九地整河川部の河川維持管理分野における
IT 整備の取り組みについて
IT 整備の取り組みについて
山内順也
キーワード:河川維持管理、河川巡視、堤防点検、タブレット端末、データベース
1.はじめに
河川の状態を把握するために定期的な河川巡視と堤防点検が行われているが、現場で職員または河川巡視員が発見した異常、変状等を位置情報で合わせて効率的に記録でき、かつ措置判断した内容とその後の経過監視、対策について組織間で情報共有が容易になされるよう現場では4G 通信契約(定額3,888 円程度/月台)を行ったタブレット端末を活用し、事務所及び出張所では職員が日常の業務で用いている机上のパソコンから整備局イントラネットを介して随時利用できる「河川の点検巡視システム(以下、「RACS」River Administration and CheckingSystem の略)を当課において、平成23 年度に構築、平成24 年10 月から管内全事務所にて本格運用、現在はユーザーである事務所、出張所、外部委託業者から操作性、機能に係る意見を受けながらシステム機能向上に取り組んでいる事例を報告する。
(1)課題
河川維持管理とは、河川砂防技術基準維持管理編では、河道流下断面の確保、堤防等の施設の機能維持、河川区域等の適正な利用等に関して設定する河川維持管理目標が達せられるよう、河道や施設の状況把握を行い、その結果に応じて対策を実施することを基本として実施するものとされている。設定された目標を確実に達成するためには、河川の状態を見(診)て、状態の変化を分析するきめ細やかな維持管理が必要であり、そのための具体的な行動としては、河川巡視、堤防点検による状態把握、維持補修等を繰り返し行ってきた。
しかし、①データ整理は紙が基本であり、河川の状態把握の変化を把握してもそれらの資料は担当職員が所内に回覧後は保管され、情報の共有や引継ぎ等も不十分なため、被災を受けた場合など経験的に行われてきた維持管理行為に工学的な分析、評価を行いたい際に、必要な過去データの追跡が容易ではなく時間経過による状態の変化を確認することが難しいこと。②巡視日誌に処置や出張所が判断した内容を記載するところはあるが、経過監視中及び要対策箇所など状況を正確に、かつリアルタイムに情報共有することができないこと。等の課題がある。
(2)目的
そこで、上記のような課題に対応するために記録されたデータの情報共有化(一元化)と現場で記録されたデータはシステム内で職員が承認ボタンを押すことで、正式に記録として保存され組織内の関係者が閲覧可能な機能、さらに措置判断の内容、異常が発見された時点から経過監視、対策を実施した一連の履歴が自動的に記録されるシステムを構築した。
2.河川の点検巡視システム
(1)特徴
① タブレット端末活用
通信可能なタブレット端末を現場用の記録ツールとして導入することで記録作業の効率化を図った。
・既存データとして変状の定量変化や過去の情報を現場で確認可能。
・タブレット端末専用に開発されたRACS 用アプリでは九地整に設置されたデータベース(以下、「DB」)サーバと同期を行うので、主な作業は現場での機能作業のみとしている。
② 画面背景地図の充実
開発当時は、国土地理院の電子国土は大幅なシステムの更新途中であったため、ユーザーが自由に地図を拡大(詳細表示)、縮小(広域表示)する操作に慣れていて地図更新サービスが受けられるGoogle Map を採用することとし、非公開環境でシステムを運用するためにGoogle Maps APIPremierのライセンスを購入して運用を開始した。現在は、河川区域ラインや堤防防御ラインが現地で把握できるよう河川管理基図(1/2,500)の表示機能を追加しており、これら2つを自由に切り替え可能としている。背景地図の充実により記録、閲覧時の位置情報の把握や操作性を高めている。
・距離標、河川管理施設等を表示可能。
・地図操作は任意の距離標を入力して背景地図を移動可能としている。
③ 入力
タブレット端末において河川巡視項目は、選択していくものとし、入力が必要で頻繁に使う記事の内容については、25 パターンほど登録できるアプリの仕様としている。また、キーボード操作に不慣れな場合は、手書き入力機能が有効に働いている。
④ 出力
平常時の河川巡視の記録は日誌形式で行われ巡視日毎に総括した様式と河川監理員の指示内容、河川巡視員が行った処置の個別様式の2つで構成されるが、巡視、点検による異常・変状の具体の内容について記載する個別様式は、九地整の「河川、堤防、施設の点検及びデータ管理の手引きについて(平成24 年11 月)」に記載されている個別様式の異常発見記録・初期情報記録票(様式A)、経過監視記録票(様式B)対策履歴記録票(様式C)のA4縦に1~3ページでレイアウトされたExcel 個表が自動作成される(図-2)。また、パソコン側のシステムでは記録された案件を必要に応じて、時期や項目を絞り込む機能、及び検索機能を設けており、個表とは別にExcel 一覧帳票としても出力が可能としている。
(2)システム構成
RACS のシステム構成は、システム運営と機器の管理コストを考慮し、RACS 用のサーバ等の機器1式は本局にのみ設置し、職員用パソコンにてイントラWeb 画面上で利用可能としている。また、セキュリティ確保のため、外部からのアクセスはDMZ 上に設置したWeb サーバを介する構成となっており、タブレット端末から送信された巡視、点検記録データは、インターネットを通じてDMZ 上に設置されたWeb サーバに一度格納され、ファイアウォールを通してDB サーバに送られる仕組みとしている。なお、予めRACS 用サーバに登録されたタブレット端末のみ、システムへのアクセスを許可すること、現場で記録されたデータはサーバとの同期を行うことでタブレット端末内部にはデータは残さないことでセキュリティ対策を施している。また、許可を受けた管理技術者はインターネットを介して専用のWebページから河川巡視員の記録した報告を閲覧・修正でき、確認した内容を出張所へ提出する仕組みも設けている。
(3)記録されたデータの流れ(承認機能等)
現場からの記録は、まずは出張所職員により巡視(点検)記録の承認が行われ、引き続き出張所長が問題なし、経過監視、要調査、要対策等の措置判断を決定し入力する。措置判断の入力が完了して初めて所属事務所は閲覧可能となる(出張所長の措置判断が行われてない案件は、事務所は閲覧権限がない)。さらに事務所としての承認及び措置判断が行われた内容は、「局へ提出」の欄にチェックが入ると本局並びに管内事務所にて閲覧できる図-3のデータの流れとなっている。
(4)事務所等での本格運用
システム構築当初に各事務所の職員及び外部委託者向けの説明会を当課主催で開催した。説明会を受けた職員等はタブレット端末の操作に係る所内勉強会(写真-1)や機能向上に向けた意見の集約を自主的に行っており、運用開始後約半年間で約150 件の意見が当課に寄せられた。システムのバージョンアップを検討する上で貴重な情報であったため、採用できるものは随時取り入れ機能向上を図っている。
3.出水時等の河川の状態把握(River Note)
洪水時巡視で発見した河川の状態はRACS とは別に、本局サーバにそれ専用のWeb ページをRiver Note と名付けて設けている(図-4)。
River Note のサイトにアクセスを許可された職員、洪水時巡視員等は、個人のスマートフォン等で現場を撮影、コメント、位置情報を登録し、併せて情報共有の範囲を管内、事務所単位で選択することができるようにしている。現段階は、職員間での試験運用を行っており、その後に洪水時巡
視を行う協力業者、更には、河川情報モニターから平常時の情報提供を受けるようなRiver Noteの運用を予定している。
視を行う協力業者、更には、河川情報モニターから平常時の情報提供を受けるようなRiver Noteの運用を予定している。
4.九州川の情報室のfacebook 活用( 双方向の情報提供)
河川部では、平成14 年度より「川の発見・再発見推進プロジェクト」の主要施策の一つとして「九州川の情報室」を河川の魅力を広く発信し、河川の利活用や住民参加による河川維持管理を促進するために地整内のホームページ(以下、「HP」)で運用している。しかし、行政側のみの一方向の情報発信では、豊富な掲載内容の持ち合わせと更新を怠ると閲覧者は離れていくことから、同サイトの情報の充実と管理の省力化を図るためにHPとSNSを組み合わせた運用を平成24 年度から行っている。SNSは、実名を基本とするfacebook を採用し、投稿は河川の風景、河川愛護活動、河川の豆知識、河川行政の取り組み紹介の類とし、これらの情報を公開することで、河川行政を身近に感じてもらうことにした(見える化)。図-5は、特にfacebook のアカウントを有していなくても、誰でも閲覧可能(ただし、コメントをする場合にはfacebook のアカウントを取得することが必要)。当方からの投稿と公開した閲覧者からの投稿に対して「いいね!」ボタンやコメントを通じて、個人、NPO団体とのコミュニケーションが生まれている。実際にウォールを見ても、今のところ問題のある書き込みはなく、個人情報を記載した書き込み、人種差別的な書き込みなどがあった場合にはページのマネージャーとして指名された河川部内の職員数名が対応するよう運営要領を定めている。また、行政相談はHP側のお問い合わせコーナーで扱い、本情報室では取り扱わないこととしている。なお、facebookを活用し情報発信を行っている中央省庁は、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、防衛省が知られている。
5.今後の展開
(1)今後のDB整備について
河川維持管理業務には構造物台帳等をはじめ膨大なデータの蓄積があり、PDCAサイクル型河川維持管理を進めるためには、これらのデータの統計処理(分析)が必要となる。このため平成25年度中には、全国統一システムとして図-6の河川維持管理DB システム(RMDIS(リマディス):River Management Data Intelligent System の略)が全地整へリリースされ、各地整で試験運用を経て平成26 年度には管内事務所で本格運用を予定している。よって、リリースされた後は、RACSで記録されたデータをRMDIS に受け渡しできるようシステムをカスタマイズし、河川カルテが自動作成できるよう整備する計画である。
(2)点検巡視システムの利用拡大
RACS は、その専用アプリをインストールしたタブレット端末と携帯通信が可能なエリアであれば九州管外でも、災害時のTec-Force 活動におけるレポート作成に利用できる。同様に、GoogleMap が使えるため、JICA 等の海外派遣された調査団、専門家等の活動の詳細がメール以外に確保でき派遣国での活動状況、先方政府の要請内容(TOR)について、位置情報とともに情報を送るような利用方法も可能である。
(3)その他
スマートフォンの占める割合が大きくなり日々、様々なアプリがリリースされている中、「川の防災情報」はWeb ページにて一般に情報提供しているが、同サイトをスマートフォンで閲覧するには確認したい観測所を探すのには手間がかかるようなデザインとなっている。このため、API(Application Program Interface) をアプリ開発を行う民間または個人向けに公開すれば、行政が自ら経費をかけて開発せずともユーザー側の視点に立ったアプリの開発が期待され、例えば登録した河川の基準水位観測データから危険度レベルの情報をアラート表示するなどのアプリがリリースされる可能性もあり、行政が提供する防災情報が
さらに身近なものになると考えられる。
さらに身近なものになると考えられる。
6.最後に
九州管内でも一昨年は火山噴火、昨年は九州北部豪雨など様々な自然災害が発生した。被災地域では、河川整備による一定の防災効果が発揮された一方で、現況の施設能力を超過する外力により、多くの被害が発生している。今後は、地球温暖化に伴う気候変化による海面水位の上昇、豪雨や台風の強度の増大などの自然条件の変化も懸念されているところであり、災害に対し、所要の施設能力を確実に維持するとともに、大規模な災害に対応した取り組みが必要になってきている。そのような中でこれからの河川維持管理は、地球規模の問題を考えながら、現場では積極的に地元との情報共有、及び地域連携を図る”Think globally, Act
locally” の活動が必要と感じている。よって、今回構築したRACS、River Note システム、及びこれからリリースされるDBが上記の活動の支援となり、より確実な河川維持管理に繋がれば幸いである。
locally” の活動が必要と感じている。よって、今回構築したRACS、River Note システム、及びこれからリリースされるDBが上記の活動の支援となり、より確実な河川維持管理に繋がれば幸いである。
参考文献
1)河川砂防技術基準維持管理編(H23.5)
2)九州地方整備局平常時巡視規定(H24.11)
3)河川、堤防、施設の点検及びデータ管理の手引きについて(H24.11)
4)H24 年度河川管理情報システム構築業務
5)川の情報室ホームページ
6)第1回安全を持続的に確保するための今後の河川管理のあり方検討小委員会(H24.8)