一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
九州の河川水質の状況について
(河川水質調査の公表40 年を振り返って)
岩本浩

キーワード:水質現況、水質改善、河川水質管理

1.はじめに
 九州地方整備局は、昭和33 年から九州の一級水系の水質調査を実施し、昭和47 年より調査結果を公表しており、今年で40 年目を迎える。水質調査が始まった昭和30 年代は、高度経済成長にともなう市街地化、畜産や工場・事業所等の地域産業の拡大に伴い水質汚濁が急激に進行することとなった。このような状況を背景に法整備が進められ、昭和42 年に「公害対策基本法」が制定された。また公害の未然の防止の観点から昭和45 年に「水質汚濁防止法」(全国一律排水規制の導入)が策定され、河川水質調査による水質管理が徹底されるようになった。その後、平成5 年に「公害対策基本法」を発展的に継承した「環境基本法」が制定され、平成9 年の「河川法」の改定にともない治水、利水に加え「河川環境の整備と保全」が目的に位置づけられ、水環境を守ることは河川管理者の責務となっている。
 昭和40 年代以降、流域内の排水規制や下水道整備等の発生源対策、河川内の浄化対策等の水質改善の取り組みと生活排水対策等の住民意識の向上により、汚濁の著しかった一級河川の水質は確実に改善され、BOD による汚濁状況の調査結果によると、ほとんどの河川で水質は良好なものとなってきている。
 本稿では、九州管内の一級水系の河川水質の状況と水質改善の取り組みの事例を紹介するものである。

2.河川水質の状況
2.1 主要地点の経年変化
 九州管内の一級水系20 水系の代表地点の平均水質(BOD75%値)の経年変化をみると、近年、良好な状態を維持している。また、長期的な傾向は、年毎の変動幅はあるものの改善傾向を示している。これは、流域内の排水規制、下水道整備等の発生源対策、住民の生活排水対策、河川内の浄化対策等の効果を反映していると考えられる(図-1、2)。

2.2 環境基準の達成状況
 BOD(生物化学的酸素要求量)またはCOD(化学的酸素要求量)の75%値は、環境基準が設定されている149 地点中143 の調査地点(割合にして約96%)で環境基準を満足している(図-3、4)。

 平成23 年の河川(ダム貯水池除く)の調査地点で、BOD75%値が3.0mg/L 以下を満足している地点の割合は全調査地点の約96%(143 / 149 地点)となり、近年は良好な水質が保たれている(図-5)。

2.3 下水道の整備状況
 平成23 年度末の九州の下水道の下水道処理人口普及率は62.2%と全国平均75.8%に比べ低い状況となっている。一方、年度別推移は各県とも引き続き増加傾向にあり、近年の水質改善を裏づける結果となっている(図-6)。

3.水質改善の取り組み事例
 これまで各河川において実施されてきた水質改善に向けた様々な取り組み事例を以下に紹介する。
(遠賀川水系:福岡県)
 昭和初期の石炭産業が盛んな時代は石炭の選別に利用した水を遠賀川へ排水していたため、「ぜんざい川」と呼ばれるほど川は黒く濁っていた。石炭産業の衰退に伴い、次第に川の透明度は回復したが、都市化の進展や生活様式の変化により有機汚濁による水質の悪化が顕著な状況にあった。水質改善の取り組みとして、各自治体による下水道整備とともに、汚濁の著しい熊添川等の支川での河川浄化施設の整備や生活排水対策の啓発活動等により、近年の水質は環境基準値を概ね満足する値を示している。しかし、依然として九州の一級河川の中で毎年ワースト上位にランクされる状況であり、さらなる水質改善が流域住民の強い願いである。
 このような状況の中、平成14 年7 月に遠賀川は「第二期水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンスⅡ)」の計画対象河川となり、平成16 年3 月には「遠賀川水系水環境改善緊急行動計画」が策定され、流域全体での水環境改善へ向けた取り組みが始められている。また、近年では流域内の住民団体等が、清流復活をめざし、源流の森林保全やシンポジウムを開催するなど水質改善へ向けた活動を積極的に展開しており、地域住民と行政が一体となった取り組みが進められている。平成24 年1 月22 日には、「第3 回 I LOVE 遠賀川流域リーダーサミット」を国土交通省遠賀川河川事務所とNPO 法人遠賀川流域住民の会との共催で開催し、福岡県知事を交えて、遠賀川流域22 市町村長による遠賀川流域宣言を行い、遠賀川を美しい川にして次世代に引き継ぐために、流域住民、事業者、行政が連携し、一体となって取り組んでいくことを確認した。

(大淀川水系:宮崎県)
  大淀川は、宮崎市約31 万人の上水道の水源として利用されているが、流域の都市化や産業の発展した昭和40 ~ 50 年代以降、河川水質は必ずしも良好なレベルとは言えない状況が続いている。特に都城市を中心とした上流域は、下水道普及率が約12%(平成12 年度末時点)にとどまっていること、畜産業が盛んな地域であること等から、下流域よりも相対的に悪い水質で推移していた。その結果、平成3 年には、大淀川のBOD 水質ランキングが九州管内一級河川の20 水系中のワースト1にもなっており、流域市町村では、協議会などの活動(「大淀川水系水質汚濁防止対策連絡協議会」、「大淀川サミット」等)による地域住民への啓発活動、公共下水道や農業集落排水施設等の整備を進めていたが、顕著な水質改善の傾向が見られず更なる取り組みの強化が求められた。
 このような状況から、多様な自然環境の創造、住民が安全・安心して利用できる水環境の実現を目的とした「水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンスⅡ)」が平成16 年に策定され、流域全体での取り組みが現在まで継続されている。

(肝属川水系:鹿児島県)
  肝属川の水質は、昭和30 年代からの高度経済成長の市街地化、畜産や工場・事業所等の地域産業の拡大に伴い悪化していたが、その後の大気汚染や水質汚濁等の対策のための環境に関する諸法の施行と関係者の努力により一定の改善がみられている。肝属川下流(河原田橋から河口まで)及
び支川串良川の水質は、河川の一般的な水質指標であるBOD(75%値)でみると近年、環境基準を概ね満足しており、基準の定めのない支川姶良川、支川高山川についても概ね良好な状況となっている。しかし肝属川上流(河原田橋から上流)の水質は、昭和60 年頃からBOD(75%値)で3 ~ 5mg/L 程度を横ばいする状況が続いており、肝属川本川全体のBOD(平均値)でみても九州の一級河川の中でワースト上位にランクされている。
  このため、平成17 年3 月に鹿児島県や鹿屋市等と共同で「肝属川水系肝属川水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンスⅡ)」を策定した。その後、平成22 ~ 23 年度の中間評価により施策の見直しを行い、引き続き流域住民や関係機関が連携して水環境改善に向けた様々な施策を進めている。

4.今後の河川水質管理の指標について
 近年の水質改善に伴い、人々が河川とふれあう機会が増え、河川の多様な生態系に対する関心が高まるなど、BOD だけでなく多様な視点で河川が捉えられるようになっている。このような背景を踏まえ、国土交通省では、平成17 年3 月に「今後の河川水質管理の指標について(案)」を発表した。
 この河川水質管理の指標は、従来の有機性汚濁の指標であるBOD のみならず、住民参加できることや人と生態系のリスク管理に対応できるなど、新たな視点で作成されており、「人と河川の豊かなふれあいの確保」、「豊かな生態系の確保」、「利用しやすい水質の確保」、「下流域や滞留水域
に影響の少ない水質の確保」という4 つの河川水質管理の視点別に指標のランクを設定している。この指標は住民との協働による測定項目及び河川等管理者による測定項目からなり、平成16 年5 月から全国9 つの一級河川で試行的に調査し、平成17 年度からは全国の一級水系で実施している。

5.おわりに
 河川の水質調査は、高度経済成長期の社会・経済状況を反映して始められたものであるが、近年の水質改善に伴い、河川水質は地域のアイデンティティとしての役割を担うようになってきた。これからも、住民や利水者の河川水質・河川環境に対して多様化するニーズに応えるため、河川水質管理の果たす役割は大きいと考えている。
 なお、各水系の水質データについては、九州地方整備局HPの「水文・水質データベース」、「有明海・八代海流入一級河川水質等データ」、「水文・水質速報データ」から閲覧できる。また、各河川事務所HPにおいても速報データ等を公開しているのでご活用頂きたい。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧