「令和3年8月大雨」による国道34号の冠水について
国土交通省 九州地方整備局
佐賀国道事務所 計画課長
佐賀国道事務所 計画課長
岩 熊 真 一
キーワード:令和3年8月大雨、道路冠水、自治体支援
1.はじめに
令和3年8月11日から19日にかけ、前線が九州付近に停滞し、前線に向かって太平洋高気圧の周辺から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、九州北部地方に総雨量1000㎜を超える記録的な大雨となった。
佐賀県では、8月11日朝から降り出した雨は、夕方にかけて激しくなり、日降水量が100㎜を超えるところもあった。8月12日明け方から局地的に猛烈な雨や非常に激しい雨が降り続き、8月14日未明から朝にかけて線状降水帯が発生し、8月14日2時15分には大雨特別警報が武雄市と嬉野市に発令され、その後14 市町(多久市、小城市、大町町、江北町、白石町、鹿島市、佐賀市、鳥栖市、神埼市、吉野ヶ里町、有田町、みやき町、唐津市、玄海町)に追加及び継続して発表された(図- 1、2)。
この大雨により、佐賀県内の河川において、内水氾濫が発生し、家屋浸水被害(床上浸水約1,400戸、床下浸水約2,000戸)や国道や県市町道の至るところで路面冠水や土砂崩れ等による通行止めが発生するなど広範囲で公共施設に被害があった。
特に武雄市周辺においては、「令和元年8月豪雨」と同様な内水氾濫が発生し、大規模な浸水被害となった(図- 3)。
本稿では、国道34号の道路冠水状況、災害対策基本法に基づく道路啓開状況、「令和元年8月豪雨」と今回の大雨の比較をした結果や自治体支援状況について報告する。
2.道路冠水状況
8月11日から降り続いた大雨の影響により、8月13日15時頃に市道北方新橋線の道路冠水に伴い武雄バイパスから国道34号に迂回路誘導を実施した。
その後も雨は降り続き、8月14日3時から国道34号の大町駅前交差点(大町町)~白岩球場入り口(武雄市)L=8.7㎞の通行止めを開始したことを皮切りに徐々に通行止めの範囲を広げ、国道34号の通行止めは、最長41㎞、通行止め時間36時間となった(図- 4)。
3.災害対策基本法に基づく道路啓開作業
国道3号の冠水により、道路上に放置車両が存在したため、冠水が引き始めた8月15日6:00に災害対策基本法第76条の6第1項の規定に基づき、国道34号(佐賀県内)の区間指定を行った。
災害対策基本法の適用車両4台に対して、道路啓開作業を8月15日8:20 から開始し、同日14:00 に作業を完了した。作業完了後、道路の安全確認を行い、同日15:00 に国道34号の通行止めは全面解除とした(図- 5)。
4.令和元年8月豪雨と令和3年8月大雨の比較
1)降雨状況の比較
図- 6に令和元年8月豪雨と令和3年8月大雨の概況について、比較を行った。
令和元年8月豪雨については、8月27日から8月28日の2日間で総雨量約600㎜、1時間100㎜以上の降雨が観測され、線状降水帯の発生はなかったものの大雨特別警報が発令されている。
令和3年8月大雨では、8月11日から8月14日の4日間で総雨量1,000㎜、1時間60㎜以上の降雨が観測され、線状降水帯が発生し、大雨特別警報も発令された。
2)浸水範囲の比較
図- 7に令和元年8月豪雨と令和3年8月大雨の浸水範囲について、比較を行った。
令和元年8月豪雨と令和3年8月大雨では、浸水範囲については、ほぼ同様である。
浸水深さについて、国道34号で比較すると、今回発生した令和3年8月大雨が20㎝から50㎝程度高く浸水している。
また、国道34号の道路冠水は、内水氾濫による浸水であるため、図- 7 の図中に六角川の水位との関係を示すとおり、六角川の水位がHWLを超え、排水ポンプが停止するとほぼ同時に国道34号が冠水している。
六角川の水位が低下し、排水ポンプが稼働すると国道34号の道路冠水の水位も低下していることが伺える。
5.自治体支援
1)大町町 ため池溢水の恐れ被災支援
令和3年8月17日17時頃に大町町長より「ため池」の決壊の恐れがあり、国道34号への影響が懸念されたため、確認の要請があった。現地確認した結果、ブロック積擁壁に変状が見られたことから、同日23時に国道34号約4㎞の全面通行止めを行い、排水ポンプ車によるため池の水の排出を行うなど、自治体支援を行った。
翌18日の朝に定点カメラを設置し、経過観測できるようになったため、6時に全面通行止めを解除した。
同日の11時頃TEC-Dr(九大 安福教授)の現地調査・診断を受け、その結果について大町町長へ報告し、併せて対策や対応方法等の助言を行った(図- 8)。
2)大町町 盛土クラック被災支援
令和3年8月21日18時頃大町町長より国道34号より300m程離れた山に亀裂が見つかり、国道34号への影響が懸念されることから、確認の要請があった。現地へ職員を派遣し、造成されている盛土箇所(切盛り境)に亀裂が生じていることを確認した。また、亀裂があった盛土箇所の下方の空積み擁壁の変状や墓地にも亀裂が発生していることを確認し、通行止めの規制準備を行った。
翌日9時頃にTEC-Dr(福大 佐藤教授)に現地調査・診断を受け、その結果について大町町長へ報告し、併せて対策や対応方法等の助言を行った(図- 9)。
3)嬉野市 地すべり被災支援
令和3年8月24日16時頃に嬉野市長より大規模地滑りが不動山大船地区と大草野南下地区2地区について、TEC-Dr による診断の要請があったため、TEC-Dr に現地診断を実施する自治体支援を行った。
翌日11時頃TEC-Dr(九大 水野准教授)に現地調査・診断を受け、その結果について嬉野市長へ報告し、併せて対策や対応方法等の助言を行った(図- 10)。
6.おわりに
近年は気候変動の影響により気象災害が激甚化・頻発化し、佐賀県においても毎年の様に記録的な大雨による災害が発生している。
今回の災害や前回との比較を災害アーカイブとして取り纏めた冊子を作成したため、今後発生する災害時の対応の一助になれば幸いである。
最後になりましたが、今回の大雨により被害を受けられました皆さまに、心よりお見舞い申し上げますと共に、災害対応に際し協力して頂いたTEC-Drの方々や昼夜問わず作業頂いた建設業者の方々にこの場をお借りしまして感謝を申し上げます。