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雲仙・普賢岳の溶岩ドーム監視
~直轄砂防管理における溶岩ドームの挙動観測について~

国土交通省 九州地方整備局
長崎河川国道事務所 砂防課長
西島 純一郎

キーワード:雲仙・普賢岳、噴火災害、溶岩ドーム挙動観測

1.はじめに
1990年11月に198年ぶりに噴火した雲仙・普賢岳の火山活動は1996年6月の終息宣言まで続き、この間に頻発した火砕流や土石流は死者・行方不明者44 人を出すとともに、周辺地域の生活や経済活動へ長期にわたり甚大な被害を与えた。その後も度重なる火砕流などによる堆積物が降雨のたびに土石流となって流下することで、道路や鉄道が寸断され、やがて有明海に到達するまでに被害区域は拡大した(写真- 2)。また、火砕流や土石流は、島原市、深江町地域を中心に被害を拡大させた。
このような事態を受け、1991年6月に災害対策基本法第63 条に基づく警戒区域が人家や商工業が密集する市街地において、我が国で初めて設定され、これにより人の立ち入りが制限されることになった。その後は死者が発生するような災害は起こっていないが、道路やライフライン等の維持管理や土石流対策等の防災対策の着手が出来ない状況が長期間続いた。
このような中、1993年4月に「雲仙復興工事事務所」が新設され、直轄砂防事業による砂防堰堤・導流堤等の砂防施設整備、土石流等の監視体制の構築が進められた。
2021年3月末、導流堤や砂防堰堤の整備完了をもって28年間続いた直轄砂防事業は終了し、4月から長崎河川国道事務所に砂防課(雲仙砂防管理センター内)が新設され水無川流域全域における砂防管理をスタートしている。
一方、現在も山頂部分に存在する1 億m3にもなる巨大な溶岩ドームと称される岩塊群は崩壊の可能性がある。このため、崩壊時の影響範囲となる地域住民の避難計画などのソフト対策として関係機関との連携のためと、水無川流域での砂防管理従事者の安全確保のために溶岩ドームの挙動を観測している。本稿はその溶岩ドーム観測について報告する。

写真1 雲仙・普賢岳と砂防施設群(2020年10月)

写真2 有明海に到達した土石流(水無川)(破線部が水無川、奥が普賢岳)(1993年5月)

2.水無川における溶岩ドーム観測
2.1 溶岩ドームについて
今回の噴火活動において山頂部に形成された溶岩ドームは、その後成長と崩壊を繰り返しながら、1996年の噴火活動の終息宣言を経て、現在の形となった。
現在、溶岩ドームは縦約600m、横約500m、高さ約100m とされるローブ部分が山頂部に水無川方向にせり出すようにあり、山頂部周辺部からは、水蒸気が噴気として噴出している(写真- 3)。

写真3 溶岩ドーム全景(2020年10月)

2.2 溶岩ドームは1. 39m動いている
溶岩ドームの挙動観測については、施工中の安全確保のために1997年から続けているが、学識者や行政機関により構成される「雲仙・普賢岳溶岩ドーム崩壊ソフト対策検討委員会」において、2014年より観測手法の検討や監視基準の設定などの検討を進め、2017年の第9 回委員会にて監視基準を決定し、現在に至っている。
2021年4月末時点で、溶岩ドームの常時観測として監視カメラによる直接目視のほか、光波観測、GB-SAR による遠方からの変位観測、振動センサー、震度計による溶岩ドーム周辺の地震や振動検知、センサーネット傾斜計、光ワイヤーセンサーによる直接的な変位状況監視に加え、雨量計の7 種類を設置しており、さらに定期的に上空からのレーザー測量など様々な手法を用いて溶岩ドームの挙動を監視している。
また、溶岩ドームの観測データについては、各観測装置の制御サーバーを経て、「溶岩ドーム情報配信システム」に集約され、監視基準を超過した場合は、所定の総合判断フローに基づいて関係する職員へ自動的にメール配信される。
また、同様の情報発信をあらかじめ登録している自治体の防災担当者や現地で作業する業者へも配信され、情報の共有化と住民の避難行動に役立てるよう連携を図っている。

図1 溶岩ドームの観測機器配置図

2.3 監視カメラ
水無川上流域の大部分が警戒区域に設定され、人の立ち入りが制限されていることから、土石流監視や砂防施設監視などの目的で各箇所に監視カメラを設置しており、溶岩ドームの挙動監視にも使用している。最初の監視カメラは1991年に溶岩ドーム南側に設置され、2021年4月末時点で12 基の監視カメラが溶岩ドームの東~南方向にかけて設置されている。その一部は最新の高解像度カメラで、3㎞以上離れた箇所からでも鮮明な映像を得ることができるようになっている。
また、これら各種センサーの観測データや監視カメラの画像データは光ケーブルネットワークに接続され、雲仙砂防管理センターの防災室においてリアルタイムで確認すると同時に、地元ケーブルテレビへ配信するなど一般市民向け情報提供を行っている。

写真4 砂防課(砂防管理センター)防災室状況

2.4 振動センサーによる挙動観測
振動センサーは、土石流や火砕流の発生そのものを検知する目的で設置し、現在は溶岩ドームの挙動観測の観測手法の1 つとして、溶岩ドーム周辺に全7 箇所設置している。
振動センサーの観測データは振動波形で表されるが、これまでのデータ解析により、土石流の場合の波形、溶岩ドームの小崩落の場合の波形等、ある程度現象ごとの波形の傾向がわかっている。
図- 2 の上段は2016年11月に発生した溶岩ドームの小崩落において観測された振動波形で、中段は2016年6月発生の土石流において観測された振動センサーの振動波形、下段は2014年7月に発生した地震の振動波形である。これを見ると、土石流の場合は、比較的長い時間振動が継続するとともに、増幅部と減衰部のデータが比較的緩やかに変化している。これと比較して、小崩落発生時の波形データでは、土石流の波形よりも比較的短い時間で増幅減衰を行うとともに、特に増幅時の変化が比較的急激であることがわかる。振動センサーが一定規模以上の振動を検知した時には、情報配信システムから事務所職員にアラートメールが送信されるようになっているが、その際にこの波形を確認して現象種別を判断する際の参考としている。

図2 振動センサーの波形と発生事象の関係

2.5 光波測距観測
光波による挙動観測は1997年から継続しており、反射プリズムをヘリコプターにより溶岩ドーム上に設置し、山麓の2 箇所(大野木場、天狗山)からの距離の変化を光波測距儀により常時計測している(図- 3(上))。
1997年当初は10 基設置していたが、火山ガスの影響等により使用不能となるプリズムがあったため更新を繰り返し、2021年4月末時点で8 基のプリズムで観測している。最も長い1997年から観測しているP8 プリズムでは観測開始から2021年4月末時点までで約1.39m 東南東方向へ移動している(図- 3 下))。1997年からの変化量を年換算した場合、約60㎜ /年となる。2020年の年換算変化量は約34㎜ /年、2019年の年換算変化量が約40㎜ /年であることから、観測開始からの年換算変化量よりはやや小さいものの、近年も移動し続けていることがわかる。

図3 光波観測位置図(上)と斜距離変化量(大野木場-P 8 間)(下)

写真5 溶岩ドームに設置しているプリズム(左)と大野木場光波観測所(右)

2.6 GB-SAR(地上設置型合成開口レーダー)
GB-SAR は、地上型の合成開口レーダー装置であり、基本原理は衛星を用いた合成開口レーダーと同様に対象物に向けて照射した電磁波と対象物から反射した電磁波の位相差より対象物表面の変位を求めるもので、水無川上流部に機器を設置して2011年に観測を開始し、2021年4月末時点においても観測を続けている。
設置した機器(写真- 6)は送信機と受信機が一体となった本体が送受信を行いながら2m のレール上を往復(7 分程度)することで、大きな開口面(アンテナ)を備えた機器と同じ分解能を得ることができる。また使用する電磁波は可視光に比べ波長が長いため、ある程度の雲は影響を受けずに観測ができる。
GB-SAR によって得られるデータは、観測範囲を面的にとらえ、画像として表現される。得られた画像データのなかで、特に注視すべき箇所は図- 4(上)に示す溶岩ドーム外縁部の「A4-3」「M1」「M2-4」「M2-1to3」「Dome1」であり、各観測結果を図- 4(下)に示す。これによると、年間16 ~ 38㎜程度の変位が認められ、特に、溶岩ドーム上部に設定している「Dome-1」の変位が比較的大きいことから、溶岩ドームの特に上部付近での変位が大きい傾向にあることがわかる。

写真6 GB-SAR観測機器

図4 GB-SARによる溶岩ドームの変化分布(上)と対象領域の変化量(下)

3.おわりに
1990年の噴火開始から30年以上が経過し、土石流や溶岩ドームの崩壊など、様々な災害の発生に備えた監視観測技術を進化させてきた。先に述べたように溶岩ドームの崩壊の危険性は今も残っており、溶岩ドーム監視は今後も継続していく必要がある。
また、挙動観測や情報提供に加えて、島原市・南島原市などの関係自治体及び長崎県を事務局とする「雲仙岳火山防災協議会」と連携し、地域防災力向上に向けた取り組みを継続して予定である。

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