五ヶ瀬川における河川事業の取組
~2005年台風14号災害から15年~
~2005年台風14号災害から15年~
国土交通省 九州地方整備局
延岡河川国道事務所
技術副所長
延岡河川国道事務所
技術副所長
杉 田 聡
国土交通省 九州地方整備局
延岡河川国道事務所
調査第一課長
延岡河川国道事務所
調査第一課長
大 塚 健 司
国土交通省 九州地方整備局
延岡河川国道事務所
調査第一課 専門官
延岡河川国道事務所
調査第一課 専門官
長 友 明 人
キーワード:五ヶ瀬川、激甚災害対策特別緊急事業、水防災、かわまち大賞
1.五ヶ瀬川
五ヶ瀬川は、その源を宮崎県と熊本県の県境にそびえる宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町 向坂山 (標高1,684m)に端を発し、多くの渓流と合流しながら高千穂渓谷を流下し、更に日之影川 、綱ノ瀬川 等の支流を合わせ延岡平野に入り、大瀬川を分派後、延岡市街地を貫流し河口付近にて祝子 川、北川 を合わせ、日向灘に注ぐ、幹川流路延長106㎞、流域面積1,820km2の一級河川である。下流に位置する流域最大都市である延岡市街部を五ヶ瀬川、大瀬川が貫流し、加えて五ヶ瀬川に合流する祝子川、北川など、幾筋もの川が流れる街並みから「水郷のべおか」とも称されている。
五ヶ瀬川は、昭和18年(1943年)の洪水被害を契機として昭和26年(1951年)に直轄事業として河川改修に着手し、計画高水流量を基準地点三輪において6,000m3 /s とし、大瀬川に4,500m3 /s を分派し、分派後の五ヶ瀬川に1500m3 /s を流下させる計画として事業が行われ、なかでも五ヶ瀬川と大瀬川の洪水を安全に流下させる目的で昭和40年代に整備した「大瀬川河口開口」、また五ヶ瀬川と大瀬川を堤防で隔てる「隔流堤」の施工着手、延岡市街地引堤工事など抜本的な治水対策が行われている。
その後、平成16年(2004年)の五ヶ瀬川水系河川整備基本方針において計画高水流量を基準地点三輪において7,200m3 /s とし、大瀬川に4,600m3 /s を分派し、分派後の五ヶ瀬川に2,600m3 /s を流下させる計画と定め、現在は、平成20年(2008年)の五ヶ瀬川水系河川整備計画に基づいて、事業を進めているところである。
2.二度の河川激甚災害対策特別緊急事業
洪水被害はこれまで幾度も被ってきており、特徴としてはいずれも台風性降雨に起因し、近年では平成5年8月(1993年)、平成9年9月(1997年)、平成17年9月(2005年)洪水があげられる。平成9年洪水では、五ヶ瀬川水系北川エリアで甚大な洪水被害となり、河川激甚災害対策特別緊急事業(以後、激特事業)の採択を受けている。事業内容は、堤防や水門の整備、県管理区間の築堤においては施工されてきていた「霞堤」方式を踏襲し、また平成9年河川法改正の趣旨を踏まえ「治水機能の向上」と「自然環境の保全」の両立を目指して、様々な先進的な取組がなされ、事業が行われている。
平成17年洪水については、基準地点三輪地点で基本高水のピーク流量7,200m3 /s を上回る、観測史上最大となる約7,900m3 /s の洪水量に達し、特に五ヶ瀬川沿川で甚大な洪水被害となり、平成9年に続く激特事業の採択を受けた。事業内容は、河道掘削や隔流堤などの築堤整備、橋梁架替、内水対策、堤防強化対策等に及び、なかでも平成22年(2010年)に完成した「隔流堤」は、施工着手から50 有余年に及び、五ヶ瀬川・大瀬川の治水安全度を向上させるに至った。
3.激特事業後における主な河川事業
1)五ヶ瀬川・大瀬川適正分派
五ヶ瀬川では治水事業の3 点セットとされる事業のうち「大瀬川河口開口」「隔流堤」については、前述のように整備が図られたなか、3 点目となる「五ヶ瀬川・大瀬川の適正分派」の整備が求められる。これまでの直轄河川改修計画等においても、横断工作物を設けることでの分派対策が検討されてきたなか、五ヶ瀬川の水産資源であるアユなどの生息等の河川環境へ与える影響が懸念されることから、学識者、国総研河川研究室を委員とした「五ヶ瀬川分派対策技術検討会」にて議論がなされ、模型実験(s=1/70)の成果を踏まえたなかで、自然分派により適正分派を図る計画とし、事業を進めている。
現在は、事業に必要となる用地取得を進めている段階であり、用地が整った段階で築堤工事等にとりかかることとしている。
2)五ヶ瀬川天下 地区河川防災ステーション
河川防災ステーション事業としては、宮崎県内で初めての整備となり、災害時の緊急復旧を行う上で必要なコンクリートブロックなどの資材の備蓄、ヘリポート等の整備を行うこととして平成29年(2017年)から事業を進めている。
整備完了後は、延岡市はもとより、防災ステーションと直結する延岡インター線から東九州自動車道等を活かし、広域的な災害復旧活動を展開できる拠点として、また、平常時には地域のレクリエーションの場としても活用されるよう、延岡市とも工程計画等連携しながら事業を進めており、現在は必要高まで盛土造成を行うために必要となる地盤改良工を実施している。
4.減災にむけた取組(ソフト対策)
五ヶ瀬川では、2005年9月の水害を契機に「みずからまもるプロジェクト」として関係機関とともにハード・ソフト対策を進めてきたなか、2016年からは「水防災意識社会再構築ビジョン」の取組として、法定協議会となる「五ヶ瀬川水系等浸水被害及び土砂災害軽減対策協議会」を設立し、関係機関とともに取り組んでいる。
概ね5年となる2020年までに『大規模氾濫等に対し地域防災力を高め「水害・土砂災害に強い地域づくり」』、『広域的な浸水被害・土砂災害に対し「安全な場所への確実な避難」・「被害の最小化」』を目標として設定し、これまで取り組んできた代表事例を4 点紹介する。
1 点目は、洪水の危険性が認識され、ハザードマップの作成や避難のタイミング、地域における避難訓練等に活かせるよう、五ヶ瀬川からの浸水はん濫が時系列でイメージできる動画を作成し、事務所ホームページ上で公開している。
2 点目は、タイムライン(事前防災行動計画)の構築である。災害が発生することを前提に「いつ」「誰が」「何をするか」に着目し、30 もの関係機関が受け持つ一連の防災行動を整理共有展開しており、2020年より運用を始めている。今後はフォローアップを重ね、各機関の行動が適切に迅速に行われるよう取り組んでいる。
3 点目は、地域におけるマイハザードマップ・マイタイムラインの作成支援であり、ワークショップ形式で地域住民自ら、まちを歩きマイハザードマップを作成し、避難時のリスクを現地で確認するなど、いつどこに避難するかを考えて頂けるよう、作成支援を展開している。
4 点目は、延岡市内の小学校、自治会、要配慮者施設を対象とした防災学習・啓発活動等を通して、五ヶ瀬川について理解が深まるよう動画・防災ツールなどを用いながら、取り組んでいる。
5.かわまち大賞
五ヶ瀬川かわまちづくりは、2012年10月にかわまちづくりの計画策定・承認組織である「五ヶ瀬川かわまちづくり検討会」を設立し、その下部組織である実践部隊「天下一 五ヶ瀬かわまち創ろう会」による活動を推進・検証しながら、「都市・地域再生等利用区域」への指定、民間事業者との連携・新たなイベント企画実施など、にぎわい創出にむけて、3 つの拠点が相互に連携しながら発展し続けている点が大きな特徴である。
拠点の1 つに、堤防や河川敷に『回遊出来る散策路』等を整備し、市内に点在する「延岡花物語」の会場や歴史的治水施設である「畳堤」などを結び繋いで、イベント開催時はもちろんのこと、日頃の健康増進のためのウォーキングなど市民の方に広く利用されている。
拠点の2 つめは、東九州自動車道延岡JCT に近接し、高速道路からの玄関口となる箇所に位置する『文化・自然活動ゾーン』である。当該地区は、河川協力団体「コノハナロード延岡市民応援隊」により、延岡市にて敷設された給水施設を元に、年間四季毎に彩る花々の管理はもちろん、来訪者の駐車スペースが管理され、賑わいスポットとして幅広く親しまれている。特に例年2月の「延岡花物語」開催時には、五ヶ瀬川堤防沿いに咲き誇る「菜の花」と「河津桜」を愛でに、市内外から多くの観光客が訪れている。
拠点の3 つめとして、2016年に宮崎県下初の「都市・地域再生等利用区域」の指定を受けた、大瀬川大貫地区の『自然の恵み体験拠点』である。地元住民や活動団体により利活用や維持管理のもと整備プランが企画されており、河川区域内で営業活動が行える「かわまち交流館」と「バーべキュー広場」を市が整備している。施設管理も市の指定管理者制度のもと効率的な活用がなされ、五ヶ瀬川のアユ料理の提供や散策路等と連動したイベント開催など、各拠点と相乗効果が図られ、幅広い利活用が展開されている。
結果として、2020年12月には、地域活性化や賑わいの創出、300年以上の歴史を誇る「鮎やな」や歴史的治水施設「畳堤」等といった地域の文化・歴史を次世代に継承する取組、日々の維持管理活動などが評価され、全国で5 箇所目、九州では初となる「かわまち大賞」の受賞に至った。今後も更なる“ かわまち” が賑わい・発展していくよう地域と連携して取り組むよう考えている。
6.おわりに
五ヶ瀬川では、300年の歴史を有する「鮎やな」が受け継がれてきているように、これまで河川事業を行う際には、景観・歴史・河川環境等に配慮しながら、取り組んできている。昨年、令和2年で6 巡目となる魚類の国勢調査結果をみてみると、九州20 水系で唯一特定外来種であるブラックバス・ブルーギルがこれまで一度も確認されていないなど、激特事業などの大規模な河川改修がなされてきたなかでも、河川環境等へ配慮してきた成果のひとつかと感じている。
今後、2020年から流域内の関係機関と取り組んでいる「流域治水」や気候変動の影響を考慮した河川計画の見直しなど検討されているなか、これまで紡がれ、形作られてきた豊かな五ヶ瀬川の河川環境が大きく改変されることなく、次世代以降に引き継いでいけるよう、引き続き関係機関とも協力しながら取り組んでいきたい。