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甑大橋開通!
~橋名決定・開通式・開通後の状況報告~

鹿児島県 土木部   
道路建設課 橋りょう係
森 脇 寛 透

キーワード:甑島、甑大橋、藺牟田瀬戸、鹿児島県最長、多径間連結PC箱桁橋

※「甑」の字は正式には「曽」に「瓦」

1.甑大橋の概要
去る令和2年8月29日、約9年の歳月をかけた工事により、鹿児島県薩摩川内市の下甑町鹿島と中甑町平良を結ぶ藺牟田瀬戸(いむたせと)架橋工区(L=5.1㎞)が開通しました。橋梁部の甑大橋(L=1,533m)は鹿児島県で最長の橋梁です(写真- 1)。
藺牟田瀬戸架橋工区については、これまでも本誌において取り上げていただいておりますが、今回は橋名の決定や開通式、開通後の島の様子についてスポットを当てて御紹介したいと思います。

写真1 夕焼けの甑大橋<

2.藺牟田瀬戸架橋工区の御紹介
(1)「甑」を読めますか?
甑島は鹿児島県本土の西方約30㎞の東シナ海に浮かぶ島々で、大きく上甑島、中甑島、下甑島の3 つの島からなります。現在の島の人口は、3島合わせて4,200人程です。
先日、インターネットニュースサイトを見ているとある広告が目にとまりました。クイズサイトの紹介なのですが、「この漢字読めますか?」と書いてあります。何の漢字かな・・・と思って良くみてみると「甑」と書いてあるではないですか!
開通から一年ほど経過し、頻繁にこの字を目にしてきた自分からすると、かなり意外ですが、鹿児島県以外の方(いや、ひょっとすると鹿児島県でも薩摩地方以外の方)は読み方すら知らないのかもしれない・・・とあらためて気づかされたところです。

「甑」=「こしき」

・・・と読みます。この機会に是非覚えていただきたいと思います。
島名の由来ですが、中甑島にある蒸籠(せいろ)の形をした岩が古くから大明神としてまつられており、この岩が蒸籠を指す「甑」の漢字をあてて「こしき」と呼ばれたから…と言われています。

中甑島北部にある「甑」(蒸籠)の形をした大岩を甑大明神として崇拝したことに由来し、かつては「古敷島」「小敷島」「子敷島」「古志岐島」などとも書いた。 フリー百科事典:Wikipedia より引用

なお、この「甑」の文字ですが、最近のパソコン(文字フォント)では複雑な旧字体の様な表示がされますが、薩摩川内市によると下記のシンプルな字体を正式の標記としているそうです(図- 1)。
本文中でも甑の文字標記を合わせています。

図- 1 「こしき」の漢字表記は「曽」に「瓦」

中甑島北部にある「甑」(蒸籠)の形をした大岩を甑大明神として崇拝したことに由来し、かつては「古敷島」「小敷島」「子敷島」「古志岐島」などとも書いた。
確かに蒸籠に似ている…かもしれません(写真-2)。

写真2 甑大明神と「こしき」(蒸籠)

(2)橋名の決定
平成18年度に事業採択された藺牟田瀬戸架橋工区ですが、「甑大橋」の橋名が決定したのは最近(令和元年度)のことです。元々、潮流の早い海峡部の工事であり、幾度となく接近する台風等への対応など、非常に苦労されたそうです。
開通時期が決定した工事の終盤に差し掛かって、ようやく橋名も決定できたわけです。
橋名決定に当たっては、公募により募集した結果、県内はもちろん、北は北海道から南は沖縄県まで全国各地の810 名の方から応募がありました。
これを受け、島内代表者による選定委員会を開催し、「甑島の地名」と「橋の大きさ」をわかりやすく表した

甑大橋(こしきおおはし)

…が選定されました。シンプルで良い名前だと思います。
開通時には橋の両岸に設置された親柱もお披露目されました。親柱には、地元アーティストによる彫刻と一緒に、この橋名が刻まれています。
親柱の彫刻は、上甑島・中甑島と下甑島のそれぞれをかたどった岩に、藺牟田瀬戸付近でみられる「ウミネコ」がとまっている様子が表現されています(写真- 3)。

写真3 甑大橋の親柱

3.開通式とそれに先立つプレイベント
甑大橋の開通式は、県知事や地元薩摩川内市長出席のもと、令和2年8月29日に開催いたしました。当初は県外からもお客様をお招きする予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、県外から御招待予定であった方々へは「ビデオメッセージ」をお願いし、式典において流させていただきました。
規模こそ縮小しましたが、当日は快晴で、海も穏やか。親子三代の「渡り初め」や「地元漁船のパレード」(橋の下をくぐる)等、関係者の記念になる開通式を開催できました。
また、式典の一週間前にはプレイベントとして島内住民向けに「ウォーキング大会」も開催しました。これまでは、上甑島里港~下甑島鹿島港の往来には一日2 往復しかない定期船で40 分程かかりましたが、陸路で時間を選ばずに往来ができる様になることへのインパクトは大きかった様です。多くの住民が参加し、開通する甑大橋への期待の高さがうかがえました(写真- 4)。

写真4 ウォーキング大会の様子

4.甑大橋開通後の様子
無事開通した甑大橋ですが、開通の翌週には早くも台風10 号の襲来を受ける事となりました。工事期間中も台風が襲来する事はありましたが、供用開始後、初の台風ということもあり、道路利用の安全性や台風前後の橋の利用状況について、注目が集まりました。
甑大橋では、島内の同じ路線にある「甑大明神橋」と同様に「風速による通行止め基準」を設けており、台風10 号襲来時にも、基準に則った規制を行い、台風通過後は速やかに交通解放を行う事ができました。
従来の海路の場合は、台風通過後もしばらくは海に高波やうねりが生じるため、船の運航ができなかった事を考えると、これは甑島住民にとっては画期的な事であるといえます。また、台風接近前の準備(台風養生)にあたっては、これまでそれぞれの島で資材調達をするため品切れ等に悩まされる事もあった訳ですが、甑大橋開通によりそれぞれの島を行き来して準備ができるようになった事も大きな効果です。
象徴的であったのは、下甑島で発生した断水への対応です。台風10 号の通過後に下甑島の鹿島地区の県道で災害が発生し、同地区の一部(約290 戸)で断水が発生しました。従来であれば、応急処置だけでもかなりの期間を要し、住民の生活へ大きな影響を与えるところでしたが、開通した甑大橋を活用し、上甑島から給水車を速やかに陸路で派遣し、対応することができたそうです(図- 2)。

図2 台風10号での断水対応イメージ

この様に、離島においては橋の完成で、「これまでに無かった生活スタイルが可能になることの便益」も期待できる事がわかりました。今後も、様々な角度から、甑島における「橋の開通効果」を検証していきたいと考えています。

5.甑島の名所案内
話題がそれますが、甑島にはどのような見どころがあるのか…。少しだけ御紹介させていただきます。
甑島は多様な海岸景観を有した自然豊かな島である事から、平成27年3月に国定公園に指定されています。特に上甑島にある潟湖群(せきこ)と海を隔てている延長4㎞に及ぶ砂礫州からなる「長目の浜」は国の天然記念物にも指定されています。一方の下甑島には、約8,000 ~ 2,300 万年前の太古の地層が美しい模様を形成している「鹿島断崖」があり、鹿島地区近隣では白亜時代のアンモナイトや恐竜の化石が発掘されることでも有名です(写真-5)。最寄りの薩摩川内市役所鹿島支所には「甑ミュージアム恐竜化石等準備室」があり、発掘体験や専属職員による詳しい説明を受けることができます。

写真5 甑島の景勝地

また、甑島周辺の「磯」は「釣りのメッカ」となっており、年間を通して全国から釣り客が訪れることでも知られています。
これまでは、列島の間も海に隔てられていたため、上甑島と下甑島の両方を一度に巡る事は難しかった訳ですが、甑大橋開通により、これらの名所を一度に周遊することも可能となりました。
もちろん、甑大橋自体も美しい線形を持つPC 橋梁ですので、甑島を訪れた際は、甑島の新しい名所の一つとして、楽しんでいただけると思います。

6.甑大橋へのアクセス方法
最後に「甑大橋」へのアクセス方法を御紹介しておきたいと思います。
冒頭で御紹介しましたとおり、甑大橋は鹿児島県本土の西沖にあります。最寄りのJR 駅と定期船発着の港は、高速船利用の場合「薩摩川内駅⇒川内港」、フェリー利用の場合は「串木野駅⇒串木野新港」になります。
いずれも、駅から港までは距離がありますので、バスなどの公共交通機関等をご利用いただくか、自家用車で直接港までアクセスください。(各港ともに駐車場があります。)自家用車の場合、最寄りのIC は「薩摩川内水引IC ⇒川内港」、「串木野IC ⇒串木野新港」です。
高速船、フェリーとも一日2 往復しており、本土発着の場合は高速船利用の方が、日帰り利用しやすい時間帯になっております(図- 3)。

図3 甑島箇所図

甑大橋に関する情報は、鹿児島県HP にも掲載しております。
 https://www.pref.kagoshima.jp/ah04/infra/kotu/seibi/imutasetokaitsu.html

鹿児島県HPのQRコード

また、甑島を巡るツアー等については、薩摩川内市の第三セクターである「(株)薩摩川内市観光物産協会」にお問い合わせいただくと良いと思います。
 https://satsumasendai.gr.jp/

(株)薩摩川内市観光物産協会ウェブサイト「薩摩川内観光物産ガイド こころ」のQRコード

「百聞は一見にしかず…」と申しますが、甑大橋は一見の価値がある橋梁であると思います。現在はまだ、新型コロナウイルス感染症の影響で、移動の自粛などが求められてはいますが、状況が落ち着きましたら是非一度、足を運んでいただければ…と思います。

写真 6 開通式テープカットの様子

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