災害時の球磨川の脅威を忘れることなく、意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前となる社会」の実現を位置付けています。
このため、河川の整備において、水位計や河川監視カメラ等の増設による円滑な避難の支援や、決壊までの時間を引き延ばす堤防の構造の工夫、災害時に水文情報を確実に得られるようにするための観測機器の耐水化や電源・通信経路の二重化などに取組むとともに、浸水被害を最小化するため、氾濫シミュレーション等のリスク情報の積極的な提示や、水害に強いまちづくりや避難体制の強化にも市町村や地域住民と連携して取り組むこととしています。
また、河川の維持において、的確な水防活動を促進するほか、防災行動につながる防災情報の共有体制の強化を図るための「危機感共有と命を守る災害報道連携会議」の実施や、マイ・タイムラインをはじめ各種タイムラインの作成・運用、従来から提供してきたダム操作に関する情報に加え、新たなダムの貯留状況の情報提供などにも取り組み、計画規模を上回る洪水や整備途上の段階で施設能力を上回る洪水が発生した場合においても逃げ遅れゼロと社会経済被害の最小化を目指します。

(2)河川環境の整備と保全に関する事項
本計画では、地域の宝である球磨川の恵みが人々の暮らし、産業、文化を育んでいること、川辺川が水質日本一の清流であることなどを踏まえ、「河道の整備と良好な環境の保全の両立」「次世代に継承する良好な環境の確保・創出」の考えのもと、河川環境の整備と保全に取り組むこととしています。
具体的には、支川を介し森林・水田と本川とが繋がり、流域の多様な生物環境を形成すること、また、支川の水質が本川の水質を形成していることを念頭に、多様な生物を育む瀬や淵、環境移行帯(エコトーン)、自然の水質浄化作用をもつ瀬を保全することとしています。また、アユなどが遡上・降下できるよう堰等の管理者と連携するとともに、河川と水田水路との連続性の確保することにより、水系全体で多様な生物環境や良好な水質を末永く継承できるよう取り組むこととしています。
さらに、球磨川の原風景を形成する景観や川遊びなどに利用されている空間の保全や、令和2年7月豪雨からの復興を加速させるため、市町村が進めるまちづくりとも連携しながら、川を活用した賑わいの創出(かわまちづくり)に取り組むこととしています。

3.新たな流水型ダム
(1)川辺川における流水型ダムの整備
河川整備計画(国管理区間)では、平時は流れを止めずに清流を守り、洪水時は確実に水をためる流水型ダムの整備を求めることとした本県の表明を踏まえ、計画上必要となる治水機能の確保と、事業実施に伴う環境への影響の最小化の両立を目指した洪水調節専用の流水型ダムを川辺川に整備することが位置付けられています(表- 1)。
地域の宝である清流を積極的に保全する観点から、国において環境影響評価法に基づくものと同等の環境影響評価を実施することにより、最新の専門分野の知見も取り入れながら、供用後も含めた流水型ダムの事業実施に伴う環境への影響の最小化を目指すこととされています。
県としては、国土交通省が行う法と同等の環境影響評価に、環境の保全の観点から積極的に取り組むとともに、清流を守るダムとして整備が進められているかを流域住民の皆様とも一緒になって確認する仕組みを構築することとしています。

表1 流水型ダム諸元

(2)水源地域の地域振興
新たな流水型ダムを含む“ 緑の流域治水” を進めるにあたっては、五木村をはじめとする水源地域の地域振興が不可欠です。そのため、川辺川の流水型ダムに関しては、これまでダムの水没予定地や建設予定地として苦渋の選択をされた地域の過去の経緯や、半世紀以上にわたりダム問題に翻弄され続けてこられた苦難の歴史等を十分に踏まえつつ、川辺川が水質日本一を継続している清流であるなどの地域の特徴、ダム事業により多くの村民が移転して集落の消滅や集落機能の低下、人口の急激な減少などの課題を抱える五木村、相良村の新たな振興策について、国土交通省、県が連携し、地域と一体となって振興に向けた取組みを推進していくこととしています。

4.おわりに
球磨川流域では、今なお多くの方が仮設住宅等での生活を余儀なくされています。そのため、被災された方々の一日も早い生活再建に向けて、速やかに計画に位置付けた事業を実施していく必要があります。実施にあたっては、地域の状況に応じて、市町村の復興まちづくり計画や周辺の土地利用、地理的・社会的条件、土砂災害などの他の災害リスクも踏まえ、国土交通省や流域市町村との連携や、用地買収や施工中のご不便をお願いする地域住民の皆様とコミュニケーションを図るなど、流域のあらゆる関係者と連携するとともに、地域コミュニティの強化への支援や、DX 等の新たな取組の推進、また、本県が球磨川流域の復旧復興施策の一つとして進めている球磨川流域大学構想との連携などを総合的に進め、命と環境の両方を守る“ 緑の流域治水” を推進して参ります。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧