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大分県初のラウンドアバウトの本格運用について

大分県 土木建築部
道路保全課 副主幹
竹 中 克 敏

キーワード:ラウンドアバウト、バリアフリー

1.はじめに
(1)ラウンドアバウトを取り巻く状況
平面交差の計画及び設計に当たっては、道路及び交通の性格、機能、地域特性、沿道状況、歩行者の交通量等を総合的に判断して行われているが、近年、地方部の道路において円形の平面交差部の一種であるラウンドアバウトのニーズが高まりつつある1)

(2)大分県の取組み
大分県では、平成30年12月に、ラウンドアバウトの導入に向けた検討を行うため「大分県ラウンドアバウト検討委員会(以下、検討委員会)」(委員長:亀野辰三大分高専名誉教授)を設置し、平成31年2月に行われた第2回検討委員会で、整備効果や事業性の総合評価により、「安心院地域複合支所前の交差点(宇佐市安心院あじむ町下毛)」を社会実験候補地として選定した。
その後、同年7月の第3回検討委員会で、地域住民との意見交換会の結果等を踏まえた具体的な社会実験計画について了承を得て、令和元年10月29日から社会実験を開始した。
社会実験期間中に行った調査の結果、交通量が多い宇佐・別府方面の滞留長の減少や、環道内及び前後区間の走行速度の低下等、円滑性・安全性の向上が確認された。また、社会実験中に判明した交差点内の視認性や車両流入速度、バリアフリー等の課題に対し、地域住民や視覚障がい者、車いす利用者の方々からの意見を踏まえた対策を検討し、令和2年6月の第4回検討委員会、令和2年9月の第5回検討委員会を経て、“ 県内初”となるラウンドアバウトの導入を決定した。その後、令和2年10月から工事を開始し、令和3年3月に本格運用を開始した。
本ラウンドアバウトは、①約1年間に及ぶ長期の社会実験を行ったこと、②ラウンドアバウト導入に際し課題となったバリアフリー対策を行ったこと、③中央島に地域のランドマークとしてモニュメントを設置したこと、④ラウンドアバウトに地域の小中学生から募集した愛称をつけたこと、などの特徴を有する。
本文では、ラウンドアバウトの導入を検討する際の参考となることを願い、本ラウンドアバウトが本格運用を開始するまでに行った様々な検討結果を報告したい。

(3)「安心院地域複合支所前の交差点」の概要
a)位置
本ラウンドアバウトは、大分県宇佐市安心院町下毛の安心院地域複合支所前にある一般国道500号と主要地方道山香院内線の交差点で、従前は信号制御を行っていた(図- 1、写真- 1)。

図1 安心院地域複合支所前の交差点 位置図

写真1 整備前の交差点

b)道路の区分及び交通量
本交差点の道路の区分と総流入交通量を表- 1に示す。総流入交通量はラウンドアバウトの導入目安となる10,000 台/日2)を超えており、比較的交通量の多い交差点である。

表1 道路の区分及び総流入交通量

2.社会実験に向けた準備
(1)社会実験前の地域住民や関係団体へのヒアリング
社会実験開始前に、地域住民等のラウンドアバウト導入に関する意見を把握するため、近隣教育機関や交通事業者、社会福祉協議会などの関係団体及び隣接する自治区(下毛地区、木裳地区)へのヒアリングを行った(写真- 2)。
なお、ヒアリングにより得られた意見は、社会実験の交差点計画や広報活動に反映させた。

写真2 ヒアリングの実施状況(木裳地区)

(2)安全対策
社会実験当初は、ラウンドアバウトの各施設の視認性や、施工(設置・撤去)の容易性を考慮し、他都市の事例やヒアリングによって得られた意見を反映させながら、安全対策の計画を行った(写真- 3)。表- 2 に対策内容の例を示す。

写真3 社会実験開始当時の状況

表2 安全対策例

(3)先進地視察
地域住民や関係団体とともに、北九州市八幡東区(尾倉ロータリー)への先進地視察を実施した。参加者へのアンケート調査の結果からは、図- 2のように視察の前後でラウンドアバウトに対するイメージ(印象)の向上が確認できた。
また、同箇所の流入部に設置されている「凹凸マット(写真- 4)」と流出部に設置されている「グルービング舗装」について、視覚障がい者の方から意見を伺い、社会実験でも設置することとした。
地域住民等にラウンドアバウト導入に対する不安があるときは、「実際に体験する」機会を持つことでその不安が払拭でき、事業の円滑な実施につながると考える。

図-2 ラウンドアバウトに対するイメージ(印象)の変化

写真4 凹凸マットの発生音確認状況

(4)広報活動
社会実験の円滑な実施を目的として地域住民等への周知を図るため、パンフレット(図- 3)等の様々な広報資料を作成して配布するとともに,市報や県ホームページへの掲載、近隣公共施設を中心にポスターの掲示等を行った。

図3 市民向けに作成したパンフレット

3.社会実験中の活動
(1)速度抑制対策
社会実験開始から4ヶ月間に流入車両と環道走行車両の接触による事故が3件発生した。これらの事故は、環道への流入速度が大きいことが主因であると考え、速度抑制対策を講じることとした。
当初、ハンプ(黒)を設置したところ一定の速度抑制効果が確認された。しかし、地域住民へのヒアリングやアンケートで、大型車のハンプ通行時の騒音に対して苦情が寄せられた。そこで、ハンプ(黒)に代わり、騒音を発生させずに速度抑制効果が発揮される施設として「スムーズハンプ」と「イメージハンプ」の設置を検討し、これらの効果検証を行った(表- 3)。

表3 速度抑制のため導入を検討する施設

効果検証は、事前の調査で流入速度が大きかった別府側にスムーズハンプ、また山香側にイメージハンプを設置して、流入速度抑制効果及び大型車通行時の騒音を計測し、ハンプ(黒)設置時及び対策がない状態と比較した。
流入速度については図- 4 に示すように,スムーズハンプはハンプ(黒)と同等の速度抑制効果が確認できた。

4 流入速度調査結果

また、スムーズハンプ設置箇所における大型車通行時の騒音については図- 5 に示すように、ハンプ(黒)と比較すると抑えられており、対策がない状態と同等となった。
調査の結果、速度・騒音抑制効果が確認できた「スムーズハンプ」を本格運用時の流入速度抑制対策として採用することにした。

図5 大型車両通行時の騒音調査結果

(2)バリアフリー対策
社会実験中に実施したヒアリングやアンケートで、横断歩道部の縁石について、車いす利用者は「段差が通行しづらい」、視覚障がい者は「段差がないと分離島の位置がわからない」と相反する意見が出た。
本ラウンドアバウトは、安心院地域複合支所前という位置条件からバリアフリーを考慮する必要があり、車いす利用者及び視覚障がい者双方の通行に配慮した構造となるよう検討を行った。
検討に当たっては、障がい者団体(車いす利用者・視覚障がい者)の協力を得て、大分県内でバリアフリー対策が進んでいるJR 大分駅周辺(大分県大分市)の縁石を現地視察(写真- 5)し、段差の高さ(2㎝・1㎝・段差なし)に対して通行性・安全性を評価してもらった。
その結果、車いす利用者は「段差なし」、視覚障がい者は段差が高いほど良い評価が得られたことから、本ラウンドアバウトの横断歩道には図-6 に示すような二種類の段差を取り入れた「分離構造」を採用することとした。

写真5 車いす利用者による段差確認の様子

図6 横断歩道の分離構造(左:車いす利用者通行位置 右:視覚障がい者通行位置)

(3)実態調査
a)走行速度調査
ラウンドアバウトの長所として、全ての流入部が原則として非優先制御されるために流入時速度が抑制され、進行方向を問わず環道内走行速度がほぼ一定となることが挙げられる。
信号交差点時に計測した交差点部の走行速度と、ラウンドアバウト時に計測した環道内の走行速度を比較すると、図- 7 に示すように信号交差点時の走行速度が概ね40㎞ /h に対し、ラウンドアバウト時では概ね30㎞ /h 以下となった。走行速度が30㎞ /h 以下では死亡事故となる可能性が低いとされており3)、交差点の安全性向上が確認できた。

図7 走行速度調査結果(平日:別府→宇佐)

b)滞留長調査
信号交差点では、赤表示中は交差方向に車両がいなくても青になるのを待ち続けるのに対し、ラウンドアバウトでは、環道を走行する車両が存在しなければ随時交差点に進入することが可能となる2)
信号交差点時とラウンドアバウト時の最大滞留長を比較すると、図- 8 に示すようにラウンドアバウトにすることで最大滞留長が平日で約4割、休日で約6割減少しており、ラウンドアバウトの導入による交差点の円滑性向上が確認できた。

図8 滞留長調査結果

c)アンケート調査
社会実験開始後のラウンドアバウトに関する意見を把握するため、地域住民への郵送、周辺施設での街頭インタビューなどの方法でアンケート調査を実施した。
「あなたの環状交差点(ラウンドアバウト)に対する印象は、実験開始前(信号交差点)と比べてどのように変わりましたか?」という問いに対して、「良くなった」「少し良くなった」と回答した割合をみると、図- 9 に示すように、自動車利用者が72%、歩行者が71%、自転車利用者が62% を占めており、ラウンドアバウトの評価が高まっていることが確認できた。

図9 ラウンドアバウトに対する印象の変化

(4)地域住民及び関係団体へのヒアリング
社会実験開始前にヒアリングを実施した近隣教育機関や交通事業者、社会福祉協議会などの関係団体を対象に改めてヒアリングを行った。
社会実験開始前に比べると、ラウンドアバウトの安全性や円滑性について肯定的な意見が多くみられるようになった。 一方で、注意喚起や誘導など安全対策として交差点周辺に設置している看板類が多いことから、視認性の改善を求める意見や、交通ルールの周知・徹底を求める意見も挙げられた。

4.中央島の活用
(1)モニュメントの設置
本ラウンドアバウトでは、中央島という形態的特徴を活かし、地域振興を目的として、宇佐市が中央島にモニュメントを設置することが決定した。
モニュメントは、ラウンドアバウトを通行する車両の平面視距や縦断視距に影響がない形状を条件とし、全国を対象に「簡易公募型プロポーザル方式」で事業者を公募した。県内外8社の提案の中から業者選定委員会によって選ばれたのは、
「盆の棚」と命名されたモニュメントである。
このモニュメント(写真- 6)には、直径8.0m、高さ3.8m、重さ4.5t、さび止めのメッキを塗った210本のスチールの棒が垂れ下がる。これは、安心院地域のいたる所で見られるぶどう棚や、大昔は湖だったと伝えられている安心院盆地の湖面に映った山々の稜線、力強く流れる滝などをモチーフに地域の風景に溶け込んでいる様々な彩りを鏝絵のように柔らかな7 色のパステルカラーで表現したものである4)

写真6 中央島のモニュメント「盆の棚」

(2)愛称募集
ラウンドアバウトが地域住民に長く愛されることを期待して、宇佐市が、安心院小学校の5・6年生及び安心院中学校の1・2・3年生を対象に交差点の愛称を募集した。愛称は選定委員会で審査し、安心院中学校1年生のクラスが提案した“ 安心院の輪(あじむのわ)” に決定した。 
交差点に愛称をつけるために市民に広く呼びかける事例は、安曇野市等を除き全国的にあまり知られていない。しかしながら、道路への愛着心を持ってもらうため道路に愛称をつける例と同様に、ラウンドアバウトに愛称をつけることは、道路愛護の面で有効な取組みの一つと考える。

5.おわりに
計画当初は地域住民、特に車いす利用者や視覚障がい者等の障がい者団体から、渋滞や交通安全について不安な意見が多く挙がっていた。
しかし、現地視察や社会実験の実施、複数回に及ぶヒアリングやワークショップを通じた合意形成を図る活動等、地域密着型の各種試みを実施することで、総流入交通量が10,000台/日を超える信号交差点、かつ県内初という条件下において、約2年間をかけてラウンドアバウトの運用を開始することができた(写真- 7)。
今後は、本格運用開始後の交通量や走行速度などの実態調査や、地域住民や各種団体等へのアンケート調査を行い、導入効果を検証・分析する予定である。

写真7 大分県初のラウンドアバウト運用状況

謝辞:本ラウンドアバウトの導入に際しては、大分工業高等専門学校亀野名誉教授を始めとする検討委員会の皆様から適切な助言を賜りました。ここに記して謝意を表します。

参考文献
1)国土交通省 道路局長:ラウンドアバウトの導入について
< https://www.mlit.go.jp/road/sign/kijyun/pdf/20140901tuuti.pdf >,2021年9月30日最終閲覧
2)交通工学研究会:ラウンドアバウトマニュアル,2016
3)Speed management ‒ A road safety manual for decision-makers and practtitioners ‒
4)宇佐市:広報うさ2021年4月号No.310,2021.4

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