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地方公共団体が行う災害復旧事業の支援・助言
~災害復旧技術専門家派遣制度~

災害復旧技術専門家 九州ブロック長
(九州建設コンサルタント株式会社 
執行役員 技術部長)
後 藤 信 孝

キーワード:災害査定方法の変化(より効率的、より簡素化)

1.はじめに
(公社)全国防災協会では平成15年度から災害復旧技術専門家を災害現地に派遣し、地方公共団体が行う災害復旧事業の支援・助言について、ボランティアとして活動する「災害復旧技術専門家派遣制度」を創設し活動してきた。
また、平成26年度から国土交通省水管理・国土保全局防災課長より「災害復旧・改良復旧事業の技術的支援(試行)について」通達が出され、大規模災害等で被災自治体から本省防災課に要請があり、防災課が必要と判断する場合、全国防災協会より無償で専門家を派遣する試行が始まり、制度の充実を図っている。

2.災害復旧技術専門家とは
災害復旧技術専門家は、国や都道府県の災害復旧業務に長年携わり、制度を熟知し災害復旧事業に関する技術的見地を有する経験豊富な技術者である。構成は、国や都道府県で本庁防災担当課長級及び事務所長等の経験者でそれぞれの機関を退職された方である。
現在の登録者数は、令和3年9月30日現在で、全国402名、その内九州では、国土交通省OB16名、沖縄県を除く九州各県OB71名の合計87名で活動している。尚、この登録者数は全国の各整備局範囲の中でも最大の数である。
又、各専門家には専門分野があり、河川、砂防、地すべり、ダム、道路、海岸等多岐に渡っており、それぞれの災害によって派遣することができる。

3.専門家活動内容
(1)これまでの派遣実績
全国では、平成16年度から令和2年度まで派遣回数352 回、延べ人数756名の実績がある。九州では、平成19年の宮崎県梅雨前線豪雨の派遣から、直近では令和3年7月鹿児島県さつま町まで計7回の派遣実績がある。
特に近年では平成28年からほぼ毎年の派遣要請がある。これは、平成26年の防災課長より出された技術的支援の試行により、各地方公共団体への周知が進んだことや、近年大規模災害が頻発していることが考えられる。
【九州の主な派遣実績】
 H19年:宮崎県梅雨前線豪雨
 H24年:7月九州北部豪雨
 H28年:4月熊本地震(熊本県西原町、御船町、合志市、菊池市、小国町、産山村)
 H29年:7月九州北部豪雨(福岡県朝倉市、東峰村)
 R 元年:8月梅雨前線豪雨(佐賀県多久市)
 R 2年:7月豪雨(熊本県湯前町)
 R 3年:7月豪雨(鹿児島県さつま町)
 継続支援
 ・H29年7月九州北部豪雨の福岡県朝倉市(H30 ~ R3)、東峰村(H30)
 ・R 元年梅雨前線豪雨の佐賀県多久市(R2)

(2)平成29年7月九州北部豪雨の事例
平成29年7月5日昼頃から夜にかけて、福岡県朝倉市、東峰村、大分県日田市では12時間雨量が800㎜近く達し、24時間雨量でも1000㎜を超え、記録的な豪雨となり、大量の土砂や流木が集落を襲い甚大な被害が発生した。
専門家の派遣は、福岡県朝倉市と東峰村から依頼があり、それぞれ計3 回の助言を行った。
特に朝倉市の被災の特徴は、山腹の広範囲にわたる崩壊により土砂(マサ土)の大量流出が発生し、土砂埋塞により被災確認ができない状況であった。
災害申請は、被災確認できない事項は申請できないが、埋塞箇所は災害査定までに被災状況の確認は困難な状況であり、申請は主に埋塞土砂撤去とし護岸等の被災が確認できた段階で変更申請を行う方針を助言した。

写真 河道埋塞状況(朝倉市由丸川)

写真 橋梁上での助言状況1(朝倉市由丸川)

このような状況の中で、H29.10.31 付けで「5割以上埋塞箇所は全損」の方針が出され、申請もその後通知に沿って5割以上埋塞箇所は構造物の全損扱いで申請を変更した。    
この方針により、「一定災」の申請が可能になり、朝倉市では一定災の採択が3河川(奈良ケ谷川、平川、小河内川)で採択され、改良復旧事業が単災と同じ負担で実施できることになった。

*一定災とは
公共土木施設が広範囲わたって激甚な被災を受けた場合、一定の計画に基づいて復旧する事業で全額災害復旧事業で改良復旧を行う災害復旧。
条件
・被災が広範囲にわたっていること。
 規定はないが通常500m 以上
・被災程度が激甚であること。
全損した延長が一定計画で復旧しようとしている区間の8 割以上であること。
以前の事例:平成23年東日本大震災で18件の採択

写真「被災施設の原形等が調査困難な場合の取扱いについて」(平成30年4月5日付け国水防第9 号水管理・国土保全局防災課長通知)(抄)

尚、朝倉市及び東峰村からその後も継続的な支援要請があり、平成30年度から朝倉市(H30~R3)、東峰村(H30)については支援を行っている。

4.近年の災害申請の主な改正点
(1)写真の簡素化(平成26年)
(平成25年8月28日事務連絡)
迅速な災害復旧を行うためにGPS、トータルステーション等により査定用設計書を作成する場合の方法
①延長表示のリボンテープの廃止 ②延長は杭間距離表示 ③水深のある個所のポール設置の廃止 等

ポール縦断写真のイメージ

(2)美しい山河を守る災害復旧基本方針の改定
(平成26年4月4日記者発表)平成26年

図 平成26年災害手帳の改定<

・多自然川づくりに関する最新の知見
水際部への配慮、重要な環境要素への配慮、護岸における景観への配慮
・設計の考えが確実に現場に反映されるプロセス
・平成30年6月26日改定
①近年の大災害への対応
河道計画の考え方、アドバイザー制度の活用等(アドバイザー制度活用は改良事業の場合必須)
②現場技術者の労力削減(A 表の簡素化)
③河川環境保全等の技術拡充
良好事例の追加、事例集作成

(3)総合単価の一部見直し(平成26年)
総合単価価格を直接工事費とし、積み上げとの併用制限を撤廃。
*間接工事費等の算出は、総合単価により算出した直接工事費と積み上げにより算出した直接工事費の合計額

(4)査定の主な効率化(H26)
・査定設計書と実施設計の乖離解消
①消波根固めブロックは実施ブロックで申請。
②水換えは金額を問わず積み上げ積算可。
③埋設土砂・流木撤去の内査定時契約済みの部分は全量計上。
④契約済み箇所は実施設計書を査定。
・査定の簡素化
①写真撮影の省力化の徹底(H27)
②査定前着工、概略図面での査定・発注の推奨。(H27)
③机上査定に関する都道府県主務課長「確認書」は箇所一覧表で可。(平成28年)
④気象資料については、気象庁アメダス、レーダー雨量等の活用も可。(H28.4 通知)

(5)採択基準の明確化
・不可視部分は設計変更対応(平成27年、28年)
H26.5.15 付け事務連絡(被災施設の原形等が調査不可能な場合の対応)で対応してきたが、未申請と申請漏れとの区別が困難であり、付箋に未申請であることを確認した旨を記入署名する。(平成28年)

図 調査不可能な場合の対応について

・最深河床高の評価高から河川護岸の「根入れ」を設定すること明記。最大洗堀深は、現況最大洗堀深、実績最大洗堀深、推定最大洗堀深のいずれか大きい方を採用する。
・流出橋梁撤去は河川管理上支障があれば可。
・仮設道路の敷砂利は原則再生砕石(リサイクル法の尊守)

(6)大規模災害時における査定方針を明確化
平成29年2月1日付け 三局長通知
(令和2年8月解説見直し)
主な内容
・対象区域:都道府県(市町村含み)、指定都市
・局地激甚災害は対象外(やむを得ない場合個別協議)
・机上査定限度額の引き上げ
カテゴリーS:申請予定箇所の概ね9割の金額
 *激甚災害、政府緊急災害対策本部設置
  過去の事例:東日本大地震
カテゴリーA:申請予定箇所の概ね7割の金額
 *激甚災害
  過去の事例:熊本地震
・採択保留金額の引き上げ
カテゴリーS:保留見込み箇所の概ね9割
  過去の事例:30億円
カテゴリーA:保留見込み箇所の概ね6割
  過去の事例:8億円
・設計図書の簡素化
航空写真や代表断面の活用により測量・設計期間の短縮等
尚、令和2年8月改定では該当しない場合も、やむを得ない事情がある場合は、個別に協議を行い効率化の検討を行うことができることに改正。
・一か所工事の取り扱い
被災箇所が100m 以内は一か所工事とする現行に加え、100m を超える場合も統合すること及び箇所間の距離にかかわらず、適度な工事発注単位に「分割」することを認める。
・大規模災害時における調査、測量、試験又は設計に関する費用を災害復旧事業及び改良復旧事業の対象とすることを追加。(令和2年7月31日付通知)(助成事業等も令和3年1月15日付通知)

*大規模災害査定方針に基づき簡素化を行った場合、災害査定後に設計書を作成するために行う費用について、災害申請時に計上できる。

図 大規模災害時における調査、測量、試験又は設計に要する費用の取り扱いについて(R2.7.31通知)

(7)新制度
・「一定災」の拡充内容について明記(査定方法、申し合わせへの追記)平成30年
土砂等により著しく埋塞している河川について適用の拡充(原則として河道断面の5 割程度以上埋塞区間が8 割以上)
・倒木の除去にかかる災害復旧の取り扱い(平成30年12月18日通知)
平成30年台風21 号による倒木被害に鑑み設定。
・地すべりに起因する施設災害の方針
学識経験者等との連携、内部検討会の設置
学識経験者の意見聴取は原則義務化
・豪雨に伴うダムへの堆砂に対する除去対象の拡充。(令和2年度新規)(令和2年12月7日付通知)
対象範囲を、事前放流に必要な容量まで拡充。

5.終わりに
今回2回目の投稿となったが、前回はNO61、2017.9 で主に制度の内容や平成28年4月の熊本地震での支援状況を投稿した。
今回は、平成29年7月の九州北部豪雨の支援状況や近年の災害査定方法の移り変わり等を投稿した。災害査定の基本理念(負担法)は変わらないが、災害事例等を加味して査定方法は毎年のように改定されており、特に近年は現場確認の方法が技術の進歩によりWEB 査定やDX の活用等大幅に変わろうとしている。
このような中、我々災害復旧技術専門家は、しっかり情勢の変化に対応し的確な助言を行えるよう自己研鑽する必要があり、そのためにも今後も関係機関と情報共有を図りながら地方自治体から信頼できる専門家派遣制度の充実を図っていく必要がある。

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